■1965年 儲ける
1965(昭和40)年5月、電機業界紙の電波新聞に、「儲ける」と題する意見広告が載った。松下幸之助の名で綴られ、副題に「この大事なことを もう一度 真剣に考えてみましょう」と添えられたこの広告には、幸之助が唱えた「社会の公器」としての企業のありようが、明快に示されている。ヒト・モノ・カネをはじめとする経営資源は、いずれも社会からの預かり物。企業はそれらを正しく有効に用いて、適正な利潤-儲け-をあげなければならない。儲けてこそ、税や株式配当、あるいは社員の福祉向上を通じて、富を社会に還元できるのである。ここに、「社会の公器」たる企業の本分がある。こうした主張に貫かれたこの広告は、前年7月の「熱海会談」を受け、家電業界の健全化に向けて導入した新販売制度の成功を期する決意表明でもあった。また、この広告は、社員の経営理念に対する理解を促す目的で、掲載の翌月、社内新聞にそのまま転載された。