子どもの遊び心を引き出す学生プレイワーカーの育成から広がるネットワーク - PLAY FUKUOKA

福岡県を拠点とするPLAY FUKUOKAは2004年、「福岡プレーパークの会」として誕生した団体です。
子どもが本来もっている「遊び心」を発揮して、豊かに遊べる環境づくりを支援しています。おもな活動は、遊び場づくりに取り組む人や乳幼児親子を対象とした外遊び講座やワークショップの開催、放課後の小学校の校庭や体育館を活用した「放課後等の遊び場づくり事業(通称わいわい広場)」の開催、子どもの遊び心を引き出す「プレイワーカー」の育成や派遣などです。プレイパークだけにとどまらない活動の広がりを反映し、2012年には「PLAY FUKUOKA」と改称しました。
活動の広がりとともに、足かけ5年、3回にわたる助成で実施した人材育成の取り組みをレポートします。

親自身が遊びを体感できる講座を展開

現在、PLAY FUKUOKAの代表を務める古賀彩子さんはもともと、福岡で30年も前から子どもの遊び場づくりに取り組んできた「財団法人プレースクール協会」の職員でした。結婚を機に退職し、3人の子どもを育てましたが、下の子が10歳を過ぎた2004年から遊び場づくりの活動を再開しました。

一方、西日本短期大学助教でPLAY FUKUOKA副代表の山下智也さんは、その頃、九州大学の大学院生として「子どもの遊び環境」について実践・研究をしていました。
「当時は、豊かに遊べる環境で子育てをしたいお母さんたちが自ら活動を担っていましたが、子育てをしながらの活動は負担が大きく、継続していくには限界がありました」
そこで、何とか活動をサポートできないかと考えた古賀さんたちは2004年、「福岡プレーパークの会」を立ち上げました。

「若い世代の中には、子ども時代にあまり遊ばないまま親になった方もたくさんいました。それで、身近な素材で遊具をつくったり、自分でつくったブランコに乗って遊んだりすることで『やってみたい!』『楽しい!』という気持ちを親自身が子どもと共に体感できるような講座を展開していきました」と古賀さんはいいます。

PLAY FUKUOKA
左:代表 古賀彩子さん
右:副代表 山下智也さん

大学生に、子どもとリアルにぶつかるチャンスを!

活動には、大学生もボランティアとして参加しましたが、彼らを見ているうちに、古賀さんはある悩みが共通していることに気づきました。
「子どもが大好きなのに、いざ現場に出たら子どもとの関わりに戸惑いを覚えて、自分には向いていないのかなと落ち込むなど、これまで、子どもとリアルにぶつかる経験をしてこなかったのかなと思われる学生がたくさんいたのです」

子どもに近い目線をもつ大学生が加われば、遊びの現場も活性化することは間違いありません。県内に数多くの大学を抱える福岡の特性を生かすためにも、「若い学生の力を育てるプログラム」が必要なのではないかと感じた古賀さんはPanasonic NPOサポートファンドの助成に応募し、2008年から組織基盤強化に取り組みました。

●助成事業の取り組み

「横のつながり」を重視した学生プレイワーカー育成講座

組織基盤強化の取り組みとして、まずは保育、教育、心理、社会福祉など、さまざまな分野から集まった40人近い大学生を対象に、彼らを子どもの遊びに関わる専門家である「プレイワーカー」として育成する講座を実施しました。
学生プレイワーカーの育成は「組織を担う若手スタッフの育成」につながること以上に「子どもの遊びを理解し、自分で遊びの場をつくったり、それぞれの仕事に活かしたりして、遊びの重要性を広めていける大人」を社会に送り出していく非常に有意義な「人材育成」だと考えたからです。

育成講座では「遊びとは何か」「プレイワークとは何か」といったことを座学で学んだあと、各地のプレイパークで現場実習を行いました。
古賀さんによれば、プレイパークでは「子どもを遊ばせる」のではなく、「自分が楽しいことをやっているうちに子どもが集まってくる」というのが理想で、現場では、そんな子どもの遊びに関わる大人のあり方を体得してもらったそうです。
さらに、受講生が書き込みをするWeblogを立ち上げ、現場で学んだことはその日のうちにフィードバックできるようにしました。そして月に1度は受講生同士が交流を深めたり、リスクマネジメントなどについて学び合ったりする月例会を開き、「横のつながり」を大切にしました。
横のつながりは、大分県在住のプレイワーカー宅に泊まり込んでの研修合宿や、受講生自身が企画したシンポジウムを通しても深まっていきました。

「助成金の中には、半年で数字として結果を出すよう求められるものもありますが、育成というのは、そんなに短期間で成果が出るものではありません。その点、NPOサポートファンドの助成では、社会のニーズを汲む育成講座の取り組みや、その着眼点の面白さなどをきちんと評価していただけたことが大きな励みになりました」と、古賀さんは助成1年目を振り返りました。
また、山下さんは「実施計画書や完了報告書、助成事業終了後のアンケートなどの書類を書くたびに現場や社会のニーズ、今すべきことや中長期的に目指すべきところなどを問い直され、団体のアイデンティティについて考えるいい機会になりました」と話してくださいました。

のこぎりも使える!!

月例会の様子

学生の主体的な運営を促すコーディネーターを育成

PLAY FUKUOKAでは助成を受けた2008年に引き続き、2009年も学生プレイワーカーの育成に取り組みました。その中で、確かな手応えを感じる一方、新たな課題も見えてきたと山下さんはいいます。
「育成講座では講師を務めるのも、講座を進行するのも僕たちでしたが学生の本来もっている力を考えたら、自分たちで主体的に運営していくシステムをつくれるのではないかと思うようになりました」

そこで2010年、再びPanasonic NPOサポートファンドの助成を受け、学生プレイワーカーを取りまとめる「学生コーディネーター」の育成に取り組みました。学生コーディネーターの役割は「学生プレイワーカーが主体的に活躍し、自ら企画・実践する力を発揮できるように支援する」というもので、学生プレイワーカーの中でも各大学のキーパーソンになりそうな7人と活動を共にしました。
育成講座にはワークショップの組み立て方やチラシのつくり方、関東の先進事例を視察する現場体験、自分たちでアレンジしたプレイパークの企画・実施などを盛り込みました。さらに、『プレーワークハンドブック』の編集にも取り組みました。
今では、コーディネーター的な役割を果たす学生が自然と出てくるようになったそうです。

支援者育成から支援者支援へとシフトチェンジ

2012年にはPanasonic NPOサポートファンドの3度目の継続助成を受け、学生プレイワーカーやPLAY FUKUOKAの若手スタッフなどを対象に、「子どもの遊び場に携わる支援者を支援するスペシャリスト」の養成講座を実施しました。
スペシャリストは、たとえば学童保育の現場で働く人や地域で子育て支援に取り組む人などが何に困っているかをベースにしながら、制約があったとしても、それぞれの環境の中でどんな工夫ができるかを一緒に考えていくというように、支援者の立場に立った支援をします。
講座では、スペシャリスト同士が学び合うのはもちろんのこと、各地の派遣先でプログラムを実施し、「支援者支援」のために何が必要かをその都度まとめ、次のプログラム開発へと活かしていきました。

『プレーワークハンドブック』表紙・中身

●助成事業の成果・今後の展望

世界が広がり、やりたいことを実現

「足かけ5年の取り組みを経て、PLAY FUKUOKAには県内外の行政からも、遊び場に関わる人材育成の講座依頼が寄せられるようになった」と古賀さんはいいます。
また、子どもが仮想のまちをつくって遊ぶ「ミニふくおか」や、子どもの遊びに関わる大人のあり方を学ぶ「遊びのサポーター養成講座」など、福岡市と協働で事業を行う機会も増えました。

Panasonic NPOサポートファンドの助成事業として始まった「学生プレイワーカー育成講座」は、今では福岡市の事業として採り入れられ、講座を受けた学生は放課後の小学校で行われる「わいわい広場」に派遣され、活躍しています。

階段を利用したすべり台

実際、学生プレイワーカー育成講座に参加した学生に話を聞いてみました。
教育臨床心理学を専攻している福岡大学4年生の山方美弥さんは、「子どもたちに人形劇などを披露するサークル活動」をきっかけにプレイパークと出合い、自ら関わるようになったといいます。
「1年ごとに学びがあって、子どもや遊びのことをもっと知りたいという気持ちが生まれ、それに応えてくれるのが大学生活の半分を占めるPLAY FUKUOKAという場でした。いろいろなメンバーがいて、その中で改めて自分の立ち位置を考えたり、こんな自分もいたんだと再発見したりして、自分がどういう場所で、どのように子どもたちと関われるのか考えを深めることができました」

九州産業大学で臨床心理学を学んだ本山智大さんは、大学の先輩に誘われて活動に加わりました。
「大学の中だけでなく外へも意識が向けられ、世界が広がりました。ほかのボランティアでは、決められたことを回していくことが大事だったり、プログラム化されたりしていることが多かったのですが、ここではまず『自分が楽しむことが大事』だと言われたことが印象的でした。自分のやりたいことをやっていいという環境が居心地いいです。自分が少しずつ成長できていることを実感しています」

大学生の皆さん。
右端が山方さん、左から2人目が本山さん

市の「子ども観」「遊び観」に文言が採用

今年の8月24・25日には、遊び場づくりに取り組む人たちが3年に1度集まる「冒険遊び場づくり全国研究集会」が、初めて福岡で開催されました。山下さんが担当する分科会では、学生プレイワーカー育成の取り組みが報告され、会場からは「学生の力を引き出し、生き生きと学び合う様子」に共感が集まりました。
約200人が参加した大規模な集会の開催を陰で支えたのも、PLAY FUKUOKAに関わる学生プレイワーカーやOBの皆さんでした。

これまでの成果を振り返り、古賀さんが何よりもうれしかったのは「福岡市が作成した『わいわい広場ハンドブック』の子ども観や遊び観に、私たちが日頃から講座などで伝えている文言を採用してもらえたこと」だといいます。

「状況やニーズに合わせる柔軟性をもちながらも、中心にはしなやかな芯が通っている。そんな組織を目標とした『組織基盤強化』を今後も続けていきたいと思っています」

プレイパークの定番おやつ「まきまきパン」