パナソニック技報

【11月号】NOVEMBER 2014 Vol.60 No.2

(2014年11月17日公開)

特集:お客様価値を創造するアプライアンス商品と技術

グローバルに成長拡大しているアプラアンスの市場に向けて,当社は,「家電」「空調」「コールドチェーン」「デバイス」の4つの重点領域を設定して事業に取り組んでいます.本特集では,家庭や社会の幅広い生活シーンで活躍している当社最新のアプライアンス商品やデバイスをご紹介いたします.

お客様価値を創造するアプライアンス商品と技術特集によせて

パナソニック(株) アプライアンス社 副社長・技術担当 今井 淨

招待論文

感性重視家電

CEO, monogoto, Inc. Executive Fellow, Ziba Design, Inc. 濱口 秀司

機能・使いやすさ・価格での競争がひととおり飽和した感のある家電業界だが,「感性」を切り口にした差別化により,家電の新しい未来を拓(ひら)くことができる.鍵となるのは,機能,デザイン,およびストーリーが整合した,強い商品コンセプト設計である.

技術論文・技術解説

[論文]フルフラットガラスドアの接着固定技術

山口 太郎,中尾 真梨子,雨川 量太郎

「フルフラットガラスドア」は,従来の冷蔵庫ガラスドアにあったガラス端面を挟み込む樹脂フレームによる段差を無くし,前面をすべてフラットにしたガラスドアである.今回,インテリア性が高く,高級感と透明感のあるフルフラットガラスを独自の工法で固定することで,ガラス素材のもつ高級感を引き出し,デザイン性の大幅な向上を可能にした.ガラスの固定は断熱材(ウレタン),および強力接着部材との接着により行い,断熱材(ウレタン),および強力接着部材,双方の接着による長期信頼性を確保することにより,ライフエンドにおいてガラスドアが落下しないことを実証し,ガラス端面の樹脂フレームレス化を実現した.

キーワード / フルフラット,ガラスドア,接着,固定,フレームレス,長期信頼性

代表図

[論文]新エコヒートポンプエンジン搭載のななめドラム式洗濯乾燥機

松岡 真二,井上 貴裕,堀部 泰之

東日本大震災以降の電力不足や,地球温暖化などの環境問題の一般化により,省エネ性に対するユーザーの関心が高まっている.そこで,筆者らは一歩進んだドラム式洗濯乾燥機の省エネ化技術の開発が必要と考えた.「新エコヒートポンプエンジン」とは,熱交換器の高効率化と自動洗浄機能,乾燥風路の圧力損失の低減を可能とした,省エネ化を狙いとするヒートポンプ方式の乾燥システムである.この技術の搭載により,洗濯乾燥運転時の消費電力量(定格6 kg時)について,業界トップクラスの600 Whを実現するドラム式洗濯乾燥機を開発できた.さらに,本体サイズをそのままで大容量(10 kg)化を実現する「コンパクト大容量化」,ムダを見つけて省エネ運転を行う「エコナビ技術の進化」を実現し,業界を牽引(けんいん)する省エネ化技術を開発した.

キーワード / ドラム洗,省エネ,ヒートポンプ,乾燥,熱交換器,エコナビ

代表図

[論文]「スピードスチーム機構」を搭載した オーブンレンジ

澁谷 昌樹,阿部 邦昭

本格蒸し物料理を短時間に調理可能にするため,グリル皿によってオーブンレンジ庫内上部の仕切られた空間にスチームを局所的に噴出する「スピードスチーム機構」を考案した.この「スピードスチーム機構」の実現に向け,ボイラー上部のヒータ近傍の水を集中的に加熱することにより効率的にスチームを生成する「積層沸騰ボイラー」と,弁や動作部のないシンプルな構成でボイラー内の残水を排水できる「サイフォン排水機構」を新たに開発し,初期スチーム発生時間の短縮やメンテナンス性の向上を図った.その結果,従来のスチーム発生方式と比較して初期スチーム発生時間を維持しつつ,庫内温度を短時間で93 ℃以上に上昇させることができたため,従来品では調理困難であった手作り肉まんのような本格蒸し物料理をせいろ蒸し同等の品質で仕上げることが可能となった.

キーワード / レンジ,スチーム,蒸気,蒸し,排水,ボイラー,時短,サイフォン

代表図

[論文]高級オーディオに向けた高音質化技術の開発

中嶋 康志,加藤 伸悦,渡邉 伸一,小椋 高志,西田 郁央

近年のオーディオは,そのほとんどがデジタル音源となり,これをデジタルのまま処理して最高音質でスピーカを駆動する高音質フルデジタルへの要求はますます高まっている. 従来のフルデジタルアンプでは,デジタルPWM(Pulse Width Modulation)方式による波形歪(ひず)みとクロックジッタによる時間軸歪みの発生があり,そのために音質が劣化していた.新たな信号処理によりこれらの歪みを補正することで正確な信号再現を行い,その信号を高速の出力デバイスの技術とスピーカの高音質技術によって忠実再生する,非常に高音質なフルデジタルアンプ技術を実現しハイエンドオーディオ商品に搭載したので,内容について報告する.

キーワード / 高音質フルデジタルアンプ,クロックジッタ削減,PWM歪み補正,ノイズシェーパ,GaN FETドライブ ,同軸平板型スピーカ

代表図

[論文]ヒゲセンサ機能を搭載したメンズシェーバー

大羽 隆文,西村 真司,伊吹 康夫,泉 智博

シェーバー使用時の肌への余分な負担を抑えることを目的に,ヒゲセンサ機能を開発した.従来から,当社メンズシェーバー ラムダッシュにはシェーバー専用に開発したリニア振動型アクチュエータ(Linear Oscillatory Actuator,以下LOA)を搭載している.ヒゲセンサ機能は,ヒゲをカットする際に発生するLOAの振幅の変動をソフトウェアで処理することによりヒゲの濃さをセンシングし,約19 % LOAの出力を自動で変化させる.剃(そ)り始めやヒゲの濃い部分では出力を増加させ力強く剃り,仕上げ剃りやヒゲの薄い部分では出力をセーブし肌への余分な負担を抑えることで,力強さと肌へのやさしさの両立を可能にした.

キーワード / メンズシェーバー,リニア振動型アクチュエータ,フィードバック制御,PID制御,限界感度法,有限要素法

代表図

[論文]快適性と省エネ性を両立するルームエアコン(Xシリーズ)

葦原 政由

エアコンにおいて,機器自体の効率を高めるハード省エネはもちろん,いかにユーザーがエアコンを上手に使い,節電行動を取って頂くかが重要である.そこで,ハード省エネとしては,省エネ性に優れる新冷媒R32を採用するとともに,新冷媒向けに最適化した室外熱交換器や室内送風路,電気回路などの開発により,業界トップクラスの省エネ性を実現した.また,暖房は朝の立ち上げ,冷房は日中の安定時に着目した,「すぐでる暖房」および「節電リズム気流」によって,快適性を維持しつつ,実際の使用実態にこだわった節電機能を開発した.さらに,ユーザーへ有効的な節電情報を提供する新たなユーザインターフェース「お知らせリモコン」を搭載し,より賢い節電運転・快適運転へとユーザーをナビゲートすることができる.

キーワード / ルームエアコン,空気調和機,省エネ,熱交換器,送風,快適,節電,リモコン

代表図

[論文]高効率CO2二段圧縮機のコールドチェーンへの適用

三原 一彦,佐藤 孝,桑原 修,竹澤 正昭,松崎 章

現在コールドチェーン機器の冷媒としてHFC(HydroFluoroCarbon)が広く利用されているが,冷媒の漏えいによる地球温暖化への影響を低減するため,低GWP(地球温暖化係数)冷媒への転換が求められている.低GWPのHFCやHFO(HydroFluoro-Olefin)には燃焼性の物質が多く,また不燃性のブラインなどを利用する二次冷媒システムには熱交換による効率低下があるため,CO2直膨システムが有望な候補と考えられる.筆者らは呼称出力7.3 kW(以下,「呼称出力」は省略)および14.6 kWの冷凍機を使用したCO2直膨システムを開発し,同システムは2010年以来多数のスーパーおよびコンビニエンスストアで設置・運用されてきた.
本稿では7.3 kW圧縮機において給油経路寸法の最適化により冷凍機油吐出量を低減し,冷凍機システムの冷凍能力とCOPを向上させた開発について報告する.この新型圧縮機を搭載した冷凍機を市場に投入する予定である.

キーワード / CO2,自然冷媒,コールドチェーン,二段圧縮,低GWP冷媒,冷凍機油,地球温暖化

代表図

[論文]高性能真空断熱材の開発および冷蔵庫への適用

湯淺 明子,栗山 誠,上迫 豊志,井下 美桃子,杉本 修平

真空断熱材とは,多孔質構造の芯材を外被材で覆い,外被材内部を減圧にして密封封止した,非常に熱伝導率の低い断熱デバイスである.昨今の省エネニーズに応えるため,家庭用冷蔵庫筐体(きょうたい)への真空断熱材適用による断熱性能向上は必要不可欠なものとなっている.当社では,2002年に真空断熱材「U-Vacua」を冷蔵庫筐体に適用,その後も独自の研究開発を進め,現在では,2002年当初の2.4倍の断熱性能を得ている.さらに,冷蔵庫への適用工法開発により,2013年度商品化冷蔵庫において,省エネルギー効果6 kWh/年を実現している.(2012年度同等機種比較)

キーワード / 冷蔵庫,断熱,真空断熱材,省エネルギー,消費電力量

代表図

[論文]ACサーボの高速・高精度位置決めと簡単調整を実現する制御技術の開発

今田 裕介,鈴木 健一,園田 大輔,藤原 弘

産業用装置に搭載されているサーボモータには,高速化・高精度化といった基本性能のさらなる進化とともに,高度化・複雑化する制御機能をいかに簡単に,短時間で,最適に調整できるか,といったユーザビリティ向上が求められている.当社では,これらのニーズに対応するため,高速位置決めと低振動化を両立し,位置決め時間を従来比1/10以下に短縮し,停止時振動も1/3以下に抑える当社独自構成の2自由度制御技術を開発した.また,サーボへの熟練度が低い調整者でも,簡単な初期設定のみで短時間で目的の特性を実現する制御機能の自動調整技術を開発した.

キーワード / ACサーボ,モータ,位置決め,低振動,2自由度,制振制御,摩擦補償,自動調整

代表図

[論文]層流型多層方式における超音波流量計測技術

佐藤 真人,永原 英知,中林 裕治

超音波による流量計測は,古くから行われてきた技術である.この主要課題の1つは,流量補正係数特性のフラット化である.層流型多層方式を用いた超音波流量計測では,矩形(くけい)断面の計測流路を多層分割し,流路の高さ方向と,幅方向における流速分布の均一性を図った構成としている.本報告では,矩形断面流路を複数層に分割し,それぞれを層流状態に設定することでフラット化を達成する技術について,この方式における特長を実験による流速分布の確認とシミュレーションにより明らかにし,超音波を用いた流量計測技術としての有用性を明らかにした.

キーワード / 超音波,流量計,矩形断面,多層方式,流速分布,シミュレーション,流量補正係数

代表図

[論文]スキンケアおよびヘアケア効果を有した帯電微粒子水発生デバイスの開発

小村 泰浩,依田 香子,須田 洋,鼻戸 由美

毛髪のつやや手触り感をアップするとともに,肌の保湿力を高める効果をもつ帯電微粒子水発生デバイスを開発した.肌の保湿力を高め,うるおいを保つためには,肌を弱酸性にすることが有効である.そこで筆者らは,まず,毛髪と肌に良い効果をもたらすpHの探索から着手し,次に,帯電微粒子水発生デバイスの対向電極の形状を平板から球状に変更することで,霧化電極先端付近の電界強度を増加し,放電により空気中にある窒素を効率よく酸化できる構成を考案した.また,pHから算出した酸性成分量を,デバイスが安定して供給できるよう,パラメータ設計を行うことでデバイスのロバスト性を確保した.

キーワード / 帯電微粒子水,ヘアケア,スキンケア,ヘアドライヤー,電界解析,パラメータ設計

代表図

[論文]燃料電池ユニットの欧州展開

龍井 洋,浦田 隆行,中村 尚,山口 翔平,田口 清,行正 章典

欧州向け燃料電池ユニットの商品化には,日本国内で供給される都市ガスなどの炭化水素系ガスに比べて不純物を多く含んでいる「欧州天然ガスへの対応技術」と,欧州地域で一般的な「屋内設置への対応技術」の開発が必須である.「欧州天然ガスへの対応」に対しては,水添脱硫技術をはじめとした燃料処理器の新触媒開発,および触媒温度を最適化する構成・運転制御方法を新たに開発することにより,欧州天然ガスでの10年間の安定運転を可能とした.また「屋内設置への対応技術」としては,水素曝露(ばくろ)に弱いCOセンサが高濃度水素に曝露されることを防止できる隔離構成を採択し,曝露回避制御を構築することで安全性を確保し,燃焼機器である燃料電池ユニットを欧州で一般的な屋内設置が可能なものとした.

キーワード / 燃料電池,コージェネレーションシステム,欧州,天然ガス,水添脱硫,屋内設置

代表図