イベント情報

2017年度 セミナーレポート オリンピックとパラリンピックを題材にした教育を考えるTeachers’セミナースペシャル テーマ:パラリンピックとアクティブ・ラーニング

オリンピックとパラリンピックに関する
パナソニックの教育支援

オリンピックとパラリンピックを題材にした教育を考える
Terchers’セミナースペシャル

2018年12月25日(火)にパナソニックセンター東京にて、12月26日(水)に名古屋パナソニックビルにて、オリンピック・パラリンピックを題材にした教育を考える「Teachers’セミナースペシャル」を開催しました。2016年から継続している、「Teacher’sセミナースペシャル」も今年で3回目となります。今回は、「『オリンピック・パラリンピック教育』と2020年に施行される『新学習指導要領』で求められるこれからの学びの関連」について、授業体験や授業実践事例の紹介、基調講演などを通して理解を深める構成となっており、北は北海道から南は大阪まで、教員の方々をはじめ、教育委員会、企業、有識者を含む153名の方にご参加いただき充実した内容になりました。

東京会場 名古屋会場

授業体験ワークショップ

2019年度新プログラム

「持続可能性」をテーマにしたプログラム体験

2019年4月提供開始の「持続可能性」をテーマにした新プログラム⑤「オリンピックとパラリンピックがめざすサスティナブルな未来」の授業体験を行いました。
授業前半では、「オリンピックとパラリンピックが社会に与える影響」について、映像教材を視聴し、参加者で「新競技場の建設」について、賛成・反対のディスカッションを行いました。グループの中での意見交換とふりかえりにより、賛成・反対の間で揺れ動きながら、各自の意見に深まりが見られました。授業後半では、東京2020大会が開催を通して未来に遺したいもの(*レガシー)とそれを実現するための取組(*アクション)について知り、「持続可能性」につながる考え方や実践をグループワークを通して学び、その後、映像教材で、実際にアクションを起こしている人(企業人やブラインドマラソンの伴走者、高校生)のインタビューからその人達の実践と考え方を聞き、「では自分たちはどうするか」を考えていく流れを一部体験いただきました。

写真:授業体験ワークショップの様子

その後、プログラム⑤の先行トライアル実施をしてくださった西東京市立 田無第四中学校 教諭 清水 祥彦 氏から生徒の「メタ認知」「合意形成」「興味・関心」に重点を置いた授業実践と教材アレンジを報告いただきました。前半の授業のディスカッションパートでは、生徒の意識変容をメタ認知させるためのワークシートの工夫を行ってくださり、それらの工夫は本教材にも採用させていただきました。先生の実践の詳細については授業実践レポートを御覧ください。

写真:西東京市立 田無第四中学校 教諭 清水 祥彦 氏

東京会場基調講演 「カリキュラム・マネジメント」による「探究型学習」の実現と
オリンピック・パラリンピック教育

上智大学 総合人間学部 教育学科 教授 奈須 正裕 氏

上智大学 総合人間学部 教育学科 教授 奈須 正裕 氏の基調講演では、新学習指導要領で求められる資質・能力を効果的に育成するための「カリキュラム・マネジメント」、課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現の一連の学習プロセスを繰り返して学びを深めていく「探究型学習」についての解説を行っていただいたうえで、オリンピック・パラリンピックを題材にしたカリキュラム・マネジメントの有効性とその実践事例についてご紹介いただきました。

写真:上智大学 総合人間学部 教育学科 教授 奈須 正裕 氏

まず2020年以降小学校から、順次実施される新学習指導要領の改訂の背景についての解説では、世界的にコンテンツ(学習内容)を基盤とした教育から、コンピテンシー(資質・能力)を基盤とした教育論への転換があったこと、それらに関する一連の研究が教育に与えた、下記の4つのインパクトを提示されました。

  • ①優れた問題解決に必要十分な要因=コンピテンシー(資質・能力)による学力論の再定義
  • ②非認知的能力の学力論への組み入れ要求
  • ③汎用的認知スキル(思考力・判断力・表現力等)の重視
  • ④知識・技能の質的改善:要素的知識から概念的知識へ

これらの背景・議論を踏まえて、学習指導要領改訂が行われたことに触れ、育成すべき資質・能力の3つの柱「①知識・技能」「②思考力・判断力・表現力」「③学びに向かう力、人間性等」の構築、育成の方法論としての「主体的で対話的で深い学び」の授業や教科横断的な「カリキュラム・マネジメント」がキーワードになっていることを示されました。

教科横断的なカリキュラム・マネジメントは次代の社会を形成する子どもたちの資質・能力を育成するために必要ではあるが、その中で意識されるべきは、各教科の特質に応じた「見方・考え方」であることについても話され、例をあげながら「見方・考え方」とは、その教科等ならではの認識・表現の「方法」、つまり対象へのアプローチであることを解説されました。
また、それらを踏まえ、総合的な学習(探究)の時間や生活科、道徳、特別活動などの「生活課程」と、教科に代表される「学科課程」をうまく橋渡ししながら、子どもを中心に考えた知の総合化が進められることの重要性について解説されました。

また、「〇〇教育」に代表される「現場で実施しなければならない教育」が溢れている現状について、世界的に「カリキュラム・オーバーロード」が起こっている、と解説され、そこで重要になる視点は、次代の社会を形成する子どもたちに求められる汎用性のある「資質・能力」であり、その育成の基本となるのは「探究」であるとお話されました。

「オリンピック・パラリンピック教育」についても同様のことがいえ、それは独立したものでなく、オリパラという「題材」をきっかけに、身近な課題や社会課題にも応用できる物の見方や対象へのせまり方、知識生成方法、対話の技法などを学ばせることを通して、資質・能力を育成することが重要であること、また、その為には、子どもの視点に立って学びの環境を整え、すぐに答えのでない色々な課題・領域・教科を横断したテーマ(今回の新プログラムのテーマ「持続可能な社会をどう実現していくか」など)について、各教科のものの見方・考え方を使って色々な視点から捉え、踏み込んで考えさせ、悩ませ、議論させ、意思決定させるというこのジレンマを経験させることが子どもたちの「深い学び」と資質・能力育成につながり、新学習指導要領でも求められている「カリキュラム・マネジメント」にもつながるということをお話されました。

それらの実践事例として関西学院初等部での「陸上男子走り幅跳びのドイツの義足ジャンパー、マルクス・レーム選手が打ち出した歴史的な記録が正式な記録として認められなかった例」について子どもたちが話し合いをしていく実践と子どもたちの意見についてご紹介いただき、探究型学習の中でのオリンピック・パラリンピック教育を解説されました。

東京会場授業実践事例紹介 「持続可能性」に関連するオリンピックとパラリンピックを
題材とした教育活動の事例紹介

関西学院 千里国際高等部 米田 謙三 氏

オリンピック・パラリンピックを題材とした課題解決型授業の事例について関西学院 千里国際高等部 米田 謙三 氏に講演いただきました。同校では「アクティブ・ラーナーを育む」という視点で探究型学習をすすめており、そうした学習の題材としてオリンピック・パラリンピックは「探究的な学習ができ、且つ、学びの広がりがある良い学習題材である」ことをお話いただきました。授業ではパナソニックが提供するオリンピック・パラリンピック教育の4つの教材を活用し、高校1年生の必修教科である「現代社会」の中で、どうカリキュラム・マネジメントしていくかということについて具体的な活用事例とともにその学びの成果についてご紹介いただきました。
また、①今回は「現代社会」という社会科でカリキュラムを作成したが、様々な教科でも応用できること、②オリンピック・パラリンピック教育を単体として捉えるのではなく、現在各学校で活動されている様々な活動と連携させていくこと、③逆に学校の取組みでは迫れない部分をオリパラプログラムで補えることについてもお話いただき、新学習指導要領のキーである資質・能力の育成を目指し、オリンピックとパラリンピックという題材をどう活かしていくかを学ぶ時間となりました。

写真:関西学院 千里国際高等部 米田 謙三 氏

名古屋会場基調講演 「ESD」における「資質・能力育成」と
オリンピック・パラリンピック教育

國學院大學 人間開発学部 初等教育学科 教授 田村 学 氏

國學院大學 人間開発学部 初等教育学科 教授 田村 学 氏による基調講演では、学習指導要領改訂の社会的背景や方向性、育成を目指す「資質・能力」の3つの柱、ESD(Education for Sustainable Development 持続発展教育)や「探究型学習」について解説を行っていただいたうえで、オリンピック・パラリンピックを題材とした学習との関連についてご紹介いただきました。

写真:國學院大學 人間開発学部 初等教育学科 教授 田村 学 氏

まず、学習指導要領改訂の背景について、これからを生きる子どもたちは特に、変化の激しい時代に突入することを「現在、学校に通っている子どもたちの65%は今はない職業に就いている(キャシー・デビッドソン)」などの諸研究のデータを元に示され、さらに、OECDのPISA調査結果から、日本は各調査対象のリテラシーレベルは世界でもトップレベルで高いが、学習に対する楽しさや将来につながる肯定的な意識、他人を助ける積極性などは他の先進国と比較して低いことを課題点としてあげ、それらの社会的背景を踏まえて学習指導要領改訂が行われたことを、改めて示されました。
それらの課題の議論も踏まえたことで、今回の新学習指導要領では育成すべき資質・能力の観点を幼・小・中・高で統一し、従来使われている観点「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」に加え、「学びに向かう力、人間性等」という非認知的能力を加えたことが従来のものとの大きな違いであるとお話されました。

また、教育界でも実践されているESDやオリンピック・パラリンピック教育についても、「資質・能力」育成に重点が置かれていることが重要だと解説されました。例えば、ESDの例では、持続可能な社会づくりに向けて、育成が求められる6つの価値観として、「多様性」「相互性」「有限性」「公平性」「連携性」「責任性」があること、また7つの能力・態度として、「批判的に思考し、判断する力」「未来像を予測して計画を立てる力」「多面的、総合的に考える力」「コミュニケーションを行う力」「他社と協力する態度」「つながりを尊重する態度」「責任を重んじる態度」があることについて触れ、それらはオリンピック・パラリンピック教育で目標にしている「未来社会で活用・発揮できる資質・能力の育成」にもつながることを解説されました。

そして、それらの学びの場として「総合的な学習(探究)の時間」が適していること、そして、その中で必要とされる「探究」のアプローチと実践のポイントについても解説されました。探究型学習は「教科横断的」で子どもに「身近で興味喚起がしやすく」、社会のリアルな課題につながる「テーマ設定」が必要であることをポイントとして示されました。

「教科横断的」である点については、各教科特有の「学び」を活かしながら、育成の目標になる「資質・能力」を軸として授業や単元を構成する必要があることを示されました。
学習題材が「身近で興味喚起がしやすい」ものである必要性については、本来、学習は子どもの生活から完全に切り離されたものでなく、自身の生活(身近さや興味・関心の範囲)の中でこそ主体的に学べることを示され、社会のリアルな課題につながる「テーマ設定」の必要性については、社会でも完全な解決ができていないような課題に取り組むことで、子どもたちが真剣に思考し、悩み、試行錯誤を繰り返して探究を行うことができることを示されました。

このような実践のポイントを踏まえた上で、「オリンピック・パラリンピック」は、社会的な注目度の高さもあり、持続可能な社会の構築に向けた「総合的な学習(探究)の時間」での実践の題材としても適していることを解説され、目指すべき「資質・能力」の育成につながるとお話しされました。

名古屋会場授業実践事例紹介 「持続可能性」に関連するオリンピックとパラリンピックを
題材とした教育活動の事例紹介

東京学芸大学附属 世田谷中学校 篠塚 昭司 氏

東京学芸大学附属 世田谷中学校 教諭 篠塚 昭司 氏による事例紹介では、「私たちの東京オリンピック・パラリンピック」と題した生徒主体の問題解決型学習における教材活用の事例をお話いただきました。学習プロセスとして①導入で大会に関連する様々な社会的側面について触れ、②子どもたちが興味・関心を持つテーマを探し、③オリンピックとパラリンピックに関わる問題を見つけ、④グループでその解決のための取組みを実施する、という流れがあり、その中の導入部分でパナソニックの教材を活用した事例を、世田谷中学校の育成目標の3つの資質・能力、「学習問題を解決する力」、「批判的思考力」、「概念的知識」を軸に具体的な実践も踏まえてわかりやすくお話いただきました。また、それらとESDの「6つの視点」「7つの能力・態度」との関連についても説明があり、オリンピック・パラリンピックというものがあくまで一題材で、重要なのはそれらを使ってどう資質・能力を育成するか、何を子どもたちに心のレガシーとして遺すかということである、とおっしゃられた言葉に参加者も深くうなずいていました。

写真:東京学芸大学附属 世田谷中学校 篠塚 昭司 氏

東京会場 名古屋会場情報交換会 参加者によるオリンピックとパラリンピックを題材とした学習活動や
取組の情報交換

情報交換会では、所属も地域も異なる参加者同士で、本日のセミナーの感想、オリンピックとパラリンピックを題材とした教育に対する意見、実践情報やアイディアの共有など、幅広く意見交換が行われました。各会場で出た意見を紹介します。

東京会場
  • オリンピック後、スポーツ振興という視点で部活動なども含め、どうしていくのが良いのかを議論できた。
  • オリンピックとパラリンピックという題材を地域や身近な問題に結びつける方法について話合えた。
  • 活用事例について学べたのがよかった。オリンピック・パラリンピックなど、広がりのある題材を扱うことにより、いろいろな授業展開が可能だとわかった。
  • オリンピック・パラリンピック教育をその知識だけを学ぶものとして捉えるのではなく、様々な教科と連動させて考えていくことが必要だと分かった。
  • 今回の講演内容や活動事例紹介を学校に持ち帰って共有し、今後の方向性についてしっかりと考えていきたい。
写真:情報交換会
名古屋会場
  • 持続可能性というテーマについても、「オリンピック・パラリンピック」という題材で迫ることができるとわかった。
  • オリンピック・パラリンピック教育のように〇〇教育といわれる、学校で取り組まなければならないことも多くあるが、その根底の考え方(育成したい資質・能力が軸になっていることなど)に共通点があることに気づくことができた。
  • オリンピック・パラリンピックとESDの親和性、それを実施できる質の高い教材を知ることができた。自校で活用したら生徒たちがどのような反応を見せてくれるだろうかとワクワクしながら受講できた。
  • 探究のプロセスについて深く理解でき、オリパラ教育やESDが実践可能な「総合的な学習の時間」で求められていることも合わせて理解することができた。
写真:

ご来場いただいた皆様の声

東京会場 川崎市立 南生田中学校 校長 網屋 直昭 氏

本校はオリンピック・パラリンピック教育をしなくてはいけない状況である。その他にも学校では実践が必要な教育があるが、それらの中にどう組み込んだら良いかを探っていたところ、このセミナーを見つけ参加した。今回のセミナーでの講演や活用事例をお聞きし、「オリンピック・パラリンピック教育」とは一題材であり、本質は「子どもの資質・能力を育成すること」であり、その本質こそが重要であるということを学べてよかった。

名古屋会場 岐阜大学 教育学研究科 教職実践開発専攻 准教授 三島 晃陽 氏

正直、東海地方にとって「オリンピック・パラリンピック」、それに関する教育は遠い存在という印象だった。しかし、今回のセミナーを通して「未来をどうするのか、どう生きていくのか」を子どもたちが考えるための、一つのきっかけとして「オリンピック・パラリンピック」という題材が扱われている、ということがどの参加者の方にもよくわかった。セミナー全体を通して、授業体験ワークショップや実践事例で授業の具体例がわかり、基調講演を通して、これからの教育で求められていることもわかる、とても充実した内容だった。

今年度のTeachers’セミナースペシャル、はじめての試みとなる2会場での連日開催に多くのみなさまにご参加・ご協力いただきました。
この2日間でみなさまとともにオリンピックとパラリンピックを題材とした「これから求められる学び」について考えることができました。
2020年、そしてこれからの未来に向けて、これからもみなさまとともにこれからの学びについて考えてまいります。