「サステナブル・シーフード」を社員食堂に継続導入

被災カキ養殖場の復興支援とともに、社員からの消費行動の変革に挑戦

海洋資源の持続可能な利用を実現する「サステナブル・シーフード」。
パナソニックはWWFジャパンと協働で、東日本大震災によって被災したカキ養殖場の復興とASC認証取得を支援し、その実現を機に社員食堂でのサステナブル・シーフードの提供を進めてきた。その取り組みの意義と目指すところを聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第354号(2019年3月1日発行)掲載内容を再編集しました]

千台以上のカキの養殖用いかだが流され
持続可能な形で養殖業を再開
栄養が行き渡り3年を1年で収穫

パナソニックは企業市民活動の一環として、WWFジャパンと2001年から「海の豊かさを守る活動」に取り組んでいる。
担当の喜納厚介さん(CSR・社会文化部)によれば、「有明海の干潟保全や沖縄の白保サンゴ礁の保護、中国と朝鮮半島に囲まれた黄海の海洋資源保全や調査研究」で協働し続けてきた。

パナソニック CSR・社会文化部
喜納 厚介

そして2011年、東日本大震災が東北に甚大な被害をもたらした。当時の状況をWWFジャパンの前川聡さんが振り返る。
「会員さんや企業に義援金を募り、何が必要とされているのか、岩手から茨城までスタッフが聞いて回りました」。その中で耳にしたのが、南三陸町の宮城県漁協志津川支所戸倉出張所で千台以上あったカキの養殖用いかだが津波ですべて流されたが、復興に際してはいかだを大幅に削減し、環境に合わせた養殖を検討している、という話だった。
「震災前から過密養殖によって生産性が低下していて、再開できるなら環境に合わせた持続可能な養殖にしたいのでサポートしてほしいとのお話でした。そこでWWFジャパンは2011年7月から、海の環境に詳しい科学者や漁業経済の専門家による調査を始めました」

WWFジャパン
前川 聡 さん

現在、世界では乱獲や環境汚染等により海洋資源の枯渇が深刻化。持続可能な資源利用を推進するための認証制度が設けられていて、WWFジャパンは中でも基準が厳しいMSC(持続可能な漁業で獲られた天然の水産物)とASC(責任ある養殖管理による水産物)を推奨している。
「34家族から成る戸倉カキ生産部会では、千台以上のいかだを3分の1に減らしたところ、カキに栄養が行き渡って味もよくなり、成長のスピードも上がったため、震災前は長い時で3年かけていたカキが1年で収穫できるようになりました。この環境を維持するためにも、養殖密度を規定する項目があるASCの認証を取得することを勧めました」

2014年からはパナソニックもサポートに加わり、2016年3月に戸倉カキ生産部会は日本初の生産者ASC認証(マガキ)を取得。部会長の後藤清広さんによると「震災前は宮城県でも下のほうだった評価が一転し、今では一番札(一番高い評価)が入ることもあります。1経営体あたりの生産量も生産金額もアップして、17年度は震災前の約1.5倍になりました。ASCを取得したことで買いたたかれることもなくなり、仲間の生産意欲も向上。生産性が上がって労働時間が短くなり、労働環境がよくなったおかげで、若い人が続々と入ってくるようになりました。今年はASC認証の更新の年でもありますが、効果を実感しているだけに反対の声は上がりませんでした」とのこと。
今では宮城県産のカキの約6割がASC認証を取るようになり、戸倉出張所ではワカメや銀鮭の認証取得の可能性も探っている。

戸倉のマガキ

すべての国連加盟国が賛同している2030年までの持続可能な開発目標SDGsの中でも、「海の豊かさを守ろう」は14番目の目標として掲げられている。
「日本も国を挙げてSDGsに取り組もうとしている中で、サステナブル・シーフードの存在に注目しました」と喜納さんは話す。

サステナブル・シーフードを
東京2020大会のレガシーとして
社会に浸透させたい

2012年のロンドンオリンピックでMSC・ASCが初めて導入され、学校や民間レストランにも広がりを見せ、今では年間2億食が食べられているほど、英国ではサステナブル・シーフードが定着しているという。
「2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは選手村や会場、関連イベントでサステナブル・シーフードを100%調達することが求められています。大会を機にサステナブル・シーフードという言葉や認証マークを広く知ってもらうことで、社員食堂へのサステナブル・シーフードの導入をレガシー(遺産)として社会に浸透させていきたいと考えています」

写真:パナソニック CSR・社会文化部 喜納 厚介

日本初となる社員食堂での継続提供
生産から消費まで一貫した支援を目指す

2018年3月には、大阪の本社を含む2拠点の社員食堂でMSC・ASC認証のサステナブル・シーフードを使ったメニューの提供を月に1回始めた。単に提供するだけでなく、チラシやポスター、動画等でサステナブル・シーフードの意義や認証マークについて社員に周知することにも注力している。その結果、社員がその意義に共感し、毎回用意している量が売り切れになるほどの人気となっている。

「国内に約10万人いる社員が社員食堂で認証マークを目に焼きつけることができれば、スーパーで買う時に選ぶきっかけにもなるし、家族や友人に口コミで広がっていくことで需要が拡大し、各業界での取り組みが加速することも期待できます。一人ひとりの消費行動の変革によって海の豊かさが守られ、持続可能な社会の実現に向かうことを願っています」

企業が社員食堂で継続的に提供するのは日本初の取り組みだった。その実現には認証取得というハードルがあった。
「いずれの認証も第三者の認証機関が厳格な基準で審査。社員食堂に導入するには途中でかかわる輸入会社、流通・加工会社、給食会社すべてが加工・流通過程で非認証のものが混入しない管理ができていることを証明するCoC認証を取る必要があり、エームサービス様による給食業界初となる認証取得を通じて実現。その後、給食会社の認証取得の流れをつくる契機となりました」

写真:サステナブル・シーフードを使ったメニューの一例
写真:現在11拠点の社員食堂で提供

社内では現在11拠点の社員食堂で導入が進み、国内の全社員食堂への導入を目指している。この取り組みは「生物多様性アクション大賞2018えらぼう部門優秀賞」を受賞。1社で始めた取り組みは、今では他企業の社員食堂にまで広がりつつある。

そして今年3月からはいよいよ、復興支援の一環として、応援してきた戸倉のカキを社員食堂で提供すべく、準備を進めている段階にある。

写真:「生物多様性アクション大賞2018えらぼう部門優秀賞」受賞の様子

「これまでは生産と消費の部分をばらばらに応援してきましたが、応援している生産者のカキを社員食堂で提供することで、サステナブルなサプライチェーン(商品供給の流れ)が実現する予定です。さらに、このような取り組みを拡大することで認証の取得を応援し、被災地はもとより、日本の漁業・養殖業全体に、そして海の豊かさを守ることに貢献していきたいと思っています」

写真:(左)パナソニック CSR・社会文化部 喜納 厚介、(右)WWFジャパン 前川 聡 さん