◆今回、解説する役割カードはこれ!

パワーアップ情報ファイル11月号は、プログラム①「会社の役割発見」で使用する30種類の「役割カード」の中で、「生徒達がイメージしにくい」との声が寄せられた役割について、実際にその仕事に従事している社員のインタビューを通して解説するシリーズの3回目です。
今回は「役割1:モノづくりに直接関わる役割」から「品質管理」を、「役割2:会社全体をサポートする役割」の中から「法務」をそれぞれ取り上げます。

お客様に喜んでいただける商品や
サービスを生み出すためのすべての活動

「品質管理」とは、一般には「顧客や社会のニーズを満たす製品やサービスの品質を効果的かつ効率的に達成する活動*1」のことで、目標とする品質を明確にし、それを実現するためのプロセスの管理を確実に行うことが重要となります。パナソニックにおける品質管理に関わる具体的な仕事内容について、品質・環境本部 安全・品質部の江間さん、小澤さん、プロダクト解析センターの有川さんの3人にお話を伺いました。

[*1] 一般財団法人日本規格協会・品質管理検定センター資料より引用

■「品質管理」について中学生に説明する場合、どのような言い方がよいでしょうか?

---生徒達に身近なチョークを例に取ると、チョークの品質とは、ただ字が書ければ良いというのではなく、使う人の書きやすさや、それを実現する硬さ、長さや太さ、色といった機能や仕様があります。チョークを作る際に目標としたこれら機能や仕様がきちんと達成されているかを評価し、お客様が不便を感じない使いやすさを保証するのが品質管理の仕事です、と言えます。

■パナソニックグループにおける品質管理に関する基本的な考え方と実施体制について教えてください。

---パナソニックの品質管理への取り組みは、「優良品以外は製造・販売しない」という経営理念に基づいています。不完全なものを売って利益を得ても、その後に起こるブランドの信用失墜による損失とは比べようもありません。また、商品の良し悪しを評価するのはお客様です。「商品の評価基準は社会や消費者のニーズとの適合で決まるもので、こちらが定めた規格との適合ではない」という考え方に立ち、お客様の満足に適合する商品やサービスの実現を図るすべての活動を品質管理活動と捉えています。「お客様に迷惑をかけないこと」は品質管理の基本中の基本であり、「お客様に喜んでいただけること」「ご満足いただくこと」が我々の活動の目標です。

---パナソニックで品質管理に携わっている社員は、全社で約4,000人います。私たちが所属している品質・環境本部は本社直轄の部門ですが、パナソニックグループを構成する7つの社内カンパニーごとに品質を統括している部門があります。さらに、海外を含め実際にモノづくりを行っている事業場でも品質保証部門があり、それぞれの事業分野や地域に応じたアレンジを加えながら、パナソニックに相応しい取り組みを展開しています。

<なぜ「品質」が大事なのか>

品質とは なぜ「品質」が大事なのかの図

■現在担当している仕事について具体的に教えてください。

---安全・品質部 品質企画課で担当している業務には大きく分けて2つあります。一つは、品質に関するデータの収集・管理です。お客様にとって最も迷惑なことは、購入した製品が壊れたり、期待通りに使えなくなることです。私たちは、修理やサービスに要した金額(ロスコスト)や販売した台数に対する不良の発生割合を“お客様にご迷惑をおかけした改善すべき指標”として位置付け管理しています。毎月カンパニーごとに上がってくるロスコストのデータを集約し、全社的な品質の状況を把握しています。また、各事業場では、製造ラインの設備不具合など不完全な状態で作ってしまった不良品割合や、個々の製品の完成時の検査で測定した時のデータなどを、統計学的な手法を使って分析し品質や管理の良し悪しを具体的に評価し、出荷前に不具合を除く対応をしています。私たち本社では各事業場での製造の品質管理が十分機能しているかを把握するため、製造時の不良品やその改善など処置にかかった金額(製造工程のロスコスト)も管理しています。このように十分な管理をしていても市場で不具合を発生してしまった製品については、一定金額以上の製品について同じ問題を二度と起こさないよう再発防止を確認するため本社で管理をしています。
人材育成も重要な仕事です。データ処理の方法や、現場できちんと仕事が回っているかどうかを管理するマネジメントなどの具体的なスキル修得はもちろんのこと、責任者には問題が起きた時の対応への心構えや、不良品を出荷させないといった職場風土の醸成など、研修を通して責任者としての役割を果たしてもらうための教育を行っています。

---プロダクト解析センターでは、よりよい製品を生み出すために、8つの技術分野で品質評価・解析を行っています。特に品質管理と関連の深い業務としては、以下のようなものがあります。

  • 温度や湿度、腐食、地震や振動などに対する耐久試験
  • 電気製品による火災原因の究明
  • 電気ノイズの発生具合や、外部からのノイズによる誤作動の有無等の評価
  • 金属、樹脂、セラミック、木材など様々な材料の分析
  • Ⅹ線CT装置を用いた商品などの非破壊検査 など
様々な温度・湿度での使用環境における製品の性能確認試験を行う装置の写真

様々な温度・湿度での使用環境における製品の性能確認試験を行う装置(プロダクト解析センター内)

モバイル機器を温度や湿度の耐久性を見る装置の写真

台湾で故障して使えなくなったモバイル機器を温度や湿度の耐久性を見る装置で検査した結果、高湿度が原因であることが判明したような事例もあった。

■品質管理の仕事で特に求められる能力やスキルは何ですか?

---一度起きた問題を二度と起こさないようにすると次の商品はさらに良くなり、お客様にご迷惑をかけることもなくなります。品質管理ではこうした目標をもった改善を日々行うことで再発防止につなげていくことが重要になります。具体的には、不良品の現物を見てどのような状態かを把握し、その原因を解析します。そして、どのような状態や条件で問題が発生したのかを再現し、その再現した条件を次の商品の評価に加え、新たな基準とし、次の設計・仕様に反映することで、お客様満足度を高めることにつながっていきます。
こうした品質管理の業務に必要となるスキルとしては、まず「モノを正しく客観的に見ること」です。不良品が1個だけなのか、同じ日に作った製品だけに起きているのかなど、データを見る力と、いろいろな条件との相関などを分析する力が求められます。さらに、わかったことを「次はこれを守らないといけない」というルールにしてマネジメントシステムに組み入れて管理することが重要になります。こうしたPDCAサイクル*2を回すことは、品質管理だけでなく、あらゆる分野で共通する仕事の進め方の基本になっています。実は、PDCAは学校生活の中で中学生の皆さんが日々行っている活動とも関連があります。例えば、数学のテストの結果が出た後、どの公式で間違ったのかを確認し、次は間違わないようにしようと計画し、練習問題に取り組み、次のテストで結果を把握するといったことがあると思いますが、こうしたサイクルが正にPDCAなんです。ちなみに、品質管理に関する知識をどの程度持っているかを客観的に評価する検定制度「品質管理検定(QC検定)」があり、毎年多くの高校生や高専の学生も受験しています。

[*2] P(Plan:計画)・D(Do:実施)・C(Check:確認・点検・評価・反省)・A(Act:処置)

<品質管理に関する基本的な考え方>

品質管理に関する基本的な考え方の図表

■品質管理の仕事を行う上で、最も大事にしていることは何ですか?

---ご満足いただけているかというお客様の評価です。お客様第一はパナソニック創業からの全社員の共通の理念です。後工程を考えることも大切です。自分のやった仕事を次の人に渡したり、他の部署にもっていって進めてもらう時に、引き継いだ人が仕事がしやすいよう自分に与えられた仕事や役割をきちんと果たすことが必要です。新入社員には、「後の人に自分の不十分な仕事を引き継いではいけない」という言い方をしています。これは、学校生活でも同じで、例えば、掃除当番をした後で、使った道具を散らかさず、キチンと片付けて次の当番の人が使い易くしておくというように、身近なことから始められると思います。

インタビューに答えていただいたみなさん(右から小澤さん、江間 さん、有川さん)の写真

インタビューに答えていただいたみなさん
(右から有川さん、江間さん、小澤さん)

企業活動や社員に関わる
法律業務全般を扱う仕事

「法務」とは、広く法律に関する事務のことを指し示しますが、グローバルにビジネスを展開しているパナソニックにおいての「法務」とはどのようなものでしょうか。法務・コンプライアンス本部コンプライアンス部の廣瀬さんにお話を伺いました。

■「法務」とは一般的にどのような仕事でしょうか。

---大きく「法務」には、「攻めの法務」と「守りの法務」があります。 「攻めの法務」とは、契約審査やM&A(企業の合併・買収)など、プロジェクトが走る中でスキームやリスク等について分析し、契約書に落とし込んでいく、いわばビジネスをサポートする仕事です。
一方、「守りの法務」とは、いわゆるコンプライアンス(法令遵守)です。万が一、会社で「贈賄」や「カルテル」のような不正行為が行われると、莫大な罰金や賠償金が科されるなど、非常に大きなダメージを受けることになります。コンプライアンスの仕事は、社内で不正があった場合の事後対応や、不正を未然に予防するための規程作り、啓発活動などを行います。

■廣瀬さんの仕事について具体的に教えてください。

---私は、コンプライアンスの社内の理解や認知を高める活動の推進と不正が通報された際の対応に関する調査を兼任しています。コンプライアンス推進として、昨年は、「カルテル」「贈賄」「会計不正」「セクハラ」等の不正を啓発するため、25か国語の言語でマンガ冊子を制作し、国内外のパナソニックの社員に広く配布しました。
もうひとつの大きな取り組みとして、これまではそれぞれの国や事業所、部署ごとに行っていた不正の通報システムを統合し、「EARS」というグローバルホットラインを作りました。ロゴや名称を社内で公募し、ロゴ入りのペンやストラップ、パーカーなどのグッズを配布、また、短編アニメーションや25か国語以上の言語でポスターを作成するなどして、このグローバルホットラインをより多くの社員に知ってもらうため、様々な啓発活動をしています。同時に、通報者が安心して通報できるように規程を作りました。

廣瀬さんの仕事について聞いている写真

■「法務」に必要なスキルは何でしょうか。

---一番に挙げるとすれば、文章を作成する能力だと思います。社内規程等を作って、社内の多くのメンバーに知らせる場合、誰が読んでも誤解がないような文章で伝える必要があります。また、日本だけでなく、グローバルな場面でも誤解がないように伝えなければなりませんので、英語などの語学力も必要です。これは、「守りの法務」だけでなく「攻めの法務」でも共通に必要なスキルだと思います。
たとえば、同じことを言っているのに、社内規程と法律で使われている用語が違っていると、そこでも誤解を生じさせることがあるので、法律や判例ではどのような言葉が使われているかを調査するリサーチ力も必要となります。弁護士事務所に聞くこともありますが、自分で六法全書のような分厚い書籍を読んで調べることもありますので、文章の読解力も必要となってきます。
その他、色々なチャンネルから情報を集めたり、セミナーに出席したりして、自分のスキルをアップデートすることも必要です。パナソニックの法務はグローバルスタンダードを目指していることもあり、アメリカのプラクティスから学ぶことも多いです。

■印象に残っているエピソードがあったら教えてください。

---通報と調査に関する規程をグローバルに作ったことでしょうか。国、事業所ごとにある法務と連携を図り、意見を収集してまとめていくのですが、それぞれに立場や考え方の違いがあり、規程を完成するのに丸半年かかりました。
直近では、ブラジル、上海、シンガポールへ行き、調査者研修を行いました。不正の通報を受けた後、調査課では、本当に不正が行われたか、どのような不正が行われたか等を調査します。これらの研修では、不正調査のノウハウを、実際のケーススタディなどを通して海外社員の人たちに学んでいただきました。

シンガポールでの調査者研修会の様子の写真

シンガポールでの調査者研修会の様子

■法律の分野を目指す中学生にアドバイスをお願いします。

---あらゆる分野に法律は関わってきますが、法律を表面的に知っているだけでは十分ではないと思っています。法律はルールですが、そのルールが実際、現実の場面でどういう対象に適用されているか、広く興味を持つことが大事です。人の話を聞いたり、ニュースを見たりして、どういうところが法律と関わってくるのだろう、とアンテナを張っておくことが重要だと思います。そうすると、どうしてこういう法律があるのか、その背景が見えてくると思います。
また、世の中の動きにアンテナを張っていると、法律にまったく興味のない人に、法律のことを説明するとき、「最近、こういうニュースがあったよね」というふうに身近な事例を挙げることができ、話が通じやすくなります。

■仕事でいちばん大切にしていることは何ですか。

---この業界は「3年勉強しなければおいてきぼりになる」と言われたことがあるのですが、それほど、法律に関する状況は目まぐるしく変化しています。別に、勉強!と堅苦しく構える必要はないかもしれませんが、世の中の動きを吸収し、常に自分のスキルをアップデートし続けることが大切だと思っています。
法務の仕事は、会社によって違う部分もありますが、専門性が要求される一方で、共通の部分も多いです。他社の法務とパナソニックの法務は、やっている仕事の基本は同じですので、どの会社でも通用する部分が多いと言えます。つまり、「法務」の仕事は自分の専門性を高めれば高めるほど、転職を含めてより多くのキャリアの選択肢を持てると言うことができると思います。