『ソウゾウするちから~本当の自分と泳ぎ続ける~』イベントレポート

『ソウゾウするちから~本当の自分と泳ぎ続ける~』

パナソニックセンター東京が、毎回ゲストを招いてさまざまな社会課題を考えるウェビナー「ソウゾウするちから」シリーズ。2021年7月31日(土曜日)には、オリンピックで2大会連続メダルを獲得した元競泳選手の星 奈津美さんをファシリテーターに、Team Panasonicのブランドアンバサダーであり、オリンピックに5回出場、28個ものメダルを獲得した元競泳選手のマイケル・フェルプスさんをゲストにお招きして、トークセッションが行われました。

マイケルさんは2008年に「マイケル・フェルプス財団」を設立し、メンタルヘルスに対する意識向上や子どもたちを水の危険から守るための活動を続けています。星さんも病気と向き合いながら競技を続けた経験があり、リモート参加した子どもたちに、心身の健康の大切さと夢の実現に向けた取り組み方を示す、とても意義深いセッションとなりました。

マイケル・フェルプスさん紹介
星 奈津美さん紹介

【セッション1:現役時代を振り返って】

マイケルさんが水泳を始めたのは、お母さまが「水の中で安全に過ごせるように」と、水泳を習わせてくれたのがきっかけだったそうです。ふたりのお姉さんも競泳選手で、12歳の頃にはバタフライで世界レベルの選手だった上のお姉さんを見て、自分もバタフライに取り組むようになったのだとか。「(東京2020オリンピックでも大活躍したクリストフ・ミラーク選手がいる)今の時代に選手じゃなくてよかったですよ」と笑うマイケルさんですが、マイケルさんが現役当時にライバルだった選手からは「君が言うなよ」と言われてしまうかもしれませんね。

次に星さんから「今も泳いでいるのですか?」という質問が。マイケルさんの「最近はあまり泳いでいませんが、泳ぐとしたら自分の癒しのためですね。水の中は静かなので、世の中の喧騒から離れて自由になれるんです」との答えに、星さんは「よくわかります。私も水の中にいる時が一番自分と向き合えます」と深くうなずきます。おふたりの水泳への愛が伺えるやりとりでした。

現役時代を振り返って

続いてセッションは、オリンピックの話題に入っていきます。
星さんの「マイケルさんにとってオリンピックの舞台はどんなものでしたか?」という質問にマイケルさんは「オリンピックは自分にとって人生であり自分の一部です。オリンピックが特別なのは、人と人とを結びつけるものだからだと思うんです。特にここ数回の大会では、さまざまな問題があるなかで、世界中が共にオリンピックに取り組む構図ができあがっています。今回はパンデミック中のオリンピックということでさらに特別ですし、開催してくれた方々に感謝しています」と回答。

ご自身が出場したオリンピックのレースで一番印象に残っているものを聞かれると、「全てのメダルに違う想いが込められているのでどれも記憶に残っている」と答えながら、世界記録を7つも打ち立てた北京2008、家族がスタンドで見守るなか復帰できたリオデジャネイロ2016、そして「努力が報われて表彰台に立ったときの気持ちは忘れられません」と、初めてメダルを取ったアテネ2004を挙げてくれました。

写真:星さん

競技に向き合う大変さについて質問する星さん。「私は16歳のときに病気を発症して、約10年間、病気と付き合いながらの競技生活でした。マイケルさんはどんな困難や苦労がありましたか?」マイケルさんは「幸運なことに身体の問題はあまりありませんでした。それは、バタフライの選手だった上の姉が、ハードトレーニングをした結果、首と腰のヘルニアで競技を退かなければならず、そこから学べたからです。常に、ちょっとした怪我でも専門家に診てもらってケアしていました。練習後のリカバリーにも重点を置いていましたね」と、身体のケアの大切さを語ってくれました。

マイケルさんが真摯に水泳に取り組んでいた姿勢が伺え、またオリンピックへの特別な想いも聞くことができました。「オリンピックは人と人とを結びつけるもの」という言葉に、東京2020大会が開催された意義を見たような気がしました。

【セッション2:マイケル・フェルプス財団の紹介】

写真:マイケルさん

冒頭でご紹介した通り、マイケルさんは現役時代に財団を立ち上げ、現在も活動を続けています。パナソニックも財団の取り組みを支援しています。財団の目的は3つ。子どもたちに、水泳競技で成功するチャンスを与えること。子どもたちの死亡原因として常に上位に挙げられる水難事故の防止。そしてメンタルヘルスの問題解決。

メンタルヘルスの問題解決についてマイケルさんは、「東京2020オリンピックでも、多くのアスリートがメンタルの問題を抱えながら競技に臨んでいたことは皆さんもご存知だと思います。アスリートに限らず、自分の心と向き合い、問題を解決し、夢を実現するためのサポートをすることが何よりも嬉しいです」と財団の役割を語ってくれました。

【セッション3:メンタルヘルスの重要性について】

マイケルさんがメンタルヘルスの重要性に気づいたのは、自分の経験に依るところが大きいそうです。「私はアテネ2004のあとに初めてうつを経験しました。その後も波のようにうつ状態がやってくる。そこで私は『これも自分の一部で、なくなることはない。であればもっと深く知らなければいけない』と気づいたんです」。

その後、自分だけでなく他の選手たちもメンタルで苦しむ様子を目にしたマイケルさん。後輩の競泳選手を自宅に居候させてサポートを行なった経験もあるそうです。「一方的なサポートではなく、お互いに自分をさらけ出し、弱さを見せて、支え合うことが重要なんです。大切なのは、自分はひとりではないこと、『OKじゃなくてもOK』なんだと理解すること。自分の悩みや苦しみを人に伝えるのは弱さではなく、成長であり、強くなっている過程だと私は思っています」。

セッションの最後に、マイケルさんからこのウェビナーを見ている子どもたちへのメッセージが送られました。「皆さんに伝えたいのは、夢を持てばそれが生きるモチベーションになる、ということです。誰もが今日は起きたくない、動きたくないという日があります。でも夢があればその日1日を過ごすことができるんです。とにかく諦めずに、ゴールに近づくためになんでもやってやる、という精神が大事だと思います。そして大きな夢を描くことを怖がらないでほしい。自分も現役時代にはとんでもない夢ばかり見ていて、周りからは実現できないだろうと思われていましたが、大丈夫。大きな夢を設定して、そこに向けて進むことが大切なんです。もし計画通りにいかなければ、最初に戻って計画を練り直せばいいんです」。困難を乗り超えて偉業を成し遂げたマイケルさんの言葉には、心に響く想いが込められていました。

写真上:星さん、写真下:マイケルさん

その後チャットで寄せられた質問におふたりが回答されました。

質問:メンタルヘルスで苦労している友達になんと伝えればいいですか?

マイケル「メンタルで悩んでいる人は、自分がひとりぼっちな気がしてしまうんです。だから、ひとりじゃないんだよ、ということを伝えてほしいです。人に助けを求めてもいいんです。OKじゃなくてもOK。特にこのコロナ禍の今はメンタル面で大変な思いをしている人が多いと思います。もしそういう人がいたら、誰かに打ち明けることをお勧めしたいです。安心して話せる相手を見つけて話してほしいと思います」

質問:おふたりに聞きたいのですが、結果を出し続けるために必要なことは?

星「私は大きな目標を立てて、そこに到達するための小さな目標から組み立てていました。目標が大きいほどそこに至るまでは大変なので、まずは少しずつ目標を達成して、充実感や満足感を味わいながら進んでいくことが大事だと思います」
マイケル「星さんに100%同感です。大きな夢と同時に短期的な小さな夢が必要です。私も、オリンピックは4年に一度なので、他の大会をベンチマークとして努力しました。オリンピックに向けて365日休みなしで練習した時期もありました。それが自分にとっては必要なことだったので、努力を続けられたんです」

トークセッションが終了したのは、ちょうど東京2020オリンピックの競泳女子800m自由形決勝戦が行われる時間。マイケルさん同様、パナソニックのブランドアンバサダーでありアメリカ代表のケイティ・レデッキー選手が出場するということで、マイケルさん、星さん、セッションを見ていた子どもたちが一緒に応援しました。レデッキー選手はスタートからリードを守り、見事金メダルを獲得。最初は緊張している様子だった子どもたちも、白熱のレースに引き込まれ、最後はみんなで大拍手。大いに盛り上がりました。

参加の子どもたち

最後におふたりからコメントをいただきました。
星「今日は、貴重な話を聞かせてもらえました。現役のときにこういう話を聞きたかったです(笑)。子どもたちも、自分の目標のためにヒントになることがたくさんあったと思います。ありがとうございました」
マイケル「コロナ禍でなければ皆さんと直接話せたのに残念ですが、いろいろ話せて、一緒にレースもみられて楽しかったです。皆さんにはとにかく大きな夢を持ってほしいと思います。私も、今も大きな夢を持って日々を過ごしています。世界に変化を起こせればと思っています。ネバーギブアップ。夢を持って前に進んでください!」

参加した子どもたちには、マイケルさんのお話を通して、メダリストもスーパーマンではなく自分たちと同じ人間で、いろいろなことに悩みながら、一歩一歩夢に向かって進んでいることが伝わったと思います。きっと、自分たちの未来に向けて一歩を踏み出す大きなきっかけになったのではないでしょうか。