パナソニック電工技報

【3月号】MARCH 2011 Vol.59 No.1の概要

特集:電子材料技術

特集「電子材料技術」によせて

電子材料本部  電子材料R&Dセンター  センター長  三澤 英人

特集論文

多層基板材料の技術動向

中村 善彦

さまざまな電子機器の高機能化と多様化に伴い,多層化が進む電子回路基板の材料に求められる品質特性も多様化かつ複雑化してきている。たとえば,モバイル機器用においては軽薄短小化に対応するビルドアップ多層基板材料,車載電子制御機器用においては高温設置環境に見合う高信頼性材料,半導体パッケージ用においては微細回路形成に対応する高絶縁信頼性材料,IT通信機器用においては高速伝送に優れる低誘電・低損失材料が求められる。また環境負荷低減のため,鉛フリーはんだリフローへの対応やハロゲンフリー難燃材料も要求される。
このようなニーズの多様化に対応するためには,おのおのの電子機器の要求特性を正確に捉え,これに応じた新規樹脂設計とその複合化技術,および適切な特性評価技術に基づいた基板材料の開発が重要となる。

半導体封止材の技術動向

中村 正志

電子機器の高機能化,小型化,高速化に伴い,LSI半導体はますます高性能化,多機能化,小型化が進んでいる。これに伴い,半導体パッケージに対する要求も多様化し,高度な設計技術が必要とされている。一方ディスクリート分野においては,シリコン素子に代る新たなパワー半導体素子が開発され,これに対応できる新たな耐熱材料のニーズが高まっている。半導体パッケージを構成する重要な材料である封止材にも,半導体およびパッケージの性能を十分引き出すために従来にない性能や高信頼性が,さらには新規なパッケージ組立プロセスに対応できる特性が求められている。

高放熱性基板材料の技術動向

馬場 大三 ,澤田 知昭

照明用LED等の発熱対策では,従来の金属ベース基板は耐久信頼性,加工性,コストなどに問題があることから,高熱伝導性で低コストかつ加工性に優れたトータルバランスの良い有機基板が求められている。
有機基板における絶縁層の高熱伝導化の方法として,φm理論の活用やフィラーの表面処理によりフィラーの高密度充填化を図る一方で,メソゲン骨格を導入した結晶性エポキシ樹脂のように樹脂材料自体の高熱伝導化の技術開発も急速に進んでいる。さらに電子機器の軽薄短小化と高放熱性を両立するため,従来からの熱伝導による放熱に加えて輻射を利用した方式が注目されている。

薄型半導体パッケージ用低熱膨張基板材料

高橋 龍史,元部 英次, 花崎 正平 ,根本 知明,加藤 哲也

薄型半導体パッケージの反り低減とドリル加工性を確保するため,新規樹脂骨格の導入と無機充填材の種類,粒子径,粒度分布,表面処理状態を制御して充填材の増加率を30%に抑制することによって,熱膨張率を35%低減,Tgを25%向上,弾性率を室温で25%,250℃では75%向上させ,かつ従来品と同等のドリルビット摩耗率に抑えた基板材料を開発した。
開発品を用いた半導体パッケージの反りは,従来品と比較して,25℃で40%,260℃で20%低減している。また開発品は高い絶縁信頼性を有し,さらに基板のハロゲンフリー難燃化と鉛フリーはんだリフロー工程対応を実現した環境調和型材料である。

高耐熱・低熱膨張の多層基板材料

荒木 俊二 ,中村 善彦

鉛フリーはんだに対応する電子回路基板材料において,従来のノボラック型のエポキシ樹脂とフェノール系硬化剤に加えて新たな樹脂を組み合わせるとともに,熱膨張を抑制する無機フィラーの添加量増加にもかかわらずその種類,形状,サイズ,分散性を検討することで,樹脂流動性やドリル加工摩耗性への悪影響の軽減,高い耐熱性と密着性の確保,かつ一般のFR-4材料と同等のデスミア性を実現した。
開発品は既存材料から成る電子回路基板に比べて熱分解温度が20℃低下しているものの,銅箔引剥がし強度が0.1kN/m向上,熱膨張率が6×10-6/℃低減されており,温度サイクル試験においても優れた絶縁性能と導通信頼性を有している。またデスミアにおいても,汎用のプロセスでの加工が可能となる。

高熱伝導性ガラスコンポジット基板材料

野末 明義 ,鈴江 隆之

電子回路基板に実装される部品からの発熱を効率良く放熱するため,ガラスコンポジット基板材料に粒径の異なる数種の無機酸化物を分散させて高充填化を図り,熱伝導率が高く,加工性と耐熱性に優れる銅張積層板を実現した。
開発品を使用した銅張積層板の熱伝導率は1W/m・K以上を有し,実装された発熱部品の温度上昇は従来の一般的なガラスエポキシ銅張積層板を用いる場合の約2/3となることが確認できた。また,無機酸化物の高充填化にもかかわらず,加工性においては従来品同等のドリル摩耗率を確保している。

連続面圧成形法によるフレキシブル基板材料の高機能化

高橋 広明 , 森 正至

小型電子機器等に使用されるフレキシブル基板材料において,面状領域で加熱加圧プロファイルのコントロールを行うことにより面内が均一で低残留応力の成形を可能にする独自の連続面圧成形法によって,高機能化を実現した。開発した材料には,(1)スライドヒンジ耐久性を約25%向上した高屈曲用途のフレキシブル基板材料「R-F785」,(2)5GHzにおける伝送損失をポリイミドベースと比較して0.08dB/cm改善した高周波用途のフレキシブル基板材料「R-F705」,(3)アルミニウム基板材料と同等の熱放散性を有する高熱放散性フレキシブル基板材料「R-F775」がある。これらはいずれも従来のロールラミネーション法と比較して高品質であり,本技術の活用によりフレキシブル基板材料のさらなる高機能化が期待できる。

多層フレキシブル基板用の屈曲性エポキシ樹脂付き銅箔

江崎 義昭 ,小関 高好 ,石川 陽介,伊藤 克彦 , 福住 浩之

携帯電話等に用いられる多層フレキシブル基板(FPC)において,エポキシ樹脂に高伸び低弾性率の変性ポリアミド樹脂をポリマアロイ化することにより,エポキシ樹脂付き銅箔をフレキシブル化して折曲げを可能とするとともに,従来のカバーレイ工法に比べて,4層FPCの厚み30%減,平滑性向上,ビルドアップ工程数半減を実現する屈曲性エポキシ樹脂付き銅箔(FRCC)を開発した。また開発品は,エポキシ樹脂およびその硬化剤の骨格に燐変性を施すことにより,ハロゲンフリーで難燃化を実現した環境適合材料でもある。
この技術はFRCCだけでなく,ボンディングシートやプリプレグにも応用展開が期待される。

高充填性モールドアンダフィル用封止材

明石 隆宏 ,續 貴徳 ,辻 隆行 ,中村 正志

モールドアンダフィル(MUF)対応の封止材において,チップ下狭ギャップの充填性がフィラーの粒径や量,樹脂の粘度とゲル化時間に影響されることに着目し,カットポイント30μm以下で平均粒径5μmまで小さくしたフィラーを用いてその充填量と樹脂の粘度から動粘度を最適化するとともに,硬化性に悪影響を及ぼさない範囲でゲル化時間を長くする樹脂設計によって,40μmの狭ギャップに対しても優れた充填性を発現する材料を開発した。
また,同時に開発した狭ギャップ充填性の簡便かつ定量的評価法は,MUFにおけるチップ下充填性向上の検討に有効であることが明らかになった。

ハイサイクル・高耐衝撃性のポリ乳酸樹脂成形材料

上野 晃 , 山本 広志 , 斉藤 英一郎 , 上田 芳久

植物由来のポリ乳酸を用いるプラスチック成形材料において,光学異性体のL体とD体が規則正しく配列したステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂を用いることにより,樹脂の結晶化速度を大幅に向上させ,従来のポリ乳酸樹脂に比べて成形時間を1/3以下に短縮した。さらに,柔軟性付与剤および結晶化度を低く抑える結晶化抑制剤との複合化により,シャルピー衝撃強さは従来のポリ乳酸樹脂に比べて6倍となり高耐衝撃性を実現している。  本技術は,これまで特性不足で使用できなかった工業用途でもポリ乳酸の使用を可能にするものである。

セルフクリーニング機能を有する屋外用反射防止フィルム

田丸 博 , 井上 稔 , 清水 則幸

屋外用反射防止フィルムに防汚機能を付加するため,最表層に低屈折率材料を,その下層に高屈折率材料である光触媒(TiO2)を積層するとともに,最表層を多孔質構造にして下層の酸化分解活性を利用できるようにすることで,水接触角20°以下となる光触媒によるセルフクリーニング効果と最小反射率約0.5%となる反射防止効果の両立を実現した。
また,フィルム基材には耐候性に優れたアクリルフィルムを使用し,無機系のシリコーン系樹脂材料をウェットコーティングしているため,高い耐久性(サンシャインウェザーオメータ2000h)を確保している。

かご型シルセスキオキサン有機無機ハイブリッド透明材の強靭化

篠谷 賢一 , 宮崎 惠美 , 林 隆夫 , 高畑 昌弘

かご型シルセスキオキサン有機無機ハイブリッド材料において,靱性低下の主要因が,架橋反応中に発生する反応性の低い部位へのビニル官能基の転位による架橋反応率低下であることを明らかにした。また透明性と耐光性を損なうことなく,短所である低靱性を改善するため,量子計算シミュレーションによりビニル官能基の転位を抑制する構造を見いだした。
さらに,転位が起こりにくい構造を有する系としてテトラキス(ジシクロペンタジエニルジメチルシロキシ)テトラキス(ヒドリドジメチルシロキシ)シルセスキオキサンを合成し,その自己架橋反応で得られる有機無機ハイブリッド材料を用いて,120℃熱時引張試験において強度が約4倍,破断伸度が約3.5倍に向上していることを検証した。

ナノ複合化セラミックスの強靭性メカニズム

栗副 直樹 , 山田 清高 , 末廣 康彦 ,中西 秀雄,名和 正弘

セリア系ジルコニア粒子とアルミナ粒子のナノ複合化セラミックスは,イットリア系ジルコニアセラミックスと比較して約2倍の強靭性と,水熱環境下でも劣化しない優れた特性を有することをSEVNB法で確認した。さらに,マイクロXRDとラマン分光分析により靭性試験片の破断面を結晶構造解析した結果,正方晶から単斜晶へ著しく応力誘起変態しており,この結晶構造変化が強靭性に寄与していることを解明した。
このセラミックスは,各結晶粒内で相互にナノサイズの粒子を分散させた双方向ナノ複合化したもの(製品名「NANOZR」)である。従来のセラミックス材料はもろくて構造強度が要求される用途への使用は限定されるが,「NANOZR」は優れた靭性を活用して各種摺動部材などの産業機械部品や,歯科材料および人工関節等の生体材料への適用が期待される。