■1982年 年末をひかえて御礼とご挨拶
1982(昭和57)年11月、米寿を祝った松下幸之助は、自身の名で綴った「年末をひかえて 御礼とご挨拶」を新聞に掲載した。齢八十八にして意気は天を衝く。「精神面や心の面の若さは、まだまだ若い人には負けないのではないかと心ひそかに自負すると同時に、できるかできないかは別としましても、もう一度人生をやり直すぐらいの気概を持たなければと、最近では自分自身を叱咤鼓舞している次第でございます」と言い放つ幸之助のまなざしは、日本と世界のあり方に向けられていた。曰く、「ときあたかも、最近の日本はもとより世界各国が共通して、政治や経済を中心とする各面での混迷混乱の現象を呈しております。このことは、まことに由々しい限りであり、このままの状態であとしばらく推移するならば、きわめて憂慮すべき事態に直面するのではないかという感じが強くいたす昨今でございます」。この言葉に見るごとく、幸之助は事業家の域を超え、経世家、憂国の士へと姿を変えていた。