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取り組みから生まれた言葉や組織基盤強化のプロセスをたがいに共有し気づきを得る時間に

2013年3月8日、東京臨海副都心にあるパナソニックセンターにおいて、「Panasonic NPOサポート ファンド 子ども分野」の2012年継続助成団体の成果報告会が開催されました。会場には助成2年目を終えた4団体と、3年目を終えた3団体、そして選考委員、助成事務局など24名が参加しました。
報告会第一部は、助成2年目の団体からの成果報告、第二部では助成3年目の団体からの成果報告が行われ、いずれも報告の後に参加者間での質疑応答を行い、選考委員から講評をいただきました。
成果報告の後には、日本NPOセンターの顧問であり、協働事務局の市民社会創造ファンドの運営委員長でもある山岡義典氏から全体総評もいただき、報告会後の交流会では、選考委員も交えた情報交換はもちろん、助成事業の区切りを迎えて事務局と記念撮影する姿も見られ、さながらサポートファンド卒業式のような、和やかな時間となりました。

第一部 助成2年目の成果報告と講評

第一部では、継続助成2年目の4団体による発表が質疑応答と行われました。1団体15分の持ち時間で、それぞれの取り組みと成果について報告が行われました。その後、選考委員であるお二人から講評をいただきました。

<報告団体と「組織基盤強化事業」>

  • アトピッ子地球の子ネットワーク
     「次世代を担う相談スタッフ養成事業」
  • フリースクール「ヒューマン・ハーバー」
     「子どもの個性を認め成長を見守るフリースクールのスタッフ・ボランティアの育成と組織基盤強化」
  • シンフォニーネット
     「障害児やサポートの必要な子どものキャリア教育推進事業」
  • プレーパークせたがや
     「持続可能な組織デザインと遊びの社会的地位向上のための人財育成事業」

子どもや社会の変化を見据えた組織の社会的使命を

私は今年から選考委員になりましたので、発表を聞いて感じたことをお話しします。
近年の子どもたちの変化、なかでもデジタルネイティブの子どもたちのコミュニケーションや生活の変化は大変大きいと感じています。組織基盤強化の大元となる、組織の社会的使命をきちんと押さえているかどうかということを、子どもたちや社会の変化と見比べて、常に立ち戻って見直すことを忘れないでいただきたいと思います。

昨年、私たち子ども劇場では震災支援の活動として、子どもたちに舞台を届ける活動をしました。これまで有料だった舞台を、地域の大人がお金を出しあって子どもたちを招待する前例のない形で行ったため、当初は会員から疑問の声もありました。しかし、東北での120公演を終えて、子ども劇場が本当にやりたかったのはこういう活動ではないかという声があがり、現在、活動を見直しています。活動を通して今の社会において何をやれるのか、ニーズは何か、改めて気づかされました。
本日、皆さんの地域に根付いた躍動感のある活動報告を聞いて、活動の使命は自分たちがやりたいことをやればいいというものではないという思いを改めて強くしました。

子ども劇場東京都協議会
常任理事 森本 真也子氏

自らの問題をしっかりと把握して、外部のコンサルも利用しよう

組織基盤の核となる人・物・金・情報・計画に関する悩みは、終わりがありません。近年は、NPOに対する中間支援組織も増えていますので、ぜひ利用して欲しいと思います。コンサルタントの支援を受ける際には、それを受ける側が自らの組織課題を的確に説明できることが重要です。もしかしたら、それ自体が組織基盤強化の第1ステップになるかもしれません。

個別の評価としては、アトピッ子地球の子ネットワークさんは、相談スタッフ育成において「価値観を押しつけない、伴走する、可哀想で片づけない」という方針を立てましたが、これは子どもと対する時にも大切な指針だと思います。ヒューマン・ハーバーさんは、組織の労働環境の整備に取り組んでいますが、年初に立てた個人目標を年度末に振り返るなどスタッフの成長を実感できるしくみも作るといいと思います。シンフォニーネットさんは、事業開発を通して地域の企業が補助金制度を作る動きにまでつなげました。中間支援組織のコンサルもうまく利用されたと思います。プレーパークせたがやさんは、中長期計画の策定に取り組まれました。計画を作る際には、会員、利用者などをどこまで巻き込んでいくかも考えてみてください。
中期目標は一度始めたらやめられない、ある意味覚悟のいる取り組みですが、中規模以上の組織には欠かせないものです。ぜひ頑張っていただきたいと思います。

日本NPOセンター 事務局次長
坂口 和隆氏

第二部 助成3年目の成果報告と講評

第二部では、継続助成3年目の3団体による発表が行われました。1団体20分の持ち時間で、次のような事業の報告が行われました。報告のあとに質疑応答を行い、選考委員から講評がありました。

<報告団体と「組織基盤強化事業」>

  • 全国不登校新聞社
     「不登校の子どもたちの編集部と若者編集部の持続的発展に向けた組織基盤強化」
  • 銀杏の会
     「発達障害児の治療教育・相談活動に携わる若手専門家の育成」
  • PLAY FUKUOKA(旧:福岡プレイパークの会)
     「子どもの遊び場に携わる「支援者支援」のためのスペシャリスト養成講座」

これからは、専門家をつなぐ専門家も必要

子ども劇場東京都協議会
常任理事 森本 真也子氏

思ったことを3点ほど申し上げます。
まず、人材育成に関して。子どもに関わる人材とはどんな人材なのか、もう少し私たち自身が細分化して考える必要があると感じています。私は、子ども文化地域コーディネーター協会というNPOを立ち上げたのですが、これは専門家をつなぐ非専門家の集まりです。これからは、養育や教育の専門家だけでなく、 “専門家をつなぐプロ”が必要ではないかと思っています。

2つ目に、組織と個人の問題ですが、代表者がいなくても同じように見える、社会に対して責任を果たせる組織ということに、私自身、非常に苦慮しています。代表者の個性とは別に、組織の個性が見える組織にするためには、組織の特色をきちんと明快にすることと、それをうまく見せることを考えて欲しいと思います。

3つ目は、子どもとは体験のなかで育つのではなく、生活のなかで育つのであって、地域を切り離して考えることはできないということです。ここで言う地域とは、行政も必要ですが、最も大事なのは地域住民であり自治会などの地縁組織です。そうした組織へのアプローチが、もうひとつの組織基盤強化につながるのではないかと思っています。

譲れないものはしっかり守り、ぶれない組織づくりを

個別の評価としては、全国不登校新聞さんは、うまく成果をあげていますが、子どもたちが先輩達のスキルを
どう引き継いでいくのかというスキームを知りたいと思いました。それが、持続可能な組織につながると思います。銀杏の会さんは、人材育成プログラムのなかに活動の概要を伝え主体的な参加を促すなど、組織を我が事化していくプロセスをうまく取り入れています。目の前にある危機を冷静に考えられるのも組織基盤強化の成果だと思います。PLAY FUKUOKAさんは、3回の助成申請で5年間、組織基盤強化に取り組まれました。助成のない期間も取り組みを続けたことは素晴らしいと思います。組織基盤強化は、本来じっくりと取り組むべきものですから、サポートファンドの最長3年という助成スキームは非常に理にかなっています。

組織がダイナミックに成長するときこそ、組織基盤を見つめ直すことが大事です。組織規模に応じて、事業ごとに担当理事を設けるといった役割分担も必要かも知れません。
PLAY FUKUOKAさんは“緩やかな組織体”と書かれましたが、譲れないミッションやコアバリューがしっかりと守られていれば、どんなに緩やかでもぶれない組織でいられると思います。

日本NPOセンター 事務局次長
坂口 和隆氏

全体総評

取り組みから生まれた言葉も、貴重な成果として共有を

今日の成果報告会は、助成2年目と3年目の団体によるレベルの高い発表でした。
さすがに、自分たちの言いたいことをよく理解して話をされていると感じました。1年目ではうまく説明できなかったことも、きちんと言葉で説明され、取り組みによってどう成長したかもよく整理されています。
言い換えれば、取り組みのなかで生まれてきた言葉がたくさんあるわけです。それがこの場で発せられることで、他の団体にも影響を与えているわけです。組織基盤強化に関するたくさんの言葉が生まれ、洗練され、共有されてきた。これも、このプログラム、そして皆さんの取り組みの大きな成果だと思います。

選考委員のお二人からも的確なアドバイスをいただきました。そのなかで、何のための組織基盤強化か、ミッションとは何かという問いかけがありました。ミッションとは時代のなかに何を見るかということです。
社会の動きを見極め、ニーズに気づく目が養われて初めて組織基盤強化の意味がある。それがないと、単なる組織マネジメントになってしまいます。また、時代の流れのなかでミッションが大きく変化することもあります。とにかく、常に冷静な目を持ってミッションを見失わないことが大事です。

今回は目標の数字達成の成果も多く、皆さんの成長に感心したのですが、数字は上がればいいというわけではないということも覚えておいて下さい。たとえば、内容の質を上げれば実施回数は減るかもしれません。
参加者も減るかもしれない。
寄付者もサポーターも多い方がいいけれど、身の丈にあった数字を見極めないと思わぬ落とし穴にはまるということもあります。いくら立派なコートを着ても、中身が貧弱では意味がありません。

最後に、今回のように洗練された事例発表を行える団体は、今の日本には多くないと思います。いろいろなところで、こうした報告や講演をやっていただくといいですね。成果をブックレットにまとめるのも良いでしょう。この助成事業で生まれたキーワード集や事例集も良いですね。皆さんの成果は、必ずや悩みを抱えている多くのNPOの役に立つと思います。

市民社会創造ファンド
運営委員長 山岡 義典氏

第三部 NPOサポート マーケティングプログラムの紹介

第三部では、パナソニックがNPOサポートセンターとともに行っている「Panasonic NPOサポート マーケティングプログラム」の紹介を行いました。
このプログラムでは外部講師や社会人のサポートを得ながらマーケティングの力を組織に根付かせ、組織が抱える様々な課題を解決できるようになることを目指し、マーケティングの研修と個別課題解決の実践に取り組みます。
実際に助成を受けた「全国不登校新聞社」の報告もありました。全国不登校新聞社は、事業の柱となる新聞の発行部数減という危機を、「顧客視点」や「効果測定」の観点から購読者獲得の手法を見直すとともに、ホームページや会費制度などを改変して発行部数を倍増させています。このプログラムで実践してきた取り組みについて、データも交えて紹介がありました。

以上で成果報告会のプログラムが終了し、続いて茶話会形式の交流会を行いました。

子どもたちの健やかな育ちを応援する7団体、そして選考委員、事務局と同窓会にも似た和やかな雰囲気でお互いに情報交流、意見交換が行われました。ともに複数年、このサポートファンドで組織基盤強化に取り組んだ仲間です。あちこちで話が盛り上がっていました。

ある団体の理事長からは、
「今日はじめて成果報告会に一緒に参加した新事務局長より『東京まで来て良かった。他団体の話を聞いて勉強になったし、自分たちもまだまだこれからやることがいっぱいありますね』との感想が聞け、それがとても嬉しかった」との話がありました。

この成果報告会での学びや気づきをご自分の団体に持ち帰って共有いただき、これからもミッション達成に向けて絶えず組織基盤の強化に取り組んでいただきたいと思います。また、皆さんが取り組んでこられた組織基盤強化のストーリーを、同じテーマで活動している団体や、皆さんの地域で活動している団体の皆さんにも広く紹介いただき、活動の発展に組織基盤の強化が欠かせないことを、ともに発信していただけたらと思います。

サポートファンド
総合事務局 東郷 琴子