03 感動×スピード 超高輝度プロジェクター

世界中を興奮と感動の渦に巻き込んだロンドンオリンピックの開会式。セレモニーの壮大な演出で、舞台中央に位置する「ハウス」に次々と鮮やかな映像を投影し観客を魅了したのは、この日に向けて開発した26台のプロジェクターだった。まさに開会式という晴れの舞台でパナソニックの技術力を全世界に見せつけたのである。チームリーダーとして開発現場をまとめ上げたのが、入社以来プロジェクター一筋で歩んできた松本である。

「こだわり」を貫くために、
あえて目先の勝利を捨てた。

ロンドンオリンピックの前、北京オリンピックの開会式でも演出にプロジェクターが使用され、その斬新な演出に世界は息を飲んだ。パナソニックは日本企業唯一のTOP(The Olympic Partner)スポンサーとして、会場には幾つもの製品を納入していた。しかし、プロジェクターはパナソニックのものではなかった。開会式で使用されなかった理由、それは明るさ。演出側が求めていたのは、2万ルーメンという超高輝度のプロジェクターだったが、その頃パナソニックで最も明るい製品は1万ルーメンの機種だった。そして他社製品は大きな1灯式キセノンランプを使用していたが、パナソニックは小さなランプを4灯組み合わせて1本の光にする4灯式にこだわった。「同じ明るさの商品を作ること自体は難しくありませんでした。ただランプが1灯だと途中で切れてしまえばショーを台無しにするので、4個ランプがあり、1個がダメになっても映像がキープできる方式こそがベストだと考えたのです」。ただ、当時この方式では2万ルーメンに届かない。明るさの違いが、明暗を分けた。「北京の借りを、ロンドンで返そう」。松本たちの挑戦が始まった。

すべてはお客様のビジネス成功に貢献し、 大型映像で感動を提供するために。

松本はロンドンに向け、大きな目標を掲げた。「2万ルーメンの既存製品と比べて信頼性をアップしながら、高さ、重さ、発熱量、消費電力、運転音の全てを半分にすること。そうでなければ、自由でクリエイティブな映像表現を求める最先端ユーザーへのソリューションにならないと考えました」。そして北京五輪から2年後、5000ルーメン以上の明るさをもつ、小型のUHMランプ(超高圧水銀灯)と4個のランプの光を組み合わせ、光の利用効率を最大化する照明システムの開発に成功。「これにより4灯で2万ルーメンのコンパクトなプロジェクターが実現化しました。しかし社内スケジュールを検討した結果、今のままではロンドン大会に間に合わないことが判明しました」。開会式で使われるためには、4ヵ月もの工程を短縮しなければならない。連日様々な部署との検討が続いた。「私たちは大型プロジェクターの役割を『お客様のビジネスの成功へ貢献、大型映像で感動を提供する』と標榜しています。それはどういうことを意味しているのか、オリンピックを件名としたことで全員が等しく理解できました。それで、心が一つになったことがやる気を生み出したのだと思います」。開発チームは今までにない力を発揮する。

他社にない新技術のプロジェクターで
4年越しの借りを返した瞬間。

松本たち開発チームの執念はついに実を結ぶこととなる。従来の2万ルーメン級プロジェクターの常識を覆すDZ21Kの完成である。「全てを半分に」という開発目標も達成した。「他社にない新技術のプロジェクターをどうしてもロンドンで披露したい。その一念でがむしゃらに進行しました。毎日が課題の連続、今振り返ってもあのタイトなスケジュールをどうこなしたのか思い出せない。とにかく絶対やりきるという思いでした」。製品化になった瞬間を松本はこう振り返る。「明るいなあと思いましたし、色もよくなりました。やっと出来上がったという、本当にうれしい気持ちで一杯でした」。その後、厳しいコンペを勝ち抜き、見事ロンドンでの正式採用の知らせが届いた。パナソニックとしては、初の快挙。性能はもちろん、価格、サイズ、環境への影響などが総合的に評価されたのだ。

進化を続ける市場の要求に、
「スピード」を武器に応えていく。

「私たちには2万ルーメンという超高輝度の新製品を、『全て半分に』というコンセプトで完成させ、通常より早いスピードで世に送り出したことへの自負があります。しかし市場に投入されたとたん、お客様の要望はさらにもう一段上にあることに気付かされたのです。もっと明るく、もっと精密に映像を投射したいと、お客様の要求はどんどん進化しています」。市場の要求に応え続けるために、そしてパナソニックがリーディングカンパニーであり続けるためには、スピード感を持った開発が欠かせない。「完璧なアイデアでなくてもいいから、考えついたら試してみる。それが違っていたらすぐに方向転換すればいい。そういった繰り返しが大事なんです」。そう語る松本のモチベーションはどこから来るのだろうか。「私はすごくシンプルです。大きく映し出された映像を見て、驚いてくれたり、魅入ってくれたり…。見る人の喜びが、どんなに辛くても私の背中を押してくれます」。2020年には、東京オリンピックがある。松本たち開発チームは、新たな感動を創るために今日も歩み続ける。