パナソニック技報

【4月号】APRIL 2010 Vol.56 No.1の概要

特集1:ホームネットワーク

ホームネットワーク特集によせて

デジタル・ネットワーク開発センター 所長 岡 秀幸

招待論文

転機を迎えるホームネットワーク

北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
教授 丹 康雄

技術論文

グローバル対応超低消費電力小電力無線LSIとその応用

吉川 嘉茂,渡邊 崇士,滝田 敏夫,一倉 孝宏,渡邉 学,生田 功

400 MHz帯や900 MHz帯の小電力無線は,低消費電力で通信距離が長いという特徴がある。今回,運用時の消費電力を従来品の1/2に削減して業界トップレベルの低消費電力を達成した無線LSIを開発した。従来品の400 MHz帯に加え,欧州や米国などで使用できる900 MHz帯に対応してグローバル対応とした。また,WL-CSP(WaferLevel Chip Size Package)を採用して無線モジュールの体積を従来比1/2に小型化した。
消費電力が非常に小さく小型形状であるという特徴を生かし,さまざまな分野への応用が期待できる。メータ自動検針システムやセキュリティ分野に加えて,家電ホームネットワークへの応用が考えられる。防犯センサや火災報知機に適用し,小型電池で15年以上の長時間駆動が可能である。

次世代電力線通信と標準化

古賀 久雄

2008年12月,IEEE P1901委員会において,次世代HD-PLC(High Definition Power Line Communication)仕様が電力線通信(PLC:Power Line Communication)標準規格のベースライン技術方式の一方式として採択された。物理層(PHY:PHYsical layer)の仕様としては,新たに高効率伝送を可能とする変調方式である32 PAM(PulseAmplitude Modulation),および強固な誤り訂正方式である低密度パリティ検査符号(LDPC:Low Density ParityCheck)を採用した。また,メディアアクセス制御層(MAC:Media Access Control)の仕様として,高効率伝送を可能とするサブフレーム連結やセキュリティ強化のための動的鍵更新を追加した。さらに,PHY/MAC仕様とは別に,Wavelet OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)PLCとFFT(Fast Fourier Transform)OFDMPLCを共存させるために用いるISP(Inter-System Protocol)と呼ばれる制御方式も含まれる。本論文では,各仕様の概要を説明するとともに次世代HD-PLC仕様に基づいて試作されたモデムを用いて性能評価を行い,次世代HD-PLCの通信性能を検証する。

技術解説

AV機器の相互接続を実現するDLNA(R)の標準化

安部 美乃夫,山内 弘貴

DLNA(Digital Living Network Alliance)の設計ガイドラインとロゴ認証プログラムは,音楽・静止画・動画などのデジタルコンテンツを,デジタル家電,パーソナルコンピュータ,モバイル機器間でシームレスに共有できる相互接続性の高いホームネットワークを実現している。本技術解説では,主に筆者らが標準化に参画したDLNAの設計ガイドラインとロゴ認証プログラムの概要を説明する。

お部屋ジャンプリンク

松永 繁樹,鈴木 洋佑

“お部屋ジャンプリンク”は,宅内IP(Internet Protocol)ネットワークで接続された異なる機器間において,コンテンツだけでなく,グラフィカルユーザーインターフェース(GUI : Graphical User Interface)を共有する機能である。この機能は,DLNA(Digital Living Network Alliances)を独自拡張したRUI(Remote User Interface)技術によって実現される。RUI 技術は,スクリプト言語によって,GUI を描画,および制御する。

ネットワーク対応ドアホンにおける簡単登録・設定技術

桑山 愛一郎,増田 博茂

携帯電話,AV機器,ネットワークカメラとの連携動作を可能としたネットワーク対応ドアホンの開発において,外部からのアクセス方法,設定方法,ネットワーク上の制御方法に工夫を行い,簡単な登録,簡単な設定を実現した。本稿では,そのポイントとなった技術について解説する。

特集2:EMC

EMC特集によせて

役員 藤田 正明

招待論文

設計技術としてのEMC:課題と展望

京都大学大学院 工学研究科 電気工学専攻
教授 和田 修己

技術論文

デジタルAV事業分野におけるEMC設計技術

房安 浩嗣,大迫 周平,廣瀬 一郎

製品の高性能化・小型化が進展しているデジタルAV機器開発では,信号周波数の高速化に伴い,輻射ノイズに代表されるEMC (Electromagnetic Compatibility)問題に対する対策難易度が向上してきている。
本稿では,従来のEMC対策手法から,設計上流で製品品質を設計し,後戻り工数を削減できるように,FDTD(Finite Difference Time Domain)法による数値解析技術,近傍電磁界の測定分析技術,EMCチェックの判定技術からなるEMC設計技術を開発し,薄型TVやDSC (Digital Still Camera)といったデジタルAV機器へ適用したので報告する。

基板内ノイズ解析技術(NoiseSCOPE)の開発

岩城 秀樹,小松 直樹,木下 智博,山田 徹

機器の発生するノイズが機器自身に障害を与える新たなEMC(Electromagnetic Compatibility)問題“自家中毒”の主要因となる基板内ノイズを,設計段階で解決する干渉ノイズ解析技術を開発した。従来の電磁界解析では,解析対象全体を計算する必要があるため解析時間が膨大になる課題があったが,本技術では,解析で最も重要となるノイズの伝搬経路を特定することにより,必要最小限の解析領域を自動抽出するアルゴリズムを考案した。ノイズ源となるLSIの周波数特性とノイズにより特性が劣化する受信回路の受信限界の関係を利用し,伝搬経路を探索しながら部分的な電磁界解析を駆使する独自手法を用いることで,従来の電磁界解析では1000時間以上必要であった多層基板のノイズ解析を5時間で解析できることを実証した。

アンテナ経由の機器内電磁干渉問題に対応した設計手法の開発

前川 智哉,山田 徹

無線通信機器の自家中毒問題に対応した新たな設計手法を開発した。近年,デジタル回路で発生したノイズが機器自身のアンテナを経由して受信回路に混入し,受信感度が劣化する自家中毒問題が増加している。本問題を解決するためには,設計の初期段階でノイズ源となる部品の配置やアンテナ構造の違いによる受信感度への影響を定量化する設計手法の開発が必要となる。筆者らは,アンテナとノイズ源個々の磁界分布に着目し,両者の磁界分布の相関から受信感度を定量化する設計手法を提案した。そして,本手法の妥当性について携帯電話を模擬した評価モデルを用いて検証し,その計算アルゴリズムを組み込んだノイズ解析ツール(PanCROSS)を開発した。さらに,本ツールを携帯電話設計へ適用し,受信感度の測定値と計算値との間に良好な一致が得られることを確認した。

高速伝送用ESD保護素子とその評価方法

吉岡 功一,徳永 英晃,柴田 修,井関 健

3種類の低容量ESD(Electro Static Discharge)保護素子,GDT(ガス放電管),PESD(ポリマータイプESD保護素子),MOV(金属酸化物バリスタ)を,TLP(Transmission Line Pulse)法およびESDガンにより評価した。TLPによる評価から,パルスの立ち上がり時間,パルス幅に対するESD抑制挙動が3種類のESD保護素子で異なることがわかり,同様の差異をESDガンによる評価においても確認することができた。電流量が増加しても素子電圧を低く保持でき,パルス立ち上がり時間,パルス幅依存性が低いPESDは,高速伝送ラインのESD保護に最も適していることを明らかにした。

技術解説

EMC測定標準(リファレンス)構築による認証測定技術

小笠原 一夫,上田 昌幸

製品のEMC(Electromagnetic Compatibility)品質を保証するため,当社では,民間において国内最大級,世界屈指の高精度オープンサイトを設置し,これをリファレンスとするEMC測定の全社トレーサビリティ体系を構築,測定レベルの高位平準化を図っている。また,日・米・欧・豪・中,ほか主要国の認定機関から認証試験所としての認定を取得し,ワンストップ試験の実現により,商品の「世界同時発売」に貢献している。