NPOに必要な組織基盤の強化

~団体を育てる助成プログラム~

特定非営利活動法人地球と未来の環境基金 理事長 古瀬 繁範氏

日本の環境NPOの組織基盤

環境NPOの活動として、皆さんが思い描くイメージは、例えば海岸・河川の清掃や、空き缶やペットボトルのリサイクル、植樹、里山の整備などでしょう。これ以外にも環境教育や気候変動問題など、環境NPOの活動分野は多岐にわたっています。こうした活動を運営している日本の環境NPOの多くは、有給専従職員が数名か、ゼロという小さな団体です。日本の環境NPOの数は、『環境NGO総覧』(環境再生保全機構刊)の調査によれば、約4,800団体あるとされています。中小企業の数が約385万社(2014年版中小企業白書より)あることに比べても、セクター全体の規模もとても小さいといえます。

特定非営利活動法人地球と未来の環境基金 理事長 古瀬 繁範氏

こうした環境NPOの力を高める目的で、パナソニック株式会社が資金を拠出する助成プログラム「Panasonic NPOサポート ファンド(環境分野)」は2002年にスタートしました。※1 私が理事長を務めるNPO法人地球と未来の環境基金では、2002年のスタート時から同助成プログラムの環境分野の協働事務局を務めています。※2

当時、パナソニックの担当者から「環境NPOの活動自体を支援するのではなく、環境NPOの団体の組織基盤を強化する取り組みを支援する助成プログラムを作りたい」と言われました。

団体を育てる助成プログラム

私はそれまで約10年、環境NPOで活動し、活動資金としての助成金を「受ける側」と「出す側」の両方の立場で仕事をした経験がありました。その中で、助成金の在り方に漠然とした疑問を感じていました。活動の直接的な経費(例えば物品の購入費、パンフレット制作費、交通費など)には助成金が使えますが、活動を運営する職員の給料は、大半の助成プログラムでは助成金の使途として認めていません。理由は「ボランティア活動なので、人件費は自前か無償奉仕でやることが前提」というのが決まりきった回答でした。もちろん助成する側の浄財を管理する立場として、止むを得ない事情もあります。

設立時に億単位で基本財産を持ち、有給職員を多数抱える財団法人や社団法人か、生活の糧は別の仕事で得て、無償奉仕で動けるボランティアのみで活動するなら問題ないでしょう。しかし、多数のボランティアを管理し、資金をきちんと管理する仕事は、全て無償奉仕でというわけにはいきません。有給の職員でカバーせねば難しい仕事もあります。

活動資金として助成金を獲得すると、活動や仕事は拡大し、活発になります。と同時に、その資金の管理業務やボランティアの管理業務が増えます。他方、そうした業務を担う職員の人件費は自前で賄い、あるいは実質的な無償奉仕がますます増え、苦しくなる一方で疲弊しがちだといった悲鳴を多くの団体から聞いていました。

「何か変だよな」そう漠然と感じていた私は、パナソニックから組織基盤強化の助成プログラムを作りたいと聞いて、「これだ!」と思いました。

組織基盤を強化するとは?

「組織基盤」とは何でしょう。図1は団体の活動や事業と組織基盤の関係を表したものです。団体の活動や事業を「積荷」とすれば、組織はその積荷を運ぶ「船」です。日本NPOセンター顧問の山岡先生の言葉を借りれば、「日本のNPOは、活動は素晴らしいが、それを支える組織基盤が脆弱で、立派な積荷をボロ船に積んでいるようなもの」なのです。

図1 組織基盤のイメージ

船は船体があるだけでは積荷は運べません。優秀な船長や船員がいて、航海に必要なノウハウや情報があり、燃料が必要です。「組織基盤強化」とは、活動や事業を支える組織の基礎的な経営資源(人材、情報やノウハウ、資金力)を強化する取り組みです。

NPOの活動資金として、助成金は重要な財源です。環境NPOを助成対象とする助成金、補助金は官民合わせて相当な数があります。しかし団体の組織基盤を育成するような助成は、パナソニックの助成プログラムがスタートして15年が経過した今日でも極めて稀です。大半の助成金は積荷を立派にする経費は支援しても、それを運ぶ船は支援しないのが実情です。私はそこに日本の環境NPOの活動が欧米と比べてまだまだ低調な原因の一つがあると思っています。

これまでの助成の成果

Panasonic NPOサポート ファンドはこれまでの14年間で、環境・子ども両分野合わせて260件、3億2,000万円を助成してきました。環境分野では1億4,000万円、115件の組織基盤強化の取り組みを応援しました。具体的な取り組みを見ると、スタート当初は「団体のホームページや紹介リーフレットを作りたい」「経理など事務力を強化したい」といった案件が多く見られました。近年では「組織のミッション、ビジョンを見直し、中期計画を立案したい」「資金調達のためのファンドレイジング力を向上させたい」といった、なかなか歯応えがあり難易度の高い案件が増えて来ました。

これまで助成した団体に対して、アンケートや取材などいろいろな形でその後の様子を見る機会があります。助成を受ける側としてのリップサービスもあると思いますが、多くの団体から「あの時の助成で組織力がつき、今こうして成長できている」とか、「あの助成がなければ、団体のミッションも曖昧なまま、バラバラになっていた」といった声を聞きます。

外部の視点を取り入れた組織基盤強化

活動や事業は、団体がすでに実績を持つ得意な領域です。一定の選考を経て決定した団体に助成すれば、かなりの確度で成果が出ます。具体的な成果物も見えやすいです。他方、組織基盤強化は、団体が現状できていない課題、いわば苦手分野に取り組むものです。助成申請時の計画通りに実施すれば必ず成果が出るとも限りません。具体的な成果や成果物も見えにくく、場合によっては取り組んで数年後にジワジワ効果が出て来る場合もあります。そこが組織基盤強化とその助成の難しい所です。

成果の精度を上げるため、ここ数年実施しているのは、第三者の視点を取り入れることです。図2は現在のPanasonic NPOサポート ファンドの支援の流れで、助成を受ける団体が自分たちだけで組織基盤強化に取り組むのではなく、コンサルタントなどの外部専門家を支援に組み込む制度にしています。

図2 助成プログラムの支援の流れ

助成終了後の成果報告会でいつも言うことですが、組織に課題が無くなることはありません。何かの課題を解決し、組織が成長すれば、また新たな課題が出てきます。それが生きた組織です。課題が無くなる時、それは組織が死ぬ時、いわば解散する時です。日々の体力作り、スポーツの筋トレのように、組織基盤強化は、たゆまずコツコツ継続することが必要で、それがNPOの活動や事業に良い成果をもたらすと信じています。

※1 子ども分野のNPOを対象とした同助成が、2001年に先行してスタートしている
※2 子ども分野の助成に関する協働事務局は「NPO法人市民社会創造ファンド」が担っている

地球・人間環境フォーラム発行『グローバルネット295号』2015年6月号
「特集 環境NPOが元気になるために!」掲載記事