イズムストーリー2

オリンピック、パラリンピックにかける情熱と進化

~高輝度プロジェクター~

イズムストーリー2

オリンピック、パラリンピックにかける情熱と進化
~高輝度プロジェクター~

オリンピックの開閉会式や屋外の大イベントで目にすることが多くなったプロジェクションマッピング。そこで投影される巨大で鮮明な映像は、高輝度プロジェクターの進化無くしては生まれませんでした。パナソニックは1999年、プロジェクター事業を「高輝度」にフォーカスし、そこに求められる技術を磨き続けることで、2006年以来、高輝度プロジェクターの世界でトップシェア※1を誇っています。
世界中に感動を与えるプロジェクターの「ものづくり」はどのようにして生まれるのか?パナソニックに2020年に入社した佐野美佳さんが、東京オリンピック・パラリンピックの開会式、閉会式でプロジェクター演出を成功させたばかりの、業務用プロジェクターの技術リーダー、山本祐介さんを訪ねました。

※1 エンドユーザー購入価格金額シェア、5,000lm以上、レンズ交換式、デジタルシネマを除く業務用プロジェクター PMAデータより

(左)パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテインメント事業部 ビジュアル商品企画部
佐野 美佳(2020年入社)

(右)パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテインメント事業部 ビジュアル技術部
山本 祐介

1.高輝度プロジェクターが作る世界

佐野:山本さん、東京2020、たいへんお疲れ様でした!プロジェクターの映し出す映像を、テレビで、自分が現場にいるかのようにドキドキしながら観てました。赤の鮮やかさが印象的でしたね!

山本:ありがとうございます。今回も、語りきれないほどの苦労がありましたが、無事にベストな映像を映し出すことができて、ほっとしています。

佐野:今日は、その「苦労話」をぜひ聞かせていただきたいんです。私も入社して1年経ちますが、プロジェクターのこと、特に「ものづくり」に関してはまだまだ知らないことが多いので、教えていただきたいです。

山本:喜んで!何からお話ししましょうか。

佐野:実は、私がパナソニックに入りたいと思ったのも、テレビでリオ2016の開会式を観て感動したのが理由の一つなんです。あの映像がパナソニックのプロジェクターで作られたことを後で知って。

山本:それはうれしいですね!リオ2016で使われたのはDZ21Kというプロジェクターですが、私も開発に深く関わりましたからね。

佐野:そうだったんですね!

リオ2016の開会式では、プロジェクションマッピングがかつてないスケールで演出され、それをパナソニックの高精細で明るいプロジェクターが実現した。@IOC

山本:オリンピックの開会式は、プロジェクターが活躍する晴舞台の最高峰。そこに映し出す映像は世界一美しく、明るく、大きくなければいけないし、一方で、プロジェクターは設置しやすく、つまり軽く、小さくなくてはならない。また、故障してもいけないし、もしものことがあってもすぐにリカバーできなければならない。

佐野:たしかに、オリンピックで使われるプロジェクターは、高い総合点が必要とされますね。
私は、そんな最高峰のプロジェクターがなぜ生まれたのかを知りたいんです。パナソニックには他社にない「何か」があるから生まれたんですよね?

山本:「何か」かぁ・・・そんな視点で自分たちの仕事の仕方を見たことが無いからよくわからないんだけど、おそらく「何か」があるんでしょうね。逆に知りたいな・・・。

佐野:今日、私が見つけてあげます!(笑)

2.業務用プロジェクターへの決意
(1977―2000)

山本:パナソニックがプロジェクター業界に参入したのは1977年でした。これが1号機のTH-6000です。

TH-6000

佐野:これがプロジェクター?最近の薄型テレビみたいだけど・・・あ、これはスクリーンで、下から投写する?

山本:そう。下にプロジェクター本体が置いてあって上のスクリーンに投写したんですね。ブラウン管と同じCRT方式で、R(赤)G(緑)B(青)の光を投射していました。この投射光の明るさは60ワットの白熱電球より暗かったんです。

佐野:暗!部屋を真っ暗にしないと、見えなさそう。

山本:明るさを表す「ルーメン」(lm)で言うと、650lmでした。

佐野:今は、家庭用プロジェクターでも4,000lmくらいありますからね。

山本:その後パナソニックは、家庭用や学校・オフィス用の「ポータブルプロジェクター」と、公共施設や展示会博覧会、プロジェクションマッピングなどに使われる「高輝度プロジェクター」の両方向で事業展開していきます。今日は「高輝度プロジェクター」のお話をしますね。

佐野:はい!

山本:佐野さんが今、商品企画しているポータブルプロジェクターのほうは、液晶をつかったLCD方式が中心ですが、高輝度プロジェクターの世界では1990年代、DLP方式が主流となりつつありました。

佐野:DLP方式・・・もちろん知ってはいますが、技術の細かい事は、わかってないところがあるかも・・・(汗)。

山本:DLPは、Digital Light Processingの略ですね。DLPは、非常に明るいランプを光源として、その光をDMD(Digital Micromirror Device)という特殊な素子に反射させ、スクリーンに投射する映像表示システムです。このDMDという素子がすごい発明なんです。1辺わずか10数μm(マイクロメートル=1mmの1/1000)の極小の鏡(マイクロミラー)を数十万個、格子状に並べ、一つ一つのマイクロミラーの傾きを制御することで、映像の画素の明るさや色を制御していく、というものです。

DLP方式のしくみ
DMD(Digital Micromirror Device)上の極小の鏡(マイクロミラー)の傾きを制御することで光を反射させ、映像を作り出す。

Image courtesy: Texas Instruments, Inc.

佐野:10数μmの極小の鏡を一つ一つ制御していく!想像がつかないですが、すごい技術だということはわかります!でも、DMDは既に存在していた技術なんですね?

山本:そうです。テキサス・インスツルメンツ社(TI社)の特許技術でした。
新しい業界に入るとき、私たちはゼロから自分で生み出そうとせず、まずは先達に学ぶことにしたわけです。

佐野:武道の「守破離」で言うところの、「守」ですね。まずは、師から、完成された型を学ぶ。

山本:まさに。ただし、我々にも卓越したモノづくりの技があります。
1999年、TI社の特許を使いながら、彼らも驚く性能の製品を作り出しました。TH-D9500です。これは、当時業界最高の9,000lmという高輝度を実現しました。

TH-D9500

佐野:いきなり師を超えましたか!「守破離」で言うところの、「破」ですね。
9,000lmというと・・・初代の14倍の明るさですね!大飛躍!

山本:この製品にはもう一つ、誇るべき点がありました。それは静音性。光源のキセノンランプは温度が上がりやすく、強力なファンを回す必要があり、その騒音が欠点だったんです。

佐野:ああ。映像機器がうるさいのは問題ですね・・・。

山本:そこでもパナソニックならではの解決策が生まれたんです。われわれが応用したのが、産業用空調システムで実績のあった「アクティブサイレンサー技術」でした。これで、従来機種の1/5まで騒音レベルを抑えたのです。

佐野:そうか。社内に多様な技術を蓄積していることが我々パナソニックの強みですね!

3.独自の光源で低電力・小型化、業界のスタンダードに
(2001―2008)

佐野:TH-D9500って、重そうですね。

山本:100kg近くありました。これでは、一旦設置してしまうと簡単に移設できないですよね。
そのころのDLPプロジェクターの多くは「映画の上映」を目指していたので、大きく重くても、仕方ないと思われていました。しかし私たちが目指すべきは、軽やかに移動設置できる小型・軽量、そして長寿命でした。
もちろん明るさは維持しつつ、です。それが、未来のお客様が求めるものだろうと考えていました。

佐野:20年後の今から考えると、確かに時代はそちらへ向かいましたね。

山本:まず、キセノンランプが最重要課題と考えました。キセノンランプは大きく、重く、寿命も短い。さらに移動の際は取り外し専用ケースで慎重に運ばなければならないのも、ユーザー泣かせでした。
キセノンランプに代わる光源を検討し、私たちは「超高圧水銀ランプ」に着目しました。

キセノンランプ(左)と超高圧水銀ランプ(右)
キセノンランプ 効率:30lm/W 寿命:1,000時間以下 大出力化:数kW級まで可能、超高圧水銀ランプ 効率:70lm/W 寿命:2~3,000時間以下 大出力化:300W級まで

佐野:小さいですね、超高圧水銀ランプ!でも・・・出力は1/5以下?暗いですね。

山本:われわれが考えたアイディアは、複数のランプの光を一つに束ねられないか、というものでした。

佐野:光を束ねる・・・難しそう。

山本:難しいのは、各光源の明るさにばらつきがあると、映像にもムラが出てしまうことでした。これを解決する光学システムのアイディアをいくつか出し、実験を重ね、たどり着いたのが、複数のプリズムと非球面レンズで反射と集光を繰り返すことで、複数の光を一つの光軸上に集める方法でした。

4灯光源合成方式概略図

山本:この方法により、10,000lmと高輝度でありながら、光学部や電源部をキセノンランプ1灯よりはるかに小型化することに成功したんです。2006年に発売したTH-DW10000は、前のキセノンランプの機種から体積が2分の1、重さが3分の1になりました。

TH-DW10000(2006年)

佐野:ついに「守破離」の「離」に至った!独自の技術で、新たな領域に入りましたね。

山本:でも、われわれ技術者は、まだまだ満足してなかったんです。一つの製品を仕上げていく中で、次のアイディアが次から次に湧いてくる。今回は無理でも、次の製品で実現したいアイディアが溜まっていくんです。

佐野:それって、パナソニックの“ものづくりイズム”じゃないですか?

山本:確かにそうかもしれないなあ・・・。
この時は、ランプの凹面鏡の形状を微調整していけば集光性能や光のムラを改善できるはず、と確信していたので、その研究開発を進めたんです。
結果、2年間で集光効率を17%向上させ、ランプの電力を14%省電することができました。
そして2008年8月に製品化したのがPT-DZ12000です。12,000lmのプロジェクターは他社も発売していましたが、他社製品の消費電力はDZ12000の2倍、体積は1.5倍ありました。なので、DZ12000はレンタルや展示用途の市場で“定番モデル”になったんです。

小さく軽く明るいPT-DZ12000はレンタル市場の定番となり、各種イベントで大活躍した。*1

佐野:あれ?2008年8月というと、オリンピックの年じゃないですか?もしかして北京2008がDZ12000のデビューの場だった?

山本:あ。さすが、オリンピックのことはよく知ってますね(汗)。
実は・・・北京2008の開会式のプロジェクターは、パナソニックではないんです・・・。

佐野:ええっ!
さすがのDZ12000も他社のプロジェクターに負けてしまった?

山本:開会式の演出から出た「要件」が、20,000lmだったんです。
負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、我々も、キセノンランプを使えば20,000lmのプロジェクターを北京2008に送り込むことは簡単でした。ただ、我々は、多灯式にこだわった。

佐野:どうしてまた・・・。

山本:1灯式だと、もし故障が起きても、その絵が欠けたままで演出を続行しなければならないでしょう?世紀の祭典で、そのようなことは許されない、オリンピックは多灯式でなければならない、と。パナソニックが提供すべき価値の中には、もし故障が起きても、残りの灯りで演出を継続できる安全性も含まなきゃならないんです!

佐野:な、なるほど。パナソニックらしい、徹底した顧客視点ですね。

山本:我々は、北京2008の開会式を、日本で、唇をかみしめながらテレビを観てました。
「ロンドン2012大会では必ず!」という思いで。

4.顧客目線の大目標“ハーフ・コンセプト”
(2009―2012)

山本:2009年当時は、デジタルシネマの黎明期でした。フィルムに負けない明るさのDLP方式プロジェクターが登場したため、映画館がフィルムからデジタルへの移行を進めました。その市場は、バルコ社とクリスティ・デジタル・システムズ社が占有していました。
彼らのDLPはキセノンランプを使い20,000lmを出していましたが、巨大で重く、ランプの寿命も短くしかも1本40万円する、というものでした。

佐野:パナソニックは、別の市場に可能性を見つけたんですね?

山本:そうです。これからは、映画館の外に高輝度プロジェクターのニーズがあると見たんです。メンテナンス費安く、軽く、小さく、でも明るいプロジェクターなら、新たな映像表現、映像市場も生まれてくるだろう、と。

佐野:未来を予見して、製品の企画をしていくんですね。

山本:私たちは、あらためて顧客目線で「プロジェクターのあるべき姿」を再定義したんです。
明るさは20,000lm。2人で運べるほど軽量で小型。ランプは長寿命で安価。低騒音。
特に、重さと消費電力は半分にする、「ハーフコンセプト」を目標にしたんです。

佐野:「ハーフ」は目標としてわかりやすいですね。でも、ハードルはものすごく高い。

山本:第一に、超高圧水銀ランプの高出力化が必要でした。
うーん。この開発の話をすると、今でも胃が痛くなるんだけど・・・。

佐野:そんな話が聞きたかったんです!

山本:仕方ない・・・お話ししましょう。
当時のランプ出力は、350Wが最大。でも、それでは4灯を一つに束ねてもキセノンランプに到底、勝てない。そこで目標を450Wにし、ランプのベンダーであるA社と開発を始めました。

佐野:およそ1.3倍の性能向上を目指したんですね・・・。

山本:その無茶な目標を、A社は何とか実現してくれたんです!450Wを4個を使って18,000lmまで出せるようになったんです。さすがだと思いました。

佐野:12,000から18,000に。すごい進化!

山本:ところが・・・お客様は、20,000必要、18,000と20,000では価値が全く違う!とおっしゃるんです。
言われてみれば、その通りなんです。20,000lmを何としても実現しなければならない。
450Wが限界だと思っていたのですが、これは470Wを目指すしかない!と、覚悟を決めました。
その後、A社はさらに工夫を重ねてくれて、470Wの試作品を作ることはできたんです。ただ、点灯試験をしてみると、電極への負荷が大きくなりすぎて、信頼性を担保できない、と言われました。

佐野:プロジェクターは信頼性が絶対ですからね・・・。

山本:私たちは、苦渋の決断をしました。
A社の競合メーカーであるB社に、ゼロからの検討を持ちかけたんです。

佐野:えっ!

山本:こんな進め方は普通、あり得ないのですが、何としても「ハーフコンセプト」を実現して、画期的なプロジェクターを生み出したかったんです。加えて何よりも、次のロンドン2012には間に合わせて今度こそ採用頂きたい!その一心でした。
そのため、A社とB社、どちらに採用が決まってもよいように、それぞれのランプ特性に合わせた光学システムを設計しつつ、A社とB社には同時進行でランプ共同開発を進めて頂きました。
そして結果的に、先にB社で470Wという高出力と高い信頼性を持ったランプが完成したんです。

佐野:2社が競争したから、とんでもなく高い目標が達成できたんですね!これで20,000lmは実現できることになった!
でも・・・A社の苦労は報われなかった?

山本:安心してください。この後、別の新機種でA社の開発したランプは採用させていただきました。

佐野:よかった!
しかし、すごい話ですね。高い目標を達成するには、いろんなパートナーに無理をお願いし、ご理解をいただくことが必要だということが、よくわかりました。我々の思いが強くないと、とてもできないですね。

山本:第二に、小型化。4灯合成システムを、コンパクトなままで20,000lmを達成させるためには、4つのランプを集光・合成する構造に画期的なアイディアが必要でした。
我々は、ランプの光をプリズムの1点に集める非球面集光レンズを、ランプの形状に合わせて徹底的に最適化しました。さらに、取りこぼしたランプの光を反対側のランプで反射させて有効な光として取り出す技術も考案したんです。

佐野:光を100%、プリズムに導くことを目指したんですね。

取りこぼした光も再び集めて、無駄なくプリズムに光を集めることを目指した。

山本:レンズと光学系の組み合わせは数百通り。それらすべてシミュレーションし、ベストな設計解を見出したんです。

凸面鏡変更+非球面レンズ追加による高額シミュレーションの様子。

山本:結果、構造部分の高さを230mmから110mmにすることに成功しました。

佐野:ハーフ以下にできたんですね!

山本:第三に、消費電力。消費電力をハーフにするためには冷却装置の省エネ化が鍵でした。我々は、従来の「空冷」に「液冷」を組み合わせたハイブリッド冷却システムに答えがあると考えました。
「液冷」は使ったことが無かったんですが、また社内にノウハウがあったんです!ノートPC用に開発中であった「液冷」用のポンプをDMD用に最適化できる。そう考え、受熱部(熱を吸い上げる部分)とポンプを合体させた「受熱一体ポンプ」を開発したんです。あとは「小型ラジエーター」「小型液冷タンク」「気化抑制配管チューブ」などを新規開発し、小型・静音・省エネの「DMD冷却システム」を生み出したんです。

消費電力を半減させるために開発された、ハイブリッド冷却システム。

佐野:パナソニックの総合力が役立ちましたね。

山本:社内は技術の宝庫ですよ!
「ハーフコンセプト」を目標にしてから3年後の2012年、ついに、20,000lmながら小型・軽量・低騒音のPT-DZ21Kが誕生しました。

PT-DZ21K

佐野:2012年というと、ロンドン2012の年じゃないですか!

山本:北京2008の悔しさを、ついに払しょくするときが来ました!26台のPT-DZ21Kが、開会式のプロジェクションマッピングを世界に映し出したんです。

©IOC-All rights reserved.
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ロンドン2012オリンピックの開会式で活躍したPT-DZ21K @IOC

佐野:テレビで見ました!ものすごく立体的な映像と大勢の出演者とが一つになって英国の歴史が語られた、感動的な演出でした!

山本:ロンドン2012の開・閉会式以降、パナソニックのプロジェクターはその後にブームとなったプロジェクションマッピングの定番機材となりました。

5.圧倒的シェアでも進化をやめない、ものづくりイズム
(2013―2021)

佐野:パナソニックのプロジェクターの黄金時代到来ですね。

山本:そんなに甘くはない。技術者は常に未来を見据えて技術進化の努力を続けて行かねばならないんです。
お客様の声を聞いていれば、進化の余地はいくらでも見つかってきます。

佐野:ロンドン2012以降は、どこに進化の余地があったんですか?

山本:まず、光源。「超高圧水銀ランプ」を超える、高輝度・長寿命・省電力の光源の姿が見えて来たんです。
何だかわかりますか?

佐野:レーザーですよね!

山本:そうです。レーザーは、水銀ランプよりはるかに長寿命で、複数使いでもバラつきが無く、プロジェクターの光源として理想的だった。
我々はロンドン2012のあった2012年から開発を開始。青色レーザーを独自の蛍光体を使った「蛍光体ホイール」を通し、それまでにない高輝度の白色光を作り、プリズムを通して光の3原色(赤、緑、青)を生み出すデバイスを開発しました。これを2組搭載することで、明るさを2倍にしました。これまで培ってきた2灯式の技術が活かされたわけですね。
こうして2014年に、5,000lm以上の業務用途向けでは初めて光源にレーザーを用いたDLP®プロジェクター、PT-RZ670を世の中に送り出しました。
そして2016年に、30,000lmのPT-RZ31Kが誕生しました。

業界初のレーザープロジェクターPT-RZ670の光学システム
PT-RZ31K

佐野:30,000lmというと、4年前のPT-DZ21Kの1.5倍!しかもレーザーになって寿命も・・・

山本:10倍になりました。RZ31Kは、リオ2016開会式ではプロトタイプをテストで使用してみたんですが、レーザーの明るさが関係者を驚かせました。その後、私がリーダーとなり、RZ31Kを製品として仕上げていきました。
そして平昌2018 冬季オリンピックで、ついにRZ31Kをデビューさせることができたんです。

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平昌2018 冬季オリンピックの開会式で活躍した約80台のPT-RZ31K。レーザーが生む30,000lmの明るく鮮明なプロジェクションマッピングが世界を驚かせた。@IOC
平昌2018 冬季パラリンピックの閉会式で達成感に満ちた表情の山本さん(右)。
背景の聖火台に向かうスロープへのプロジェクションは、4Kを実現したPT-RQ32Kが使われた。

佐野:平昌2018のプロジェクションも、よく憶えてます!自分が開発に関わったプロジェクターの映像を世界何億の人が同時に観てくれているって、どんなに嬉しいんだろう・・・。

山本:本番中は、うれしさよりも「トラブルが起きないでくれ」と祈るのみでしたけど、終了後に、嬉しさが込み上げてきましたね。

佐野:私もいつか、そんな仕事をしてみたいです!
そして、いよいよ東京2020!プロジェクターはさらに進化したんですよね!

山本:平昌2018では、満足できない点もまだまだあったんです。現場で見ると、明るさも、解像度も、もっと上げなきゃいけないな、と。
それらを解決した新製品を開発するプロジェクトが2018年11月にスタートしました。ただし開発期間はたったの1年間。私はプロダクトリーダーとして、これまでにない高い目標を設定しました。東京2020にふさわしいのは50,000lmだろう、と。

佐野:えっ!PT-RQ50KJは、たった1年間で開発したんですか!?

山本:そうです。
レンズ・光学・機構・回路・表示デバイス・ソフトなどを、ゼロベースで開発しなおしました。赤の発色を良くしたかったので、新しい「赤レーザー」を導入しました。そうしているうちに躯体が大きくなってしまったのですが、お客様に伺うと「これなら30,000lmを2台使ったほうがいい」と言われ、何としても躯体を小さく軽量にしなければと考え、開発中盤に、設計を全面、見直しました。開発の終盤になっても、残っていた課題は400件を越えていました・・・。

佐野:今聞いても、間に合うとは思えないです・・・。

山本:幾度となく「さすがにもう無理かもしれない」と考えました。
でも結局、目標のスペック、コスト、日程を守ることができたんです。なぜできたのかというと、チーム一人一人が、何としてでもやり遂げる!という強い意志を持っていたから。このことに尽きると思います。メンバー全員が、今までにない力を発揮できた、と自分たちに驚き、喜んでいますね。

佐野:ゴールが明確だと、パナソニックの人たちの「ものづくりイズム」は爆発しますね!すごい!

山本:PT-RQ50KJは、重さ150kg以下のプロジェクターでは世界最高輝度の50,000lmと、ネイティブ4Kという圧倒的な解像度を、取り回しがしやすいコンパクトな一体型で実現しました。
さらに、東京2020での運用を前提にしていますから、東京の夏の暑さにも耐えることのできる内部循環冷却システムを搭載、そして、地震や観客の興奮で設置場所が振動しても映像がぶれないようにレンズのマウンターを強化するなど、細かなスペック向上も、抜かりがありません。

佐野:そのPT-RQ50KJが生み出したのが、東京2020のあのプロジェクション映像だったんですね!現地で観てみたかったなあ!

山本:佐野さんにも、次のチャンスがきっとありますよ!(笑)。

PT-RQ50KJ
©IOC-All rights reserved.
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PT-RQ50KJの50,000lmの映像が東京2020の開会式・閉会式の感動を生み出した。@IOC

山本:さて、ここまで、高精細プロジェクターの開発の歩みをお話してきましたが、パナソニックにしかない「何か」は見つかりましたか?

佐野:山本さんにプロジェクター開発の歴史をお聞きして、パナソニックだからこそできたのでは、と感じたことがいくつかあります。
まず、顧客にとっての価値は何か。そのことを真剣に考え、先回りして見極めていらっしゃる。最先端の映像の表現者たちは何を求めているのか、現場で運用される方々のお困りごとは何なのかを、山本さんたちは徹底的に吸収し、実現されていますね。
そして、生み出した商品に満足することなく、常に進化を追い求めていらっしゃる。創業者の唱えた「日に新た」の精神が根付いていると感じました。
徹底した顧客視点と創業者から引き継がれた精神、そして社内に蓄積する高度な技術。これらが生み出す相乗効果はパナソニックにしか無いものではないでしょうか。

山本:確かにそうなのかもしれないですね。私も誇りに思います。
気づかせてくれてありがとう。
これからも一緒に、未来のプロジェクション映像の世界を実現していきましょう!

*1 プロジェクターレンタル現場写真ご提供:株式会社シーマ様

パナソニック ミュージアム