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「動かないシステム」の代名詞のように言われる生産管理システムですが、その原因は国内で大きく異なります。当コラムのキーワードは「海外生産シフト」なので、国内での原因は置いておき、海外製造拠点で導入された生産管理システムが動かない原因について、具体例を交えながら、考察していきます。

まずは、前段として、日本企業の海外製造拠点におけるシステム展開についてお話ししましょう。事業規模によって異なりますが、日本企業の場合、まず管理系システムの導入から始まるのが一般的です。具体的には、会計システム、人事関連システム(出退勤管理、給与計算、人事ファイル)等です。製造周辺のシステムは導入されず、部品表、生産計画はエクセルのマニュアル管理(「マニュアル」は手引書ではなく、手作業を意味しています)からスタートです。日系の海外製造拠点にとって、設立初期の最重要課題は、システム導入ではなく、「ものづくり」と言うことでしょうか。

ちなみに、欧米企業の場合、様相は大きく異なります。欧米企業の場合、一般的な傾向として、製造品目数&生産能力から、月間の受注数量、部材発注数量、生産数量、出荷数量等をシミュレートし、その結果に基づいて必要とされる業務システムを導入します。つまり、工場立ち上げ時点で、業務に必要なシステムは全て導入されていることとなります。もう一つ大きな特徴としては、システムに関連する全ての仕様が標準化されていることです。サーバー、PCのブランド&スペックに始まり、社内ネットワーク用ハブ、ケーブルに至るまで全ての項目に標準仕様が定められています。世界中の工場で、同じ仕組みを立ち上げ、全社的な合理化を図る考え方です。

では、話しを日本企業に戻します。日本企業の海外製造拠点の場合、よほど事業規模が大きくない限り、設立から数年が経過した時点で、やっと生産管理システムの導入検討が始まります。生産品目の増加、もしくは生産量の増加に伴い、それまでのエクセルでの業務運用に限界が近づいて来るのが契機となっています。但し、その時点では、何らかの業務プロセスが出来あがっており、システム導入に際しては、新たな業務運用設計が重要となります。マニュアル管理では、融通を利かせたり、例外措置を容易に設けることが可能であり、システム導入&運用に際して、どこまで柔軟性を持たせるかが問題となりがちです。

欧米企業の様に真っ白なキャンパスに絵を描くのではなく、既に何らかの下絵が描かれている上に、新たな絵を描こうとするのが日本企業のシステム導入手法と言えるかもしれません。どちらのハードルが高いかは明白ではないでしょうか。加えて、以下のような海外製造拠点ならではの事情も「動かないシステム」の要因になっているではないでしょうか。

ケース1:FIT & GAP分析の意味は?

生産管理システム導入前には、FIT & GAP分析を行うのが通例です。本来であれば、FIT & GAP分析結果を基に、パッケージの評価&選択がなされるべきなのですが、実際には、日本本社主導で特定のパッケージ導入を前提に、FIT & GAP分析が行われ、後はGAP部分をどうするかの議論になっていることが往々に見受けられます。連結決算ツールとしての意味合いが強い会計システムや拠点毎の差異の少ない人事関連システムであれば、こうした手法でのシステム導入&運用でも構わないのでしょう。しかし、拠点単位で異なる品目&工程を管理する生産管理システムの場合、埋めきれなかったGAPが導入後に顕在化し、システム運用の障害になっているケースがあります。

ケース2:高額な保守費用負担!

日本本社の主導で、パッケージ導入が何とか終わり本格稼働が始まりました。しかし、製造業の常として、新しいモデルの海外移管、新しい工場・ラインの建設、新規顧客との取引条件と言った外的要因から、または現地製造拠点が主導する改善運動として、設計変更、仕様変更、工程変更等の内的要因により、生産管理システムに対し、大小さまざまな変更や追加開発が発生します。ここで問題となるのは誰がその費用を負担するのかです。もちろん海外製造拠点が負担することになるのですが、特に高額なパッケージを導入し、且つ、日本本社でシステム変更や追加開発を行う場合、その費用は海外製造拠点にとって大きな負担となります。年度予算に合致しなければ、変更や追加開発は見送られます。その結果は明白です。システムと実際の業務に差異が生じ、システムを運用しない「オフライン作業」が発生、またはエクセルによるマニュアル管理が復活してしまいます。

ケース3:パッケージ評価手法に問題!

日本本社主導ではなく、海外製造拠点が主導となってパッケージの評価&選択が行われるケースもあります。マレーシアにある日系機械メーカーのケースをご紹介しましょう。この会社では、日本国内&海外営業拠点にはO社のERPパッケージが導入しています。国内製造は既に廃止され、海外工場が唯一の製造拠点です。現地法人社長を始め、多くの日本人が駐在しておりましたが、情報システム責任者は現地社員でした。この現地社員が中心となって、パッケージ評価&選択作業が始まりました。大方の予想は、もちろんO社のERPパッケージの横展開だったのですが、この現地社員の出した結論は、競合するS社のERPパッケージ導入です。理由は簡単です。O社よりマーケットシェアの高いS社のERPパッケージの導入経験は、彼のキャリアにとって大きなプラスとなるからです。システムが稼働した1年半後、彼はこの会社を退職し、米系ITコンサルタント会社に就職しました。年収は3倍になったそうです。これは極端な例ですが、アジア地域全般の傾向として、パッケージ導入を経験したユーザー(現地社員)の離職率はかなり高いはずです。せっかく稼働したシステムも、経験値の高いスタッフの退職をきっかけに、運用に支障がきたすケースです。

ケース4:運用効果が出ないのは?

せっかく、費用・時間・リソースを費やし、生産管理システムを導入したけれど、運用効果が出ない。もっとひどい例だと、生産管理システム上の数字に信憑性が無いと言うケースもお聞きします。その原因は様々なのですが、システムに入力されるデータ精度が低い、もしくはデータ入力のタイミングが遅いと言うのが一般的な現象でしょう。部材在庫のデータ精度が低いため、余剰在庫が減らない。工程実績がすぐに反映されないため、生産計画の運用精度が上がらないと言った問題です。今まで最も印象に残っているのは、インドネシアで操業している日系繊維メーカーです。O社のERPパッケージが導入され、現地の日系コンサルタント会社が常駐で運用支援をしているのですが、この会社では、在庫情報、半完成品&完成品の実績情報は週に一度しか更新していませんでした。理由は、人手が足りないのと、入力するデータ精度を保つためらしいのですが、何億円もかけて導入したERPが、いつも前週のデータしか表示されないことになっていました。

週1のデータ更新は極端な例かもしれませんが、現場データとの連携不足は、国内外共通の課題かもしれません。精度の高い現場データをリアルタイムに収集することは、生産管理システム運用上、重要なポイントです。次回コラムでは、ここら辺の仕組みについてお話しするつもりです。

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