NPO法人河北潟湖沼研究所の組織基盤強化ストーリー

市民主体の研究や調査を進め、河北潟を泳げる湖に NPO法人 河北潟湖沼研究所

石川県内最大の湖「河北潟」をフィールドに活動している「河北潟湖沼研究所」。研究者が多く集まり高齢化してきた組織が、若い人を巻き込み、育て、メンバーの若返りを図るまでの軌跡を聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第289号(2016年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]

河北潟を守る民間の研究所
メンバーの高齢化が深刻化

金沢駅から北に約10キロの「河北潟」を活動拠点とする「河北潟湖沼研究所」。
その理事長を務める高橋久さんはこう語る。
「河北潟はもともと、日本海からの水が流れ込む汽水湖でした。子どもたちの遊び場であり、地元の人たちがシジミを取るなど、地域の人にも大切にされてきましたが、1963年から国の干拓事業が行われ、水門を閉じることで水質が悪化。面積も3分の1に縮小しました。干拓地内に牧場を誘致したものの、乳価の低迷で経営は厳しく、水はけの悪い土地は畑作にも適さず、入植者は苦労しました。」
堤防に囲われ周りから見えなくなり、透明度も50センチを下回るようになった潟には人が近寄らなくなり、車や産業廃棄物が捨てられるようになった。その環境を改善し、河北潟を地域にとって持続可能な場所にしようと、90年代に設立されたのが「河北潟湖沼研究所」だった。

河北潟湖沼研究所 理事長 高橋 久さん

河北潟湖沼研究所
理事長 高橋 久さん

「メンバーは地域の人が半分。そこに生態学や環境の研究者、地元企業が加わって、民間の研究所をつくろうと動き出しました。河北潟周辺の生物調査やクリーン活動を行いながら、啓発のためのパンフレットを作成したり、小学校で出前授業をしたりといった環境教育にも力を注ぎました。」
クリーン活動に参加した、さまざまな団体と「河北潟自然再生協議会」をつくることで、地域との関係も築いていった。

その一方で、深刻化していったのが「メンバーの高齢化」だった。創設当時最年少だった高橋さんは、その後も最年少のまま。
「活動に興味をもった学生さんも卒業と同時にやめてしまう。メンバーの平均年齢は60歳近くになり、30代以下がいなくなってしまったんです。」
2008年には当初から団体を引っ張ってきた理事長が退任し、高橋さんがバトンを受け継いだ。「地域に役立つ組織として継続していきたい。」と考えた高橋さんらは、国の緊急雇用事業に応募。
「河北潟の環境修復と環境調査」を目的に、農業団体と合同で15人を雇用することになった。「河北潟の植物の種類を調べて地図をつくったり、外来植物を除草したりしましたが、雇用期間は1年半で終了。その後、私たちはせめて二人は雇用を継続しようと決めました。」

七豊米、ヨシ舟づくりに
市民ボランティアの参加増える

その一人、(ばん)(じょう)(たか)()さんは「大学で湖の植生に興味をもち、2005年から外来植物の除草活動にボランティアとして参加。2012年4月からスタッフになった。」という。
しかし、雇用を継続する財源のめどは立っておらず、2012年の夏、組織の立て直しを図るためにPanasonic NPOサポート ファンドの助成プログラムに応募。選考を経て、11月から組織診断を受けることになった。その結果、「組織の実状を知らない理事が多く、情報を共有できていないことも浮き彫りになりました。」と高橋さんは話す。

河北潟湖沼研究所 番匠 尚子さん

河北潟湖沼研究所
番匠 尚子さん

番匠さんは友の会の会員や活動の参加メンバーなど、約50人へのアンケートを実施。「回答には、河北潟にこうなってほしいという、活動にかける思いをびっしり書いてくださった方がたくさんいて、普段聞けない声を聞く、いい機会になりました。」
同時に「個々のメンバーは活躍しているものの、組織全体としての活動が見えない」「中期目標が不明瞭」といった組織の課題も見えてきた。これらを踏まえて、翌2013年の7月から組織基盤強化の取り組みが始まった。

「継続できる組織体制をつくる」「つながりをつくる」「専門性を商品化する」という目標を掲げた高橋さんらに、選考委員会から「まずは、ファンを増やすことが大事ではないか。」とアドバイスがあった。
これまで研究所は、自分たちの手で農薬を使わず、すべて手作業の「(しち)(ほう)(まい)」を育ててきており、この活動への参加を市民に呼びかけた。
「すると、田んぼに入ったことがない親子や若い女性も継続的に、ボランティアとして来てくれるようになりました。作業をしながら、コチドリなどの生き物を間近に観察できるのも楽しみの一つです。」と番匠さんは言う。ボランティアと一緒に、自然を活かした公園の管理方法を考える「こなん水辺公園救援隊」も結成。刈り取ったヨシを利用した「ヨシ舟づくり」は大好評だった。

さらに、「農薬の空中散布と、畔にまく除草剤をやめることで河北潟周辺の田んぼに生き物を呼び戻し、河北潟の水質を改善しよう。」という考えに基づいて「生きもの元気米」の生産を農家に委託。収穫した米を全部買い取って販売することで、農家との協力体制もつくってきた。

『河北潟レッドデータブック』出版
運営体制の創造は発展途上

活動を広くアピールするために、都内で開催される国内最大級の環境展示会「エコプロダクツ」にも出展。
さらに、近畿で開かれた環境団体がそれぞれの取り組みを発表するイベントには「人前で話すのは初めて」という番匠さんが研究所を代表して参加した。

積極的に広報した結果、「生きもの元気米」の生産農家は6軒まで増加。13年には河北潟に生息する生物を詳細に調査してつくった『河北潟レッドデータブック』を出版したことで、県外の研究者や活動者とのつながりも広がり、冊子は行政が環境関連の資料をつくる際の参考にするほど高い評価を得ている。
また、北陸新幹線開業でにぎわう金沢駅前広場では毎週、「金曜マルシェ」を開催。地元農家の野菜はもちろん、除草した外来植物チクゴスズメノヒエの堆肥で育てた「すずめ野菜」の販売も行っている。「河北潟と地域の人が触れ合う機会が増え、ファンのすそ野は着実に広がりました。若手研究者の加入も増え、これまでゼロだった30代の会員は5人に。30~70代までがバランスよく分布する構成になりました。」と高橋さんは胸を張る。

河北潟レッドデータブック

常勤二人に、新たに非常勤一人が加わったスタッフも育ちつつある。
「私たちには組織運営のノウハウがまったくなくて、実務的な運営体制の立て直しや中期的な目標設定などに今も取り組んでいる最中です。活動によって生物の多様性は戻ってきた部分もあるけれど、全体としては悪くなっている。だからこそ、市民が主体の研究や調査を応援し、それをベースに、たとえば何年後に河北潟で泳げるようにするには、どんな活動をすればいいのか、といった具体的なビジョンを描き、共感者を増やしながら取り組んでいきたいです。」

[団体プロフィール]NPO法人 河北潟湖沼研究所
河北潟の環境保全のための調査・研究活動、イベントを通じた社会へのアピール、河北潟研究奨励助成の公募事業などにより、自然と共存した地域社会の発展を探求。「生物多様性アクション大賞2014えらぼう部門優秀賞」「2014年度日本自然保護大賞・保護実践部門」受賞。

寄付などの振込先:ゆうちょ銀行振替口座 00730-1-48345 特定非営利活動法人河北潟湖沼研究所