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顧客とは誰かを問い、提供できる価値とは何かを知る マーケティングはNPOにこそ必要な手法 NPOマーケティングフォーラム2013

2013年11月30日、東京都港区の日本財団ビルで「NPOマーケティングフォーラム2013」を開催しました。パナソニックは2001年から、NPOの組織基盤強化支援に取り組んできました。現在は5つのプログラムを展開しており、その1つが、2008年からNPOサポートセンターと協働で実施している「Panasonic NPOサポート マーケティング プログラム(NPOマーケティング プログラム)」です。

フォーラムの第1部では、「今、なぜマーケティング志向が必要なのか」と題する基調講演のあと、5月から始まった本年度のNPOマーケティング プログラムに参加した5団体が取り組み内容を報告しました。続く第2部の分科会では、過去にプログラムに参加した4団体が、マーケティング導入事例とその後の展開について発表しました。NPOのスタッフをはじめ、NPO支援の専門家、研究者、企業人、行政職員など135人が参加した当日の模様をレポートします。

成熟してきた日本のNPO 今こそ行動を共にし、社会への発信力を高めるとき

NPOサポートセンター
理事長 山岸秀雄さん

開催にあたって、NPOサポートセンター理事長の山岸秀雄さんが挨拶をしました。

「アメリカからNPOの制度を導入して25年、私たちが日本初のNPO支援組織を立ち上げて20年が経ちます。設立当初からサポートしてくださった日本財団さんのビルで、今日のような企画ができるようになったのも、日本におけるNPOの世界が成熟してきた証だと心強く思います。そしてこれからは、実践家が研究者となって大学院で講義をする時代がやってきます。皆さんで行動を共にし、社会への発信力を高めていきましょう」

続いて、パナソニック CSR・社会文化グループの東郷琴子が挨拶をしました。

「NPOマーケティング プログラムは、NPOが組織課題をマーケティングの手法で解決していく実践の場です。と同時に年に1度は、こうしてNPOの皆さんにマーケティングの必要性をご理解いただくためのフォーラムを開催しています。本年度は4人の講師と7人の社会人サポーター、そして運営ボランティアの皆さんという多才で熱い方々にこのプログラムを支えていただきました。これからもより多くの方と出会い、つながってプログラムを進化させていきたいと考えています」

パナソニック CSR・社会文化グループ
東郷琴子

次に、NPOサポートセンター事務局次長の田邊健史さんがプログラムの概要を説明しました。

「NPOマーケティング プログラムは、多様な視点を得ることで自団体を客観視することと、共感する仲間を増やして実行力やインパクトを高めることを目指しています。単に研修を行うだけではなく、団体に課題を与え、事務局や講師が相談に乗りながら長期にわたって個別支援をします。このあと成果を発表する5団体には、今日をゴールではなくスタートとして走り出してほしいと思います」

NPOサポートセンター
事務局次長 田邊健史さん

第1部 NPOマーケティングプログラム2013 成果報告会

基調講演「今、なぜマーケティング志向が必要なのか」

多摩大学総合研究所
教授 松本祐一さん

第1部の冒頭では、本プログラム講師チームのリーダーであり、多摩大学総合研究所教授の松本祐一さんが「今、なぜマーケティング志向が必要なのか」と題する基調講演を行いました。

「なぜNPOにマーケティングが必要なのでしょうか。その理由は3つあります。1つは、数多くのステークホルダーから共感・納得を得るために難しいコミュニケーションが求められるから。2つめは、物ではなくサービスを提供するNPOは成果を明確にする必要があるから。3つめは、多くの団体が助成金を争う中で存在感を示す必要があるからです。
マーケティングには論理志向、顧客志向、価値志向が欠かせません。5団体の成果発表を聞くときは、(1)企画や施策の論理は明確か、(2)顧客視点で考えて実行しているか、(3)何を価値とし、そこからどんな成果が生まれるか。この3点に注目してみてください」

本年度参加5団体による成果報告会

続いて、本年NPOマーケティング プログラムに参加して、新規事業開発、支援者拡大、ファンドレイジングなどに取り組んだ5団体がマーケティング導入実践事例の発表を行いました。各団体からは、数々の失敗を糧に試行錯誤しながら実践してきた6ヶ月間の取り組みや、そこから得た気づき、マーケティングの重要性が紹介されました。

NPO法人Class for Everyoneは日本で使われなくなったパソコンを個人や企業から集め、フィリピンなどの途上国の教育に役立てています。
1年半前に団体を立ち上げた高濱宏至さんは、「パソコンを寄贈してくれた個人や企業を次のアクションへつなげる」ためにプログラムを受講しました。

「収集の目的やコストについてWEB上で広報したところ、安定したパソコンの寄贈が続きました。さらに寄贈者へ現地からエアメールを送ると、顧客満足度も上昇しました。これまでは団体を自分のもののように思っていましたが、多くの人が集まり、役割を見出すことこそがNPOの最大の魅力だと気づかされました」

Class for Everyone
高濱宏至さん

FoE Japan
スタッフ 篠原ゆり子さん

認定NPO法人FoE Japanは、世界74カ国にネットワークをもつ国際的な環境NGOです。
スタッフの篠原ゆり子さんは、「団体は“個性の強い店主が集まったPRの下手な商店街”のようで、多くの課題を抱えていた」と振り返ります。

「支援者へのインタビューとイベント参加者4000人に対するアンケートの結果を受けて、団体の活動をわかりやすく紹介する“活動概念図”をつくりました。今後はこれを使って、スタッフ全員がイベント会場で説明できるくらいまで組織内に浸透させ、イベント参加者を支援者に変えていきたいと思っています」

ヒアリングで集めた声から団体の価値を知る

認定NPO法人キーパーソン21は、社会人が小・中・高校に赴き、将来の仕事や生き方を考えるキャリア教育プログラムの実践に取り組んでいます。
事務局長の下川原彩さんは「250人いる会員を1000人に増やす」ことを目標に、プログラムへの参加を決めたといいます。

「既存会員が何を価値と感じて入会したのかをヒアリングし、教育に関心のある人同士が交流できるイベント“キーパーソン21の日”を充実させました。共感者が非常に多いことにも気づかされたので、彼らを支援者へと変えていくためにも、既存会員による広報活動をよりいっそう強化していきます」

キーパーソン21
事務局長 下川原彩さん

ビーンズ
スタッフ 向田怜史さん

ビーンズは2011年から、障がい者の自立を支援する「ビーンズ障がい者ヘルパー」を確立・展開してきた団体です。スタッフの向田怜史さんによれば、今年から新たに「障がい者家族コーディネーター」を養成し、家族に派遣しようと計画していました。

「私たちは専門性の高さに重点を置いていましたが、障がい者の支援者や家族へのアンケート・ヒアリングを通して見えてきたのは“話を聞いて理解・共感してくれる人”というニーズでした。今後は家族に寄り添ったカウンセリングを行いながら、月に1度は家族が何を求めているのか、一緒に考える機会を設けたいと思っています」

NPO法人GRAは、2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県山元町の復興支援に取り組んでいます。共同代表の石田美和子さんによれば、その一環として地元のイチゴを「ミガキイチゴ」としてブランド化し、販売するサポートをしてきました。

「プログラムでは、そのミガキイチゴを使ったスパークリングワインのマーケティング戦略を立てました。重要なのは、売り上げや消費者・販売店の声から課題を抽出して解決するPDCAサイクルをなるべく効率よく回すことだとわかりました。一連の経験を“GRA メソッド”として確立し、社会全体をよくする仕組みとして、ほかの団体にも使っていただけるように公開していく予定です」

GRA
共同代表 石田美和子さん

第2部 NPOマーケティング ケーススタディ分科会

第2部では、これまでにNPOマーケティング プログラムを受講した4団体が事例を発表する「NPOマーケティング ケーススタディ分科会」が開かれました。

分科会1では、2011年に受講した認定NPO法人カタリバの山内悠太さんが、「個人向けファンドレイジング獲得に向けたWEBマーケティング」について発表しました。

「高校生を対象としたキャリア教育と、被災地の子どもの放課後学校を運営しています。個人のマンスリーサポーターを増やすために、現場での実例をストーリー化してマスコミ、メルマガ、WEBサイトなどを通して発信しました。たしかにコンバージョン率は上がりましたが、使途を限定した寄付者と継続的なコミュニケーションを取り、マンスリーサポーターにつなげたほうがより有効だと気づきました。プログラムでは自分たちがどこを目指しているのか、本質的なところを問い直されました」

カタリバ 山内悠太さん

会場からの「なぜWEBという手法を選んだのか」との質問には、「以前、広告会社にいたのでWEBやDMなどが得意で、リソースが限られているため、そこに注力しました」と回答。 コーディネーターを務めるファンドレイザーの渡邉文隆さんは、
「まずは得意とすることをやってみるのも1つの手。その上で、単価なども勘案して総合的に判断するといいでしょう」とアドバイスしました。

組織内に定着したPDCAサイクルを今も実行

分科会3では、昨年受講したNPO法人APSDの佐藤亮さんと高松美穂さんが、「見えない顧客価値を発見するためのリサーチとマーケティング」について発表しました。

「太平洋のソロモン諸島で、生活の質の向上や人材育成などに取り組んでいます。現地のハチミツを配合したララ・ソロモンという化粧品の販売にあたって、商品の機能性と活動内容のどちらをどれだけ伝えるべきか、ABテストを繰り返しました。購入をやめた顧客に送るDMのA/Bテストを繰り返した結果、化粧品の成分よりも蜂蜜や活動の情報を掲載したDMのほうが売り上げやレスポンス率が上回ることがわかりました。顧客にとっての価値を改めて知る、いい機会になりました。また、仮説を立てて検証するPDCAサイクルが組織の中に定着したことで、今もスケジュールを立てて実行しています」

APSD 高松美穂さん、佐藤亮さん

コーディネーターを務めた「非営利活動のためのDo Tank ミエルカ」代表の近内健晃さんは、「プログラム卒業後もPDCAを回し続けるのは、すばらしいこと。皆さんもマーケティングに取り組むときは顧客を特定した上で、提供できる価値は何かを突き詰めて考えてほしい」とコメントしました。

終了後には、4つの分科会で発表した団体のコーディネーターが登壇し、どのような議論が交わされたかを共有する「振り返りセッション」の時間が設けられました。

フォーラムの最後には、会場に集った参加者同士の交流会が開かれました。
NPOマーケティング プログラムとフォーラムを通しての感想を、二人の方にうかがいました。

何をしたいのかじっくり考え、団体へのコミットメント強化

本年度のプログラムに参加したNPO法人GRAの石田美和子さんは、「この半年間は自分たちが何をしたいのか、じっくり考える時間でした。私たちはメンバー全員がプロボノですが、プログラムを通して、そのことを言い訳にせず、本業がある中でも成果を出したい気持ちが強まり、GRAに対するコミットメントが強化されました。一緒に苦労を乗り越えた、ほかの団体の仲間とは今後も連絡を取り続けていきます」と話してくださいました。

石田美和子さん

加藤健さん

今回、初めて社会人サポーターとして参加した加藤健さんは、「本業もある中で、どれだけ優先順位を上げて時間を割けるかが個人的な課題でした」と振り返りました。
「普段は、企業のWEBマーケティングなどをサポートしていますが、NPOは企業よりもさらに社会貢献の度合が高く、お金もないので知恵を出すしかなかった。企画力、選択と集中、決断力などの能力がよりいっそう求められ、鍛えられました」

どのプログラム参加者にも、楽しくも苦しい半年間を超えて手にした自信と手応えと充実感がみなぎっていました。この日の発表が、NPOマーケティングに対するより深い理解と実践に結びつくことを願っています。