あしたの海に植える種。

博士(生命科学)

佐藤 陽一

写真は、漁業者と博士(生命科学) 佐藤 陽一さん

「三陸のわかめのために、できることは何だろうか」。海藻の専門家である博士(生命科学)佐藤陽一は思った。生まれ育った街の近く。高齢化と後継者不足に悩むわかめの漁業者たちを目の当たりにした。じっとしていられなかった。彼は、わかめの生産性を上げる育種研究に没頭していった。
三陸の海で、よりよく成長するわかめの種を見つけ、安定供給できれば、生産量向上に貢献できるはず。それにはまず、わかめの種を産地間で比較する必要があった。「これらの研究は、世界的にも注目されておらず、すべてが手さぐりでした」。挑戦は、実験機器をつくるところからはじまった。海中を再現する世界初の水槽もそのひとつ。これで環境に左右されずに種の比較ができるようになった。さらに育種の最適条件も解明しなければならなかった。水温、水流、栄養、光など、最適な組み合わせの研究には、当初は膨大な数の実験が必要と思われた。その効率化を可能にしたのが、パナソニックの野菜工場で培われたシミュレーション技術だった。「これにより、はじめて分かったことも多いです。大変ですが楽しくて」。2017年、新しい研究の拠点「ゆりあげファクトリー」完成。彼の研究はさらに加速していった。
いい種が育てられるようになった。しかし実際に海で育てるまでは成功とは言えない。漁業者の方の協力が必要だ。しかし。「そんな種は、つかえねぇ」。誰もがそう言った。当然だ。自分たちが長年の経験でつくってきたものを、研究者が工場でつくってきたのだ。何度も、何度も話をした。彼が信じるこれからのわかめの話をした。「分かった」。ようやく何人か試してくれる人が現れた。
「本当に勇気のいる挑戦をしていただいたと思います。だから『お前のところの種、よく育ったぞ。次も頼むわ』って言ってもらえたときは嬉しくて。今度は、もっと、いい種を届けようって」。
冬の足音が聞こえると、また、わかめの季節がやってくる。三陸のあしたへと続く海に、新しい種を植えはじめる。

写真は、博士(生命科学) 佐藤 陽一さん

佐藤 陽一

大学時代から海藻の研究に従事。わかめの生理生態学に関する研究で博士号を取得。趣味は、4歳のころから弾いているヴァイオリン。

【海産物の安定生産を支えるパナソニック】

「ゆりあげファクトリー」が取り組むわかめの育種における最適条件の解明に、パナソニックの野菜工場で培われた技術が貢献しています。
※ゆりあげファクトリーは、理研ビタミン(株)と理研食品(株)の研究拠点です。