パナソニック技報

【4月号】APRIL 2009 Vol.55 No.1の概要

特集1:移動体通信

移動体通信特集によせて

東京R&Dセンター 所長 三輪 真

招待論文

移動通信システムの発展と技術課題

東京工業大学大学院理工学研究科 教授 鈴木 博

技術論文

次世代携帯電話向け端末MIMOアンテナの屋外電波伝搬評価

山本 温,林 俊光,小川 晃一

本稿では,次世代携帯電話規格(3G-LTE(3rd Generation-Long Term Evolution),IMT-Advanced(第4世代))で導入が決定しているMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナに対する屋外電波伝搬実験の実施結果について記す。筆者らは,デンマークのオールボー大学と共同でオールボー市の中心部において電波伝搬実験を行い,端末MIMOアンテナのフィールド評価を行った。特に,携帯電話の使用者からの影響を調べるために,使用者を模擬した当社独自の電磁ファントム(擬似人体) の有無によるMIMOチャネル容量の変化を調べた。さらに,放射パターンやアレー構成,電波伝搬の観点で,MIMOアンテナに対する人体影響のメカニズム解明を試みた。本実験により,端末MIMOアンテナは建物に挟まれたストリートマイクロセルにおいて進行方向に向いて移動した場合に,人体効果によりMIMO特性が約10 %向上する場合があることを明らかにした。

3G-LTEにおける制御情報の適応送信技術

西尾 昭彦,青山 高久,Christain Wengerter,今村 大地,鈴木 秀俊

次世代移動通信システム国際標準である3G-LTE(3rd Generation-Long Term Evolution)向けの高速無線伝送・アクセス制御技術群(OFDM : Orthogonal Frequency Division Multiplexingベースの高速・低遅延無線伝送方式,アクセス制御RRC : Radio Resource Control / MAC : Medium Access Controlプロトコル)を開発し,その規格化に貢献した。高速・低遅延の伝送を行うためには,さまざまな制御情報の送信が必須であり,制御情報伝送の効率化が重要である。筆者らは,報知情報を固定リソースで送信する情報と可変リソースで送信する情報とに分割送信する方法を開発し,セル・トラヒック状況に応じた柔軟な運用を可能とした。また,高スループット伝送に必須の適応データ送信技術に必要となるL1/L2制御情報の送信方法として,帯域割り当て端末数に基づき制御チャネル送信用の全無線リソース量制御を行うとともに,伝搬路品質状況に基づき各端末の制御チャネル割り当て無線リソース量を制御することにより,データ送信の周波数利用率を向上させた。

次世代移動通信向け音声/音響符号化技術ITU-T G.718

山梨 智史,押切 正浩,森井 利幸,佐藤 薫,江原 宏幸,吉田 幸司

スケーラブル広帯域コーデックに対する低ビットレート高効率符号化方式の開発に取り組み,帯域選択型形状利得符号化方式(BS-SGC:Band-Selective Shape-Gain Coding)をはじめとする要素技術を開発した。スケーラブル広帯域コーデックは,広い帯域(~7 kHz)と伝送環境の変化に対する高い柔軟性を有しており,all-IP網での通信が想定される次世代通信システムに適したコーデックである。筆者らは,ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication andardization Sector)新規国際標準G.718を次世代通信用コーデックと位置づけ,この標準化提案に参画した。BS-SGCをはじめとするパナソニックグループの技術は,主観評価試験において従来技術に対して明らかな性能向上が確認され,G.718の特長的な処理の高性能化技術として採用された。G.718は,2008年6月にITU-Tで新規承認された。

技術解説

基地局用高電力高効率増幅器技術

幸長 俊郎,藤原 誠司

Envelope Tracking方式の増幅器は,入力信号の包絡線の振幅に応じて電源電圧の振幅を変化させる。これにより,増幅器を常に飽和レベルに近い状態で動作させることができるため,高ピークの変調信号においても高効率動作を実現することができる。

UMTS向けUniPhierR4MBB+システムの開発

田子 公之,横山 洋児

UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)向けに開発されたUniPhier 4MBB+搭載システムでは通信/アプリケーション処理の統合化を中心に開発を行った。その中で,シェアードメモリー制御技術での外部メモリー統合による小型化,各シーンに適した省電力制御技術,VIERAケータイR実現のための高画質処理などの差別化を実現している。

特集2:SDカード・デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ

SDカード・デジタルカメラ・デジタルビデオカメラ特集によせて

パナソニック(株) 副社長 坂本 俊弘

招待論文

半導体メモリーの展望

東北大学 名誉教授 舛岡 富士雄

技術論文

ASSDカードおよびOMA-SRMの規格化

中垣 浩文,櫻井 博,小来田 重一,上村 知範,宗 広和

ネットワークで配信されるAVコンテンツなどを,SDメモリーカードに格納して利用する場合,従来であれば,コンテンツ配信時に用いられるDRM(Digital Rights Management:コンテンツ保護・管理の仕組み)から,SDメモリーカードの著作権保護方式であるCPRM(Content Protection for Recordable Media)へのエクスポートという手法が用いられてきた。この手法では,DRMのコンテンツ利用のUsage rule(回数制御や期間制御など)をDRM規格が規定する形式のまま記録することができなかった。Usage ruleをリムーバブルメディアにDRM規格が規定する形式で保存できれば,別の受信端末に移動してもDRMの仕組みを使って提供される各種のサービスを利用することができる。そこで,筆者らは携帯電話の配信に使われるOMA-DRM(Open Mobile Alliance-Digital Rights Management)を拡張しASSD(Advanced Security SD)カードにDRMのコンテンツと権利情報を格納する仕組みを,SDA(SD Card Association)およびOMA(Open Mobile Alliance)にて規格化した。

デジタルハイビジョンムービーの高画質化技術

永井 正,豊村 浩一,村上 正洋,上田 祐士,黒木 健一,床井 雅樹

近年の地上デジタル放送,ブルーレイディスク,フルハイビジョン薄型大画面テレビの普及に伴い,デジタルハイビジョンムービーに対する高画質化への要求はますます高まっている。
筆者らは,デジタルハイビジョンムービーに新開発の1/6型νMaicoviconRを用いた3MOS(3 Metal Oxide Semiconductor) システム, 高精度顔認識AF(AutoFocus) システム, アドバンスドO.I.S.( Optical Image Stabilizer),おまかせiA(intelligent Auto)機能を搭載した。そして,撮影した映像を高画質,高音質のまま圧縮・記録を行うシステムLSI UniPhierRXPの採用により,ハイビジョンムービーに求められる高画質と小型,低消費電力化の両立を図った。

技術解説

高画質コンテンツの記録・再生を可能にした高速・大容量SDHCメモリーカードシリーズ

森 博範,山田 博之

「SDHCメモリーカードシリーズ」は,SDカードコントローラとカード構造の工夫で,2 GB超から32 GBまでの「大容量化」,「高速化」および「スピードクラス」対応を実現し,高画質コンテンツを安定に記録および再生する用途に適した記録メディアである。

静止画ネットワークと無線LAN搭載カメラのWebアルバム接続技術

向井 務,山口 岳人

写真共有サービスは,インターネット上で写真を保管・共有することができるサービスである。無線LANを内蔵し,写真共有サービスへ直接アップロード機能を備えたカメラによる静止画像のネットワークについて解説を行う。

海水対応・1.5 m水深で撮影可能なビデオカメラの防水構造

北条 握士,野口 護

SDカード記録のビデオカメラの「駆動メカニズムが不要」という構成の特長を生かし,防水ケースに入れることなく,水中撮影が可能なSDビデオカメラを開発した。
防水性能として,海中を含む1.5 m水深までの水中撮影を目標とし,ゴムパッキンによる防水や海水による金属部分の腐食を防止する構成を開発することで商品化した。

指向性合成技術の高S/N化とムービーへの応用

寺田 泰宏,金森 丈郎

比較的小型なマイクロホンアレイで,特定の方向から到来する音を強調して収音できる音圧傾度型指向性合成は,幅広い分野の商品に応用されている。本報告では,音圧傾度型指向性合成の課題であるマイクロホンの回路雑音によるS/N(Signal to Noise ratio)比の低下を解決する技術を紹介する。本技術は,回路雑音に対するS/N比を改善しつつ指向性の得られる周波数帯域を拡大できる。本技術をHD(High Definition)ムービーに搭載される5.1chサラウンド収音に適用することにより,音の方向感が改善され,高音質で臨場感のある音を提供できる。