46. 初荷を挙行 1931年(昭和6年)

不況はますます深刻化し、沈滞ムードは広がる一方である。所主は、何とか市場に活気を呼び戻したいと考えていた。そんなある日、丁稚のころ、近所の店に初荷の手伝いに行き、祝儀として手拭いやお菓子をもらったことを思い出した。そういえば、初荷など久しく見たことがない。

所主は「こんなときこそ、景気付けに初荷でもやったらどうだろうか」と考えた。たまたま、昭和5年1月、名古屋支店で初荷をしたところ、非常に喜ばれた。所主は、全国でもやろうと考え、昭和6年1月、全社的行事として挙行した。

全員がハッピ姿で、荷物を満載したトラックに乗り、車体に商品名を書いた幕や小旗を取り付け、幟(のぼり)を立ててにぎやかに行進するのである。道行く人々は驚いた。

販売店に着くと、荷物を下ろして、店先で初荷のあいさつ状を読み上げ、最後に三三七拍子。先々で「縁起商売や」と評判になった。

この初荷は正月恒例の行事として年々盛大に行われ、世間で松下の名物行事と呼ばれるほど話題を呼んだが、交通事情が悪化したため、昭和39年を最後に中止された。