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導入団体に学び、 NPOマーケティングの最新事例を体感 NPOマーケティングフォーラム2014

2014年11月29日、東京都港区の日本財団ビルにて「NPOマーケティングフォーラム2014」を開催しました。パナソニックは特定非営利活動法人NPOサポートセンターと協働で2008年から「Panasonic NPOマーケティングプログラム」を実施し、NPOが様々な課題を解決できるようになることを目指して、マーケティングの研修と個別支援を行ってきました。
この日は、2014年のプログラムに参加した5団体が6カ月の取り組みを発表する「成果報告会」に引き続き、プログラム修了団体や飛躍的に成長しているNPOを迎えての「ケーススタディ分科会」、個別相談会を実施しました。プログラムに参加した5団体の成果報告の中から、ここでは日本トラベルヘルパー協会の取り組みを紹介します。

介護と旅行のスペシャリスト“トラベルヘルパー” 個人向け講座の顧客を法人へと拡大

日本トラベルヘルパー協会
篠塚 登紀雄さん

トラベルヘルパーとは、介護技術と旅行の業務知識を併せもつ外出支援のスペシャリストです。一人で外出するのが不安な高齢者や障害者の買い物や散歩、旅行などを手伝います。現在、600人を超えるトラベルヘルパーが全国で活躍していますが、その数をさらに増やし、広めていけたらと私たちは考えました。

そこでマーケティングプログラムを受講し、「これまで個人向けに有料で実施してきた講座を介護事業所の職員に実施することでトラベルヘルパーを増員する」という企画を立てました。
外部環境分析の結果、2015年の介護保険制度改正に伴い、保険外サービスの要望が今後ますます増えると予想されること、高齢者が優先的にお金を使いたいものとして医療に次いで旅行が挙げられていることなど、トラベルヘルパーのスキルを必要とする高齢者のニーズは十分あることがわかりました。

これまで私たちは介護旅行の準備からサポート、フォローまでを学ぶ「養成講座」を展開してきましたが、介護施設スタッフへのヒアリングの結果、「旅の準備、すなわちコーディネイトについて知りたい」との声が多くあがったため、「コーディネイト講座」を創設。
「養成講座」の新規受講者を10人、「コーディネイト講座」を法人5社に15人という目標を掲げました。そして7月にはペルソナ(仮想顧客像)を設定し、顧客リストや既存のトラベルヘルパーへのヒアリングをおこない、講座の需要の有無を探りました。

マーケティングプログラムでの研修の様子

予想外の反応にも臨機応変に方向転換 4社14人の新規受講者を獲得

ところが、いざ商品化してみると「コーディネイト講座」の反応がよくありません。「たしかに関心のあることだけど、今はやらなくてもよい制度外の訓練を受けている時間がない」というのが顧客である介護事業法人の本音だったのです。
そこで急きょ方向転換を図り、「養成講座」を前面に出すことにしました。新たなペルソナを設定し、架電営業や出張説明会に励んだ結果、法人4社で14人が新たに「養成講座」を受講。「コーディネイト講座」への希望者はいませんでした。マーケティングの視点に忠実に、早めに方向転換できたことが成果につながったと思っています。

実質半年もない期間でしたが、同じ業種でも施設の規模やスタッフの数、運営の目的によって抱えている悩みも違うことがわかりました。マーケティングの手法を学んだことで、自分たちのしていることが本当に必要な人に届いているのか、問い直すこともできました。
これからもマーケティングのPDCAを回しながら、実績を積んでいきたいと思っています。

できることとできないことを見極め、 理想と折り合いをつける

実際に、NPOがマーケティングを導入しようと考えたとき、どんなことに注意をすればよいのでしょうか。
成果発表に続く、第2部の分科会では、本プログラムのコンサルタント(社会人サポーター)による「NPOマーケティング導入にそびえ立つ壁」と題する座談会が開かれました。

ここでは日本トラベルヘルパー協会をサポートした大内翔太さんが、プログラムを振り返っての感想を率直に語りました。

「彼らには自分たちのサービスがすでにあり、どう広めていくかが課題だったので、初めはスムーズにいくものと思っていました。ところが実際にやってみると、うまくいかない。自分たちの描いている理想像が無理なものだと気づけないまま成果の出ない日が続き、日常の業務に追われて、プログラムの継続すら危うくなってきたんです。
決めたことなんだからやってくださいと言うべきか、内容を変更しましょうと言うべきか悩みました。結果的に顧客の反応から当初の計画をやめて、顧客が求めている商材へと転換することに成功しましたが、自分たちができることとできないことを見極め、理想とどこで折り合いをつけていくか判断するのが1つの大きなポイントでした」

NPOマーケティングプログラム
コンサルタント 大内 翔太さん

新鮮だった、第三者から見た私たちの姿

これに対し、日本トラベルヘルパー協会のメンバーからは「コンサルタントに関わってもらった良かった点」として、こんなエピソードが語られました。

「私たちが強みだと思っていることが実はたいして強みじゃなかったり、正しいと思ってきた手法よりもっといいやり方があったり。第三者から見た私たちの姿が新鮮でした」
「熱心に何度も、法人への提案はこうしたほうがいいんじゃないかとか親身になってアドバイスしてくれて心強かった。大内さんの明るいキャラクターのおかげで、うまくいっていなくて暗くなりがちなミーティングのときも、前向きな提案がどんどん出てきました」

6カ月に及ぶプログラムと、この日のフォーラムを振り返って何を得ることができたのか、日本トラベルヘルパー協会事務局の皆さんに改めて聞いてみました。

日本トラベルヘルパー協会
堀場 沙織さん

堀場沙織さんは
「私たちは、こちらから攻めの姿勢で発信することが得意ではない団体。プログラムを通して、どのようにアプローチすれば活動が広がっていくのか、その手法を学べました」と最大の収穫を教えてくれました。

森彩子さんは
「私達の団体だけだったら、プログラムの途中で心が折れていたかもしれませんが、ほかの4団体がどこまで進んでいるのか、進捗状況をメーリングリストで共有したことが励みになりました」と他団体との集合研修や切磋琢磨が有効だったと振り返りました。

日本トラベルヘルパー協会
森 彩子さん

そして、発表者としても登壇した篠塚登紀雄さんは「今日の発表は途中経過に過ぎません。これを終わりにすることなく、学んだことを1年、2年と継続していって、結果につなげて良い報告をできるようにしたい」と、これからに向けた決意を話してくれました。

本日のフォーラムにはNPOマーケティングに関心のある100名が参加し、フォーラムの後に交流会も開催しました。あちこちで事例発表者を囲んで、NPOマーケティングについての情報交流がなされていました。