学び合い・知って・考える
組織基盤強化の実践に向けたワークショップ

NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップ2018 in 東京

2018年5月11日、東京都内の会場で「NPO/NGOの組織基盤強化のためのワークショップ」を開催しました。このワークショップはNPO/NGOの皆様に組織基盤強化の第一歩である組織課題を深掘する体験をしていただくために開催するもので、2013年から日本NPOセンターと協働で開催しています。今年1回目となるこの日は、定員を大きく上回る皆様にご参加いただきました。本ワークショップは、組織基盤強化の意味や意義についての座学や、組織基盤強化に取り組んだ団体の事例発表からの学び、組織課題を深掘りするワークショップの3部構成になっています。
今年は東京での開催をかわきりに、広島・福岡・宮城・愛知・大阪・埼玉の全国7ヵ所でワークショップを開催しました。

講座「組織基盤強化の意味と意義について」

注目したい4つのポイントと市民参加
組織基盤強化とSDGsの関係

NPOのプロジェクトが積み荷だとすると組織基盤は船体。プロジェクトを支える組織基盤が脆弱なまま走っていると無理が来て、どこかで見直すタイミングが来ます。今日はそういうことを考えている方々が参加していると思います。

日本NPOセンターは組織基盤を①目標設定・②人的基盤・③財政基盤・④ガバナンス(組織統合体制)の確立という4つの側面から考えています。
中でも①目標設定はNPOの根幹部分。私が成功したら社会はこうなるという30年後・50年後の「目標(ビジョン)」を掲げ、そのためにすべき「使命(ミッション)」と、それを支える判断基準となる「価値(バリュー)」を考えることが大事です。

日本NPOセンター
常務理事 今田 克司さん

②人的基盤というのは組織統治、事務局体制の整備、スタッフの活動しやすい環境づくり、市民が参加しやすい組織づくりのこと。潜在的関心層から支援者、会員、スタッフ、役員へと参加の階段を上がってもらい、組織のすそ野を広げる働きかけも必要です。

③財政基盤については、助成金や寄付、会費などの「支援性財源」と事業収入からの「対価性財源」があり、それらを補助金・助成金や受託事業などの「外発的財源」と会費・寄付金や自主事業といった「自発的財源」に分けて考えます。補助金や助成金、受託事業などの外発的財源はある意味、自分たちの組織ではコントロールができません。ですから、それらをうまく使いながらも、内発的財源を大事にすることを勧めています。

④ガバナンスは組織統治とも訳されます。就業規則や決裁権限規定などの仕組みをつくることで、理事が日々の運営に口を出さずにすむ。意思決定の透明さや状況に応じたリーダーシップなどが上手く機能し、ガバナンスとマネジメントの役割分担がうまくいけば組織として回っていきます。組織の置かれているステージによって強力なリーダーシップのよる専制型、皆が意思決定に参加する民主型、一人ひとりが自らの責任と役割において行動する放任型を使い分けられるといいでしょう。

続いて、市民の参加がNPOにもたらす変化について、お話しします。
NPOには対象や課題という第一の顧客と、支援者という第二の顧客がいます。NPOが支援者に、NPOへの共感を高め、参加の機会を提供することで、自発的な人たちが集まり、「ほっとかれん」という民間活力が高まります。

最近は、個々がもっている専門性を活かすプロボノも増えていますね。ボランティアは寄付者やファンドレイザーにもなり得るため、内発的財源が増え、組織の安定にもつながる。また、自分たちの発想をしっかりと伝えたり、常に情報公開を考えるため、意思決定の透明化につながるなど、ガバナンスの質も向上します。

共感で支えられる組織は、対価的収入が確保しにくい事業にも取り組みやすく、アドボカシーを進めやすくなります。その結果、団体が取り組む課題や団体の運営を自分事とする当事者が増えるのです。一般市民が当事者性を意識し参加するようになる。こういった参加を大事にすることで組織がより豊かになっていきます。

最後に、今回のパナソニックの助成のテーマでもあるSDGs(持続可能な開発目標)と組織基盤強化について考えます。なぜ私たちはSDGsに注目すべきなのか。それは①世界が持続不能であるという問題意識、②誰一人取り残さないという価値観、③先進国と途上国の抱える課題を共通の尺度で考えようという姿勢、④市民社会こそがSDGsをつくったという自意識、この4つをもつためです。自分たちが何のために活動しているかを、より大きな視点で立ち返る契機になる。
SDGsは組織単位で自分たちの時代的妥当性を問い直すツールや、共通言語としてコミュニケーションを図るツール、地域単位で課題発見・解決のツールとして活用することができます。日本NPOセンターも参加している「SDGs市民社会ネットワーク」という新しい組織ではSDGsを学んだり広げるツールを提供していますので、こういったリソースも活用してみてください。
SDGs市民社会ネットワーク

‐組織基盤の事例報告‐ 目標ができて、みんながコミット
やりがいがでて、モチベーションがアップ

私たちは練馬区で、幼児から中学生を対象とした冒険遊び場プレーパーク、屋外・室内の子育てひろば、冒険遊び場と農園が合体した区立公園、さらに学童保育の運営をしています。
当団体は、私が子育て中の2003年に、主婦仲間3人で、自宅近くの公園でプレーパークを開催したのが始まりでした。しかし、チラシを近隣の小学校11校に6000枚配っているのに、遊びにくるのは1日200人程度。残りの5800人がなぜ遊びに来ないのだろう?ということが気になり実態を探っていくと、外であそぶ子とそうでない子とでは、乳幼児期からの体験や親の育て方が違うことに気がづきました。そこで、乳幼児親子を対象とした屋内・屋外の子育てひろばを立ち上げ、現在では、乳幼児から小学生まで、全ての子どもがあそんで育つ「まち」づくりを目指す団体として活動しています。

NPO法人 あそびっこネットワーク
理事長 中川 奈緒美さん

しかし、活動をしながら新たな課題に気づき、それを解決したい人がボランティアマインドで集まり事業化していくことを繰り返しているうちに、毎年100万円近い赤字を理事が寄付をして埋める状況から抜け出せなくなっていました。また若いスタッフからは、「キャリアアップのイメージがもてない」「昇給の仕組みはどうなっているのか」という声もあがり、次第にモチベーションが低下していきました。

そこで2016年、組織基盤強化の助成に応募し、ファンドレイジングと現場スタッフの業務評価制度の構築を目標に掲げたところ、ヒアリング時点で、そもそも何が課題なのかを客観的に見る組織診断から始めることを勧められました。組織診断では問題構造の分析、競争力の整理、ステークホルダーの整理などと次々に宿題が出され、会議しては資料を書き、書き直すことを続けた1年目でした。

診断の結果、(1)ビジョンと事業計画が具体的でなく、スタッフ間で共有されていない (2)組織の成長に応じたマネジメントが不足している (3)会計・財務管理体制の不足、財務体質改善という課題が明らかになりました。そこで、①組織診断により団体の課題と基盤強化の方向性を明確にする ②スタッフ全員が団体の新たな舵取りに理解賛同して一丸となる ③今後の事業推進に必要なステークホルダーを明確にする、という目標を設定することにしました。
取り組むべき課題が明確になることで、若手スタッフのモチベーションが高まりました。また、理事が交代し、ワークライフバランを尊重した多様な働き方や、赤字事業の原因と無駄の削減に取り組み、第二の創設期として、持続可能な組織へと生まれ変わろうとしています。

特に、ステークホルダーを練馬区と全国に分けて図式化したことは、かけているメガネの色を替えたぐらいの意識転換となりました。練馬区70周年事業のブックレット『こどもがそとであそぶまち・練馬 多世代つながるゆるまちアイデアBOOK』は、明確になった団体のミッション・ビジョンをわかりやすく伝えるためのツールとして作成しました。また、全国に向けた活動の始動として、他団体や中間支援組織との連携し、研修プログラムの開発にも取り組み始めています。

写真:NPO法人 あそびっこネットワーク 理事長 中川 奈緒美さん

今年掲げた組織基盤強化の目標は2018年度中にほぼクリアする予定ですが、来年、再来年は、そもそも助成金を応募した際に掲げていた、ファンドレイジング、業務評価体制の構築、さらに、他団体と連携した新規事業の開拓にも取り組みたいと考えています。

‐組織課題について深掘りするワークショップ‐ 大きな課題を小さく切り分け、根っこを掘り出す。
異なる視点が新たな気づきに

写真:ワークショップの様子1
写真:ワークショップの様子2
写真:ワークショップの様子3

参加者はA~Hまでの8グループに分かれて座り、自己紹介シートに、組織内での自分のイメージを表す漢字1文字、おもな業務、組織名と名前、現在の組織での活動年数を記入。1人30秒で自己紹介をおこないました。ここでは、Aグループの様子をご紹介します。

①扱うテーマを選ぶ

初めに「ボランティアが集まりにくくなってきた問題」「事業と財源の整合性がずれている問題」「活動資金を確保できるか分からない問題」という三つの事例の中から、グループで話し合って扱うテーマを一つ選びました。「全部当てはまります」という声もあがる中、Aグループでは「ボランティアが集まりにくくなってきた問題」を選択しました。

②シートから問題点を洗い出す

次に、シートを読んで問題だと思う箇所を洗い出して線を引き、「◯◯問題」とタイトルをつけました。「理事の関わりも、事業がうまくいくほど逆に薄くなってきている」という箇所には「理事のモチベーション低下問題」、「イベントはいつも有給スタッフばかりバタバタしていて」という箇所には「役割がはっきりしない問題」といったタイトルがつけられました。

③最も根っこにある問題を探る

その内容をポストイットに転記して模造紙に貼り、グループで共有し、すべての中から最も根っこにあると思われる「組織の問題」を一つ選びました。Aグループでは「ボランティアにやり甲斐がないと続けて関われそうに思えない」「やらされてる感があるなら、そう思わせる職員の問題でもある」などの理由から「ボランティアが楽しくない問題」が選ばれました。

④何が問題かを洗い出す

続いて、選んだ問題がそもそもなぜ起きているのかを掘り下げて、別の色のポストイットに書き出したところ、「意思決定にボランティアが関われていない」「有給スタッフがボランティア活躍の場を用意できていない」「やり甲斐や目的・ミッションが薄い」といった意見が出ました。

⑤さらに問題を深掘りする

その中からさらに一つを選び、それがなぜ起きているのかを別の色のポストイットに書き出し、もう1度掘り下げました。Aグループでは「ミッションがあいまい問題」を選択。「組織のそれぞれの役割が明確じゃない」「そもそも、ビジョンが共有できていない」「時代の変化に合わせてビジョンも見直していく作業が必要ではないか」と、議論が深まりました。

⑥自分の組織の課題を掘り下げる

最後の個人ワークでは、参加者それぞれが自分の団体に対して感じていることを洗い出し、そこから組織に関する課題を一つ抜き出して、それがなぜ起こっているのかを掘り下げました。課題の根っこを掘り出す一連のワークを通して、大きな課題も切り分けてパーツに分けることで解決法が浮かび上がってくること、そして組織外という異なる立場の視点からチェックすることで違う風景が見えてくることを学びました。

新しくなった「Panasonic NPOサポート ファンド」
新テーマは「『貧困の解消』に向けて取り組むNPO/NGOの組織基盤強化」

ワークショップの最後に、2018年4月よりスタートした「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」についてご紹介しました。

このプログラムは、貧困の解消に向けて取り組んでいるNPO/NGOの組織基盤の強化を応援する公募型の助成プログラムで、新興国・途上国内の貧困の解消に向けて取り組むNGOを対象とする「海外助成」と、日本国内の貧困の解消に向けて取り組むNPOを対象とする「国内助成」の2つのプログラムがあります。

パナソニックは創業以来、事業を通じて社会の発展に貢献してまいりました。そして事業活動とともに企業市民活動にも積極的に取り組んでいます。
NPO支援では、2001年に本プログラムの前身となる「Panasonic NPOサポート ファンド」を立ち上げ、以来、「子ども分野」「環境分野」「アフリカ分野」と社会課題の広がりとともに、助成プログラムを進化させてきました。

創業100周年の今年、世界的な社会課題である共生社会の実現に向けた『貧困の解消』」に向けて取り組むNPO/NGOを応援しようと、新たに舵を切ったところです。貧困の解消はSDGsが掲げる第一の目標であると同時に、当社の創業者が考える企業の社会的使命でもありました。

パナソニック CSR・社会文化部
主幹 東郷 琴子

2018年度募集の助成対象事業は、第三者の多様で客観的な視点を採り入れた「組織診断」、または「組織基盤強化」の取り組みになります。応募要件は、団体設立から3年以上経ち、日本国内に事務所があり、有給常勤スタッフが1人以上いることです。選考基準の中でも、組織基盤強化に取り組む背景や問題意識、目的が明確かどうか、目標が明確で実現方法が適切かどうか、組織基盤強化を通じて貧困のない社会づくりへの貢献が期待できるかどうか、といった点を特に重視します。
応募受付期間は2018年7月17日(火)~8月3日(金)必着となっています。組織の自立的な成長と自己変革に挑戦する皆様からの応募をお待ちしています。

「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」詳細はこちら

この日は、組織基盤強化をテーマに、組織運営上の課題を深堀していく体験をしていただきました。組織基盤強化の第一歩は組織課題の原因を深掘りしていくところからです。パナソニックは「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」での組織基盤強化の取り組みを通じて、市民活動の持続発展、社会課題の解決促進、社会変革に貢献し、誰もが歓びを分かち合い、活き活きとくらす共生社会を目指してまいります。