パナソニック技報

【1月号】JANUARY 2010 Vol.55 No.4の概要

特集1:シミュレーション

シミュレーション特集によせて

生産革新本部 役員・本部長 野村 剛

招待論文

21世紀のものづくりとシミュレーション

東京大学生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター センター長・教授 加藤 千幸

技術論文

燃料電池用燃料処理器の開発短縮を実現する設計手法の構築

信岡 政樹,向井 裕二,前西 晃,藤原 誠二,寺西 正俊,松本 敏宏

家庭用燃料電池コージェネレーションシステムの水素生成デバイスである燃料処理器に特化した反応シミュレーション技術,およびシミュレーションを基軸としたモジュール型開発プロセスを構築し,開発効率を向上させた。燃料電池の発電効率向上を図るためには,熱利用効率を高めて反応を効果的に生じさせる高効率な燃料処理器の開発が必須である。しかしながら,燃料処理器内部では,水素生成とその過程で発生する一酸化炭素の除去を行うために600 ℃を超える高温で複雑な反応現象が起こっており,実験主体の開発では設計に必要な詳細現象をとらえることができず最適設計が困難であった。筆者らは,反応現象を予測するシミュレーション技術を開発し,水素生成メカニズムの予測を可能とした。また,複数の反応器の設計を並行に実施可能とするモジュール型設計手法を構築し,従来の実験主体の開発に比べて約1/4に開発期間を短縮するとともに目標性能を実現した。

シミュレーションによる車載用カメラスタック型SiPの最適設計

竹下 貴雄,高出 芳治,加藤 昭彦,八木 能彦

近年,車載用カメラの小型・高機能化の要求が急速に高まっている。これを実現するために,スタック型SiP(System in Package)を用いた車載用カメラを開発した。スタック型SiPは,実装面積の縮小に有利であるが,構造上はんだ接合部への熱応力負荷が大きくなる。従来の信頼性試験結果に依存した評価では,不具合発生箇所の事前予測や評価に多大な期間を要しており,シミュレーションによる接合部不具合の見える化と試作前の事前設計による設計完成度の向上が必要である。今回,当社グループとして,新規にシミュレーションツールAWS(ANSYSR Workbench Simulation)を用いスタック型SiP構造の最適化を行うことで,部品実装面積を20 %削減したデジタル入出力対応の車載用カメラを開発することができた。

レシプロ圧縮機の混合潤滑軸受解析技術

松井 大,橘内 葉子,稲垣 耕

冷蔵庫用レシプロ圧縮機の混合潤滑軸受解析技術を開発し,軸受損失を20 %低減できる軸受仕様の抽出を行った。ジャーナルとスラストとで構成されている当社のレシプロ圧縮機の軸受において発生する摺動損失は,全損失の3割以上と見積もられ,高効率化のためには軸受損失の低減が課題であった。しかし,各軸受における損失発生メカニズムや損失量は不明で,損失低減手法が不明確であった。今回構築した解析技術は,両軸受で発生する油膜と金属接触による軸受面圧力場と,シャフトに作用する荷重とが釣り合うシャフト姿勢を求めることに成功し,各軸受の損失量を定量化することを可能とした。この解析技術により,各軸受の損失発生メカニズムが明確となり,軸受の損失低減の具体的取り組みが可能となった。

π共役分子/貴金属界面の第一原理的研究

豊田 健治

キャリア注入障壁に影響を与える界面双極子の形成要因について調べるため,第一原理計算を用いて,貴金属表面上に吸着したベンゼン,ペンタセンの電子状態を系統的に解析した。van der Waals密度汎関数を用いることで,通常の手法では再現できない吸着エネルギーの実験値を再現できた。また,計算のみから推定するのが困難な吸着距離を,仕事関数変化の実験値から導出した。導出した吸着距離における電子状態は光電子分光の実験結果と一致したことから,吸着距離の導出方法の妥当性が示された。吸着距離や電子状態の結果から,界面双極子の形成要因として,Ag,Au上のベンゼン,ペンタセン分子の場合,物理的要因が支配的であること,およびCu上のペンタセン分子の場合,化学的要因も寄与することが示唆された。

技術解説

デジタルAV事業分野へのシミュレーション技術適用

開発プロセスへの定着によるスピード開発を目指し,「設計変更に即時対応可能な高速評価,開発ステップ移行の判断時に利用可能な高精度予測」に重点をおいたシミュレーション技術を開発した。
本稿では,デジタルAV機器の共通課題である放熱および工法にフォーカスし,技術開発と商品適用事例を紹介する。

ファン高効率化に向けた流体シミュレーションの適用

送風機器に搭載されるファンの高効率化の技術確立において,流体シミュレーションは有効な開発ツールである。送風機器の形態に応じて最適なモデルを作成して解析することで,ファンの主要パラメータに対する静圧効率,送風特性の関係を把握し,高効率化に有効なファンの設計開発方向を特定することができる。

特集2:社内ベンチャー

社内ベンチャー特集によせて

役員 宮部 義幸

招待論文

大企業発ベンチャーの役割と育成

青山学院大学 国際マネジメント研究科(MBA) 教授 前田 昇

技術論文

ユニバーサルインバータドライバ

吉田 誠,小迎 聡,星野 広行,山口 修,河原 定夫

ユニバーサルインバータドライバは,モータの種類を問わず,広いアプリケーションへの対応をねらいとするモータドライバである。本ドライバでは,位置センサや制御方式ごとに,分散・専用化されていた各組み込みソフトウェアモジュールのタスク分析を行い,従来異なっていた位置,速度制御などの各モジュール間のインターフェース整合と再配置化を行った。これにより,本ドライバの中心的役割を果たすモータ制御ソフトの共用化・汎用化を実現した。また,電源電圧や容量に応じたハードウェアのユニット化構成により,DC12 VからAC400 V,容量で数十kWまでのモータ駆動をカバーしている。さらに,外部から簡単にパラメータの設定が可能なユーザーインターフェースソフトと合わせることで,広範囲なアプリケーション,およびモータ駆動環境に適合するインバータモータドライバを実現した。

レース用 軽量・長寿命バッテリー ~鉛バッテリーとの互換性確保~

杉山 茂行,榎本 つゆ,青木 護

本バッテリーは,自動車レース向けを主たる用途として,鉛バッテリーに対し半減以上の軽量化を達成したバッテリーであり,既存のレース車両に負荷無く導入できるよう,車両に備わっている鉛バッテリー充電用の発電機や電装機器をそのまま使用できるように設計されている。この完全互換を達成するため,本バッテリーでは軽量のリチウムイオン電池をベースとし,その電圧調整用としてニッケル水素蓄電池を逆接に接続している。さらに,バッテリー制御回路として,これら2種類の電池を使いこなすためのバランス補正回路,およびバッテリー保護のための過充電防止,過放電防止回路を搭載することにより,高信頼性と長寿命化を達成している。

セルフレギュレーション プラズマドーピングのフィン型FETへの応用

佐々木 雄一郎,岡下 勝己,水野 文二

次世代の半導体デバイスとして期待されているフィン型FET(Field Effect Transistor)のエクステンション電極への不純物注入のために,セルフレギュレーションプラズマドーピング(SRPD : Self-Regulatory Plasma Doping)法を開発した。従来のプラズマドーピング(PD : Plasma Doping)法とは一部異なる原理を用いることで,高精度のプロセス制御性(1σで1 %以下)と,プレーナ型FETからフィン型FETへの移行に必要とされるフィンへのコンフォーマルなドーピングを実現した。SRPD法の優位性を確認するために,金属/high-kゲートを備えたフィン型FET(pMOS FinFETs)に初めて適用した結果,イオン注入で試作したフィン型FETと比べて明確なショートチャネル特性の改善が認められた。

技術解説

電子部品における反り熱粘弾性解析技術

三宅 清,垣野 学

高密度半導体パッケージや実装基板などの電子部品においては,微小な応力や反りが機械・電気的信頼性に与える影響が無視できないことから,高精度な応力解析技術が要望されている。そこで,汎用有限要素ソフトを利用し,電子部品や基板の反りを高精度に予測する熱粘弾性解析技術を開発した。

パワー増幅ロボットにおける操作者への過負荷を排除する機構設計

城垣内 剛

高出力なロボットアームを人間の四肢の動きに追従させることにより,あたかも人間の力が数百倍に増幅されたかのような感覚で,人間単体では不可能な重作業を可能にするパワー増幅ロボット(パワーローダー)の開発を行っている。本ロボットは,人間では扱えない重量物を持ち上げるために,機構設計段階で操作者に対して過負荷がかからないよう配慮した。