パナソニック技報

【4月号】APRIL 2013 Vol.59 No.1の概要

特集1:ユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザイン特集によせて

パナソニック(株) デザインカンパニー 社長 根岸 豊

招待論文

ユニバーサルデザインがもたらすもの

神戸芸術工科大学 デザイン学部 プロダクトデザイン学科 教授 相良 二朗

技術論文

Wヘッドアイロン

下坂 喜一,大塚 康晴,白谷 和子

昨今,家でワイシャツを洗濯する家庭が増え,それに伴いアイロン掛けをする機会も増えている.一方で,アイロン掛けは嫌いな家事の上位に入っており,その理由に「アイロンじわ」,「疲れる」,「うまくできない」,「時間を束縛される」などが挙がっている.
使いやすさと時間短縮を追求することを目的に,アイロンベースの先端部の形状を前後対称にしたWヘッドベースを開発した.全方向にスムーズにアイロン掛けができ,さらに,アイロンの向きを変える持ち替えの手間の軽減によりアイロンしわの低減やワイシャツのアイロン掛け時間を約20 %短縮することができた.

省スペース設置で車いす利用可能な3人乗りホームエレベーター

村中 勝,福井 博雄,伊藤 博之,山添 健二

家庭内のだれもが利便性を感じられるホームエレベーターにおいて,1階床下の掘り下げ寸法を床レベル-200 mmでの設置が可能となるよう極小化し,かつ昇降路断面に対するかご床面積(スペース有効率)を約10 %アップした省スペースタイプの3人乗りホームエレベーターを開発した.ドア開閉装置は薄型でコンパクト化し,ドアを2枚から3枚に変更して戸袋スペースを少なくすることで,自走式車いすが使用できる出入り口幅800 mmを実現した.さらに,回生電力の利用,待機電力の削減により,1日20回使用で0.5 kWh /日と電気代を従来比約30 %ダウンできた.

ユニバーサルデザイン商品の達成度定量化

阿部 圭子,小川 哲史,松井 菜月希,山本 芙美

製品開発において,「より多くの人が,より使いやすく」というユニバーサルデザイン思想を定着化させ,高いクオリティをもつ製品を持続的に市場に提供するため,従来あいまいとされていた,製品のユニバーサルデザイン達成度を定量化する手法を開発した.ユーザーによる評価結果から3つのグラフ,(1)顧客重視ポイントから企画のねらいどころを可視化したプライオリティマップ,(2)重要ポイントでの他社優位性がわかりやすい,他社ベンチマークのための商品特徴マップ,(3)顧客視点で製品の出来栄えを総合的に俯瞰(ふかん)できる総合チャート,を作成することで体系的に達成度を定量化することが可能となった.

海外現地適合商品創出のためのユニバーサルデザイン・感性評価

川口 亜紀,松井 菜月希,小川 哲史

これまでグローバルなモノづくりを目的として実施されているユーザー調査は,大規模なアンケートによる意識調査や,家庭訪問などによる生活研究が主であるが,これらの情報だけでは商品の具体的な企画や仕様を決定することは困難である.本稿では,筆者らのグループが国内で実施してきたユニバーサルデザイン(UD:Universal Design)・感性評価の手法をグローバル展開した事例を紹介する.中国での一体型トイレに関する調査では,現地の暮らしを踏まえたトイレに対する課題を明確にした.また,中国のユーザーがトイレの外観に求めるイメージを明らかにし,実現するための設計要因を導出した.中国・インドにおける照明スイッチの評価では,操作感の好みと物性値との関連づけを行い,地域ごとに好まれる仕様の違いを定量的に示した.

TV視聴時のユーザーの感情状態が生理心理計測に及ぼす影響

阪本 清美,坂下 誠司,山下 久仁子,岡田 明

本稿では,プラズマTVと4種類のコンテンツを使用して,TV視聴時におけるユーザーの感情状態の評価実験を生理計測と心理計測の両面から行った.その結果,脳血液動態(脳の酸素代謝や血液循環の変化)をリアルタイムに計測するNIRS(Near-InfraRed Spectroscopy:近赤外分光法)といくつかの感情状態との間に相関が得られた.これらの結果は,脳の活動状態を表わすひとつの指標としてのNIRSが,緊張・リラックス,快・不快,好き嫌いなどの感情を推測するのに有効であることを示唆している.さらに,自律神経系の交感神経活動度を表わすLF/HF(Low Frequency/High Frequency)と心拍数HR(Heart Rate)が個々人の複合的な感情状態に影響されることも示唆する結果となった.

技術解説

LED電球パッケージにおけるユニバーサルデザインの取り組み

小谷 昭彦

国内・海外それぞれの市場特性・顧客課題に対応しながら,同時にユニバーサルデザインを推し進めたLED(Light Emitting Diode)電球パッケージの開発事例を紹介する.国内では「購買時に必要となる情報を再整理し提示」するデザインを,海外では「店頭展示から器具への設置,パッケージ廃棄に至る顧客行動を容易に」するデザインをそれぞれ追究した.

描画サーバを用いた高レスポンスなVIERAの音声ガイド機能

窪田 耕明,横佩 大輔

現在,VIERAでは,番組情報やテレビの状態をGUI(Graphical User Interface)で視覚情報として表示することで利便性を向上しているが,視覚に障がいのあるユーザーをはじめとした画面でテレビの状態を確認することが困難なユーザーはこれらの情報は利用できない.本解説では,視覚情報だけでなく聴覚情報ででもテレビの情報をユーザーに提供するために開発した音声ガイド機能について述べる.

ユーザーの感情を視覚化するユーザビリティ評価手法の開発

東 章子

「使って楽しい」「心地よい」「達成感がある」など,快適性・達成感を目指した製品開発が進むにあたり,これらの感情を評価する方法が確立されていないのが課題であった.そこで,「表情に感情が出る」ことに着目し,無意識に表れる表情・行動から感情を数値化して感情の変化を視覚化し,感情に影響を及ぼす場面を特定する評価方法を開発した.

特集2:解析評価技術

解析評価技術特集によせて

パナソニック(株) 解析センター 所長 奥澤 将行

招待論文

表面・微小部の分析技術の最近の進歩と今後の課題

大阪大学 研究推進部 特任教授 石田 英之

技術論文・技術解説

[論文]高効率ワイヤレス電力伝送のための電磁界解析法

太田 智浩,光武 義雄,田村 秀樹,加田 恭平,北村 浩康

本稿では,高効率ワイヤレス電力伝送システムのための電磁界解析手法を報告する.有限要素法を用いたシミュレーションにより高効率化を図るためには,コイルやコアで生じる高周波損失を精度良く計算することが要求される.そこで表皮効果や近接効果による巻線損失はA-f 法による辺要素有限要素法を用いて,コアの渦電流やヒステリシスによる鉄損は複素透磁率を用いて解析する.これにより高周波損失を精度良く計算できるため,温度上昇も予測可能となる.

[論文]人体傷害予測のための頭部シミュレーションモデルの開発

渡邊 竜司,伊藤 雅人,難波 嘉彦,岸本 隆

商品の落下あるいは人の転倒といった日常生じうる事故においても,人に重大な危害を与えない安心・安全な商品開発を実現するために,商品の安全性を定量的に評価することが求められている.これまでの評価は人体ダミー人形を用いて行ってきたが,実商品がないと計測ができないことや,測定項目が限定されるなどの問題が存在する.そこで,安全性を評価する新しいツールとして人体シミュレーションモデルをコンピュータ上で構築することとした.
本稿では,特に商品が落下して頭部に当たってしまったときに頭蓋骨骨折を引き起こすか否かを評価するために行った,頭蓋骨骨折を表現できる頭部シミュレーションモデルの構築,および頭蓋骨発生クライテリアの決定方法について述べる.

[論文]実用相変化記録材料の放射光構造解析

松永 利之,塚本 義朗,井垣 恵美子,児島 理恵,山田 昇

現行の相変化メモリーは,ナノ秒を切る高速な記録書き換えが行えると同時に,いったん書いた記録は百年にも及ぶ安定保持が可能であり,さらに数十万回,数百万回の繰り返し書き換えも行える.放射光を用いた解析は,これら材料のアモルファス相の構造が,十分に強い共有結合性を有しており,それが長時間記録保持性に関与していること,そして一方では,結晶相の構造が,アモルファスの構造と酷似しており,両相の間が,原子結合のわずかのつなぎ換えで,高速な相転移が可能であることを明らかにした.

[解説]有機膜/酸化物界面電子構造の解析手法

塚本 義朗,大内 暁

有機EL(OLED:Organic Light Emitting Diode)ディスプレイに代表される有機ELデバイスは薄膜の積層構造をもち,高性能化には積層界面におけるキャリアの注入機構を把握することが重要である.われわれは,デバイスのホール注入部である有機ホール輸送層と酸化物ホール注入層の界面電子構造を解析した.

[論文]樹脂強化型はんだペーストの硬化反応解析

米住 元匡,奥本 佐登志,福原 康雄,日野 裕久

ビスフェノールF型エポキシ樹脂,グルタル酸,はんだ粉(SAC305),および,硬化剤,添加剤から構成される樹脂強化型はんだペーストの材料設計のために,金属存在下におけるエポキシ樹脂の硬化反応機構をモデル樹脂と種々の有機材料分析技術を用いて解明した.通常のエポキシ樹脂は硬化後にネットワーク構造を形成することで溶剤に不溶となり,精密な解析が困難になるという問題点がある.そこで,単官能エポキシ樹脂を利用したモデル反応を行い,得られた生成物を核磁気共鳴分析(NMR)などの有機分析技術を用いて解析した.その結果,カルボン酸-金属塩形成によるエポキシ樹脂の硬化反応が進行していることが明らかになり,保存安定性の向上や材料選定などの開発課題にフィードバックすることが可能になった.

[解説]HALTによるはんだ接続信頼性評価

北村 幸雄

はんだ接続部の故障モードの1つに,はんだクラックが挙げられる.本報ではHALT(Highly Accelerated Life Test)を用いた急速温度変化と6軸ランダム振動の複合ストレスによる超短期評価の可能性を検討した.この結果,ヒートショック試験との加速性は時間換算で100倍となることが確認できた.

[解説]浴室乾燥による防カビ効果

井原 望

浴室における代表的なカビ予防策は,防カビ剤の活用,定期的な掃除と乾燥である.乾燥によるカビ予防策は,環境負荷が低く,簡便な方法である.乾燥による防カビ効果を明らかにするため,異なる相対湿度下におけるカビの生育度やカビ発生と乾燥状態時間との関連性を評価した.その結果,乾燥による防カビ効果を定量的に明らかにできた