パナソニック技報

【10月号】OCTOBER 2010 Vol.56 No.3の概要

特集1:ロボット

ロボット特集によせて

生産革新本部 直轄 ロボット事業推進センター
所長 本田 幸夫

招待論文

部屋・家・地域まるごとロボット ~ロボット技術の現状/課題と展望~

東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻・創造情報学専攻 教授 佐藤 知正

技術論文

人工筋肉に向けた積層型ポリマーアクチュエータ

生嶋 君弥,John Stephen,小野 敦,長光 左千男

家庭用ロボットへの応用を目指した人工筋肉を実現するために,単位質量当たり大きな仕事を発生できる積層型ポリマーアクチュエータを開発した。安全性の観点から,低電圧で駆動できる導電性高分子を用いたポリマーアクチュエータを使用し,導電性高分子膜とイオン液体を含むセパレータ膜とを交互に積層することにより,コンパクトで大出力可能な構造を実現した。この結果,0.5 Hzの伸縮駆動において,単位質量当たりの仕事量は従来比で2桁向上して導電性高分子アクチュエータでは最高の0.92 J/kg を実現した。

人に対して安全な多自由度/空気圧人工筋ロボットアームの開発

岡崎 安直,小松 真弓,津坂 優子,山本 正樹

家事支援ロボットなど,将来,家庭内で働くロボットは人との接触が不可避であり,本質安全のため柔軟かつ軽量であることが不可欠である。こうした背景から,筆者らは空気圧人工筋をアクチュエータとして使用することで軽量柔軟な構造を実現した多自由度のロボットアームを開発した。また,関節トルクに関するマイナーループと拮抗(きっこう)する空気圧人工筋の内部圧力差に関するマイナーループを並列的に併用する制御系を構成することで,振動しやすい空気圧人工筋ロボットアームでも安定的な軌道追従制御や,力制御を実現した。さらに,ロボットを仮想的なバネ・マス・ダンパーとして動作させるインピーダンス制御に本制御系を展開し,人とロボットの協調作業を実現した。

自律移動ロボットの安全な移動技術の開発

後藤 孝周,川野 肇,松川 善彦,岡本 球夫

自律的に移動するロボットにおいて,未知の環境下における自己位置の推定機能,移動時に障害となり得る外部環境の認識とその回避機能,またこれらを実現するシステムに拡張性と冗長性をもたせたことを特徴とする自律移動技術を提案する。開発した自律移動技術は,複数・多種類のセンサから得た自己位置の各センサ固有の情報を確率モデルとして一般化して扱う自己位置認識機能と,状況に応じて回避行動を柔軟に行う障害物回避機能を有する。また,ロボットプラットフォームを適用することによって,機構・制御の変更を吸収し,開発コストの低減と品質的な安全の保証確保への可能性を示した。さらに,フィールドテストにより実環境での有効性を実証した。

生活支援ロボット向け共通プラットフォーム

松川 善彦,東條 剛史,後藤 孝周

人と共存する安全な生活支援ロボットを効率よく開発するには,多種多様な要求に応えられるよう,機構や入出力デバイスに依存しない共通のプラットフォームを利用できることが望ましい。今回,扱うデータの抽象度合いに応じて制御ソフトの構造を整理するとともに,障害物検出などのアルゴリズムがセンサデバイスの増減に影響を受けないよう工夫し,汎用性および拡張性を有するロボット制御プラットフォームの開発を行った。そして,アプリケーション,機構・デバイスが異なる2種類の移動ロボットに適用したところ,10 % ~ 20 % のソースプログラムの変更のみで両ロボットに所望の動作をさせることができ,開発した制御プラットフォームが汎用性・拡張性を有することを示した。

技術解説

自立した生活を支援するロボティックベッド®の制御技術

久米 洋平,河上 日出生

電動介護ベッドと電動車いすを融合したロボットシステム「ロボティックベッド」において,自動で車いす部をベッド本体部に合体/分離させることができる制御技術を開発した。この技術により,従来必要であったベッド-車いす間の移乗介助が不要となり,ユーザーは自由に行動することができるため,よりいきいきとした自立生活を送ることができる。

注射薬払出ロボットの薄型化および薬剤破損防止機構の開発

西村 巧

第2世代の注射薬払出ロボットは病院の薬剤部における調剤作業を支援する装置であり,医療過誤を防ぐ注射薬取りそろえの正確性と注射薬の割れによる薬剤ロスおよび時間ロスをなくす効率性を兼ね備え,さらに薬剤部での省スペース設置を可能とした。

特集2:ソフトウェアエンジニアリング

ソフトウェアエンジニアリング特集によせて

システムエンジニアリングセンター
所長 梶本 一夫

招待論文

ソフトウェアエンジニアリングの課題と展望

(独)情報処理推進機構(IPA) ソフトウェア・エンジニアリング・センター 所長 松田 晃一

技術論文

全社ソフトウェアプロセス改善の取り組み

板橋 吉徳,中山 貴史,浅井 理恵子,吉村 宏之

当社では家電製品分野でのデジタル化,ネットワーク化による機器組込みソフトウェアの大規模化,複雑化に伴い,ソフトウェア品質問題が重要な課題になってきている。ソフトウェア品質はソフトウェアを開発するプロセスに強く依存することが知られ,全世界でソフトウェアプロセスの改善活動が進められている。当社でも2002年以降,グループ全社でプロセス改善活動を推進し,活動の展開・定着のために独自の社内制度を確立してきた。本論文では,プロセス改善活動の制度化,海外への展開,人材育成の観点で,グループ全社で進めているソフトウェアプロセス改善の取り組みを紹介する。

組込みソフトウェアにおける開発力強化の取り組み

春名 修介,松本 範久,古山 寿樹,中川 雅通

家電組込みソフトウェアは,デジタル化・ネットワーク化により規模が拡大しているにもかかわらず,小規模開発時代のコード中心の開発スタイルが踏襲され,後工程依存の開発が行われており,品質・生産性を落とす要因ともなっている。このような状況を打破するためには,上流工程での完成度を向上させることが不可欠である。本稿では,実装力の向上および設計力の向上の観点から,当社におけるソフトウェア開発力強化の取り組みについて報告する。

技術解説

ソフトウェア搭載型デバイスに適した高品質ソフトウェア開発プロセス

安倍 秀二,水田 恵子

ソフトウェアを搭載した高信頼デバイスのソフトウェア開発プロセスは,19の標準プロセスから構成されており,多様な開発スタイルに対応するために,プロジェクトの期間を5つのフェーズ(方向づけ,技術確立,機能開発,商品化,資産化),およびプロジェクトの分割された目的を割り当てたステージに分け,各ステージでは必要な標準プロセスを組み合わせて開発を進めていくという特徴をもつ。

組込み分野へのモデル駆動型開発手法の適用

高橋 知伸,南光 孝彦

UML(統一モデリング言語)を用いて抽象度の高いソフトウェア設計を行い,作成されたソフトウェア設計図(モデル図)からコードを自動生成するモデル駆動型開発手法を組込み機器ソフトウェア開発へ導入した。視覚的に理解しやすいソフトウェアの図式表現とコード自動生成の効果により,ソフトウェア開発の効率化と品質向上が達成された。

白物家電ソフトウェアにおけるリファクタリングの取り組み

野田 桂子,山崎 直紀

コード行数,関数複雑度などのコードメトリクスおよび構造分析結果を活用し,複雑化したソフトウェア構造の課題を定量化するとともに,構造の可視化分析に基づいたリファクタリング方法を形式化することにより,効率よくリファクタリングを行うことができた。

海外オフショア開発におけるソフトウェア開発プロセスと品質保証

山根 正昭,趙 博

海外オフショア開発において,開発マネージメントの基盤であるソフトウェア開発プロセスの構築とソフトウェア品質保証の構築は不可欠である。ソフトウェア品質の維持・向上のために,定量的にレビュー指標による品質問題予測と独自の出荷判定基準による出荷審査を実施することで,欠陥発生防止を図ることができる品質保証・品質管理プロセスを実現した。

高効率開発を実現する自動ソフトウェア検査技法と文書トレーサビリティ管理技法

青島 武伸

本稿では,ソフトウェアの誤りを自動的に検出する技術としてメモリーリーク自動検出技術,またソフトウェア開発の関連文書を管理する技法として文書トレーサビリティ管理技法について述べる。メモリーリーク検出技術では,境界モデル検査技術を利用し大規模なソフトウェアに対する高精度の検査を実現する。文書トレーサビリティ管理技法では,開発過程で変更されていく要求や,それに対応する設計,実装などの各要素についての文書変更作業,および文書同士のトレーサビリティの維持作業の効率化を実現する。