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Panasonic NPOサポート ファンド 環境分野・子ども分野 成果報告会 ― 地域社会との関係を見直し、組織の在り方を問う 組織基盤強化の意義

2014年7月17日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京で、Panasonic NPOサポート ファンドによる成果報告会を開催しました。今回の発表団体は、2011年よりプログラムの仕組みに取り入れた「組織診断にもとづく組織基盤強化」に取り組まれた団体です。会場には、組織基盤強化に継続して2年取り組んだ5団体と3年目を終えた6団体、選考委員や事務局、一般参加者など総勢51人が参加しました。
第1部では子ども分野、続く第2部では環境分野による成果報告会、質疑応答、講評が行われ、終了後には、発表団体や一般参加者を交えた交流会の時間が設けられました。

組織基盤強化に取り組んだ11団体 その苦労から課題解決法を学ぶ

成果報告会の冒頭に、パナソニックCSR・社会文化グループ グループマネージャーの福田が挨拶しました。

CSR・社会文化グループ
福田里香

「Panasonic NPOサポート ファンドは2001年に設立されました。この14年でプログラムの見直しを重ね、活動を継続していくことを重視し、組織診断を経て組織基盤強化に取り組む現在の形になりました。このあと発表される11団体中5団体は助成3年目の取り組みを終えて、今日が卒業式です。それぞれの苦労をどう乗り越え、解決したか。そこには共有すると良いいろいろなヒントがあると思います。成果報告会終了後の交流会も、皆さまのネットワークづくりにぜひご活用ください」

第1部 子ども分野 成果報告

子ども分野は助成3年目を終えた4団体と、助成2年目を終えた3団体の2つのグループに分かれて、組織基盤強化の取り組みと成果を発表しました。

幅広い視野での事業見直し、 中長期計画の共有が組織の力に

認定NPO法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
発表者:代表理事 中島早苗さん、事務局長 原元望さん

「カナダの少年が設立した団体で、社会問題の解決に子ども自身が行動することを大切にしています。集客や寄付、教材の販売部数の伸び悩みに課題を感じて応募し、組織診断をしてもらったところ、幅広い視野で組織を見直すことができ、当初感じていた「広報」の課題の前に「事務局体制の強化」が必要だという結果がでました。
そして事務局体制の再検討やインターンを先輩インターンが育成する体制づくりに取り組みました。団体のホームページやパンフレットも大人にも見やすいデザインに変えたところ、寄付額は755万円から1732万円に増え、海外の受益者も倍増しました。市民団体に基礎体力をつける貴重な助成制度だと思います」

NPO法人 ホームスタート・ジャパン
発表者:理事・事務局長 山田幸恵さん

「児童虐待のない社会の実現を目指し、家庭訪問型子育て支援・「ホームスタート」の全国普及に取り組んでいます。組織診断ではマンパワーの不足、助成金頼みの資金体制、関係者の巻き込み不足が見えてきました。中長期計画を立て、どのようにして活動を広げていけるかを全員で共有できたことが大きな力となりました。また、これまで訪問した親子、ボランティア、行政をインタビューするステークホルダー分析では、自分たちの活動の効果を実感できました。潜在的な支援者も見えるようになり、『力を貸してください』と自ら言えるようになりました」

今までにない発想で新規事業を開拓

NPO法人 CAPセンター・JAPAN
発表者:事務局長 長谷有美子さん、ファンドレイジング・IT担当 津高聡子さん

「CAP(Child Assault Prevention=子どもへの暴力防止プログラム)というプログラムを通じて、子どもの人権が尊重される社会を目指しています。組織診断では中期計画や目標がない点、社会との接点が希薄で共感を呼べていない点が課題として見えてきました。そこで、エンドユーザーが子どもであることを明確にした中期目標と行動指針を立て、ファンドレイジング・IT担当者を配置して、タイムリーな社会発信ができるようにしました。さらに、オンライン寄付を始めたことで分野を超えた方とのつながりが生まれ、新規事業の開拓にもなりました」

認定NPO法人 エンパワメントかながわ
発表者:理事長 阿部真紀さん、事務局長 池畑博美さん

暴力のない社会の実現を目指し、子どもへの暴力防止プログラムCAP(Child Assault Prevention)を提供しています。CAPの実施数の減少や、各人の責任の所在が不明瞭なことが課題でした。組織基盤強化では、まず事務局体制を強化しスタッフの育成計画に取り組みました。そして収入バランスを安定させるために、『1万人の子どもにCAPを届けるキャンペーン』などの寄付の仕組みづくりやクラウドファンディング、SNSでの情報発信にも取り組みました。その結果、正会員、活動する人、ボランティアが増え、役割分担も明確になりました。組織診断により今までになかった発想が生まれ、目指していた以上のものを得ることができました」

自分たちの症状を知ることが 次の一歩を踏み出す勇気に

NPO法人 生涯学習サポート兵庫
発表者:事務局長 久後恵美子さん

「効率より過程を大切にする社会の実現を目指し、“あそび”という手法を使って幅広い年代向けに事業展開しています。組織基盤強化では多様化したプロジェクトを整理し、新たに2法人を設立して分社化しました。10年間の事業や今後の方向性を伝える広報媒体を作成・配布したことで、たくさんのステークホルダーを巻き込むことができました。外部の専門家に見てもらうことで自分たちの症状に気づき、個人プレーのチームから、地域の課題に共感をもって解決するチームプレーの集団へと変わることができました」

NPO法人 ちいさいおうち共同保育園
理事 芳賀陽子さん、副理事長 斎藤秀行さん

「子どもたちのための自然を確保する活動、20年先を見越した保育園運営や子育て支援、地域交流に取り組んでいます。3年前、運営を巡ってメンバー内で不和が起き、存続の危機に立たされ、すがる思いで応募しました。慢性的な資金不足打開に向けて、組織診断でコンサルタントからいただいたアドバイスをもとに勉強会を開き、情報収集に努め、認定こども園の取得を目指しています。組織の課題を共有できたことは大変な成果です。落ち込んでいた組織内の空気に風穴を開け、次へ踏み出す勇気をもらいました」

NPO法人 下関市自閉症・発達障害者支援センター シンフォニーネット
発表者:理事長 岸田あすかさん

「15年前に学校が隔週2日休みになったのを機に、行き場をなくした親子の居場所づくりを始めました。組織診断で中長期的視野での活動体制が確立できていないことが判明し、コンサルタントに組織運営のノウハウを学び、定款と理事会のあり方を見直しました。その甲斐あって今は、山口県発達障害者地域支援モデル事業の開発・運営を任されています。また福祉の枠にとらわれず、働く場を提供するギャラリーカフェの運営など、動きのある活動を始めたところ、1度離れた会員さんが戻ってきました」

●講評

各団体の発表後には質疑応答があり、選考委員のお二人から講評をいただきました。

NPO法人 子ども劇場東京都協議会
常任理事 森本真也子さん

社会での役割を知り、有機的につながる

「NPOの活動をしていると、自分たちのプログラムの魅力を声高に言いたくなりますが、大事なのは、自分たちの活動が社会のどの位置でどんな役割を果たしているのかを知り、プログラムが、どの団体と有機的につながれば真価を発揮するのか客観視できるようになることです。日本の子どもたちは世界で一番孤独を感じているという調査結果もあります。人は何によってつながり合えるのかというところに、子ども分野のNPOの大事な仕事があります。それぞれのパワフルな活動を発信し、協働して社会に広げていきましょう」

認定NPO法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 事務局長 片山信彦さん

中長期計画と組織診断を合体させてルーティン化

「発表を聞き、組織診断は組織を客観的に見直す意味で、とても役に立つことがわかりました。中長期計画と組織診断を合体させて3~5年に1度、組織を見直すことをルーティン化していければ、さらにすばらしいと思います。今日は成果報告会での発表ということで、成功例を中心にお話しいただきましたが、失敗例も聞きたかったというのが正直な感想です。失敗から何を学び、どのように克服したかということをシェアできれば、NPO・NGO全体がもっと成長していけるのではないでしょうか」

第2部 環境分野 成果報告

続いて環境分野の4団体が、組織基盤強化の取り組みと成果、組織基盤強化のコツなどを発表しました。

ときにはぶつかりながら組織の若返りを図る

NPO法人 スペースふう
発表者:理事長 永井寛子さん、管理部部長 長池伸子さん

「循環型社会の実現を目指し、リユース食器のレンタル事業をしています。組織診断の結果、理事の高齢化や世代交代ができていないこと、中長期計画の不在などが課題として挙がり、組織の問題ゆえにレンタル事業も伸び悩んでいました。2020年の東京オリンピックを見据えた中長期計画を立て、世代交代をする中ですれ違いが生じ、組織内で反乱が起きたこともありました。何度もぶつかりながらも組織の膿を絞り出し、レンタル拡大の新しい仕組みをつくれたのは、外部の専門家の力があったからだと感謝しています」

NPO法人 河北潟湖沼研究所
発表者:職員 番匠尚子さん、職員 高橋 奈苗さん

「石川県の河北潟と周辺の自然環境保全を目的に活動しています。組織診断の結果、活動歴は長いが新規メンバーを獲得できていない、組織的な活動が弱いという課題が浮上し、会員獲得のための呼びかけや活動者・研究者向けのイベントを行った結果、新規会員も増え、スタッフも1人加わって組織全体が若返りました。顔を合わせて話す場をつくったことで活動が次へ展開するようになり、業務に対するスタッフの意識も高まりました。組織全体で取り組むことと、組織の土台となる人材が大事だということがよくわかりました」

地域にあるものの価値を活かす

NPO法人 ホールアース研究所
発表者:執行役員 田中啓介さん

「1982年から富士山麓を拠点に環境教育や里山保全を行っています。カリスマ創業者の引退を機に組織診断を受け、さまざまなステークホルダーの声から、「非日常である体験プログラムの日常化」をテーマに据え、今年度事業に取り組みました。間伐材や放置竹林の竹、獣害をもたらす鹿の革を活用した生活用品をキット化・体験プログラム化し、これから広く展開していきます。組織基盤強化は働いている人がより活き活き・ワクワクするための取り組み。組織基盤とはすなわち人材基盤だと実感しています。」

NPO法人 NPO砂浜美術館
発表者:理事長 村上健太郎さん、事務局長 山本あやみさん

「高知県の黒潮町で砂浜を美術館に見立て、さまざまな活動をしています。代表者が高齢化し、私が引き継いだのを機に助成を受けました。組織診断では、地域に活動が浸透していないことと委託事業頼みの財政構造を指摘されました。町議会議員15人へのステークホルダー調査で出た意見をもとに、私たちの集客力と地域の商品をつなぐWEBショップを立ち上げ、地域の35団体による観光ネットワークを構築して視察・研修のプログラムを開発しました。他団体に学び、第3者の視点を採り入れたことの意義は大きかったです」

●講評

環境分野でも、講評を選考委員、協働事務局のお二人からいただきました。

武蔵大学 社会学部
メディア社会学科
教授 粉川一郎さん

組織基盤強化は強度を上げるタイミング

「ランニングをしていてタイムが頭打ちになったとき、走り始めから飛ばしてみると翌日にタイムが伸びた経験があります。体幹トレーニングが終わったら、強度をさらに上げて体をもっと上のレベルへもっていかなければなりません。組織基盤強化はまさに、このタイミングではないでしょうか。環境分野の4団体は、NPOサポートファンドが目指している団体の成長と、その成長が社会に何をもたらすかを見事に体現してくれたと思います」

NPO法人 地球と未来の環境基金
理事長 古瀬繁範さん

出会いと別れも組織が成長していく糧

「組織基盤強化の過程では理事との確執が起きたり、スタッフが辞めたりというドラマも生まれますが、これも組織の成長に必要な出会いと別れなのだと前向きにとらえてください。商品を提供して対価を得る企業とは違い、NPOにはサービスに対する対価をいただく顧客と寄付をいただく顧客との2つの顧客があります。環境分野は自然という声なき顧客も大切にしていかなければなりません。近年は問題ごとに団体が細分化されてきてはいますが、社会全体として環境を守っていくには環境団体が連携してアクションを起こすことも、ときには必要だと思います」

●全体講評

子ども分野、環境分野の全団体の発表、選考委員の皆さまからの講評、そして会場での質疑応答を経て、最後に全体総評を市民社会創造ファンドの山岡運営委員長よりいただきました。

NPO法人 市民社会創造ファンド
運営委員長 山岡義典さん

世代交代による組織変革。 一時的な弱体化も必要なプロセス

「組織診断で見えたことを突き詰めて組織基盤強化へ移行する過程で、自分たちの課題が“地域社会との関係性の再構築”であることに気づき、地域社会と生きた関係を築き直そうと取り組んだ団体が多かったように思います。また、世代交代による組織変革をしたことで一時的に組織基盤が不安定になり、弱体化したところもありますが、これも新しい組織をつくる上では避けられないことです。初めに第3者の目でしっかりと組織診断を行うことの重要性に改めて気づかされた報告会でした」

このあと開かれた交流会に引き続き、3年の助成を終えた5団体に修了証が授与されました。
また、参加者は「いいね!」と思った点やアドバイスを記入したポストイットを各団体の「コメントシート」に貼り、発表団体はこれをお土産として持ち帰りました。今日の成果報告会での学びを各団体で共有いただき、引き続き継続して組織基盤強化に取り組んでいただきたいと思います。