パナソニック電工技報

【3月号】MARCH 2010 Vol.58 No.1の概要

特集:解析評価技術

特集:「解析評価技術」によせて

パナソニック電工  解析センター(株) 代表取締役社長 吉田 和久

特集論文

インバータ機器の電源重畳ノイズ発生メカニズム

森田 智彦 ,臼井 久視

インバータ機器において,電源重畳ノイズが機器自身と系統のインピーダンスの共振現象により急激に増大するメカニズムを明らかにし,周りの機器が誤動作や破壊に至る危険性を示唆した。とくに駆動周波数が可聴領域に存在する低周波インバータ機器において,インバータ機器自身のインピーダンス,系統インピーダンスのインダクタンス,および並列接続された機器のキャパシタンスによる共振現象の影響により,220Vp-pにも及ぶインバータノイズが発生することを明らかにした。

インバータ照明ノイズが鉄道無線に与える影響の評価法

稲田 勉 ,吉田 基樹 ,古林 大典 ,森田 智彦

省エネルギーであるインバータ照明器具の駅ホームへの普及を図るため,照明器具から発生する電磁ノイズが鉄道無線(IR方式)に与える影響について,電波暗室での検討に加え,現場における検証実験および官能評価を行い,S/N比で定量的に評価する方法を開発した。その結果,電磁ノイズの周波数が鉄道無線の受信周波数と完全に合致する場合でも鉄道無線に与える影響はきわめて軽微であること,また電磁ノイズの周波数を管理することで鉄道無線にまったく影響を与えないことを確認した。

非接触渦電流インパクト機構の動作特性解析法

太田 智浩 ,光武 義雄 ,長谷川 祐也 ,平田 勝弘

渦電流によるローレンツ力を利用して非接触で衝撃トルクを発生する静音インパクト機構において,複数の接合面を有する回転領域のメッシュを周方向に等間隔で分割してメッシュを自動修正する方法を採用するとともに,共振現象に関しては増幅率を用いて換算することによって,簡単かつ短時間で可能な動作特性解析法を開発した。
本法を用いることで,非接触衝撃トルク発生メカニズムを明らかにするとともに,インパクト機構の性能向上と高効率化を可能としている。

変位電流を考慮したMHz帯DC-DCコンバータの特性解析法

光武 義雄 ,平田 勝弘

MHz帯域で駆動するトランスを用いたDC-DCコンバータの特性解析において,数十kHz程度までの比較的低周波では無視できた変位電流を考慮する3次元有限要素法を用いることで,高精度に予測できる方法を開発した。この解析法を用いてトランスの等価回路を導出し,コンバータの入出力特性と効率を算出するとともに実機による測定結果との比較検証を行い,実機における電流・電圧波形が良好に再現できていることから,高精度な解析が可能であることを確認している。

フィルムコンデンサの実装時の熱劣化メカニズムとその対策

本山 晃 ,蒲原 泰 ,深見 謙次 ,中島 誠之

鉛フリーはんだ実装時のフィルムコンデンサに発生するクラックは,一般的な温度プロファイルにおいて内部温度が最高128.6℃に上昇することによるフィルムの熱収縮が原因であることを明らかにするとともに,その評価法として電気特性(静電容量,誘電正接)とその標準偏差の倍率の関係を把握することでクラック発生を推測できる方法を導出した。これをもとに,リード材の低熱伝導化とフィルム材の高耐熱化を提案し,実装時のコンデンサ内部温度の上昇を約20℃低下させて高耐熱仕様のフィルムが急激に熱収縮する温度以下にすることで,はんだ実装時のクラック防止を実現している。

HMMに基づく高品質音声合成法と評価法

花園 正也 ,渡辺 英樹 ,西山 高史 ,徳田 恵一

漢字かな混じりテキストから音声を生成する音声合成法において,HMMに基づく合成音声の聞取りやすさやイントネーションの自然性を向上できる収録テキスト設計法,技術的な達成度を評価するアプリケーションに共通の評価法,および実際にアプリケーションに特化した評価法を開発した。本技術は,FA機器のプログラマブル表示器の操作方法や状態などを知らせる音声ガイドに,従来の録音音声に代る音声作成機能として活用されている。

顕微ラマン分光法による陽極接合残留応力の定量化

宮武 岳洋 ,齊藤 公昭 ,山田 清高 ,青木 亮 ,別處 和也 ,ジュセッペ ペッツォッティ

MEMS作製プロセスの一つであるシリコン-ガラス陽極接合に伴って発生する残留応力の評価において,独自に作製した応力測定用TEGチップに偏光板を通したラマン散乱光のみを選択的に分光観測する偏光顕微ラマン分光法を適用することで,その定量的な測定を可能とした。
この方法により,温度300~600℃,印加電圧400~800Vの種々の条件下でシリコン-ガラス陽極接合したTEGチップの残留応力を測定し,接合条件と残留応力との関係を明らかにした。その結果,残留応力が温度変化による熱応力だけではなく,電圧の印加にも起因していることがわかった。

不飽和ポリエステル樹脂の硬化構造解析法と架橋度評価法

下影 卓二 ,奥本 佐登志 ,日高 優 ,中川 尚治

浴槽などに用いられている不飽和ポリエステル樹脂の硬化構造の解析において,化学的な前処理を必要としない固体NMR分析およびレーザラマン分析による架橋度が亜臨界水分解法による有機酸定量法の結果と良く一致することから,これらの方法はこの樹脂の架橋度測定方法として有効であることを見いだした。
また,樹脂のみの硬化メカニズムにおいて架橋度が約70%で飽和することについては,架橋剤であるスチレンとマレイン酸エステルの反応が遅いことと,架橋が進むにつれて共重合生成物の運動性が低下することが原因と推測される。さらに,スチレン配合比の増加により架橋部分のスチレン数が増加していることも示唆された。

STEMによるナノ有機多層薄膜構造の可視化

上田 友彦 ,牧野 篤

電子顕微鏡を用いた微細構造解析において,走査透過電子顕微鏡(STEM)による電子線の低加速電圧化とくさび形による断面試料の厚膜化によって有機材料に対する電子線の散乱効果を増大させ,ナノスケールの有機多層薄膜構造の可視化を実現した。開発した方法を用いることで,従来法では観察が困難であった化学構造差がわずかしかないナノスケールの有機多層薄膜構造の断面観察が可能となる。
本観察法の有効性を検証するため,まず化学構造が既知のナノスケールの有機多層薄膜から成るモデル試料を,次に有機ELデバイス中の多層薄膜の断面構造を可視化した。

カルボニル基分布によるポリエチレンの寿命予測

森北 浩通 ,田中 伸幸 ,畑 千登 ,高木 光司

屋外で使用されるポリエチレン製品の寿命予測において,促進耐候性試験と屋外暴露試験を行ったポリエチレンのFT-IRを用いた組成分析を行うことにより同じ劣化モードであることを確認し,促進耐候性試験を行ったポリエチレンの断面におけるカルボニル基の分布と引張強度の間には高い相関があることを見いだした。
この関係から,促進耐候性試験と屋外暴露試験における試験時間とカルボニル基発生の深度(CI値)の近似式との比較により促進耐候性試験の加速係数を導出し,短期間の促進耐候性試験で引張強度による寿命の推定が可能となる。

代替アレルゲンによる不活化評価法

井原 望 ,宮田 隆弘 ,浅野 幸康 ,山内 俊幸

抗原を定量化できるELISA法によるアレルゲン不活化効果の評価において,供試抗原の濃度や活性を一定化できる精製抗原液を採用し,さらに抗原の保持担体を供試抗原とは別のたんぱく質であらかじめブロッキングする方法の考案により,この抗原液を実際のアレルゲンの代替とする方法を開発した。
本法を帯電微粒子水のアレルゲン不活化効果の評価実験に適用し,その効果が高いことを定量的に確認している。

非固定視野映像による注視点分析法

佐藤 康仁 ,松延 拓生

GUIのユーザビリティー評価において,分析対象領域となる画面の特定を画面周囲部分との輝度差を利用するとともに,視野映像中のアイマーク座標を分析対象領域における座標系に変換することにより,被験者の頭部固定が不要で効率的かつ定量的な評価が可能なマーカレス注視点分析法を開発した。
本分析法は,被験者の頭部固定で懸念される肉体的,精神的な負担による評価精度への影響が少なく,定量的な注視点分析を効率的に実現するものであり,GUIを有する製品に対する実用的なユーザビリティー評価法として期待できる。

家事作業における身体負担感の定量化法

阿部 圭子 ,小川 哲史 ,木村 猛 ,吉田 正樹

家事作業において,主観評価で得られた身体負担感と,生理・生体計測で得られた筋電位積分値,前屈角度,酸素摂取量,作業時間などの客観的評価指標との関連性を分析することで,身体負担感が作業時間と筋電位積分値の二つの指標による予測式から80%以上の予測精度で表せることを見いだした。また,この予測式によりさまざまな家事作業の身体負担感を算出して家事負担感マップを作成することにより,従来は難しかった異なる作業の比較も同一の尺度で可能になる。
これらにより,客観的評価指標で身体負担感を定量化することが可能となり,身体への負担を低減できるユニバーサルデザイン製品の開発や負担低減効果の訴求データとしての活用が期待できる。