選考委員長 森本 真也子

特定非営利活動法人 
子ども劇場東京都協議会
常任理事

特定非営利活動法人
子ども文化地域
コーディネーター協会
専務理事

Panasonic NPOサポート ファンド 子ども分野 2015年の募集では、昨年より多い50件の応募がありました。すべての応募書類を各選考委員が目を通し、書類審査をした上で、10月13日に5時間かけて、選考委員4名で審査を行わせていただきました。選考委員が全員昨年と同じメンバーということもあり、お互いの経験と考え方に対する理解があることをベースにして審査が進められたことで、より深い議論ができました。助成候補と補欠を選考委員会で選出した上で、事務局による団体ヒアリングで収集した情報を加味して、助成先を決定させていただきました。
今年度は財政規模の大きい団体や歴史の長い団体からの応募もあり、選考基準のどこに重点を置くのかが大変難しかったというのが実感です。また、内容の問題に関わる以前に、なぜ応募し何をどのような積み重ねでやりたいのかという物語が見えるような企画をすることの重要性を強調しておきたいと思います。
以下、選考を通して私の視点で感じたことを述べさせていただきたいと思います。

次世代の担い手不足は、全体共通の課題

NPO法人制度の実現を一気に前へと進めた阪神・淡路大震災、あれから20年の年月が経ちました。混乱の街を再生していく大きな力となった市民活動は、地域や対象が具体的なため、支援の方法も活動内容も多彩で、生活や暮らし、地域に密着した分かりやすく、見えやすい活動として、広がっていきました。それらの活動の基本理念や方策などは、歴史の積み重ねのなかですでに社会システムとなっているものとは違い、活動の中心にいる“人”に蓄積されていきました。20年の月日の流れは、次世代へと継承する時期にさしかかったことを意味します。
本来、NPOは人が共に活動を積み上げながら様々なソフトを伝え継承していくことが必要ですが、財政面に脆弱さを抱えたNPOが多い中、人に対する先行投資ができずに来たのが多くの組織の実態です。活動を通して人材が育つ組織としていくことが必要なのですが、スタート時の熱い志を抱えながらも、次に引き継ぐ人材を育成していく余力が持てず、目の前に迫っている課題に向き合うことで精一杯の日々を送っているのがNPOの現状かもしれません。だからこそ、そうした事態を客観的に組織診断で分析し、次の方策を探ることが必要なのです。
NPOが真に社会に必要な持続可能な組織となっていくためには、人材育成の仕組みづくりと次世代へ移行するシステムが必要です。そのためには、組織を立ち上げた第一世代が変革の時期をきちんと見定め、次の一歩を踏み出すことが何より大切なことだと思います。変革の時期だと判断する勇気をもち、組織を客観化するために診断に挑戦するNPOが増えていくことを願っています。

子どもとNPOの“今日的課題”をどう見るか

各団体のミッション・ビジョンは、どれも子どもに関わる社会課題を見据え、その問題解決のために掲げられていることと思います。アトピー・特別支援・不登校・いじめという子ども自身の見える課題や、幼児虐待・育児ノイローゼ・育児放棄という親自身の見える課題は、周囲にも問題が分かりやすく、支援の輪も広がります。
一方、ネット社会の到来による子どもの心身の発達に関する問題やコミュニケーション能力の弱さなど、見えにくく、分かりにくい課題も新しく生まれてきています。地域や家庭の中に安心できる場がなく、孤独を感じている子どもや親の広がりも、見えない課題の一つです。
「まず安心・安全を!」ということが叫ばれるのは、子どもたちの暮らしが不安と危険に満ち溢れているからだと言わざるをえません。こうした背景の中、目に見える子どもの課題に取り組むNPOの活動を目に見えない課題に関連付けていくことが必要です。それはとりもなおさず、視野を広げて社会全体の課題にもつながるベクトルを持つことであり、子どもに関わるNPO全てに問われていることだと思うのです。
子どもの状況は社会全体の課題と切り離して考えることはできません。格差問題が教育環境に大きく影響して、「子どもの育ちの格差の連鎖」を生んでいることは、今後の日本にとっては大きな課題です。この課題をどう乗り越え、すべての子どもの豊かな成長を保障していけるのかについて、考えていきましょう。行政は子どもに関わる施策ごとに部署が分かれていますが、子どもと生活の場で出会っている私たちNPOは、子どもの一部分に関わっていく活動ではなく、子どもを丸ごと受け止めて関わっていく活動です。課題へのアプローチは行政とは違うはずです。組織を診断し、組織基盤を強化してこの課題に真正面から向き合えるNPOになりたいものです。

<選考委員>

★選考委員長

森本 真也子

特定非営利活動法人 子ども劇場東京都協議会 常任理事/
特定非営利活動法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事 ★

片山 信彦

認定特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 常務理事・事務局長

中村 国生

特定非営利活動法人 東京シューレ 事務局長

福田 里香

パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部
部長