環境分野 2018年募集継続助成 選考委員長総評

Panasonic NPOサポートファンド(環境分野)の2018年継続助成の選考委員長を務めました山崎宏です。私自身、過去に本サポートファンドの助成を通じて、組織基盤強化の大切さを教えられた一人であります。その経験も踏まえ、選考にあたり感じたことをお伝えします。

2018年募集事業の選考プロセス

2018年は5月中旬~6月下旬にかけて、組織基盤強化ワークショップ&公募説明会を東京・広島・福岡・宮城・愛知・大阪・埼玉にて開催しました。その後、7月17日に応募受付を開始し、8月3日の締め切りまでに継続助成2年目に4団体、継続助成3年目に3団体、計7団体の応募がありました。この中には過年度、不採択や応募見送りなどを経験した団体も含まれています。

9月下旬に開催した選考委員会では、応募のあった7件全てを審議対象案件とし、委員会での協議の結果、ヒアリング対象を5団体に絞り込みました。その後、10月中旬までにヒアリングを終了し、報告書を選考委員に送付。各選考委員からの最終評価を踏まえ、11月上旬に選考委員長による決裁会議で助成内定先として4団体を選定しました。

環境分野については新規助成の受付を行っておらず、審議対象案件全てが継続助成への申請団体でした。つまり、自団体の「組織診断」を終え、具体的な「基盤強化」に向けた思いやプロセスが詰まった申請書が並びました。私たち選考委員は、各団体のキラリと輝く活動内容にワクワクしつつ、その活動を支える組織基盤が強化された後をイメージします。すなわち、当該団体の成長が、広く他団体や他地域へ水平展開し、プラスの連鎖の中で環境問題が解決に向かう状態が生まれることを期待するのです。

解決の道筋の見えない環境問題

SDGsのカラフルなアイコンからもイメージできるように、環境問題は貧困、教育、産業、消費など、持続可能な社会を構築する上で欠かすことができない多様なテーマとの間に、避け難い関係性を有しています。多方面からのアプローチが可能な反面、複雑に絡み合った関係性の糸を解きほぐすことは容易ではありません。ともすれば、相対的には、人も資金も情報も「環境」というテーマから離れる傾向にあるようにさえ映ってしまいます。

1972年の国連人間環境会議で環境問題が取り上げられてから、まもなく半世紀。その間、数多くのNGOやNPOが生まれ、様々な活動が展開されました。食い止められた環境問題も多数あったでしょう。進行する問題にブレーキを掛けた可能性もあります。しかし一方、未だ解決の道筋すら共有されない現状が目の前に立ちはだかっていることも、私たち環境分野に関わる人間に突きつけられた評価として受け止めなければならないと考えます。

質の高い活動を継続的に

幸いにも今回、申請書の隅々まで拝読させていただく中で、採択に至った団体からも、そうでなかった団体からも、同様の問題意識を感じ取ることができました。立ちはだかる壁は相変わらず大きなものです。であるが故に、継続的な活動が不可欠になります。先の見えない大海原を進む船に例えるならば、高品質の積み荷(活動)を詰め込むだけでなく、安定した船体そのもの(組織基盤)への絶え間ない眼差しが求められます。

こうした中、環境NGOや環境NPOと称される私たちは、活動強化と組織基盤強化という両輪を安定的に駆動する術を身につけ、今一度、しぶとく正面から課題と向き合うことが大切だと思います。そして、その中から得られたノウハウは、団体内でフィードバックするだけでなく、多種多様なネットワークを通じて他団体や他地域へ共有されるべきだと考えます。新たなノウハウを得た団体や地域は、新たな取り組みをスタートさせ、新たなノウハウを獲得することになるでしょう。こうしたプラスの連鎖に基づくスパイラルアップが地球上で次々に創出されることを強く願います。

地球環境を取り巻く課題について考え始めると、とかく暗く難しい雰囲気になりがちです。ありきたりの表現ではありますが、活動の継続には「楽しさ」も必要だということを、最後に付け加えます。無責任な意味ではない、良い意味での「前向きさ」「明るさ」とも言い換えられるでしょう。団体内に、あるいは環境分野に関わる全ての人々の間に、そうした雰囲気を醸成させる手法を構築することもまた、活動を支える基盤強化の一つなのかもしれません。

<選考委員>

★選考委員長

山崎 宏

特定非営利活動法人 ホールアース研究所 代表理事 ★

粉川 一郎

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授

佐藤 恭子

パナソニック株式会社 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室 主務

写真:

環境分野 選考委員長
山崎 宏