学習指導要領改訂に携わった有識者への特別インタビュー

上智大学 総合人間科学部教育学科 教授 奈須 正裕 氏

「カリキュラム・マネジメント」による
「探究型学習」の実現とオリンピック・パラリンピック教育の可能性

2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が来年となり、オリンピックとパラリンピックを題材とした教育が首都圏以外でも実施され、全国でも機運が高まっています。その「オリンピックとパラリンピック」が学習題材として持つ魅力について奈須 正裕 氏にお話をいただきました。

全面実施が迫る学習指導要領改訂の背景から資質・能力の育成、カリキュラム・マネジメントと探究型学習などの要素も踏まえて、オリンピックとパラリンピックを題材とした学習を推進する際のポイントをお話いただきましたので紹介します。

●奈須 正裕 氏 プロフィール 中央教育審議会教育課程部会、総則・評価特別部会委員など多くの部会・ワーキンググループの委員を歴任し、学習指導要領改訂に携わる。学習指導要領解説 総合的な学習の時間編  作成協力者。

■この度の学習指導要領改訂の背景や議論について教えてください。

まず、世界的にコンテンツ(学習内容)を基盤とした教育から、コンピテンシー(資質・能力)を基盤とした教育論への転換の動きがありました。
その動きのもととなる一連の研究が発表されていて、それが日本の教育に与えたインパクトは大きく、学習指導要領改訂の際にも議論されました。それらは次の4つの形で改訂の参考にされています。

これらを踏まえて、改訂の議論がなされ、育成すべき資質・能力の3つの柱「①知識・技能」「②思考力・判断力・表現力等」「③学びに向かう力、人間性等」の構築、育成の方法論としての「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業や教科等横断的な「カリキュラム・マネジメント」がキーワードになっているのです。

■「カリキュラム・マネジメント」を実施する際に気をつけるべきポイントを教えてください。

教科等横断的なカリキュラム・マネジメントは今回の学習指導要領で重要性が強調されています。今まで、現場の先生方もカリキュラム・マネジメントは行っていたのですが、今回は「資質・能力」の育成を軸にしているということがポイントなんです。

その中で意識されるべきは、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」です。それはつまり、その教科等ならではの認識・表現の「方法」、つまり対象へのアプローチです。同じ対象でも様々に異なる見方・考え方で扱うことにより、ものごとの多面性やそこでの問題解決に適したアプローチを身につけることができます。

また、教科等横断のカリキュラム・マネジメントや資質・能力育成で大切なのが、子供を中心にして組み立てることです。総合的な学習(探究)の時間や生活科、道徳、特別活動でなされる「生活の学び」と、「教科の学び」をうまく橋渡ししながら、子どもの個性や経験を中心に据え、子どもの中で「知の総合化」が行われるように学習を組み立て、進めることが大切です。

世の中には「〇〇教育」という言葉で表される「実施しなければならない教育」が学校の中に溢れていますが、それは世界的にみても「カリキュラム・オーバーロード」として、問題になっています。しかし、そこでも重要になる視点は、次代の社会を形成する子どもたちに求められる汎用性のある「資質・能力」であり、その育成にあたり「探究型学習」は学びの形として適しています。

■探究型学習にも活用できる「オリンピックとパラリンピックを題材とした学習」で
意識すべき点を教えてください。

オリンピックとパラリンピックは社会的な注目度も高く、学習題材として優れている点があります。例えば、子どもにとってはテレビやネットでその情報に触れる機会が多い、また教員にとってはスポーツだけにとどまらない広がりのある学習が期待できる点などです。

しかし、オリンピックとパラリンピックの内容を教えることが本質ではありません。あくまでも「題材」であり、メインは「資質・能力」育成です。子どもが学習に主体的に向かえる魅力ある「題材」をきっかけに、自身に身近な課題や社会課題につなげて考えたり、応用できる物の見方や対象へのせまり方、知識や価値の生み出し方、対話の技法など汎用的な資質・能力を育成するのです。

そのためのポイントとして、子どもの視点に立って学びの環境を整え、すぐに答えのでない色々な課題・領域・教科を横断したテーマ(例えば「持続可能な社会をどう実現していくか」など)について、各教科等の見方・考え方を使って色々な視点から捉え、踏み込んで、継続して考えること、つまり「探究」的に学ぶことが重要です。それにより子どもたちは、悩み、議論し、意思決定する際に様々なジレンマを経験できるので、より「深い学び」が実現でき、資質・能力育成にもつながるのです。

※本内容はパナソニックが主催する教育イベント「パナソニックTeachers’セミナースペシャル2018」での講演内容をもとに構成しております。

上智大学 奈須正裕氏をはじめ、学習指導要領改訂に携わられた「國學院大學 田村 学 氏」の講演内容も載っている「パナソニックTeachers’セミナースペシャル」のWEBレポートはこちら