パナソニック技報

【1月号】JANUARY 2011 Vol.56 No.4の概要

特集1:3D技術

3D技術・高画質技術特集によせて

パナソニック(株) 代表取締役専務
AVCネットワークス社 社長 森田 研

招待論文

3D・立体映像技術の課題と展望

早稲田大学 理工学術院
教授 河合 隆史

技術論文

3DフルHDプラズマTVの高画質技術

三谷 浩,三原 和博,西郷 賀津雄,川原 功

PDPの高速な表示性能を生かし,フルHD(High Definition)解像度の3DプラズマTVを開発した。左右の映像を通常の倍のフレームレートで交互に表示し,3Dメガネで左右の映像を分離することで3D表示を実現するフレームシーケンシャル方式を採用した。3D映像には,左右の映像の分離性能を示すクロストーク性能という性能指標がある。快適に3D映像を視聴するためには十分なクロストーク性能を達成しなければならない。
このため,新たに発光効率と短残光を両立した新蛍光体と,2Dに比べて半分のフレーム期間の中で発光を完結させる新駆動方式と,3DプラズマTVに最適な3Dメガネ制御プロトコルを開発した。

フルHD 3Dを実現するBlu-ray 3DTM規格

小川 智輝,澤田 泰治,金丸 智一,タオ チェン

筆者らは,映画館と同等の体験を家庭でも可能とすべく,映画館における3D表示と同じく,フレームシーケンシャル方式による両眼フルHD(High Definition)映像の再生を可能とする3D方式を提案し,Blu-ray DiscAssociationでのBlu-ray 3DTM の規格化を主導した。このBlu-ray 3DTM規格化では,MPEG-4 AVC画像圧縮技術を基に右目/左目映像間の類似性を利用して更に圧縮効率を高めたMPEG-4 MVC(Multiview Video Coding)画像圧縮技術,3Dディスクから3Dプレーヤーでは両眼フルHDの3D映像再生を,従来の2Dプレーヤーでは2D互換再生を可能とするストリーム配置技術,字幕やメニューを3Dビデオに応じた奥行きに設定できるプレーンオフセット技術の3つの特徴技術を提案,導入した。

業務用3Dカメラレコーダーの簡単操作・小型軽量化技術

和田 学明,坂内 達司

小型軽量,簡単操作を実現したレンズ一体型二眼式の業務用3Dカメラレコーダーを提案する。3D映像では「縦ズレ」「画角ズレ」など眼精疲労の原因となる二眼映像のズレなどをなくさなくてはならない。撮像素子の有効画面の切り出し位置を調整することにより,ズームを動かしても「縦ズレ」が発生しなくなる。また,レンズ,プリズム,撮像素子で構成される光学ユニットごとに画角特性を測定し,測定データを基に画角補正をすることにより「画角ズレ」をなくす。さらに,光学ユニット内の小型レンズによる輻輳(ふくそう)角制御を行うことにより,大がかりなメカニズムが不要となる。これらにより,簡単操作と,2.4 kgという小型軽量を実現している。

技術解説

高品位かつ快適視聴可能な3D撮影の実現

津田 賢治郎

高品位かつ快適視聴可能な3D映像を撮影するために,2台のカメラ間の左右ずれの調整の目標範囲を示すとともに,飛び出しすぎや後方発散などが発生せず,リアルな立体感を再現できる最適視差の条件を示す。

映画サラウンド音場生成のための音場制御技術

岩田 和也,東 清久

映像が,HD(High-Definition)から3Dへと進化するに伴い,臨場感あふれるコンテンツ再生には,音声の高音質高臨場化が非常に重要である。音声の高臨場再生として,映画制作者の意図を忠実に再現することと考え,映画コンテンツ制作現場の音場(ディフューズサラウンド1) )をホームシアターシステムで実現することを目標とした。

3次元映像技術の医療機器応用

宮部 二郎,溝尾 嘉章

医療機器に3次元映像を用いることによる手術現場や医療教育現場の課題とそのソリューションについて解説し,3Dドームモニタの臨床研究の現状を報告する。特に,腹腔鏡下手術における3次元映像の提示に3Dドームモニタを用いることで,内視鏡手術の適用範囲を広げ,長時間見ても不快感が無いことにより,より低侵襲(ていしんしゅう)で安全な手術,かつ医療従事者に負荷が少ない機器の提供が可能であることを示した。

特集2:高画質技術

招待論文

視覚に挑む高画質技術の課題と期待

(独) 情報通信研究機構 ユニバーサルメディア研究センター 超臨場感基盤グループ
グループリーダー 栗田 泰市郎

技術論文

PDPの超高画質化技術・高効率化技術

川原 功,笠原 光弘

フラットパネルディスプレイであるPDP( Plasma Display Panel)やLCD( Liquid Crystal Display)がCRT(Cathode Ray Tube)にとって代わり,ディスプレイの主流になって久しい。価格競争も進み,大画面フラットテレビであってもコモディティー化しているという見方もある。このような状況のなか,プラズマTVについては,自発光デバイスであり,従来から動画性能や色再現性,視野角特性などに優れているといわれてきたが,最近の2~3年においても,さらなる画質改善,パネル発光効率改善といった基本性能を改善する顕著な技術開発がなされ,商品に反映されている。ネイティブコントラスト500万: 1の実現,発光効率の向上に加え,動画性能を一段と高めて,当社3DプラズマVIERAでの臨場感豊かな画像表現を可能にした超高画質化技術・高効率化技術について述べる。

LEDバックライト駆動によるLCDの高画質化と低消費電力化

山村 暁宏,大西 敏輝,中西 敦士,中西 弘一,松田 功,中西 英行

液晶テレビは高画質化に加えて,環境意識の高まりから低消費電力化にも強い要求がある。これらの要求を実現するために,従来の冷陰極管を用いたバックライトに替えて,LED(Light Emitting Diode)バックライトの採用が有効である。LEDは電力効率も年々上昇し,低価格化も進んでいるため,新しいバックライト光源として期待されている。LEDバックライトの中でも,液晶パネルを背面から照射する直下型は,バックライト全領域を複数のエリアに分割し,独立に各エリアの点灯制御を行うことで高画質化と低消費電力化を可能とするものである。本論文では,液晶パネルにIPSαパネルを用い,直下型LEDバックライト駆動方式の開発により,自発光に迫る高画質化を実現した。さらに,LED駆動回路の検討も併せて行い,低消費電力化も実現したので報告する。

高解像度高感度撮影のための単板DRE撮像処理方式

鵜川 三蔵,吾妻 健夫,今川 太郎,岡田 雄介,春日 繁孝,石井 基範

動画の高解像度と高感度を同時に実現するDRE(Dual Resolution and Exposure)撮像処理方式を提案する。本方式は,視覚特性上,解像度に最も寄与する緑色を複数フレームに渡って長時間露光することによって,感度向上を図る。長時間露光中に被写体の動きによって生じる動きブレは,緑色と同時に短時間露光で撮影する青色と赤色の画像から検出した動き情報を用いて除去する。今回,DRE撮像を単板カラー撮像素子で実現するために,専用の撮像素子を開発した。本撮像素子の特徴は,ベイヤ配置された単板撮像素子において,緑色の画素は長時間露光し,赤色と青色の画素は短時間露光するために,色によって長短2種類の蓄積時間の動画像を読み出す構造をもつことにある。本撮像素子を用いて,動きブレを除去した従来比4倍の高感度撮像を実機実証したので報告する。

技術解説

1080/60p記録ビデオカメラの高画質化技術

佐藤 真史,安倍 清史

プログレッシブ(順次)走査方式である1080/60p記録では,1画面の画像信号をライン間引きすることなくすべて記録する。このため,折り返しノイズが発生しにくく,なめらかで奥行き感のある映像表現が可能となる。また,速い動きの被写体でもちらつきを抑えてくっきりと撮影できるようになる。
1080/60p記録のビデオカメラでの実用化には,カメラの解像感向上,低消費電力で高画質な符号化アルゴリズムの導入が重要となる。

コンパクトデジタルスチルカメラ用レンズ鏡筒の小型・高画質を達成する要素技術

新家 啓二

デジタルスチルカメラの市場では,小型化,高画質化の競争が激化している。LUMIXのコンパクトデジタルスチルカメラにおいて,高画質を維持しつつ小型化を実現するために,新たな要素技術の開発が必要となった。そこで,レンズ鏡筒を小型化するための新機構と,画質改善のための調整機構を開発した。ここでは,それらの要素技術の概要について述べる。

適応フィルタ型超解像

濱田 匡夫

今回当社は,拡大前の画像から算出した特徴量により,画像の特性に応じて拡大フィルタ処理を変更する適応フィルタ型超解像技術を開発した。本技術は,従来の拡大処理と比較してボケ感を抑制し,精細感と先鋭感の高い拡大処理をする技術である。ここでは,適応フィルタ型超解像の概要と特徴的な要素技術について説明する。

動き適応型ノイズ除去フィルタによる高画質化

前田 友英,芹沢 正之

映像中の動きを検出し2種類のノイズ除去フィルタを適応制御するデジタルノイズリダクション技術を開発した。本技術の特徴は,被写体の動きを精度よく検出し,それぞれのノイズ除去フィルタの出力を滑らかに合成する点にあり,副作用が少なくランダムノイズが除去された映像が得られる。