パナソニック技報

【1月号】JANUARY 2012 Vol.57 No.4の概要

特集:エネルギー技術  創・蓄・省エネルギー技術および周辺技術

エネルギー技術特集によせて

パナソニック(株) 常務取締役 宮部 義幸

招待論文

Towards a Sustainable Energy Supply - The New Landscape of Energy Technologies
(持続可能なエネルギー供給を目指して -エネルギー技術の新たな展望-)

E.ON Energy Research Center, RWTH Aachen University
Professor Dr. Rik W. De Doncker

技術論文

加西グリーンエナジーパークにおけるスマートエナジーシステム

奥田 泰生,本郷 仁志,中島 武,池部 早人,萩原 龍蔵,内橋 健二

25万本のリチウムイオン円筒セルを用いた1.3 MWh大規模蓄電システム,太陽光発電と蓄電池を組み合わせたDC配電システムなどを開発し,加西グリーンエナジーパーク(加西GEP)に設置した.18650型円筒セルを312個内蔵した蓄電用標準電池システムのセル電圧,電流,温度などの情報を個別に監視する,安全かつ最適に充放電制御を行うバッテリーマネジメントシステム(BMS: Battery Management System)を開発したことにより,800台のLiBパックを5直列×160並列に配置した大型蓄電システムを実現した.また,DC配電システムでは太陽電池で発電した電力を蓄電池に蓄えながら,LED(Light Emitting Diode)照明などの直流機器に直流のまま配電することで電力の変換ロスを低減し,電気料金やCO2の削減を実現した.

エネルギーマネジメントシステムにおける電力需給バランス制御

宮崎 誠也,工藤 貴弘,永原 正章,林 直樹,山本 裕

本稿では,太陽光発電や家電などの電力変動に対して創蓄エネルギー機器により電力の需給バランスを安定化するための制御方法を提案する.提案するエネルギーマネジメントシステムでは,ベース電力の供給源としてコージェネレーションシステムを用い,急激な電力変動に対して応答速度の速い蓄電池を用いる.ここでその制御設計は需給バランスの性能だけでなく,蓄電池の寿命に関係する蓄電容量の維持や,制御の安定性に関係するロバスト性など複数の要素を考慮する必要がある.本稿では,このような複数の目的をもつ制御問題に対して効果的な最適化手法であるH∞制御理論を適用し,実験結果を通して提案手法の有効性を示す.

スマートメータ用マルチホップ通信システム

岡田 幸夫,土橋 和生,梅田 直樹,佐々木 貴之

大規模ネットワークに対応可能で,900 MHz帯特定小電力無線および電力線通信の両方に適したマルチホップ通信プロトコルを開発し,親機1台あたり端末2000台規模のスマートメータシステムを実現可能なことを実環境評価により確認した.ルート探索対象を大幅に限定し,さらに相関性を考慮した複数のルートを生成することにより,ルーティング負荷の低減と伝送特性の変動に対する追随性向上という相反する課題を解決した.また,リンク品質やホップ数だけでなく,参入端末数を考慮したネットワーク形成や,マルチホップセル間の干渉を抑制するための完全分散型の動的周波数チャネル割り当てを実現することにより,親機設置設計の容易化と運用保守の省力化を可能とした.

マイクロ構造電解質膜による燃料電池高性能化

相澤 将徒,行天 久朗,Abdu Salah,劉 新兵

家庭用燃料電池コジェネレーションシステム「エネファーム」は,環境負荷の少ない創エネルギーシステムとして注目されている.近年,燃料電池を高温低加湿下で運転することにより,触媒被毒抑制とシステム簡素化を可能にし,高耐久化と低コスト化を実現することが求められている.しかし,高温低加湿下で作動する燃料電池の発電性能は著しく低下するという問題がある.この問題を解決するために,電解質膜表面上に微細凸アレイを形成したマイクロ構造電解質膜を開発した.この新電解質膜により,電流密度0.5 A/cm2におけるセル電圧を59 mV,最大出力密度を40 mW/cm2増加させることに成功した.シミュレーション解析により,観測された性能向上は,カソード電極での反応効率の改善に起因していることが示唆された.

DMFC/LIBハイブリッド電源システムの開発

三井 雅樹,植田 英之,松田 博明,秋山 崇

屋内,屋外を問わず持ち運ぶことが可能で,かつ静音・クリーンな創エネルギー電源の開発が望まれている.この要望に応えるために,100 W級の直接メタノール型燃料電池を搭載したポータブル電源システムの開発を行っている.本システムは,さまざまな出力範囲のアプリケーションに対応できるように,直接メタノール型燃料電池と高出力リチウムイオン電池とのハイブリッド方式を採用している.
燃料電池スタックの燃料および空気流路と,空気供給量制御の最適化により,電極面内での発電不均一化という課題を解決し,100 Wの安定発電を実現した.また,5000時間運転後の出力維持率80 %以上を達成し,高耐久性を実現した.

薄型高効率HIT太陽電池の性能改善

藤嶋 大介,矢野 歩,木下 敏宏,田口 幹朗,丸山 英治,田中 誠

安全でクリーンなエネルギー源として太陽電池が注目されている.筆者らは,シリコンウェハの厚みが98 μmの実用サイズ薄型HIT(Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)太陽電池にて,世界トップレベルのエネルギー変換効率23.7 %( R&Dレベル)を達成した.将来の低コスト化を目指し,製造コストの約半分を占めるシリコンウェハの厚みを100 μm以下の条件下でHIT太陽電池の出力損失試算をもとに改善指針を明確化した.その結果,各種新規要素技術の開発により,短絡電流,開放電圧,曲線因子のすべてのI-Vパラメータを同時に改善した.

ハイブリッド電気自動車(HEV)用高性能ニッケル水素電池の開発

越智 誠,杉井 裕政,長江 輝人,北岡 和洋,前田 礼造,武江 正夫

HEV(Hybrid Electric Vehicles)用ニッケル水素電池として求められる性能を業界最高レベルで実現し,全世界の自動車メーカーに当社の標準モデルとして提案するためのHEV用高性能ニッケル水素電池を開発した.集電部品,電極設計,セパレータの改良で高出力化を行い,負極合金の改良で長寿命化を達成した.また,劣化シミュレーションを駆使することで,高い寿命予測信頼性を確保している.結果として,従来品に対し,約1.3倍の高出力化と2倍以上の長寿命性能を実現するHEV用ニッケル水素電池の開発・商品化に成功した.
併せて,ニッケル水素電池の今後の開発方向性についても紹介する.

次世代省エネルギー光源・有機EL照明

山江 和幸,辻 博也,Varutt Kittichungchit,松久 裕子,井出 伸弘,菰田 卓哉

有機EL(Electroluminescence)は,電極間に挟まれた薄膜の有機材料に電流を流すことによって発光が得られるデバイスである.照明用途では,既存の光源に対してより優れた設計自由度,薄型軽量,高応答性などが実現可能な次世代光源として期待されている.
筆者らは,独自の光学設計とデバイス化技術により,照明の重要な特性である効率・寿命の面で既存の蛍光灯型器具に迫り,演色性ではそれを上回る白色有機ELデバイスの開発に成功した.本稿では,その開発内容について述べる.

技術解説

AC/DCハイブリッド配線システムによる省エネ型インフラの取り組み

木寺 和憲,小新 博昭

太陽電池,蓄電池を導入し,独自のアルゴリズムで賢く充放電制御や売買電制御を行うことで,省エネ効果を向上させる.また,特定負荷の系統を高電圧DC化するために,配電インフラに必要な安全設計の方向性を示す.

熱起電力型温度センサによるレンジフード省エネ自動運転の実現

可知 昌道,浦田 裕介

単素子型の熱起電力型温度センサを用いて算出される検知エリアの放射エネルギー量は,検知エリア内の調理物の温度と調理コンロ天面の温度と,それらの面積から求められる放射エネルギー量と等しくなる.上記の2つの放射エネルギー量を等価式で結ぶことで調理物の温度を算出し,調理物の温度に応じた省エネ自動運転を行うレンジフードを開発した.

電気自動車(EV)対応充電タイミング制御システム

飯田 享,小林 美佐世

充電タイミング制御システムとは,複数EV( Electric Vehicle)の充電可能な設備を有するビル・マンション向けエネルギーマネージメントシステムである.複数台EVの同時充電が行われると,電力増加による建物側電力系統に影響を与えることが考えられる.本システムはこれらの問題を解決し,限られた契約電力や幹線容量内で,できるだけ有効に充電することを特徴とするシステムである.

鉛蓄電池を活用した太陽光発電システムの設計

平 幸治,鈴木 健郎

太陽光発電システムの中でも,蓄電池を使ったエネルギー貯蔵システムのニーズが非常に増加している.本稿では,災害時およびピークカットに有効な系統連系システムにおける鉛蓄電池の活用について紹介する.

鉛蓄電池を用いた蓄エネルギーシステム

菊地 智哉,吉原 靖之

サイクル長寿命用制御弁式鉛蓄電池を蓄エネルギーシステムへ用途展開し,ソーラー街路灯では5年以上の寿命特性を確認できた.太陽光発電が不安定な環境下でも,電池の充電受け入れ性の向上で,充電不足による電池劣化を抑制し優れた寿命特性を実現した.さらに,多直・多並列接続した35 kWh組電池を,太陽光発電4 kWと組み合わせた独立電源システムへの展開も図った.

電気自動車(EV)用リチウムイオン電池パックシステムの開発

阿賀 悦史,下司 真也

18650サイズのリチウムイオン電池を使用した電気自動車(EV: Electric Vehicle)用電池パックシステムを開発した.EVとして要求される安全性・信頼性に対し,電池モジュールおよび,それらを多直列に接続し,電子制御ユニット(ECU: Electronic Control Unit)を介して構成される電池パックシステムに必要とされる機能・性能について解説する.