新指導要領に向けた授業改善としてキャリア教育を実践

~『私の行き方発見プログラム』を5時間計画で導入~

パワーアップ情報ファイルの実践校訪問では、『私の行き方発見プログラム』で提供している「教材」と「出前授業」をより効果的に活用するための特色ある取り組みを紹介しています。
今回は、学校を挙げて自己肯定感と社会参加・参画スキルの向上を目指したキャリア教育の実践研究に取り組んでいる埼玉県和光市立第二中学校(生徒数424名)を訪問し、その中での『私の行き方発見プログラム』の位置づけと実践上の工夫等について、橋本真校長先生、教育研究主任の浅野志帆先生、2学年担任の大森晴海先生からお話を伺いました。ポイントは以下の4つです。それぞれの学校の状況や活用するプログラムの種類等に応じて参考にしていただければ幸いです。

左から大森先生、橋本校長先生、浅野先生の写真

左から大森先生、橋本校長先生、浅野先生

和光市立第二中学校での取り組みのポイント 【ポイント1】すべての教育活動を通じたキャリア教育の実践 【ポイント2】『私の行き方発見プログラム』を5時間計画で実施 【ポイント3】キャリア・パスポートの活用で生徒とのコミュニケーションを促進 【ポイント4】掲示物を活用したキャリア形成への関心を喚起する環境づくり

【ポイント1】すべての教育活動を通じたキャリア教育の実践

  • 2017年に告示された新学習指導要領では、前文の中で「社会に開かれた教育課程実現の重要性」 が明記されています。本校では、特にこの観点をどのように具体化していくのかという課題意識を軸に新学習指導要領への移行期間がスタートし、2021年度からの全面実施に向けた準備を進めています。
  • 私たちは、今回の学習指導要領を「生徒たちが社会に出た時に必要になる力を育む手がかり」として捉えています。社会と学校とのつながりがますます求められる中で、基礎的・汎用的能力を育むキャリア教育が重要となります。
  • こうした観点から、次年度までの移行期間の中で、育成を目指す資質・能力の3つの柱を踏まえた授業改善に取り組んでいます。その一つが、「キャリア教育の基礎的・汎用的能力」と「育成すべき資質・能力」、「各単元のねらい」の関連を示したマトリクスの作成です。これは東京都大田区立矢口中学校が作成したフォーマットをベースにしたもので、各教科の学習指導案の中に組み入れています。これを先生方が見ることによって、「今授業の中でやっていることがどのような資質・能力の育成につながるのか」を常に意識することができ、「我々は新学習指導要領の移行期間にいるんだ」ということへの気づきにもなります。このような形でキャリア教育を導入することで、一人ひとりの先生方の授業力の向上にもつながるものと考えています。
  • 『私の行き方発見プログラム』をこうした授業改善の一環として位置づけ、2年生を対象にした出前授業を9月に行いました。特に、第一線で働いているパナソニックの社員講師の方から「中学校時代の勉強や活動が仕事の中で役に立つこと」を、ご自身の体験やエピソード通じて生徒たちに具体的に伝えていただいたことで、自分たちが社会とつながっていることを感じることができたと思います。
  • 2017・2018年度の2年間、文部科学省等から研究指定校の委託を受けて取り組んだ人権教育の研究実践が本校のキャリア教育の土台になっています。これまでの実践を通じて「主体的・対話的な学び」についてはかなり実現できていると考えており、その上に立ってキャリア教育を導入することで「深い学び」の視点を満たしていくような授業につながっていくのではないか、と期待しています。現在、そこから各教科への展開が可能になるような次年度の計画を作成しているところです。“深い学びを演出するキャリア教育”を通して、生徒たちの社会への見方・考え方が深まってきていると感じています。

<和光市立第二中学校のキャリア教育全体構想>

授業改善に向けた6つの柱の一つに
「私の行き方発見プログラム」の
実施を位置付けている

【ポイント2】『私の行き方発見プログラム』を5時間計画で実施

  • 本校では、事前・事後学習を含め『私の行き方発見プログラム』を5時間計画で実施する予定です。パナソニックから提供された教材は、出前授業の事前学習で使ったカラーのカード教材をはじめ、ワークシート集、黒板掲示用にも使える台紙、授業展開例を示したティーチャーズガイドなどがセットになった手厚いもので、どのクラスも同じ足並みで活用できる教材でした。
  • 出前授業の事前学習として実施した「プログラム①:会社の役割発見」では、「こんな仕事・役割があるんだ」、「こういう形で会社組織が出来上がっているんだ」という驚きや面白みなどを、生徒だけでなく教師も一緒に感じることができました。
  • 出前授業では、「学校の勉強・活動と仕事のつながり」について、社員アンケート結果を基に国語、数学、英語、部活動を取り上げ、実際に仕事に役立った事例の紹介がありました。さらに、講師の方から、これら以外の教科や活動についても今の仕事に役立っているという回答が多くあったことに触れた上で、「どの教科・活動も大事で、社会につながっている」というメッセージを伝えていただいたことが大事なポイントだと思います。
  • 普段の教科の授業の中でも、「今やっていることが将来につながっている」という話をする機会はありますが、教員でも親でもなく、実際にパナソニックで働いている方の言葉だからこそ生徒たちの気持ちの中に入っていきやすかったと思います。「毎日の授業がこれからの行き方・歩み方につながっていくこと」への意識付けになったのではないでしょうか。
  • 他の3つのプログラム(②職業と能力の関係発見/③職場体験での仕事発見/④自分の行き方発見)を、どの学年でどのように活用するのかについて各学校の判断に委ねられている点が、このプログラムの使いやすさにつながっています。本校では、出前授業の事後学習として、これらのプログラム(各1時間)を実施することが2学年の方針として示されており、現在、どの教科や時間を使って行うのか話し合っているところです。こうした2年生でのキャリア教育が3年生の進路学習にもつながっていくと考えています。個々の生徒の進路選択に際して、私たち教員が「あなたの“行き方”は?」といった形で対話的に関わるきっかけにもなります。
  • 今、3年生の社会科・公民的分野の経済の単元で、企業の社会的責任を扱う授業を行っています。みんなが支え合って社会を形成しており、企業もその一員としての役割を果たしていることを学ぶのがねらいです。まさにパナソニックのこのプログラムがその実例であり、特に出前授業を受けることで生徒達は実感をもって理解できると思います。どの学校でもできる「教科とのつながりを考えたキャリア教育」ではないでしょうか。

<9月に行われた出前授業の様子>

9月に行われた出前授業の様子の写真
9月に行われた出前授業の様子の写真

【ポイント3】キャリア・パスポートの活用で生徒とのコミュニケーションを促進

  • これまでも、一つの学習が終わると、ワークシートに書き込んだり、作文や新聞にまとめるなどの振り返りを行っており、それらを生徒一人ひとりがファイリングしていました。今年度からは、生徒とのコミュニケーションを促進する観点から、文部科学省のキャリア・パスポートの様式例を基に一部をアレンジした本校としての共通のフォーマットを作成し、順次活用を図っているところです。
  • このフォーマットを使うことで、学習の前後での生徒の変容が明確になることはもちろんですが、普段の学習やキャリア教育を通して自分自身が変わっていく中で何に気づいたのか、集団の中で自分がどのような役割を果たすことができたのかなど、様々な側面から自分を振り返ったり今後の進路について考えることができ、生徒の主体性の向上にもつながります
  • 私の行き方発見プログラム』の出前授業では、グループワークで使ったワークシートが上記のような役割を果たすと考え、そのまま振り返りのツールとして活用しました。ワークシート自体がキャリア・パスポートにつながっている、と言えます。今回は、そのワークシートに担当教員がコメントを記載して生徒にフィードバックすることで、生徒とのコミュニケーションを促す一つの材料としました。現在の出前授業のワークシートについても、今後、教師や保護者のコメント記入欄などを加えると、学校現場でより使いやすいものになると思います。また、職場体験活動と関連させて出前授業を活用する学校も多いと思うので、職場体験と出前授業が一体となった振り返りシートがあると、事前事後での変容がより明確になるかもしれません。

<文科省の様式例を一部アレンジした和光二中のキャリア・パスポートの記入例(抜粋)>

文科省の様式例を一部アレンジした和光二中のキャリア・パスポートの記入例

担当教員からのメッセージを生徒が読んで考えたことを記入するようにアレンジされている。(赤枠部分)

【ポイント4】掲示物を活用したキャリア形成への関心を喚起する環境づくり

  • 本校では、生徒が自由に自分の気持ちやコメントを書き込めるような掲示板を各学年の廊下等に設置しています。学校全体として人も物も互いに大切にできるような雰囲気を作りたいと考え、人権教育の研究実践校の頃から始めた取り組みで、今年で3年目になります。内容としては、友人への感謝の言葉や言われてうれしかった言葉、名言などが多いのですが、中には道徳や学級活動などの授業や様々な行事の中で感じたことを書く生徒もいます。
  • 今年度からは、キャリア標語の掲示も始めました。毎年、国語の授業の一環で作成した標語を和光市青少年健全育成標語コンクールに応募していますが、今年は「夢をかなえるために」という課題で作った標語の中から、国語科の先生と一緒に選んだものを掲示しています。本校のキャリア教育オリジナルキャラクター「キャリお」くんからのメッセージという仕立てにしてあり、休み時間などに生徒が立ち止まって見ている様子をよく見かけます。
  • キャリア教育に関する掲示コーナーも設けています。その中で、今回の出前授業の概要についても、写真や授業で使った資料などを織り交ぜながら紹介しています。

<キャリア教育に関連する様々な掲示物>

ャリア教育に関連する様々な掲示物の写真
ャリア教育に関連する様々な掲示物の写真

(左上)生徒が作ったキャリア標語とオリジナル
               キャラクター「キャリお」くん
(左下)キャリア教育関連の掲示コーナー
(右)    出前授業の概要を紹介した掲示物

■最後に、浅野先生と大森先生からいただいた、全国の中学校でキャリア教育を担当されている
 先生方へのメッセージを紹介します。

  • 3年生のこの時期になると、だんだんと勉強がいやになってくる生徒もいます。そんな時に、今やっている勉強が将来の仕事や社会生活につながってくることを、いろいろな角度から知るだけでも、授業への向き合い方が違ってくるのではないでしょうか。まさに“行き方”を考える材料になると思います。(浅野先生)
  • 私自身キャリア教育というとすごく敷居が高いと感じていましたが、「生徒たちの最も近くで働いている大人として、私たち教員自身が活き活きと教壇に立つところから始めてもいいのでは」と思うようになりました。会社で働く職業人の一つのケースとしてパナソニックの社員の方がご自身の仕事の話をするように、「こんな素敵な職業があるよ」ということを教員の一人として伝えられればいいのかなと思っています。(大森先生)