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先の展開を考えるのが楽しみになる組織基盤強化 2年目、3年目の挑戦を終えた5団体が集結 Panasonic NPOサポート ファンド 環境分野・子ども分野 成果報告会

2014年3月4日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京におきまして「Panasonic NPOサポート ファンド 環境分野・子ども分野」の成果報告会を開催しました。
会場には助成事業2年目を終えた1団体と、3年目を終えた4団体に加え、選考委員や事務局、一般参加者など総勢47名が参加しました。
第1部では環境分野、第2部では子ども分野の各団体がパワーポイントを使い、組織基盤強化の取り組みと成果を15分ずつ発表しました。そして発表後には会場との質疑応答、選考委員からの講評の時間が、それぞれ設けられました。
助成3年目を終えた団体の皆さんにとっては、これまでの集大成でもあり、ステップアップに向けての踏切台ともなる発表の模様をお伝えします。

●開会にあたって

パナソニック CSR・社会文化グループ
グループマネージャー 小川理子

さまざまなセクターから、高まる組織基盤強化への関心

「発表団体の皆様はこの3年間で課題を認識し、目標を明確にし、ステップアップしながら、非常にいい状態で今日を迎えられたことと思います。会場には、組織基盤強化に対する関心の高まりを表すように企業、行政、NPO、大学、公益財団など、さまざまなセクターからご参加をいただいております。長い時間のおつき合いとなりますが、どうぞ有意義にお過ごしください」

●第1部:環境分野の成果発表

<環境ネットワークくまもと>

<自然体験共学センター>

<アースウォッチ・ジャパン>

90回以上の会議で築いた専門家・NPOとのネットワーク

NPO法人 環境ネットワークくまもとは設立20周年を機に、今回初めて外部コンサルタントを入れて活動を見直し、団体内でミッションやビジョンを再確認しました。
「2004年から続けてきた市民共同太陽光発電所設置事業の本格的な事業化に向けて、大小90回余の会議を重ねた結果、専門家や県内NPOとの強固なネットワークが構築され、事業に関わりたいという若手も現れ、人材育成の芽も育ちつつあります」
昨年12月には、原育美副代表が平成25年度地球温暖化防止活動 環境大臣表彰を受賞し、今後もさらなる飛躍が期待されます。

10年後の夢に向けて、組織体制をシフト

NPO法人 自然体験共学センターは、福井の農山村地域で自然体験活動を展開しています。
「活動を始めて10年の節目を迎え、理事長中心から事務局長・常勤職員中心の組織体制へシフトしていく必要を感じました。そこで職員の就業規則や業務評価づくり、地域財を活かしたプログラムの開発、資金調達力・情報発信力の強化などに取り組みました」
地域の人や行政、協力者などに向けた「組織基盤強化成果報告会」も実施し、10年後の夢の実現に向けた助走期間としての3年間になったようです。

顧客の声に応え、プログラムを開発する基盤を確立

認定NPO法人 アースウォッチ・ジャパンは、一般の人が研究者から指導を受けながら科学的野外調査に参加できる活動が特長ですが、参加者は毎年200人弱と伸び悩んでいました。
「会員・元会員を含むステークホルダーへのアンケート調査で、ニーズや課題を導き出しました。日程・体力・費用の面から参加できる活動が少ないとの声が多かったので、森林や海洋の専門家から成るプログラム検討委員会を新しく結成し、野外調査プログラムを充実させる基盤をつくりました。それとともに、もっと気軽に参加できるサイエンス・カフェなどの交流活動プログラムも併せて開発しました。これからも、ミッションに沿った活動を日本全国で展開していきます」

発表後、会場からは「組織基盤強化に取り組む上で2、3年目に注意すべき点は何か」との質問が出されました。これに対し、アースウォッチ・ジャパンの伊藤雪穂氏は「取り組めば取り組むほど課題が出てきて、それを追いかけるだけで忙殺されてしまう。組織基盤強化に関する活動をスケジュールに、どう落とし込むかがポイントです」と答えました。

●選考委員からの講評

コミュニティ・ユース・バンクmomo 代表理事、あいちコミュニティ財団 代表理事 木村真樹さん

人の気持ちを動かす動機にもなる“数字”を有効に使う

「成果報告会とは、自分たちの活動が地域や社会にもたらした価値とは何だったのかを報告する会だと認識しています。そのためには、成果を伝える共通言語である“数字”をもっと有効に使ってほしい。『多くの』とか『増える』といった表現を具体的な数字に落とし込むことで、より説得力が増すはずです。数字は、人の気持ちを動かす動機にもなります」

骨格や大筋を見据え、シンプルに伝える

「団体には理念やミッションがありますが、理想と現実の間にはギャップと問題点があります。問題点を分析して課題を明確化し、その解決のために計画を立て、成果をあげる。この一連のプロセスが組織基盤強化です。成果報告会では、上記プロセスの実践成果を、骨格や大筋を見据えながらシンプルに伝えることが重要です。人にわかってもらうための努力を、今後も継続していただければと思います」

パナソニック モノづくり本部
冨田勝己さん

地球と未来の環境基金
理事長 古瀬繁範さん

課題がなくなるときは組織が死ぬとき

「社会の中でよくいわれる自助、共助、公助というものがあります。まずは自分でやって、地域で支え合い、最後に頼るのが“公”です。この共助が日本社会の中で毀損しつつあることが昨今の大きな社会課題です。また、基盤強化に関して組織が抱える課題はなくなることはありません。課題がなくなるときは組織が死ぬときです。そう覚悟して、組織基盤強化のたゆまぬ努力を続けてください」

●第2部:子ども分野の成果発表

<プレーパークせたがや>

<アトピッ子地球の子ネットワーク>

職員の意識が変わり、先の展開を考えるのが楽しみに

1979年に全国初の「冒険遊び場」を開設し、今や世田谷区内4カ所で運営しているNPO法人 プレーパークせたがやは、急激な事業拡大に伴う人材・資金不足に悩んでいました。
「資金面では、冒険遊び場運営のノウハウを自主財源づくりに活かす研修センターを開設しました。さらに、3人だった事務局を8人のチーム体制に改編して、これまで不在だった事務局長も就任しました」
職員の意識が変わったことで、全員が組織運営を“我がこと”としてとらえるようになり、先の展開を考えるのが楽しみになったそうです。

データベースを再構築し、アレルギーの事例を発信

アレルギー疾患の子どもと家族の暮らしを応援しているNPO法人 アトピッ子地球の子ネットワークは、電話相談の内容を入力したデータベースの再構築に取り組みました。
「データベース化したアレルギーの事例はニュースレターや学会発表、報告書を通して広く発信することができました。助成3年目には、相談事業を行っている他団体や企業、医者、研究者などを交えたアレルギー事例の検討会も開催しました。今後も医療機関や学校、行政への発信力を強化し、疾患のある子どもたちの生活の質を向上させていければと思っています」

発表後、会場からは「次の展開として何を考えているか教えてほしい」との質問が出されました。これに対し、アトピッ子地球の子ネットワークの吉澤淳氏は「企業の製品に誤ってアレルギー物質が混入した自主回収情報を一人でも多くの患者家族に知らせる事業の組み立てを考えているところです」と答えました。

●選考委員からの講評

時代や社会状況に合わせて、ミッションも変化

「NPOのミッションや事業は時代や社会状況によって変化していくものです。子どもたちが育つ地域や社会はどうあるべきか。具体的な絵が見えるくらい、社会の課題を自分たちの課題に引き寄せて考えなければならないと、発表を聞きながら思いました。そのためには、自分たちの目標と社会的使命は別物なのだと理解することも大切です」

子ども劇場東京都協議会
常任理事 森本真也子さん

ゴールを定め、社会的成果へとつなげる

「プレーパークせたがやは、活動体から事業体へと組織化していく過程が見えました。あとはゴールを定めて、楽しみながら社会的成果を出していければと思います。アトピッ子地球の子ネットワークは、3年間でやろうとしたことも達成したことも明快でした。今後は組織基盤の何が強化されたのかを意識しながら、次の展開へ進んでほしいと願っています」

ワールド・ビジョン・ジャパン
事務局長 片山信彦さん

裏の課題を掘り起こし、身を切る覚悟が必要

「外部コンサルタントを受け入れたとき、自分たちの団体の状況について、どれだけオリエンテーションできるかが、うまく組織基盤強化のスタートを切る決め手となります。それと組織には、表向きの課題と裏の課題が必ずあります。組織の中核にいる人間が裏の課題をあえて掘り起こし、身を切る覚悟をもたなければ組織の改善は成り立ちません」

日本NPOセンター
事務局次長 坂口和隆さん

企業にとってもNPOにとっても、VOCは宝の山

「組織基盤強化を通じて、VOC(Voice Of Customer)活動をするようになったのは団体にとっての収穫です。企業は、顧客の声を次の事業にフィードバックさせて成長します。VOCは宝の山なのです。パナソニック創業者の松下幸之助は250年計画を立てたといわれています。それくらい先を考えて、楽しみを倍増させるのもいいかもしれません」

パナソニック
小川理子

●全体講評

市民社会創造ファンド
運営委員長 山岡義典さん

皆さんがよきアドバイザーとなることで、さらに広がるプログラム

「2011年の東日本大震災を機に、人々の価値観やNPOへの見方は変わりました。そんな中で皆さんは、組織基盤強化という大変な力仕事を成し遂げました。重要なのは、組織基盤強化とは何かを日常的に問うこと。そのためには、今回報告された例にもありますように、総会で成果を報告して議論したり地域で成果報告会を開くのも大事なことです。また、皆さんが周囲の団体のよきアドバイザーとなることで、このプログラムをさらに広めていただくと有難いです」

●交流会 それぞれの胸に去来する3年間の思い

成果報告会の最後には、助成3年目を終えた4団体に、このたび初めての試みとなる「修了証」が授与されました。
その後、開かれた参加者全員による茶話会形式の交流会では、会場のあちこちに人の輪ができ、各団体の発表を通して感じたことや考えさせられたことを思い思いに語り合う姿が見られました。その声をいくつか紹介します。

「私が事務局長に就任してからの3年と助成期間の3年が、ちょうど重なります。組織基盤強化がもたらしてくれたのは、目に見えるアウトプットだけではありません。活動に集まってくれる人、事務局に手伝いに来て下さる人が増え、私たちの足腰が強化されたことに何よりも感謝しています」

アースウォッチ・ジャパン
事務局長 安田重雄さん

プレーパークせたがや
事務局 渡辺圭祐さん

「私たちの団体は意思決定に関わるメンバーが多い分、何をするにもスローペースで、組織基盤強化に関わってくださった皆さんをやきもきさせたと思います。3年間で危機感を共有し、ようやくスタート地点に立てました。これから長い道のりが始まると覚悟しています」

参加者は今日のそれぞれの発表を聞いて「いいね!」と思った点や参考にしたい点、アドバイスなどをポストイットに書いて各団体のシートに貼り、発表団体はこれを応援メッセージの詰まったお土産として大事に持ち帰りました。