NPOを運営する上で、今まで思いも寄らなかった視点に気づく

ホールアース研究所の山崎さんは、組織診断の過程で記入する「組織診断シート」を特に高く評価しました。これは多様な視点からの質問に組織内のメンバーが回答することで、組織の課題を抽出し、解決策を探っていく「内部環境分析」のもとになるものです。
「WEB上でのアンケートだったので、十数名のスタッフが回答のプロセスをしっかり共有できました。今後、何か課題が生じて解決策を打つときも、全員が腑に落ちてくれると思います」
 また、設問項目によって「NPOを運営する上で、今まで思いも寄らなかった視点」に気づかされることもあったといいます。
「たとえば計画的な資金調達、マネジメント、人材の評価などはトップの人間だけでなく、その下の人間も意識することで、組織が変わってくることがわかりました。根幹に関わる議題なので、本業に忙殺される中で組織内の合意を得るのが大変でしたが、おかげで、優先課題と解決の方向性が明らかになりました」
さらに、スタッフの遠藤亮さんは「コンサルタントを始めとする外部の視点が入ったことがよかった」と述べました。中でも、組織診断の過程に「ステークホルダー(利害関係者)の意見収集」が含まれていたことには驚いたそうです。

ホールアース研究所
事務局長 山崎宏さん

ホールアース研究所
スタッフ 遠藤亮さん

ピッキオ
野生動物対策担当 玉谷宏夫さん

この「ステークホルダー調査」は自分たちで質問項目を考え、外部のステークホルダーと思われる人々に意見を聞きにいくというものです。たとえばピッキオでは軽井沢町に古くから住む住民、別荘や保養所の管理人、建設業者を訪ね、自分たちに対する評価や新たな事業のアイデアなどを募りました。その結果、クマ対策の実績を評価する声の一方で「もっと広報をしたほうがいい」といった意見が寄せられました。
中心となってヒアリングを進めたピッキオ野生動物対策担当スタッフの玉谷宏夫さんは、次のように述べました。
「私たちの課題は、外部とのコミュニケーションと情報発信の不足。まさに、この調査を通して、何かしら機会をつくって相手の懐に飛び込んでいくことの大切さがわかりました。これを機に、ほかのスタッフも外部の人と接する機会を積極的につくってもらいたいと思います

NPO砂浜美術館は「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」というコンセプトを掲げてきました。それだけに「言葉にしなくても、みんなわかっているよ、というような曖昧なところがあった」と村上さんはいいます。
「とはいえ、新しいメンバーが増えてくると、組織の目的や『あるべき姿』を明文化しないわけにはいかなくなってきました。組織診断を通して、スタッフが今まで言ってはいけないんじゃないかと遠慮していたことも、どんどん出てくるようになり、課題が整理できました。一人ひとりが組織の経営や数字を意識するようになったことも、大きな成果です」
また、「ステークホルダー調査」では黒潮町議会議員15人から回答を得ましたが、「組織の課題がどう解決されていくのか、彼らにもフィードバックしたい」ということです。

NPO砂浜美術館
理事長 村上健太郎さん

「グループコンサルティング」のよさは?

ホールアース研究所
事務局長 山崎宏さん

「グループコンサルティングコース」では合わせて3回、参加団体が「組織診断」の進捗状況を互いに報告し合う「集合研修」が行われます。
この進め方について、ホールアース研究所の山崎さんは「ほかの団体の進捗状況にも耳を傾けることで気づきや刺激もあったし、勉強になった」といいます。
「逆に組織診断の成果をほかの団体に説明するときは、自分の頭の中が整理されていき、有意義でした。こういう場がなければ、自分だけでわかった気になっていたと思います」

ピッキオの桒田さんは「こういう席に着かなければ、決してできない話だった」とした上で、「組織の問題を赤裸々に話すことには恥ずかしさも伴います。そこを乗り越えて、自分たちの組織をどうするか真剣に考える場が与えられました。同じ業界で同じような悩みを抱えている仲間と出会うことで、互いに頑張っていかなければと元気をもらいました」と話しました。
そして玉谷さんは、「多様な意見を聞き、自分たちの団体を客観的に俯瞰できるところがよかった。時間はかかるけど、組織を診断し、課題を抽出するのには適した方法だと思います」との感想を寄せました。

ピッキオ
理事長 桒田慎也さん

NPO砂浜美術館
理事長 村上健太郎さん

NPO砂浜美術館の村上さんは、他団体との比較ができる点に魅力を感じたといいます。
「私たちが拠点としているエリアは、同じくらいの事業規模で活動しているNPOが少ないので、こういう場があればと、ずっと思っていました。『ほかの団体がこうしているから私たちはどうする』という企画の立て方ができるようになりました」
実際の現場にいる人の悩みを聞き、自分の団体に当てはめることができたのも収穫だったそうです。
「特に人に関することは組織内の人間には話しにくい。それぞれの組織で同じ立場に置かれている人じゃないとわからないことも、ここでは話せました」

どの団体の話からも、これまで「組織診断」に打ち込んできた意気込みと充実ぶりがうかがえました。このあと3団体は、この日のディスカッションとコンサルタントからのアドバイスを踏まえ、さらにブラッシュアップした「組織診断結果」を提出します。その後、6月に行われる選考を経て「キャパシティビルディング助成」へと進んでいきます。