デバイス創造 Reliability Evalution

Oの結晶はどんな構造? ~メンバー紹介(1)~

2020年11月16日

メカトロデバイス設計課の麻生と申します。
この課には様々なシミュレーションの専門家がおり、私も普段は構造系のシミュレーションを担当しております。
私はシミュレーションをこよなく愛しており、趣味でもシミュレーションを行っております。
本日は、そのうちの1つをご紹介したいと思います。

数年前、水素水が流行しました。
水素水は水素分子が水に溶け込んだものであり、それを疑う必要はありません。
ですがこの流行に伴い、あることない事、様々なものが生まれました。
「H2O」という、水の組成式はみなさんご存じでしょうが、水素水が流行り始めたころ巷では「H6O」という言葉、そしてそれについて、酸素にたくさんの水素が付いた不思議な絵を見かけました。

ネットで見かけた水素水の絵(再現図)

調べたところ水素水の水素濃度は1ppm程度らしく、たとえ酸素と水素の原子量に約8倍の差があるとしても、組成比に影響を与えるはずもありません。
だからと言って「H6Oなんか存在するはずがない!」と言うのは、とてもつまらない答えです。

そうであるならば、H6Oを作ってみましょう。
実験であれば多額の費用が必要ですが、シミュレーションであれば費用は最小限です。

物質の構造は、一概には言えないのですが、おおむね原子にかかる力が釣り合い、そのエネルギーが低いものが安定構造とされ、現実に出現しやすくなります。
原子同士の結合は、その多くが電子の振る舞いによって生まれており、その電子の振る舞いを計算する方法に第一原理計算というものがあります。
これを用いれば、原子の位置さえ定めれば、その原子にかかる力や物質全体のエネルギーを計算でき、出現しやすい安定構造を探索することができます。
この探索は少しテクニックが必要です。今回、詳細は割愛いたしますが、人工知能の力を借り、探索を実施しました。
またH6Oの分子単体で計算をすると、すぐさま分解してしまいそうなので、今回は絶対零度下での結晶構造を考えてみることにしましょう。
ちなみにH2Oの結晶、いわゆる「氷」は下の図のような構造をとります。

氷の結晶構造

結晶では上図のような規則的な原子配列が延々と繰り返されることで固体を形成します。

それでは結果を示します。
計算格子に水素6つと酸素1つを入れると以下のような構造になりました。

最適化結果

見てわかる通り、水分子と水素分子に分かれた状態で規則的に並んでいます。
この状態を分子結晶と呼びます。先程示した氷も分子結晶の1つです。
層状になっている事も興味深く、これが安定なのも納得の構造なのですが、少し面白くありません。
ネット上に流れてきた不思議な水素水の絵からは程遠い構造です。

無理やりですが、少しその絵に近づけてみましょう。
材料の合成方法には様々ありますが、その1つに高圧合成という方法があります。
上に示したシミュレーションでは圧力がかかっていませんでしたが、これに対し1TPaの超高圧をかけてみましょう。
1TPaというと、現代の高圧合成装置では達成が困難な超高圧なのですが、シミュレーションなら簡単に与えることができます。
1TPaの条件下での最適化結果はこのようになります。

H6Oの結晶?

H6Oの結晶?

どうでしょう?酸素に水素がたくさんくっついた、変な形では?

実際は、この構造は最安定構造でない可能性があり、高圧下でエネルギーの評価が正しく行えているか、もっと長周期の構造を持たないかなど、考えるべきことは沢山あります。
また熱力学的な安定性もなく、少しでも熱を与えると速やかに分解します。

それでも、この構造は少なくとも原子同士の力は釣り合っており、局所的かもしれませんが、安定構造のようです。
本来、原子は適当に配置しても様々な引力・斥力ですぐにバラバラになってしまいます。適当に描いた絵のH6Oは作ることができないのです。
ですが今回のH6Oの結晶は、もし高圧・絶対零度下で自由に原子を配置できたのだとしたら、たぶんこの構造で力がつり合い、きっと作ることができるでしょう。

現実では出来ない事、見えない事、わからない事、それらがシミュレーションを用いれば少しずつ見えてきます。
上記はかなり不真面目な例かもしれませんが…シミュレーションの面白さが少しでも伝わっていただけたら幸いです。

最新記事

情報館では、プロダクト解析センターWEBで掲載されない情報をリアルタイムでお届けしています。

    現在、新しいお知らせはございません