パナソニック技報

【7月号】JULY 2012 Vol.58 No.2の概要

特集1:環境技術

環境技術特集によせて

エコソリューションズ社 常務
パナソニックエコシステムズ(株) 社長 吉村 元

招待論文

環境ビジネスにむけ新たな研究開発体制を

東京大学大学院工学系研究科 教授 橋本 和仁

技術論文

大規模道路トンネルにおける空気浄化での電気集塵・脱硝技術

山口 英告,村山 将,細野 洋,村田 光,片谷篤史

自動車道路トンネルでは,走行車両が排出するSPM(Suspended Particulate Materials:浮遊粒子状物質)やNOx(Nitrogen Oxides:窒素酸化物)などの大気汚染物質の除去が必要である.当社では,SPMを除去するESP(Electrostatic Precipitator:電気集塵(じん))技術については30年以上,NOxを除去する脱硝技術については20年以上取り組んできた.本稿では,近年の大規模道路トンネルにおける空気浄化のための電気集塵・脱硝技術および,当社で独自に開発した新方式の電気集塵技術について説明する.

寒冷地向けCO2ヒートポンプ暖房システム

小須田 修,長谷川 寛,尾形雄司,谷口勝志,柿本 敦,塩谷 優

暖房負荷が高い欧州寒冷地をターゲット市場として,既築住宅の高温暖房用の化石燃料ボイラをヒートポンプに置き換え,CO2排出量を減少させることを目標にヒートポンプ温水暖房システムの開発を行った.ヒートポンプの冷媒としては,ボイラ同等の90 ℃の加熱が可能である特性に着目し,CO2を冷媒として用いた.CO2ヒートポンプの高効率化の差別化技術としてインジェクション機構を搭載した膨張機一体型圧縮機を用いた動力回収型のヒートポンプを構築し,目標の年間COP 2.5の可能性を明らかにした.

水中に分散したTiO2光触媒による水浄化

猪野 大輔,丸尾 ゆうこ,行天 久朗

TiO2ナノ粒子の光触媒活性とマイクロ粒子の固液分離性能を兼ね備える“分散型TiO2”を合成し,光触媒による水浄化の実証研究を行った.本研究の“マルチファンクショナルフォトリアクター(MFP)”において,処理水と混合して懸濁状態にある分散型TiO2に紫外光を照射することにより,従来の固定型TiO2と比べて桁違いの水浄化の効果を得た.処理後の水と光触媒の固液分離は,分散型TiO2とMFPの組み合わせのみで有効に機能した.処理水における残留触媒濃度は30 ppm以下であった.分散型TiO2の光触媒性能を水中の医薬品類(PPCPs)分解において評価したところ,平均粒子径d =5.0 μmの分散型TiO2の性能は,基準となるd =0.2 μmのDegussa P25 TiO2と同程度で,反応速度定数比では73 %であった.

撥水砂技術の開発と応用

美濃 規央,長光 左千男,脇田 由実,山田 修,田尾本 昭,Stephen John

砂粒子の表面に撥水コーティングすることにより撥水性を有する砂(撥水砂)を製造する技術を確立し,撥水砂を有効活用するための種々のアプリケーションを検討した.撥水砂は世界規模で進んでいる乾燥地化を防ぐために土壌への保水性付与効果に加えて,塩分を含んだ地下水の上昇による塩害を防止する効果が確認された.さらに,最近のヒートアイランド現象に対応した打ち水システムを考案して,その表面冷却効果の実証実験を行い,従来のシステムと比較して10 ℃~ 15 ℃低い表面温度を実現できることも確認した.

バイオマス由来素材を活用した熱硬化性樹脂とFRP材料への応用展開

斉藤 英一郎,丹生 貴也,濱野 幸達

バイオマス素材を用いた強度,耐熱性,耐水性の高い不飽和ポリエステル樹脂を開発した.不飽和ポリエステル樹脂のジオール成分にバイオマス由来素材を使用し,3次元架橋密度を上げることによって従来の石油系樹脂同等の強度,耐熱性,耐水性を達成することができた.これを用いた繊維強化プラスチック(FRP)は水廻り用途に対応可能な強度,耐久性をもつことが明らかになった.今回開発した不飽和ポリエステル樹脂は,これまで困難であった熱硬化性樹脂への適用を可能とするものであり,資源問題や地球温暖化問題に対応できる環境対応樹脂材料として有用である.

技術解説

リン含有廃液の液状肥料へのリサイクル

島田 和哉,山口 典生

リン含有廃液のリサイクルは,循環型社会の観点から重要である.電子部品製造工場から排出される低濃度のリン含有廃液を,液状肥料としてリサイクルする手法を構築した.

バイオスティムレーションによる土壌・地下水浄化の最適化

鈴木 圭一,安藤 卓也

バイオスティムレーションとは,現地に生息する微生物を利用して,テトラクロロエチレンなどの塩素系溶剤による土壌・地下水汚染を浄化する手法である.本手法は,有機系薬剤の導入により有用微生物を増殖させ,対象物質を,脱塩素還元分解する技術である.安価な技術である一方,確実性が低いといわれているが,浄化計画全体への配慮,事前の各種試験を実施することにより,最適な浄化対策を実施した.

特集2:照明

照明特集によせて

エコソリューションズ社 副社長・
ライティング事業グループ 事業グループ長 松蔭 邦彰

招待論文

視覚特性に基づく照明応用の考え方とその実践

立命館大学 情報理工学部 知能情報学科 教授 篠田 博之

技術論文

シンクロ調色LED照明システムの開発

田中 健一郎,鳴尾 誠浩,井戸 滋,福田 健一,山本 祐也,江崎 佐奈

発光色が色温度で2000 Kから5000 Kまで黒体軌跡上を調色することが可能なLED(Light Emitting Diode)照明システムを開発した.通常LED照明は,調光したときには発光色温度は変化せずに減光していく.しかし,従来の白熱球は,減光していくとともに色温度は低く変化する.そこで,2000 Kから2800 Kにおいては,白熱灯の調光時の明るさと発光色の変化を再現するように明るさと色温度を連動して変化させ,2800 Kから5000 Kにおいては,明るさを徐々に明るくしながら色温度が変化するように制御している.この調色変化は,従来慣れ親しんだ白熱灯の変化であるとともに,人が快適と感じる領域といわれるクルイトフの快適領域を再現している.用いたLEDモジュールは3色の光源であり,青色LEDチップからの光を蛍光体で波長変換する際の色度調整技術によりばらつきを低減して色のずれを抑制している.また,ドライブ回路では,3色の光源を独立して制御する降圧チョッパ方式をベースに,低い光出力レベルまでスムーズな調光を可能とするピーク電流制御技術を新たに開発した.その結果,明るさと色温度が連動して変化するシンクロ調色LED照明システムが構築でき,住宅空間などでのシーン演出が可能な照明器具を創出することができた.

小形LED電球の放熱設計

甲斐 誠,岡崎 亨,真鍋 由雄

白熱電球と比較して長寿命で省電力性能に優れたLED(Light Emitting Diode)電球に関心が集まっている.白熱電球をLED電球で置き換えていくためには,コスト,性能と同時に既設照明器具への設置適合性を満たすことが要求される.しかし,白熱電球同等サイズの小形化を追求するほどLEDが発する熱による温度上昇が発生し,性能や寿命に影響を及ぼす.商品設計においては過剰な温度上昇抑制を実現する放熱設計が極めて重要となっている.LED電球の放熱性能向上を目的として,熱流体シミュレーション技術を用いた定量的な放熱設計手順を構築した.これにより業界に先駆けた白熱電球同等サイズの小形LED電球を開発した.

肌の色を好ましく見せるLED光源の波長特性

山口 サヤカ,斎藤 孝,岩井 彌

近年,LED(Light Emitting Diode)光源は,その急激な技術進歩により,オフィスや住宅,店舗などの一般照明へと普及が進んでいる.LED光源は従来光源と比較して分光分布の制御が容易である.そこで,重要視対象物である人の肌の色に着目し,肌の色を好ましく見せるLED照明の開発を目的として,その波長特性を検討した.本稿では,その結果を報告する.肌の色の見えを評価するために,既往研究で有効とされたPS (Preference Indexof Skin Color:日本人女性の肌色の好ましさ指数)と,相関色温度・DUVを指標として用いて,主観評価実験を行った.その結果,肌の色を好ましく見せるには,各色温度に最適なPS とDUV の範囲が存在し,それは570 nm~580 nmの波長域を中心に軽減させることで制御できることを明らかにした.

技術解説

配光角300°超のLED電球の開発

細田 雄司,高橋 健治

既存のLED(Light Emitting Diode)電球は,各社共に光の指向性が強く,器具取り付け時の光の広がりが白熱電球と異なるという欠点があった.今回,この課題を解決するために,(1)光学技術(二重反射板構造,高拡散性樹脂グローブ) (2)放熱技術(LEDパッケージの円周配置,回路の逆転配置)に着目し,光学・放熱条件の最適設計を図り,業界No.1の配光角300°超を実現したLED電球(白熱電球40形相当の明るさ)の開発に成功した.

直管LEDランプの規格化動向

中川 博喜

当社は,直管LED(Light Emitting Diode)ランプ分野において,(一社)日本電球工業会(Japan Electric Lamp Manufacturers Association)における団体規格(JEL801)を提案・主導した.本解説では,既設蛍光ランプ用照明器具を利用したLED照明システムが有する課題に触れつつ,新しいLEDという光源とそれ専用の器具による新照明システムに関する規格提案について述べる.