パナソニック技報
【11月号】NOVEMBER 2020 Vol.66 No.2

(2020年11月16日公開)

特集:モノづくり革新

当社のもつモノづくりの強みを掛け合わせ,お客様と社会の課題を解決することを目指し4つのキーワードで構成したモノづくりビジョンを策定しました.本特集では,この4つのキーワード「Dynamic & Scalable」「Integrated」「Rapid」「Circular」に関連する当社のモノづくり革新の取り組みについて紹介いたします.

モノづくり革新特集によせて

パナソニック(株) テクノロジー本部・マニュファクチャリングイノベーション本部 本部長 小原 英夫

顔写真:執筆者 小原 英夫

招待論文

デジタル化時代のものづくり戦略

東京大学大学院経済学研究科 教授 藤本 隆宏

ものづくり組織能力と製品アーキテクチャの適合により産業競争力を説明する進化論的枠組み,およびそれをデジタル化の局面に適用した「上空」「低空」「地上」3層構造モデルにより,地上戦に強みを持つわが国製造企業の対上空戦略・対低空戦略の方向性を論じる.

顔写真:招待論文執筆者 藤本 隆宏

技術論文・技術解説・総説

< Dynamic & Scalable >

[論文]工場間データ連携で地域最適オペレーションを実現する次世代拠点プロジェクトの取り組み

遠近 祥史,槇原 正

当社では将来のモノづくり環境変化を見越し,2019年度より「次世代拠点プロジェクト」を設置し,戦略地域である中国で地域ネットワーク型拠点の構想に着手した.事業別の最適化と地域軸での全体最適視点を掛け合わせ,変化に強いバリューチェーンを構築し,収益力最大化を目指すことが目的である.そのために各製造現場で発生する多様なデータの標準化ツールやデータ連携基盤の開発により,異なるプロセス間のデータ連携を合理的手法にて実現することを目指す.初年度の取り組みにおいては,経営管理情報を自動収集・一元化する実証環境と運用コストを低減するシステムを構想し,間接工数削減による効果創出の実証を行った.

キーワード / 次世代拠点プロジェクト,地域ネットワーク型拠点,中国華南ファーストモデル,地域最適オペレーション,工場間データ連携,製造IoTプラットフォーム,システムズアプローチ,スマートマニュファクチャリング国際標準

代表図

[論文]東南アジアの製造拠点におけるデジタライゼーション推進

熊 俊輝,大脇 圭裕,エン ヨン ヘン,チャンドラ スワンディ ウィジャヤ,ポンサク ラサン,ドバ トゥ オック

東南アジア製造拠点におけるデジタライゼーション促進のため,当社はデジタル人材育成,IoT・AIソリューション開発,モデル構築などの取り組みを積極的に推進している.本稿は,まず,デジタル人材の育成について触れたうえ,製造拠点からのニーズの高い「外観検査」と「安全管理」を取り上げ,検出感度設定可能なAI外観検査判定モデル,危険判定モジュール追加可能なAI安全管理ソリューションの開発について述べる.次に,工場でのIoT推進モデル構築として,タイ製造拠点でのレトロフィットによる旧式設備の稼働情報の見える化,ベトナム製造拠点の成形工程でのIoT推進を紹介する.最後に,設備データとオペレーターの作業データを結び付け,情報の一元化による稼働・不良の分析ができる設備のIoT化について論じる.当社は,こうした活動を通じて,製造拠点のデジタル基盤を強化し,強いモノづくりの実現を目指す.

キーワード / 東南アジア,デジタライゼーション,デジタル人材,IoT,AI,安全管理,外観検査,レトロフィット

代表図

[論文]現場プロセスイノベーションを基点とした物流倉庫オペレーション進化とショーケース化

木村 雅典,長谷川 誠,伊藤 智祥,望月 綾乃,一力 知一

コネクティッドソリューションズ社は,「現場プロセスイノベーション」を掲げ,社内で培ってきたモノづくりのノウハウやスキルを活用してお客様の現場にイノベーションを提供する活動を推進しており,その入り口として,お客様にイノベーションを体感いただけるショーケース活動は重要な役割を果たしている.ショーケース活動の物流拠点である彩都において,筆者らはサービスパーツの倉庫オペレーションを属人的でアナログ的な業務スタイルから脱却させ,IoTやAIを駆使しながら倉庫内のモノや作業者などのあらゆる情報やデータのセンシング,見える化,関連付けから分析までを高速かつ高精度に行える環境とプロセスを構築し,作業ロス削減によるピッキング工数半減といった改善を日常的に行える倉庫へとオペレーションを進化させた.

キーワード / 物流倉庫,ショーケース,ダッシュボード,動線分析,デジタル化,センシング,標準工数

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[解説]AIを活用した時系列データ予測による設備異常予知システム

江 亦然,畠中 伸也

生産設備の品質・稼動ロスの削減のため,設備の異常を事前に予知し,かつ最適オペレーションを提示するシステムが現場に求められている.ディープラーニング技術の応用に着目し,時系列データを用いた将来の加工品の加工後の形状を予測するモデルを開発した.時系列データのノイズと急激な変動に対応するために,データに前処理を行い,より長期的な過去データを活用できるニューラルネットワーク構造を構築した.これにより,加工不良の発生を予測することで,設備異常の予知を実現する.

キーワード / 生産設備,異常予知,予防保全,ディープラーニング,時系列処理

代表図

[論文]外観検査に適した新たな深層ニューラルネットワークの提案

鎌田 祥平,中塚 俊介,山本 治美

近年,工業製品の外観検査システムに深層学習が利用されており,これまで自動化が困難とされてきた目視検査工程でも自動化が進められている.従来の深層学習を用いた検査では良品と不良品を識別するために大量の学習用サンプルが必要で,現実には大量の不良品サンプルを確保することが困難である.そのため,品種展開が多い商材や不良品サンプルの入手が困難な商材の外観検査への適用は難しい.そこで,品種展開時に追加学習不要なテンプレート比較型ニューラルネットワーク(見比べNet)および良品データのみの学習で不良を判定する異常検知技術であるMulti-scale Patch Complementary GAN(MSP-CGAN)を提案・検証し有効性を示した.

キーワード / 深層学習,外観検査,テンプレート比較型ニューラルネットワーク(見比べNet),Multi-scale Patch Complementary GAN(MSP-CGAN),Fully Convolutional Network(FCN),異常検知

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[解説]スマートマニュファクチャリングを支える製造システムセキュリティ

小野 正浩,坂田 祐二

近年,サプライチェーンの仕組みは,データの流通・活用を含み,柔軟で動的になっている.それに伴い,工場では,データを活用することでQCDを向上させる,スマートマニュファクチャリング化が進んでいる.このような情報化に伴い,サイバーリスクは増大し,製造に影響するサイバー攻撃による障害も増えてきている.生産を継続するために,製造部門のネットワークと装置・機器をサイバー攻撃から守り,それによってサイバーリスクを低減するための製造システムセキュリティは不可欠になっている.

キーワード / サイバー攻撃,工場,セキュリティ

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[論文]打ち抜き加工の荷重センシングと深層学習によるプロセス状態の見える化

和田 紀彦,高橋 正行,藤井 慶太郎

加工状態を正確に表したセンシングデータが得られれば,データベースを用いた深層学習により,加工状態の推定や異常検出することが可能となると考えられる.本稿では,量産現場で広く用いられる打ち抜き加工を対象として,ワークに作用する荷重をリアルタイムで高精度に計測できるセンシングシステムを開発した.開発した計測システムから,クリアランスや工具摩耗の変化は,荷重曲線の変化として表れることが明らかとなった.また,荷重曲線データベースの深層学習から,工具摩耗状態を自動判別できることを実証した.

キーワード / 打ち抜き加工,センシング,プロセス制御,深層学習,自律制御

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< Integrated >

[論文]高品位金属加飾部品を実現するプレス技術

水野 翔太,三田 友紀,峯 英生,切通 毅,井芹 充博

切削品および樹脂めっき品同等の外観意匠性を有する金属加飾部品を,生産性の優れた後加工なしのプレス加工により低コストで提供する技術を開発した.本開発では,金属薄板のプレス加工で車載電装品の操作ノブの形状を成形する.金型内での材料流動,圧力,形状制御によりR0.2 mm以下のエッジ,樹脂めっき品同等の光沢感を実現する.加えて,金型内で深さ10 μm~15 μmの切削溝を均一に転写することにより切削品同等の干渉縞(じま)を発現する.これらにより,上記の従来工法の半分以下のコストで,切削品および樹脂めっき品同等の外観意匠性を有するプレス加工品を提供する技術を確立した.

キーワード / 加飾,意匠,金属,プレス,低コスト,エッジ,光沢,干渉縞

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< Rapid >

[論文]3Dプリンタ造形物の衝撃強度向上に向けた高粘度インク吐出可能なインクジェットヘッド開発

阿部 敬行,熊澤 謙太郎,槇本 敦,入江 一伸,豊福 洋介,堀尾 英明

3Dプリンタはアジャイル型開発に有効な手段の1つとなる.3Dプリンタ方式のなかでも当社の商品・デバイスに求められる形状精度を満たすためにはインクジェット方式が適している.しかし,この方式は成形品の衝撃強度が低いことが問題であった.これは,インクジェットヘッドで高粘度インクの吐出が可能となれば解決できる.そこで,新たなインクジェットヘッドの構造として,高温かつ温度ばらつきの少ない(60℃±2.0℃)ヒータ構造の設計,およびインクの吐出波形の制御により高粘度インク(30 mPa・s)の吐出を可能とした.本開発の結果,衝撃強度は従来比の3倍となる113 J/mとなった.これにより今後,インクジェット方式の3Dプリンタにより造形されるプロトタイプにおいて,形状見本としてだけはなく,商品の設計評価へ適用を拡大できる.

キーワード / インクジェット,インクジェットヘッド,3Dプリンタ,プロトタイプ,高粘度,衝撃強度,樹脂

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[論文]高精度・短納期を実現するマイクロ波成形工法の開発

長嶋 貴志,松原 亮,若杉 勇作,伊豫田 真

樹脂部品を高精度・短期間に製造可能なマイクロ波成形工法を開発した.射出成形工法と同品質で,さらに低コスト,短納期を実現するためには,成形用シリコーンゴム型および成形品の寸法精度向上と寸法予測技術が必要となる.これらに対し,成形用シリコーンゴム型を均熱に硬化させる高精度型製造技術,電磁界・熱流体・熱変形の連成シミュレーションを用いたマイクロ波成形時における成形品の寸法予測技術を開発した.本技術を用いて,在庫部品から製作したサービスパーツは実用化可能な精度を実現した.

キーワード / マイクロ波,樹脂成形,少量生産,金型レス,シミュレーション,電磁界,熱流体,熱変形

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< Circular >

[総説]パナソニック環境ビジョン2050実現に向けた取り組み

山内 政典

当社が目指す姿を示す「パナソニック環境ビジョン2050」を2017年に策定・発信した.そのなかでは,「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立に向けて,クリーンなエネルギーでより良く快適にくらせる社会を目指し,使うエネルギーを削減すると同時に,それを超えるクリーンなエネルギーの創出・活用を進めることを示している.ビジョン実現に向けた具体的な取り組み事例を紹介する.

関連リンク

キーワード / 環境ビジョン,エネルギー,資源,サーキュラーエコノミー

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[論文]CO2ゼロ工場実現に向けた自家消費型太陽光発電システムの導入条件最適化手法

溝端 竜也,岡市 敦雄,山下 英毅

発電した電力を売電せず,設置した需要家内で消費することを目的とした自家消費型太陽光発電では,傾斜角や方位角などの導入条件の最適化により電力自給率を最大化することが望ましい.ところが,この最適導入条件は,総発電量を最大化する従来の導入条件と異なるという問題がある.そこで,任意の導入条件に対して電力自給率などのシステム評価指標を算出できる評価モデルを構築し,目標の電力自給率を最小構成で実現する導入条件の最適化手法を開発した.実データを用いてその有効性を評価した結果,従来手法と比較して,同等の電力自給率の達成に必要な発電設備容量を最大で5 %削減できることを確認した.

関連リンク

キーワード / 太陽光発電,自家消費,CO2,再生可能エネルギー,工場

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[論文]セルロースファイバー複合樹脂の製造技術とリサイクル技術

浜辺 理史,濱田 真吾,今西 正義,西野 彰馬,角尾 龍彦

植物由来のセルロースファイバーを55 %の濃度で樹脂に混練することが可能となる複合加工技術を開発した.通常,セルロースファイバーはパルプを水中で解繊することで製造されるが,樹脂と複合化する際に乾燥させる必要があり,エネルギーコストが増加する課題があった.そこで,水などの溶媒を使わない工法開発に取り組み,溶融した樹脂中でパルプを解繊し,同時に樹脂に混練する全乾式プロセスを開発し,低コスト化を実現した.特性としても比剛性,着色自由性,衝撃強度が高くなっている.さらに,家電への適用を想定し,家電リサイクル法に対応するため,リサイクル工法開発・性能評価を実施し,ミックスプラスチックから単一種類への高速選別回収,リサイクル時の物性強度確保技術を確立し,他の繊維強化樹脂に対してマテリアルリサイクルでの優位性を確認した.

関連リンク

キーワード / セルロース,バイオマス,混練,成形,リサイクル,選別,再生,リユースカップ

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[解説]10 mm以下小粒樹脂の選別技術

宮地 直也

リサイクル工場では従来選別が不可能であった破砕後の小粒樹脂片(径10 mm以下)の高精度選別が望まれている.小粒樹脂片を認識する近赤外線センサの高分解能化,および的確に樹脂片を射落とすパルスエアによる局所噴射技術により,高精度な選別を可能とする樹脂選別装置を開発したので解説する.

関連リンク

キーワード / リサイクル,樹脂,選別,近赤外線,射落とし

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