『ソウゾウするちから~見えなくとも、より自由に遠くへ~』 イベントレポート

『ソウゾウするちから~見えなくとも、より自由に遠くへ~』イベントレポート

パナソニックセンター東京が、毎回ゲストを招いてさまざまな社会課題を考えるウェビナー「ソウゾウするちから」シリーズ。2021年8月29日(日曜日)には、男子走幅跳T11(視覚障がい、最も重度のトラック種目)クラスの世界記録保持者であり、パナソニックのブランドアンバサダーでもある、パラリンピック陸上競技選手のレックス・ジレット選手をゲストにお招きして、『ソウゾウするちから~見えなくとも、より自由に遠くへ~』と題したトークセッションが行われました。

セッションの二日前となる8月27日(金曜日)に、東京2020パラリンピック競技大会の男子走幅跳T11クラスの決勝が行われ、アメリカ代表として出場したジレット選手は見事に5大会連続となる銀メダルを獲得。セッション当日も銀メダルを首に下げて、お披露目してくれました。

写真:レックス・ジレット選手

【セッション1:「東京2020大会を振り返って」】

本セッションのファシリテーターはリオ・コミンズさん。米国オレゴン州生まれで、株式会社SEAMES代表取締役CEOを務めていらっしゃいます。コミンズさんからの最初の質問は、「東京2020大会が1年間延期になって難しい時期もあったと思いますが、どんなことを感じていましたか?」という問いかけでした。

写真:リオ・コミンズさん

ジレット選手は、「とても難しい、先の見えない状況が続きました。常に二人三脚で取り組んできた、競技のパートナーであるウェスリー・ウィリアムズとも会えずに、一人でトレーニングしなければいけない時期もありました。友人や、周りの人たちと直接話せなかったことも大きな課題でした」。選手としてコーチングを受けられない点に不安を抱えていたこと、さらに、障がいのある方がコロナ禍で生活する難しさを感じさせる言葉でした。

「ですが...」とジレット選手は続けます。「大会期間はとても素晴らしい時間を過ごすことができました。東京2020組織委員会のおかげで逆境でも開催できたことは大変素晴らしかったと思います。(その素晴らしい大会に)選手として参加できたことは大変光栄です」と、東京2020大会への賛辞を送り、胸元の銀メダルに誇らしげに視線を送っていました。

【セッション2:「これまでの経験・キャリアについて」】

続いてセッションは、ジレット選手のバックグラウンドについての話題に。ジレット選手は8歳のときに網膜剥離の診断を受け、10回も手術を受けたものの回復することはなかったそうです。「とてもショックが大きかったと思います。どのように乗り越えたのですか?」というコミンズさんの質問にジレット選手は、「母がいつも一緒にいてくれました。視力を失っても人生は続くのだから絶対諦めてはいけないと励ましてくれたんです」。ジレット選手にとってお母さまはとても大切な存在で、常に寄り添い、モチベーションを高めてくれたそうです。

その後、学校の先生の勧めで陸上競技に出会ったジレット選手。「陸上競技との出会いは私の人生の中でも一番の出来事でした」と振り返ります。ジレット選手はアメリカ代表まで上り詰めるわけですが、「こんなことは想像もしていませんでした。競技を続けるうちに、さまざまなドアが開いたんです。さまざまな人と出会い、素晴らしい機会を与えてもらえました。若い頃に陸上競技に触れることができ、月曜日から金曜日まで、常に先生やコーチが練習に付き合ってくれました。その頃お世話になった人たちとは今でも連絡を取り合う仲です。(競技レベルが上がって)ステージが上がったあとにも、ガイドとして並走してくれる素晴らしいパートナーに出会うことができました。彼らのおかげで、障がいのある私でも、アスリートとして成功することができたんです」。そうした機会に恵まれなかった人もいるなかで、自分はとても幸運だったと感慨を込めて語りました。

写真:キャリアについて語るジレット選手

【セッション3:「ジレット選手の人生観と、そこから学べること」】

ジレット選手は常々、ご自身のモットーとして「NO NEED FOR SIGHT WHEN YOU HAVE A VISION(ビジョンがあれば見える必要はない)」という言葉を大切にしています。「私は常に、困難に行き当たったときにはこの言葉を唱えています。自分の思いや信条さえ持っていれば、見えることはあまり重要ではないんです。ビジョンさえ持っていれば、そこに至る道はたくさん見えてくるはず。私はパラリンピックで5大会連続して銀メダルを獲得できましたが、(結果よりも)常に全力を尽くすことを大切に考えています。だからこそ、アスリートとしてはもう若くはありませんが、常に上を目指す意欲を持ち続けることができるのだと思います」。

コミンズさんからモチベーションを保つ秘訣を聞かれたジレットさんは「自分を支えてくれた人たちを思い出すこと」と回答。たとえ結果が出なかったとしても、これまで日々を共に過ごしてくれた人たちの顔を思い出すと、「笑顔でいなければ(前向きに考えなければ)」という気持ちが湧き出てくるのだそうです。

ジレット選手はこれまでの人生において、目が見えないことで、言葉では言い表せないほどの恐怖や困難を感じてきたそうですが、「もちろん暗闇を歩くのは難しいことですが、新しい経験をすること、新しい場所に行くことで、世界の別の一面を見つけられる。こうして新しい驚きを得られるのは、とても素晴らしいことなんです」と、新しい世界に触れられることが、恐怖を乗り越えるモチベーションになっていること、積極的に行動することの意義を教えてくれました。
ジレットさんは陸上競技選手以外の顔も持っています。陸上競技以外のスポーツにも取り組み、シンガーでもあり、デザイナーでもあり、モチベーションスピーカーとしてさまざまな場所で発信を続けています。「私はサッカーも野球も好きです。コロナ禍で外に出られないときには家の中でダンスを踊るのも楽しかったです。いろいろな人と関わることでアイディアが沸くし、インスピレーションを得ることもできます」。さまざまな世界を知ることで人生が豊かになり、人としての幅が広がることがよく伝わってくる言葉でした。

【セッション4:「スポーツのチカラ/将来への展望」】

「スポーツの持つ力とはどういうことだと思いますか?」という質問に対してジレット選手は、「スポーツは、同じ言葉を使う必要がありません。同じ地域(国)の出身でなくてもいい。違う文化やバックグラウンドでも構わない。競技場では、みんながみんな、スポーツという同じ言葉を喋っているんです」と回答。続けて「特にこのような困難な時期に、スポーツが人々に与える影響は」という問いかけには、「東京2020大会では、世界中の人たちがアスリートをサポートしてくれました。観客席に観客はいませんでしたが、皆さんの応援の気持ちは感じましたし、声は聞こえていました。それは、パンデミックの困難を忘れさせてくれるほどの大きさでした。これこそがスポーツの力と言えるのではないでしょうか」と、東京2020大会を通して感じたスポーツの力について語ってくれました。

スポーツが持つユニバーサルな力。そして世界中の人たちがスポーツの名の下にひとつになって困難を乗り越え、大会を成し遂げたこと。人を応援する気持ち。感謝の気持ち。確たるビジョンを持ち、周りの人たちと共に前向きに歩んできたジレット選手だからこそ語れる、貴重な言葉でした。

写真:左・ジレット選手、右・コミンズさん

ビジョンを持つことは誰にとっても大切

トークセッションの後にはチャットでたくさんの質問が寄せられ、ジレット選手は一つひとつ丁寧に答えてくれました。

競技生活におけるビジョンについての質問には、「競技では、達成したい最終目標に向けた小さなマイルストーンをつくって一つひとつ達成していくことが大切」と回答。「辛かったときはどのように乗り越えましたか?」という質問には、「葛藤したり落ち込んだりしたときには、常にビジョンを推し進めるんだ、という考え方に立ち戻ること。失敗からも学ぶ機会があると考えて前に進むことが大切」と語りかけ、ビジョンを持つことが誰にとっても大きな意味を持つことを、改めて実感できる質疑応答となりました。

最後にジレット選手からは「皆さんに話を聞いていただけてよかったです。まだ話し足りないこともありますが、「ビジョンを持つ」ということを一番に伝えたいです。ビジョンがあれば、困難な状況でもなにか見えてくることがあると思いますし、パラリンピックはアスリートだけでなく観客の皆さんにとっても、そうした視点を得られる素晴らしい機会になると思います。私自身、そしてパラリンピック、全選手へのご声援に感謝します」と、感謝の言葉でセッションは締めくくられました。

ファシリテーターのコミンズさんが「私の人生にとっても大きなプラスになりました」と述べた感想のとおり、参加した人たちにとっても、新たな視点を得られ、勇気づけられる有意義なセッションになったのではないでしょうか。