国内助成 2018年募集事業 選考委員長総評

はじめに

2015年に国連で採択された2030年までの持続可能な開発目標である「Sustainable Development Goals(SDGs)」では、第一の目標に「貧困の解消」が掲げられており、新興国・途上国における絶対的貧困はもちろんのこと、先進国でも相対的貧困が広がりつつあるなど、その課題解決に向けた取り組みが急務となっています。
日本においても2000年代に入り社会的格差の拡大が顕著になりました。2015年に子どもの貧困対策法や生活困窮者自立支援法が施行されるなど、貧困への取り組みがスタートしたことを受けて、貧困の解消に向けた民間団体が増加し、全国各地で活発な活動が展開しています。
これらの動向を受けて、今年度のサポートファンドに、「貧困の解消分野」が加わりました。この分野は、「貧困の解消」に向けて取り組むNPO/NGOが持続発展的に社会変革に取り組めるよう応援するものです。その内容として、第三者の多様で客観的な視点を取り入れながら組織課題を明らかにするための「組織診断」や、組織課題の解決や組織運営の改善に向けた「組織基盤強化」の取り組みに対して助成するものです。

応募状況と選考のプロセス

公募は4月25日に開始し、5月~6月にかけて全国7か所(東京・広島・福岡・宮城・愛知・大阪・埼玉)で組織基盤強化ワークショップと公募説明会を開催しました。応募を8月3日に締め切り、応募総数は26件(組織診断からはじめるコース14件、組織基盤強化からはじめるコース12件)でした。
先ず、応募団体と応募内容について事務局が要件チェックを行い、8月23日の予備選考委員会において、21件が各要件を満たしていると判断されました。次にこれらの応募書類について、選考委員5名が選考基準に加えてそれぞれの専門性を加味して評価を行い、21件の中から各委員が推薦したいと思う案件を5件選び、1位から5位までの順位と推薦理由をつけて事務局に提出しました。

10月2日の選考委員会において、選考委員長と選考委員が集まり、推薦がついた案件を1件ずつ審議した結果、10件(助成候補7件、補欠3件)が選考ヒヤリングの対象となりました。10月12日~11月1日に事務局が現地で団体にヒヤリングをし、11月9日に委員長はその結果を受けて、助成対象団体8件(組織診断6件、組織基盤強化2件)、助成総額995万円を決定しました。
組織基盤強化に申請した団体は12件でしたが、実態としては組織診断を踏まえる段階にある団体が多く、助成が決まったのは2件のみでした。団体の力量を強化するためには第三者の目も入れながら団体の現状を客観的に把握し、何が課題かをつかむ<組織診断>の作業なしには、つぎのステップに歩みだすことはできません。今後の応募に際しては、団体の現状が組織診断の段階なのか、組織基盤強化の段階なのかを正しく見極めていただくことが大事だと思います。

選考結果からわかったこと

選考された団体、惜しくも選考から漏れた団体を合わせて、選考のプロセスのなかで、貧困の解消に向けた民間団体の活動から見えてきたことを5点にまとめてみました。

  1. 組織診断によってデータを収集し、組織課題を明確にし、仮説を検証し、強みを把握してこれを活かす方向性を打ち出そうとしている団体は、持続性がありしかも発展性が見えるものとなっています。さらに、人的基盤や財政基盤について中長期的な計画を立てようと意識することによって団体は強化されています。
  2. 活動の成果を測る指標と評価の仕組みをもち、活動の見える化を図ることが組織の強化をもたらし、かつ事業の発展につながります。
  3. 団体の運営上、常に中長期的な見通しをもつことが重要ですが、その際、世代交代を念頭に置くことが必要です。創始者の力が強い団体ほど後継者を養成することがおざなりになる傾向があります。経営者は常に後継者養成を念頭に置き、計画的に研修等を行い、適切なタイミングで若い世代にバトンタッチしていく必要があります。
  4. 団体が成長していくにしたがい複数の事業を手がけるようになります。その際大事なことは、事業間の連携をしっかりとつけることです。また事業間連携による相乗効果が見えることが団体の成長発展を示していると思われます。
  5. 団体が急成長する時期には、日々の事業をこなすことに精一杯になって法人がめざしているものや価値の共有が難しくなる傾向があります。そのような時期に意識すべきことは、団体トップと現場職員の意思疎通を意識的に図ることや、運営管理業務と現場との適切な役割分担などを図ることです。

選考された団体は、DV支援、子ども・若者支援、里親支援、触法障がい者支援、ホームレス支援、生活困窮者支援、難民支援など多岐に亘り、各分野、各地域で期待される団体であることから、組織基盤強化による波及効果は大きいと感じます。全国を見渡しますとこの10年間で貧困の解消に取り組む活動が大きく広がっています。これらの団体の力量が高まっていくことが、貧困を解消するだけでなく社会を変革する大きな力になることを感じました。本助成事業が一助となることを願っています。

<選考委員>

★選考委員長

宮本 みち子

放送大学 客員教授・名誉教授 ★
千葉大学 名誉教授

小河 光治

公益財団法人 あすのば 代表理事

奥田 知志

特定非営利法人 抱僕 理事長

谷口 仁史

特定非営利活動法人 NPOスチューデント・サポート・フェイス 代表理事

吉中 季子

神奈川県立保健福祉大学 准教授

福田 里香

パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化部 部長

写真:

国内助成 選考委員長
宮本 みち子