NPO法人 ホームスタート・ジャパンの組織基盤強化ストーリー

“傾聴”と“協働” ボランティアが子育て家庭を訪問。 展開3年目の壁を乗り越え、国内27都道府県に広がる。 NPO法人 ホームスタート・ジャパン

英国発の「家庭訪問型子育て支援プログラム」を日本に導入した、NPO法人ホームスタート・ジャパン。急速な普及拡大のなかで見えてきた組織の限界を突破し、全国展開への道を歩み続けるステップアップの物語を聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第263号(2015年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

子育て経験あるボランティア 母子と一緒に過ごす

「ホームスタート」とは、未就学児を抱え孤立しがちな家庭を地域住民が訪問する子育て支援の仕組み。地域のつながりが希薄な今、「専門家の支援を受けるほどではないが相談する相手がいない親」が気楽に利用できるよさがある。家庭訪問するのは、子育て経験があり研修を受けた無償ボランティアで、彼女たちは「ホームビジター」と呼ばれる。英国で1973年に始まったこの仕組みを日本流にカスタマイズし導入したのが、「NPO法人 ホームスタート・ジャパン」だ。

ホームスタート・ジャパン 事務局長 山田幸恵さん

ホームスタート・ジャパン
事務局長 山田幸恵さん

現在、その事務局長を務める山田幸恵さんによれば、全国に約1100人いるホームビジターの仕事は“傾聴”と“協働”。具体的には「週に1度2時間程度訪問し、家の中で一緒におしゃべりしたり、家事や育児をしたり、公園で遊んだり病院の付き添いをしたりする」などして親子とともに過ごす。

ホームビジターは「相手の気持ちを受け止め、批判したり価値観を押しつけたりはしない」といった傾聴などの研修を8日間受けており、派遣にあたっては調整役のオーガナイザー(スタッフ)が事前に利用者から入念な聞き取りを行う。子育ての先輩と時間をともにすることで、お母さんが心の余裕や自信を取り戻したり、「うちの子って、こんなこともできるんだ」と新たな発見をしたりする効果もある。
利用者は口コミのほか、保健師や助産師からの勧めで支援につながるという。約8割の利用者が最低単位の4回(約2ヵ月)の訪問で終わるが、状況に応じて延長も可能。「知り合いがいない地域で出産後ひきこもりがちだったところ、ホームスタートでエンパワメントされ、地域への一歩を踏み出したり、行政が提供する一時預かり支援などを上手に利用できるようになったお母さんもたくさんいる」と山田さんは話す。

2006年に任意団体としてスタートした「ホームスタート・ジャパン」は試行的に事業を重ね、2009年から「ホームスタート」の普及を本格始動させたが、2011年には壁にぶつかる。
「私たちは事務局と理事を合わせて、7人がほぼ無償で活動をスタートした団体。そのなかで、ホームスタート事業を始めたいと名乗りをあげてくれる全国の団体の立ち上げ支援や継続支援をし、さらなるホームスタートの普及にも努めなければなりません。日本全国にこの仕組みを根づかせたいのですが、質を担保しながら、これ以上、地域を増やすのは無理だという組織体力の限界を感じていました」
そして団体にはもう一つ、助成金頼みでやってきた財政をどうにかしなければという「お金」の問題もあった。「本当はこんなことやあんなこともやったほうがいいのにと感じながらも、日々の仕事に追われて整理できず、共有する時間もなかった。月2回数時間の会議も実務の話を消化するので精いっぱいでした」

課題を洗い出し、俯瞰。広報とファンドレイジングの強化

そんな折、目にとまったのが組織診断後に組織基盤強化のサポートをしてくれるという「NPOサポートファンド」の助成プログラムだった。選考を無事に通過し、2012年から、3年にわたる取り組みが始まった。
1年目の組織診断では「潜在力診断」と「成長戦略検討ワーク」に取り組んだ。「外部のコンサルタントの方が入って組織の可能性や課題を整理するワークショップを開き、課題に対するみんなの意見を洗い出し、組織としてどんな潜在力があるかを俯瞰できる表をつくったのです」
その結果、「質を向上させる事業体制の確立」「事業の集中化」「組織基盤の強化」といった優先課題が浮き彫りになり、事務局長として今後の見通しに不安を感じていた山田さんは「実はみんな同じ思いでいろんなことを考えていたんだ」と、胸をなで下ろした。

「目標や課題を言葉にして共有するプロセスは、とても有意義でした。ミッションもビジョンも英文のものはあったのですが、自分たちの言葉で表現できることに意味があると考え、『すべての子どもに幸せな人生のスタートを』というスローガンにたどりつきました」。「5年後のなりたい姿」を明文化し、実現のための優先事項を押さえて2016年までの中期計画も立てた。「今はしんどくても先が見えたことで、この壁をきっと乗り越えられるという希望が湧いてきました」

ホームスタート・ジャパンは、全国各地でホームスタート事業に取り組む団体が会員となっている。「各団体の活動は行政との協働事業として認められることで運営が安定します。地域連携を後押しし、利用したい人が利用できるように、寄付者や支援者を増やしたい。そのために大事なのは『広報』ではないか」との気づきを得た山田さんらは、まず、広報とファンドレイジングを強化していくことにした。

30人以上へのインタビュー。ビデオやパンフレット作成も

助成2年目から、いよいよ組織基盤強化が始まった。「まずはホームスタートの利用者、ホームビジター、オーガナイザー、保健師や市の担当者など、30人以上へのインタビューを実施しました」
利用したお母さんからは「キリキリせずに子どもたちと笑顔で過ごせるようになった」、ホームビジターからは「ほんの少しでも力になれたかなと思うだけで、自分も力をもらえた」といった声が寄せられ、「人と人とのつながりや気持ちが、ぎゅっと詰まった活動であることを再確認できた」と山田さんは振り返る。
並行して、市民に支えてもらうための支援メニューづくりにも取り組んだ。外部の専門家を交えてのワークショップでさまざまな支援方法を学び、「書き損じの葉書や未使用切手、古本を集める」「寄付金付き自動販売機を設置する」「オンライン寄付をする」「フェイスブックやツイッターでホームスタートの活動を周知する」など複数のメニューを新設。ホームスタートの加盟団体も利用できるように整備した。

助成最後の年となる3年目には、ビジョンやミッション、活動の広がりや利用者の喜びの声がひと目でわかるパンフレットと、活動を体感してもらえるビデオを作成。一般市民向けの講演会や企業への説明に役立てている。
「これができたことで、支援を呼びかけて寄付を集めていくんだというスイッチが入りました」と山田さん。その効果は早くも出始め、まだ多くはないものの、関係者のみならず新規の個人や企業からも少しずつ寄付が寄せられるようになった。
既存の子育て支援制度では届かない、隙間で孤立している家庭に支援を届け、親の気持ちに寄り添いながら親子を地域につなげるホームスタートの活動は、世界では22ヵ国、国内では現在27都道府県の76地域で実施されている。これを全都道府県に普及することが当面の目標だ。さらに、3年に1度開催されるホームスタート・ワールドワイドの国際研修会議を「2017年には、ぜひ東京で開催したい」と考えている。

全国の加盟団体とのネットワークも強まりつつある。「いい活動は、団体の基盤が安定してこそできるもの。団体のなかには、私たちと同じように小さなボランティア組織として始まり、運営に悩んでいるところも少なくありません。私たち自身が組織基盤強化を体験したからこそ、その悩みにも心から共感でき、道を切り拓くためのステップづくりもお話できるようになりました。全国ネットワークの事務局として、ホームスタートの質を担保する包括的システムを維持しながら、全国の加盟団体と一緒に歩んでいきたいと思っています」

NPO法人ホームスタート・ジャパン

[団体プロフィール] NPO法人ホームスタート・ジャパン
2006年に任意団体として設立。2009年、研修を受けた地域の子育て経験者(ボランティア)が未就学児のいる家庭を訪問する支援プログラム「ホームスタート」を日本で本格的に始動。ホ法人ホームスタートームスタート・ワールドワイドの一員として、日本での普及を推進している。