50. 第1回創業記念式を挙行 1932年(昭和7年)

昭和7年5月5日、所主は端午の節句を期して、全店員を大阪の中央電気倶楽部に集め、そこで先日の体験に触れ、松下電器の真使命を闡明(せんめい)した。

「産業人の使命は貧乏の克服である。そのためには、物資の生産に次ぐ生産をもって、富を増大しなければならない。水道の水は価(あたい)あるものであるが、通行人がこれを飲んでもとがめられない。それは量が多く、価格があまりにも安いからである。産業人の使命も、水道の水のごとく、物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供することにある。それによって、人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設することができるのである。松下電器の真使命もまたその点にある」

そして、この真使命を達成するために、建設時代10年、活動時代10年、社会への貢献時代5年、合わせて25年間を1節とし、これを10節繰り返すという壮大な250年計画を提示したのである。

その崇高な使命、遠大な理想に、全員は驚き、感動した。緊張した会場は、いつしか興奮のるつぼと化した。「所主告辞」に続く「答辞」のあと、全員の所信発表が始まった。興奮は頂点に達し、思わず壇上に駆け上がる者が続出した。

松下電器はこの年を創業命知(真使命を知る)第1年とし、以後毎年5月5日を創業記念日に制定、厳粛に式典を挙行している。