超高効率ヒートポンプ技術の開発を進め環境共存型社会の実現を加速する

「地球環境との共存」をコーポレートビジョンの1つにするパナソニックにおいて、製品開発を通じて環境負荷低減・省エネルギーに貢献していくことは至上命題といえる。こうした中、同社の環境エネルギー系開発の総本山として、次代を切り拓く画期的な技術エンジンを創出することをミッションとしているのが、本社R&D部門のくらし環境開発センターだ。同センターが現在、研究開発に取り組んでいる技術の中でも、とりわけ超高効率ヒートポンプ技術は、急務となっている温室効果ガス削減に劇的な効果を発揮するものとして世界的にも大きな期待を集めている。この超高効率ヒートポンプ技術の開発を担当するグループマネージャーに、現状の開発課題や仕事のやりがい、今後求める人材像について聞いた。

あらゆる熱源機を「家まるごと」超高効率ヒートポンプに置き換えるのが究極の目標

地球環境問題が急激に深刻化している現在、世界規模で対策に取り組むことがますます強く求められるようになっています。2009年7月に開催されたラクイラ・サミットでも、「2050年までに全世界の温室効果ガス排出量を80%削減する」という長期目標が、主要先進8カ国の間で合意されました。こうした課題を具体的にどのような技術で実現していくかが焦点になります。

こうした中、大きな注目を浴びているのが、我々が開発している超高効率ヒートポンプの技術です。ヒートポンプは空気中に散らばっている熱を集め、有効活用できる熱エネルギーに転換するもの。従来の化石燃料を燃やしてエネルギーを得る熱源機に比べて圧倒的にエネルギー効率が良く、燃焼を伴わないため温室効果ガスであるCO2を排出しないという利点があります。

このヒートポンプは、すでに電気給湯システム「エコキュート」の要素技術として活用されています。「エコキュート」はエネルギー効率が極めて高いのに加え、冷媒にフロンなどではなく自然界にあるCO2を用いるため、オゾン層を破壊する心配もなく、地球温暖化係数GWPが従来フロン冷媒の約1/1000という特長を備えています。

日本の家庭内エネルギー消費では、暖房と給湯のいわゆる熱系のエネルギー消費が約60%にも達します。その点からも「エコキュート」導入のメリットは極めて大きい。オール電化住宅推進の波もあって「エコキュート」の普及はここにきて一気に進んでおり、2010年までに国内で累計520万台の普及が目標とされています。日本に比べて暖房の割合が多い欧州では、すでにヒートポンプによって汲み上げられる大気熱エネルギーが再生可能エネルギーと定義づけられており、購入段階で政府から補助金が出る場合もあって大きな市場になっています。このため日本メーカーもこぞって欧州に進出している状況です。

しかも、超高効率ヒートポンプの技術は、今後、暖房給湯システムに限らず、エアコンや洗濯乾燥機など、家庭内の熱家電機器に幅広く応用可能で、さらなる市場の拡大が見込めます。家庭内のあらゆる熱源機を「家まるごと」超高効率ヒートポンプに置き換えることが、我々の究極の目標になります。

さらなる高効率化とコンパクト化が今後の開発課題

ヒートポンプのグローバルな開発競争に打ち勝っていくには、当然、いっそうの技術の進化が必要となります。何より重要なのが、さらなる高効率化を実現すること。これについては、キーデバイスであるコンプレッサーと熱交換器の高効率化および、ヒートポンプの内部で損失となっている動力をいかに回収し利用するかが主要なテーマになります。

コンプレッサーの高効率化については、コンプレッサー内部でシャフト・軸受などの金属同士がこすれあう際の摺動損失をいかに小さくするかが課題。このため高度な解析技術を駆使した開発を進めています。熱交換器の高効率化については、例えば、暖房時に室外熱交換器に霜が付き、その霜を取る工程を入れるために性能が落ちることが課題の1つです。このため、霜を付きにくくする耐着霜化技術について、着霜のメカニズムを解明するといったところから取り組んでいます。さらにヒートポンプ内部の動力回収については、膨張弁で冷媒を高圧から低圧にする際に損失となっているエネルギーを回収し、コンプレッサーなどに入力して用いる、動力回収機構の研究開発を行っています。

一方で、ヒートポンプの市場を拡大するという観点からは、筐体をコンパクトにすることも不可欠です。「エコキュート」ではタンクにいったんお湯を溜めるのですが、現状、このタンクがかなり大きく、集合住宅には据え付けにくい。それが普及の足かせになっている面があるのです。タンクをコンパクトにするために、水よりも蓄熱密度が高い、高密度蓄熱技術の開発にも力を入れています。

また、冷媒についても、「エコキュート」に用いられているCO2冷媒は、低温から高温まで一気に加熱する給湯機のような用途には最適なのですが、それほど一気に高温にする必要のないエアコンのような製品では、従来の冷媒を使ったほうが高性能になる場合もあります。新たに出てきている低GWP冷媒や、CO2以外の自然冷媒も含めて、さまざまな冷媒を製品特性に応じて使い分けることが求められます。

こうした技術開発においては、パナソニックが長年、エアコンのヒートポンプの開発などで培ってきた技術が大いに活かされています。一方で、今後すべての開発を、我々パナソニックだけで行うことは難しい。産学連携を進めるなど、外部の力も積極的に活用することで、スピーディーな開発を行っていくことが必須となります。

何より必要なのは「論理的な思考能力」。失敗を恐れないチャレンジ精神も不可欠

超高効率ヒートポンプ技術に関しては、日本が圧倒的に世界の最先端を走っています。今後の市場拡大を見据えて、我々研究所も事業部も、「ここで負けたら、パナソニックのホームアプライアンスの未来はない」くらいの認識を共有して、一体となって開発を進めています。

世界的にも大きな注目を集めている環境エネルギー技術ということで競争が激しく、スピードが求められるため、開発には苦労がつきまといます。まるで大きな嵐の真っ只中にいるよう。しかし、一方で、世界で望まれている環境エネルギー技術を、日本発・パナソニック発で生み出し、未来の地球環境を救うことにダイレクトに貢献できる可能性が秘められている。エンジニアとして、これほどやりがいがある仕事はないですね。

今後、この超高効率ヒートポンプを、エアコンはじめ幅広い製品に展開していくことを見据え、我々のグループでは大規模なキャリア人材の採用を行っています。

コンプレッサーなどの機構技術者、冷凍サイクル技術者のほかにも、高密度蓄熱技術の開発にあたる材料技術者、コンプレッサーを制御するためのパワーエレクトロニクス系技術者など、求める人材は多岐に渡ります。同業の電機メーカーでエアコンや冷蔵庫などの開発を行っていた人はもちろん、カーメーカーや重電メーカーなどでヒートポンプや冷凍機の開発を行っていた人なども、経験を存分に活かすことができると思いますね。実際、すでに多数のキャリア人材が入社し、研究開発に新しい視点をもたらしてくれています。

仕事をしていくにあたり、機構や伝熱、熱流体、CAEなどの基礎知識は必要。そのうち何か1つでも、研究者としてコアになる技術を持っていることが望ましいですね。また、最も強く求めたいのは「論理的な思考能力」。開発スピードが速いため、やみくもにカット&トライを繰り返していたのではとても間に合わない。筋道立てて物事を考え、効率的に開発を進めることが必要になります。一方で、画期的な製品を生み出すためには、失敗してもいいから極端なことに挑戦することも不可欠。発想の豊かさや、チャレンジ精神も備えていてほしいです。

パナソニックの場合、まずは家庭で用いられる製品が開発の出発点となりますが、いずれは超高効率ヒートポンプを含めた環境エネルギー事業を、家庭からビル、地域まで広げていきたいと考えています。ヒートポンプをスタートとして、次世代の環境エネルギー事業を通じて世界に貢献したいという高い志を持った方に、ぜひいらしていただきたいですね。

くらし環境開発センター
エネルギーシステムグループ
グループマネージャー Ph.D.
西脇 文俊

1955年生まれ。神戸大学自然科学研究科博士課程を修了した’83年、松下電器(現パナソニック)に入社。当初からR&D部門に配属される。エアコン、LCD、熱電デバイスなどの研究開発を経て、現在、超高効率ヒートポンプシステムの研究開発をグループマネージャーとして統括している。