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日常と非日常の体験を結びつけ、モヤモヤ感をワクワク感に変える組織基盤強化

2013年7月19日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京で、Panasonic NPOサポート ファンドの成果報告会が開催されました。
パナソニックは2001年にNPOサポート ファンドを設立し、社会課題の解決の促進に向けて市民活動が持続的に発展していくために、NPOの組織基盤強化に力を入れて支援しています。設立11年目の2011年にこれまでの助成実績をふまえ、プログラムをリニューアルしました。
NPOがより戦略的に社会課題を解決できるようになるために、自己変革しながら持続的に成長できるよう、組織運営上の課題を抽出し解決の方向性を見出す組織診断の手法を活用して、「組織診断助成」「キャパシティビルディング(組織基盤強化)助成」の2段階で助成するプログラムへと進化させています。

今回はその第1期生となる環境分野3団体と子ども分野5団体の皆さんが、組織診断を経て組織基盤強化に取り組んだ1年の成果を発表し、助成先団体、助成先の組織診断に携わったコンサルタント、選考委員、事務局など総勢22名が参加しました。

第1部:環境分野の成果発表

想定していた課題が第三者の指摘で転換することも

国連が掲げる2005年から2014年までの「ESDの10年」推進に取り組んできた認定NPO法人持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD-J)は、最終年の2014年までにどんな力をつけておくべきかという問題意識をもって応募しました。
「応募当初はESDコーディネーター研修のテキストづくりを想定していましたが、組織診断を受けた際に研修に関心をもってもらうことが先ではないかとの指摘を受け、短い映像コンテンツを無料公開することで研修への参加を促すよう方向転換しました。このコンテンツをもとに、すでにESD的な視点をもった地域の人たちに研修を広めていきたいと思っています」

外部コンサルタントの力を借りて新しいシステムを構築

NPO法人ホールアース研究所は「次世代につながる自然学校のあり方」を模索する中で、参加者と双方向のコミュニケーションを築けていなかったことに気づきました。
「外部コンサルタントの力を借りて、新しい顧客管理システムの構築とHPの連動に取り組みました。この顧客データを活用し、子どものときに参加した自然学校のプログラムに基づいた新たな体験プログラムを成人後も提案できるようになると、ここでの体験がその人の人生の中で大きなウエートを占めるようになるはずです」

また、砂浜でTシャツアート展などを展開してきたNPO法人NPO砂浜美術館は「地域の人にとって身近な存在となるには、町の特性である一次産業の活用と団体の財源構造の転換という二つの課題を両輪のように回すことが必要だ」と外部コンサルタントから指摘を受け、WEBショップ「すなびてんぽ」を立ち上げました。
「こんな風景の中でこんな風に育った商品なんだと伝わるような紹介文を心がけたところ、アクセス数は伸び、団体HPとの連動性も生まれてきました」と手応えを感じています。

環境分野 選考委員の講評

3団体による組織基盤強化の取り組みと成果の発表後に、質疑応答の時間を設け、締めくくりに環境分野の選考委員である3名の方より講評をいただきました。

WEBも組織基盤強化の強い味方

「取り組みの中にもWEBの話が出てきましたが、日経BP社さんが毎年行っている環境ブランド調査では、サントリーさんが3年連続で1位となりました。昨年9位だったキリンビールさんも3位に躍進しました。どちらも、環境に配慮した取り組みをWEBに関心がある層にうまく伝えることができている。WEBの整備が本事業の役割というわけではありませんが、これもベースに置いた上で組織基盤強化に取り組んでほしいと思います」

パナソニック モノづくり本部
環境・品質センター 次長 冨田勝己氏

コミュニティ・ユース・バンクmomo
代表理事 木村真樹氏

NPO経営者として学びや気づきを与えられた

「NPOを経営している人間として、僕のほうが皆さんから学びや気づきを与えられました。たとえば、地域でできることは地域でやったほうが長続きするけれど、それを持続するには仕組みづくりと人材育成を常にセットで考えなければなりません。同時に、自分たちの役割や立ち位置を決めることも大事だと改めて気づかされました」

組織全体の体力づくりあっての各論

「アームレスリングに臨むとき、つい腕ばかりを鍛えてしまいますが、実は腹筋や大胸筋などの体幹トレーニングも大事なんです。団体の組織診断も同じで、ある程度、身体ができてくると、やり甲斐のある各論へとすぐに入ってしまう。組織全体の体力づくりが本当にできているのか確かめた上で、次の1年でどこを集中的に鍛えるかという段階に進んでいただきたい。数字をもっと活用して、団体の変化を見せる工夫も必要だと感じました」

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科
教授  粉川一郎氏

第2部:子ども分野の成果発表

続いて、子ども分野の5団体が成果報告を行い、組織基盤強化の取り組みと成果を発表しました。

急速な事業拡大に伴う危機感から応募

孤立している親の増加を受け、2009年から家庭訪問型子育て支援の仕組みを普及しているNPO法人ホームスタート・ジャパンは、まだ組織の財政基盤が弱いうちに地域の活動拠点を急速に全国へ広げてしまったことから財源見直しを迫られ、応募に踏み切りました。
「組織診断の中で利用者やオーガナイザーや保健師など、全国に散らばる30人のステークホルダーの皆さんにインタビューしているうちに、つい、うるっと来てしまい、活動存続の必要性を改めて噛みしめる場面もありました」

また、不登校やダウン症の子どもの支援、公共施設の指定管理などに取り組んできたNPO法人トイボックスは、社会のニーズが高まり、事業規模が膨れ上がる中、事務局を実質一人のスタッフが担っている組織基盤のもろさに危機感を感じ、応募しました。
「ブランディングのプロの力を借り、組織全体のミッションを明確にする作業は、外へ発信する広報のためばかりでなく、内部の人間が何のために一緒にやっているのかを考えるためにも必要不可欠な作業でした」

プロの視点から組織の体制改革に取り組む

子どもの貧困問題などに取り組むNPO法人関西こども文化協会では、組織診断の結果、代表理事会の権限が強すぎて理事会が機能していないという課題が明らかになりました。
「外部のコンサルタントに入ってもらい月に1度、全6回の組織体制整備構築会議を開き、代表理事会を解体して理事会の機能を強化しました。理事会と事務局と現場の関係性を水平にしたことで情報共有できるようになり、これまでタイムリーに発信できていなかったブログやツイッター、フェイスブックも、今後は積極的に子どもの現状を発信していく見通しが立ちました」

子どもの国際協力活動を支援してきたNPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパンは組織診断の結果、事務局の業務体制の見直しが課題だと指摘されました。
「外部コンサルタントに見てもらいながら、作業マニュアルの作成に取り組みました。おかげで仕事の一部をインターンに任せられるようになり、インターンを育てるインターンの育成にも着手できました。インターンの一人は4月からスタッフとして働いてくれるようになり、大きな成果を得ることができました」

子どもへの暴力防止に取り組んでいる認定NPO法人CAPセンター・JAPANは、組織診断を実施した際のグループコンサルティングコースの他団体やコンサルタントなど、外部の声を聞いたことで、「自分たちだけで活動を進め、市民の共感を呼べていなかったこと」に気づいたといいます。
「1年間の取り組みを通して、何をするにも検証・整理して改善点を洗い出し目的・目標の確認をして取り組み、検証するというサイクルがルーティン化しつつあります」

子ども分野 選考委員の講評

子ども分野5団体の発表の後は、それぞれの団体に向けて質疑応答が行われました。今日の成果報告会が環境分野、子ども分野の合同開催とあって、環境分野の団体から積極的に質問が寄せられました。
その後、子ども分野の選考委員であるパナソニックの小川理子より、講評を行いました。

次のチャンスやヒントは現場の声に隠れている

「目の前にいる子どもの課題で手いっぱいな中、組織診断を気づきの機会としてご活用いただけたことがよく分かりました。ステークホルダーの声を広報の強化に生かせたという成果もあがっていましたが、私たちメーカーも“ボイス・オブ・カスタマー”を貴重な財産として徹底的に活用しています。現場の声には次のチャンスやヒントがたくさん隠されています。これを財産として蓄積し、活動にうまく結びつけていってほしいと思います」

パナソニック CSR・社会文化グループ
グループマネージャー 小川理子

全体総評

今日の締めくくりとして、NPO法人 市民社会創造ファンドの運営委員長である山岡義典さんが子ども分野の講評 と全体総評を行いました。

環境分野は非日常の日常化、子ども分野は日常の非日常化が課題

「子ども分野のうち3団体は名前にジャパンがついています。導入した外国モデルを日本の社会や文化に合わせて、どう変えていくかという課題を乗り越えようとしている苦労が伝わってきました。あとの2団体は委託事業が増えてきた結果、ミッションが見えなくなってしまったことに気がついた。ミッションは自主事業を通してしか見えてきませんから、少しずつでも自主事業の比率を増やしていこうと取組んでおられますが、委託事業そのものをどうしていくのかについても真剣に考えていく必要があるでしょう」

「全体を通して感じたのは、環境分野は非日常(ハレ)、子ども分野は日常(ケ)の取り組みが中心になりますが、その逆をどうするかがが課題だということです。環境分野においては、ある特定の時間に特定の場所で行われる“ハレ”のイベントで得た体験を、イベントも何もない“ケ”の中でどう生かしていくのかという課題。一方の子ども分野においては、毎日が子どもと向き合う“ケ”の世界。ところが“ケ”は枯れるとだんだん“ケガレ”てくる。そうならないためにはうまく“ハレ”を採り入れることが必要です。
組織運営にはモヤモヤ感がつきまといますが、そのモヤモヤの正体が何なのか説明できる言葉を見つけたとき、ぱっと晴れててきます。さらにそこにワクワクする瞬間が必要です。この“モヤモヤ感からワクワク感へ”こそが、組織基盤強化のキーワードなのではないかと思いました」

NPO法人 市民社会創造ファンド
運営委員長 山岡義典氏

第3部:分野を超え、「組織基盤強化」を共通テーマに交流懇親会

最後に、参加者全員による交流懇親会を行いました。
組織診断を経て、組織基盤強化に取り組んだ1年半のストーリーを持ち寄り、環境分野、子ども分野の団体が交流を深め、また助成先団体、コンサルタント、選考委員、事務局などそれぞれが入り交じり、「組織基盤強化」をテーマに意見を交わしました。

<参加者の感想>

  • 各団体の課題と、それに対する取り組みから具体的な手法が学べました。
  • 分野が異なっても共感や学びが多くありました。(環境分野助成先団体)
  • 同じテーマにチャレンジする団体の事例を聞くことができ、刺激を受けました。(子ども分野助成先団体)
  • たくさんのキーワードをもらうことができ、今後の組織基盤強化の取り組みを考えるうえでのヒントになりました。(子ども分野助成先団体)
  • 他団体への指摘も自分達にあてはめて考えることができ、こうした時間が大変貴重に思えました。(環境分野助成先団体)
  • 大変興味深い内容なので、何百人もの人に聞いてほしい。(選考委員)
  • 環境分野、子ども分野が合同に開催することは、相対化する視点を持つことができると思う。
  • また講評のコメントがストンときました。(助成先 担当コンサルタント)