パナソニック技報

【11月号】NOVEMBER 2015 Vol.61 No.2

(2015年11月16日公開)

特集:AV&ICTソリューション

本特集では,パナソニック(株)の社内カンパニーの1つであるAVCネットワークス社の技術をご紹介しています.ビジネスフロントとそこで働く人々を,デジタルTVや携帯電話などの開発で培ったAV&ICTの技術を結集してサポートし,社会のニーズに応えていく,これが当社が提供するAV&ICTソリューションの基本思想です.本特集を通じ,当社AV&ICTソリューションの取り組みについてご理解頂ければ幸いです.

AV&ICTソリューション特集によせて

パナソニック(株) AVCネットワークス社
常務・技術本部 本部長 岡 秀幸

招待論文

ユニバーサルコミュニケーション技術の課題と展望 -コミュニケーションの壁がない社会を目指して-

国立研究開発法人 情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所
研究所長 木俵 豊

人のコミュニケーションにはさまざまな「壁」が存在する.「距離の壁」はインターネットによって克服されつつあるが,「言葉の壁」や「臨場感の壁」は克服できていない.また,大量のデジタル情報は新たに「情報の量と質の壁」を生み出している.これらの「壁」を克服するためのユニバーサルコミュニケーション技術を紹介する.

技術論文・技術解説

<オーディオ>

[解説]ウェアラブル型音声翻訳端末向け雑音抑圧技術

石川 智一,星見 昌克

近年,訪日外国人が急激に増加するなかで,言語の壁が社会課題となってきている.本稿では,言語の壁を解決する技術の1つとして期待されている音声翻訳技術の概要と,ウェアラブル型音声翻訳端末の実現に向けた雑音抑圧の技術課題について解説する.

キーワード / 音声翻訳,ウェアラブル,雑音抑圧,音声認識

代表図

[論文]全方位ネットワークマイクシステムの開発

徳田 肇道,松本 宏之,牧 直史,松尾 正治郎,吉國 信太郎,荒木 潤二

セキュリティ関連製品の高性能化の要求に対応して,当社監視カメラと合体して360 °全方位から任意に指定した方向の音を集音することができる,全方位ネットワークマイクを製品化した.
マイクアレイ信号処理による超指向性のビームフォーミング集音技術と,既存セキュリティカメラ/レコーダーとの連携技術を開発することにより,カメラ映像の録画再生時にも画面上の操作で任意の方向からの音を抽出可能な,他社にないユニークな映像および音声監視ソリューションを実現した.

キーワード / マイクアレイ,全方位カメラ,指向性,ビームフォーミング,監視カメラ,集音,AV同期,耐久性

代表図

[論文]4K/8K映像に向けたHEVC符号化技術の開発

西 孝啓,杉尾 敏康,笹井 寿郎,松延 徹

HEVCとは,ISOとITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)が共同開発した最新の画像符号化国際標準方式であり,2013年1月に技術仕様が確定した.予測パラメータの多様化などにより,従来の画像符号化標準方式の半分のデータサイズで同等画質を実現しており,4K/8Kテレビ放送やインターネット4K配信などの4K/8K動画アプリケーションへ採用が拡大しつつある.HEVC標準方式には,当社が提案した低処理量の適応算術符号化技術や高効率の動き情報予測技術が採用されている.本稿ではそれらの技術内容,および,ソフトコーデックや低消費電力LSI向けに開発した当社独自の低処理で高画質なHEVC符号化アルゴリズムから,適応ビット量割り当て技術と適応予測パラメータ選択技術を紹介する.

キーワード / 画像符号化、コーデック、MPEG、VCEG、JCT-VC、HEVC、H.265

代表図

[解説]イメージング4K商品群を実現する要素技術

澁野 剛治,大塚 泰雄

4Kは,従来のFHD (Full High Definition)に対して,4倍の画素数をもつ映像であり,次世代の映像規格として市場が拡大している.本稿では,イメージング4K商品群を実現する要素技術(画像処理エンジン,オートフォーカス,放熱設計)について解説する.

キーワード / DFD,4K,画像処理,放熱,オートフォーカス

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[解説]TOUGHPAD 4Kの4Kアーキテクチャ

近藤 敏明,両角 昌英

TOUGHPAD(注1)-4Kの第2世代モデル(2015年)では,Intel(注2) CPUと4K対応メディアプロセッサ を組み合わせ,お客様からの要望の高い4K映像入力(HDMI(注3)2.0)に対応した.オーバーレイデバイスとソフトウェアによる協調制御によって,4K映像信号の低遅延表示と,映像の拡大・縮小機能などの直観的なユーザーインターフェースの両立を実現した.

(注1)当社の登録商標または商標
(注2)Intel Corp.の登録商標または商標
(注3)HDMI Licensing LLC.の登録商標または商標

キーワード / 4Kタブレット,アーキテクチャ,4K映像入力,HDMI入力

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[論文]次世代高画質映像空間を創出する4Kプロジェクターのコア技術

井上 益孝,枡本 吉弘,野口 俊之,明山 保,増谷 健,安部 高明

スクリーン上での視認解像度を4倍に向上させる,Pixel Quadrupling技術を開発した.本技術は,投写画像を水平垂直2方向に,高速かつ精密に移動させる画素ずらしユニットと,独自の映像信号処理方式を組み合わせて実現している.画素ずらしユニットは,投写レンズの入射側光路に配置され,光軸を1/2画素幅だけシフトさせる.映像信号処理方式は,画素ずらし表示に最適化した強調処理,1/4画素の間引きサンプリング,4倍速出力に対応したフレーム変換,を行う.本技術をWQXGA(2560×1600画素)の表示素子を用いた3chip DLP(Digital LightProcessing)方式のプロジェクターに適用し,スクリーン上において4K解像度相当の高精細映像を実現している.

キーワード / プロジェクター,DLP,4K,画素ずらし,解像度向上,240 Hz駆動,動き補償

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[解説]1.0 型センサ,LTE搭載通信融合カメラの開発

佐藤 貴義,高良 忠匡

“1.0 型撮像センサに期待される画像処理性能”と“超薄型化”とを両立させ,Android(注1)スマートフォンと融合させた高画質カメラを開発した.その要素技術であるハードウェア構造とUI(User Interface),プラットフォーム,アプリケーションを紹介する.

(注1)Google Inc.の登録商標または商標

キーワード / 1.0型撮像センサ,LTE,通信融合カメラ,プラットフォーム,ハードウェア構成,UI

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[論文]イメージセンサ受信型可視光通信技術の開発

大嶋 光昭,青山 秀紀,中西 幸司,前田 敏行

本稿では,イメージセンサを受信機として高速なサンプリングを可能とする新しい可視光通信方式を提案する.撮像画像1枚あたり1回のサンプルを行う従来の受信方式に対し,本方式では,CMOS(Complementary Metal OxideSemiconductor)型イメージセンサのラインスキャン特性を利用して1枚の撮像画像から複数回のサンプリングを行うことで,従来方式の1000倍を超えるサンプリングレートを実現した.これにより,30 fps程度の通常のフレームレートのイメージセンサを受信機とした場合であっても,人間の目には知覚されない数kHz以上の周波数で変調された可視光信号が受信できるようになり,照明機器や液晶ディスプレイのバックライトなどのさまざまな光源を外見はそのままに送信機として利用可能となった.筆者らは,この可視光通信方式が市販のスマートフォンで利用可能であることを確認し,さらに,本可視光通信方式を利用して実空間上の物体・クラウドサーバ・スマートフォンをつなぐことでさまざまなサービスを実現する光IDサービスシステムを開発した.

キーワード / 可視光通信,イメージセンサ,パルス変調,クラウドサービス,Internet of Things,LED,デジタルサイネージ

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[論文]AV&ICTソリューションを支える第5世代移動通信システム

岡坂 昌蔵,山本 哲矢,齋藤 昭裕,星野 正幸,外山 隆行,中尾 正悟

2020年以降の導入を目指す第5世代移動通信システム(5G:5th-Generation Mobile Communication Systems)の検討が国内外で盛り上がりを見せている.第5世代移動通信システムは,信頼性,高速性,大容量性,低遅延性,低消費電力などの数値でIMT-Advancedを越える大きな目標を掲げる一方で,一度に全ての要件を網羅せず無線利用用途に応じて好みの無線アクセス方式としてアレンジできることを目指そうとしている.当社ではこのような柔軟な無線システムが高度化するスマート社会を実現するうえで重要な基盤であると位置づけ開発を進めている.
本稿では,このような5Gの多様性を収容できるヘテロジニアスネットワークの構成技術,および,重要な用途の1つであるIoT (Internet of Things)を効率的に実現するためのMTC (Machine Type Communication)カバレッジ拡張技術について説明する.

キーワード / 第5世代移動通信, 5G,LTE,ヘテロジニアスネットワーク,フロントホール,M2M,IoT

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[論文]M2Mシステムの運用コスト低減と通信品質維持に向けた要素技術開発

井澤 良則,新宮 秀樹

MVNO(Mobile Virtual Network Operator)の普及によりセルラーを利用したM2M(Machine to Machine)システムが注目されているが,その普及には運用コストの低減とM2M機器が増加した際の通信品質の確保が課題となる.これらの課題に対し,MVNOネットワーク内にM2Mサーバを導入したシステムを提案する.運用コスト低減の観点から,M2M機器の電池交換にかかるコストを低減するために,M2M機器とM2Mサーバを連携した省電力化方式を提案する.さらに,M2M機器の遠隔制御向けにコスト高となるSMSや固定IPアドレス利用を不要とし,M2M機器の動的IPアドレスをM2Mサーバで追従する遠隔制御方式を提案する.また,通信品質確保の観点から,綿密にM2M機器の通信タイミングを制御することで帯域を効率的に利用し,トラフィックを平準化する方式を提案する.本稿では上記提案方式のアルゴリズムを述べ,シミュレーションにより有効性を示す.

キーワード / M2M,MVNO,セルラー,省電力,遠隔制御,通信品質

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[論文]スパコン活用大規模電波伝搬/電磁界シミュレーション

宇野 博之,福田 博之,穴田 雅之,油井 辰憲,渡辺 浩亘,斎藤 裕

将来の複雑かつ大規模化していく電波環境において,ますます重要になってくる電波伝搬解析や電磁界解析のシミュレーション技術を,並列計算処理が可能なスーパーコンピュータTSUBAMEに実装することにより,大幅な計算能力の向上を図った.本稿では,実験住宅内の電波伝搬特性や大型車両に搭載したアンテナ特性を解析することにより,大規模なモデルを実用的な計算時間で解析できることを示す.解析の結果,スタンドアローンパソコンを用いた場合に比べると,電波伝搬シミュレーションでは約17倍の高速化を達成し,電磁界シミュレーションでは約25倍の大規模なモデルの解析を実現した.

キーワード / 電波伝搬解析,電磁界解析,スーパーコンピュータ,Ray-Launching法,アンテナ解析,TSUBAME

代表図

[解説]DECT ULE技術による超低消費電力デジタルコードレスシステム

平井 克広,瀬口 義昭

DECT ULE (Digital Enhanced Cordless Telecommunications Ultra Low Energy)は,DECTに,基地局との高速同期,高速接続方式を規定したデジタルコードレスシステムである.DECT ULEはDECTの特徴に加えて,超低消費電力,低遅延などの特徴を備える.

キーワード / DECT ULE, 超低消費電力,低遅延,高速同期,高速接続方式

代表図

[解説]IEEE1588規格の拡張によるIP-DECTの精密同期

渋田 朗,石原 裕行

IEEE1588は,イーサネット上の各端末間で,ナノ秒単位の精密な時刻同期を実現する,主に生産設備など産業分野向けに開発されたプロトコルである.この時刻同期技術に独自拡張アルゴリズムを追加して,IP-DECT製品の精密同期に応用することで,従来製品の諸課題を解決した.

キーワード / IP-PBX,DECT,ハンドオーバー,IEEE1588,時刻同期,LAN同期

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<クラウド>

[解説]顔照合・顔検索システムの開発

常野 正茂

近年,顔認識技術は,監視業務の効率化に重要な役割を果たしている.例えば,指定人物の入場をすばやく検知する顔照合機能,指定人物がいつ・どこを通過したのかの履歴を検索できる顔検索機能などである.本稿では,監視システムの大規模化に対応しサーバあたりのカメラ収容台数を増加するため,カメラとサーバで顔検出と顔照合を分散処理し,顔画像の伝送量を低減する分散アーキテクチャについて解説する.

キーワード / 顔認識,顔照合,監視システム,分散,アーキテクチャ,帯域

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[論文]インストア・マーチャンダイジングのためのカメラ映像を活用した来店客行動認識

大坪 紹二,守山 隆昭,石原 健,苅部 朋幸,スギリ プラナタ,イエン シュイ

カメラ映像から来店客の行動特性を抽出し,小売店舗での売り上げ向上施策の仮説を提案するために,来店客の店舗内行動取得・分析システムを開発している.混雑する売場では,複数の人物が重なり合う機会が多く,画像認識による人物検出・追跡に誤認識が発生しやすい.そこでRGB-Depthカメラにより輝度情報と深度情報を取得し,画像中の輝度勾配と深度勾配を用いた機械学習により,人物検出を行う方式を導入した.その結果,輝度情報のみを用いる手法では適合率99 %のときの再現率1 %のケースに対しても,再現率97 %での認識が可能となり,実店舗環境における人物検出において深度情報の利用が有効であると結論付けることができた.また,RGBカメラによる人物追跡における,画質と記録フレームレートによる誤結合発生率を評価し,記録フレームレートを高めることが誤結合発生を低減させることを明らかにした.

キーワード / ISM,インストア・マーチャンダイジング,人物行動分析,人物検出,人物追跡,3D人物認識,購買行動分析,画像認識

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[論文]スポーツ映像解析ソリューション

田靡 雅基,古山 純子,齋藤 浩,竹中 慎治,関井 大気

近年,実際の試合映像から選手のさまざまな情報を抽出するスポーツ映像解析が重要視されている.そのなかでも,ポジショニング分析や運動量換算の基礎データとなる選手の位置情報は特に重要な情報である.特にチームスポーツ形式の競技において,試合状況に応じた戦術変更を可能とするリアルタイムおよび取得する時間間隔を高密度化した詳細な解析への期待が大きい.従来のスポーツ映像解析は,手動入力に頼る解析が主流であり,リアルタイムかつ密な時間間隔での解析を同時に実現する場合に膨大なコストを必要とする.これに対し,筆者らは,90 %以上の精度で複数選手を同時に追跡し,自動で位置情報を取得可能な画像認識技術を開発した.画像認識技術を搭載するシステムと解析者との相互作用において,解析者の少ない,簡単な操作だけで試合中に詳細な解析が可能な映像解析ソリューションを提案する.

キーワード / スポーツ映像解析,人体モデル,画像認識,パーティクルフィルタ,サッカー

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