パナソニック技報
【5月号】MAY 2021 Vol.67 No.1

(2021年5月17日公開)

特集:オートモーティブ

自動車業界はCASEに代表される技術革新に加え,クルマを使った新しいサービスも登場し,まさに大変革時代を迎えています.当社は,これまで培ってきた家電・住宅領域での知見を結集し,カーメーカーをはじめ,一人ひとりのお客様に寄り添い,新たなユーザー価値・体験を先んじて創造していきます.本特集では,デバイスからソリューションまで最新の技術開発や活用についてご紹介いたします.

オートモーティブ特集によせて

パナソニック(株) オートモーティブ社 常務・技術担当 水山 正重

顔写真:執筆者 水山 正重

招待論文

人間中心設計によるイノベーション創出と自動運転技術の安全性向上への取り組み

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ヒューマンモビリティ研究センター 研究センター長 北﨑 智之

人間中心設計は,人の特性や能力を理解し,それに適合するように製品やサービスを設計することである.本稿においては,イノベーション創出および自動運転技術の安全性向上の取り組みにおける人間中心設計の重要性について解説する.

顔写真:招待論文執筆者 北﨑 智之

技術論文・技術解説

< コックピット >

[論文]瞬き・姿勢情報を融合した高精度ドライバー 眠気推定
‒ 弱い眠気から強い眠気までの全段階を見分ける‒

砂川 未佳,式井 愼一,仲井 渉,望月 誠,吉岡 元貴,北島 洋樹

これまで検知困難であったごく弱い眠気状態を含む,眠気のすべての段階を検知可能な眠気推定技術を開発した.ドライバーの瞬(まばた)き情報と姿勢情報を融合させることで,弱い眠気の検知精度を従来手法から16.5 %向上させた(F1スコア0.358→0.523).姿勢情報を用いることで,眠気による脱力が引き起こす無意識な姿勢の悪化を捉えることができると考えられる.本技術により,ドライバー自身も気づかないほどの弱い眠気から強い眠気まですべての段階の眠気を高精度に検知でき,ドライバーの状態に応じた最適なサポートの提供が可能になる.

関連リンク

キーワード / 眠気推定,眠気検知,早期眠気,ドライバーモニタ,顔画像,運転姿勢,マルチモーダル

代表図

[解説]AR-HUDシステムにおける重畳ずれ補正

犬飼 文人,辻 勝長

拡張現実(Augmented Reality)を用いた次世代のヘッドアップディスプレイ(Head-Up Display)において,実風景と虚像位置の重畳ずれは,ドライバーの情報誤認識,煩わしさなどにつながる.本稿では,重畳ずれを低減するための要素技術(3D方式の虚像投影光学技術,デジタルカメラなどの手振れ補正技術を応用した振動補正技術)について解説する

キーワード / ヘッドアップディスプレイ,AR-HUD,拡張現実,重畳,振動,歪

代表図

[解説]車載音響制御技術の活用シーンの拡大と技術進化

谷 充博

自動車の燃費向上技術とトレードオフとなる静粛性の背反克服や付加価値としての音づくり要求へ応えるため,騒音を低減するANC(Active Noise Control)やサウンドをデザインするASC(Active Sound Control)などの音響制御技術の搭載が進んでいる.CASE(Connected,Autonomous,Shared & Service,Electric)時代の到来によって,AVAS(Acoustic Vehicle Alerting System)の搭載義務化やANCの対象騒音拡大など,音響制御技術の活用シーンが拡(ひろ)がっている.

キーワード / Acoustic control,Sound design,Active noise control,Active sound control,Acoustic vehicle alerting system

代表図

[解説]車載用タッチインターフェースパネルの機能拡張

中谷 豪,山根 茂

樹脂パネルに構成部材を一体化するスマートサーフェス技術を開発し,操作パネル厚みを従来の1/3に薄型化できた.この技術を採用することで,スイッチレイアウトの設計自由度が向上し,シンプルかつ使いやすい運転環境を提供する.

キーワード / 車載,タッチパネル,シームレス,加飾,薄型,インサート成形

代表図

[論文]車載ディスプレイの低反射技術

藤本 高英,大石 利治

車載ディスプレイは炎天下の太陽光が直接車室内に差し込む非常にまぶしい環境下においても,安全情報などの表示を瞬時に正確に認識できる視認性が求められている.そのような環境下においてディスプレイに必要な反射特性を明確にし,ディスプレイの表面反射成分,内部反射成分それぞれに対し反射低減を試みた.表面反射成分に対しては正反射で0.1 %を切る新しい反射防止処理の開発.内部反射成分に対してはボンディング工法,および,円偏光での反射キャンセルによる反射低減を検討し,直射日光下でも視認可能な低反射ディスプレイを開発した.

キーワード / 低反射,視認性,表面反射成分,内部反射成分,拡散形状,視覚評価,円偏光,ボンディング

代表図

[解説]高効率車載Wireless Chargerの取り組み

坂本 敬一

Movingコイル方式は,主に携帯電話などの内蔵電池をワイヤレス充電する磁界結合の充電方式Qi(チー)(注1)のなかのコイル位置制御方式の1つで,受電コイルの位置を検知して送電コイルを移動させることにより,送受電コイル間の磁界結合を高めて高効率に電力を伝送する.さらに,異物検出と無線機器への干渉でも優位性がある方式である.

(注1)Wireless Power Consortium, Inc.の商標.

関連リンク

キーワード / ワイヤレス充電器,Qi チー, ムービング,WPC(Wireless Power Consortium),車載充電器,おくだけ充電で充電できる携帯電話

代表図

< ADAS >

[論文]3D Sensing-based Autonomous Parking
(カメラによる空間検知技術を用いた自動駐車システム)

Duong-Van Nguyen, Petros Kapsalas, Shirish Khadilkar, Makoto Mochizuki

This paper introduces the full 3D sensing camera-based autonomous parking system, which comprises a fast dense environmental sensing capability and an innovative fusion solution to accurately detect available parking slots as well as optimally park the ego-car to the planned target position, by only using surrounding-view-system cameras. This is also the one stroke autonomous parking system where the ego-vehicle can detect and park autonomously into difficult spots by one single maneuvering. With 500 test-drives containing varieties of challenging use-cases, the proposed parking system achieves a success rate of 94.1 % compared to 48.3 % of the selective advanced parking systems, meanwhile still being embedded friendly with 10 giga operations per second (GOPS). Also, the high-density map given by the system can be potentially used for many advanced functions in higher automation applications including autonomous driving.

キーワード / 自動駐車,車載カメラ,空間検知,SLAM(Simultaneous Localization and Mapping),OGM(occupancy grid map)

代表図

[解説]組込み向けディープラーニングの高速化およびリアルタイム性能保証

西村 隆

ヘテロジニアスなマルチコアアーキテクチャによる複数アルゴリズムの同時動作と,帯域保証機構を用いたメモリアクセスの競合抑制によるリアルタイム性能保証により,ディープラーニングを用いたSoC(System-on-a-Chip)上の画像認識処理の高速化を実現した.

キーワード / ディープラーニング,組込み実装,ヘテロジニアスコア,帯域制御,リアルタイム性能保証

代表図

[論文]2次元多重MIMO方式を適用した3Dミリ波イメージングレーダ

四方 英邦,岸上 高明,岩佐 健太,由比 智裕,松岡 昭彦,佐藤 潤二

先進運転支援向けセンサとして,視界不良環境でも性能劣化が少ないミリ波レーダが注目されている.水平および垂直の両方向に対して高い空間分解能を実現するため,複数のアンテナからの送信方法として,高速移動にも耐えうる独自の同時多重方式(符号領域とドップラ領域の2次元多重)を提案し,その有効性を示した.さらに,提案方式を採用した試作装置に,レーダの移動に伴って得られる蓄積情報を統計処理する,占有グリッドマッピング(OGM)技術を適用することで,高精度な3Dイメージングマップの生成が可能となった.

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キーワード / ミリ波レーダ,MIMO,多重送信,符号多重,ドップラ多重,OGM,Fast Chirp,イメージング

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[解説]歩行者検知機能付き車載リアカメラ

白井 淳一

車両後退時の人身事故予防のため,車両後方の歩行者をカメラで検知し,ブザーでの注意喚起,衝突の可能性がある場合は自動ブレーキを行うことのできる世界初の歩行者検知機能付き車載リアカメラを開発した.歩行者検知機能はカメラECU(Electronic Control Unit)で行うのが 一般的であるなかで,本車載リアカメラは,①検知機能を小型カメラに搭載,②静止している人も検知可能,③検知情報と自車後方の映像を高画質なカラー映像としてナビ画面で確認可能,という特長を有する.

キーワード / 車載カメラ,リアカメラ,歩行者検知,自動ブレーキ,ブレーキ制御,事故防止

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< 環境 >

[論文]電動モビリティサービス向け電力需給最適化手法・ユーザー行動理解指標の開発

青砥 宏治,馬場 崇徳,竹村 将志,齋藤 凌大

新たなモビリティ社会において,ユーザー体験の価値が重要視されてきており,その価値をサービスとしてユーザーに提供していくことが企業にとって差別化のポイントとなっている.今回,NEDOの助成事業として進めている電動バイク向けバッテリーシェアリングサービスの実証で得られたデータから,サービスのインフラ運用状況や運用改善効果の正確な評価方法およびバッテリー(電力)需給予測モデルを構築,またユーザーの行動を理解するための指標も開発した.インフラ投資を抑えながらユーザーに快適に利用していただく最適解を目指す.

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キーワード / バッテリーシェアリング,ユーザー体験(UX),待ち行列モデル,稼働率,最適化,電力需給バランス,シミュレーション,行動変容

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[論文]車載用小型高効率電動コンプレッサの開発

今西 岳史

環境対応車において,電動コンプレッサへの小型軽量・高効率への要求が年々厳しくなっているなか,従来機種に対してより小型軽量のインバータ一体型電動コンプレッサを開発した.高圧シェル方式から低圧シェル方式への変更にて,外径8 mm小型化,660 g軽量化を実現した.低圧シェル方式の欠点であるモータ冷却熱の吸入冷媒加熱と,従来機種の問題である高負荷での効率悪化が残るが,転覆防止機構を採用し,旋回スクロール背圧を適正化することで機械損失を改善,高精度スクロール加工にて先端隙間を縮小することで従来同等以上の高効率を実現した.

キーワード / 電動コンプレッサ,スクロール,低圧シェル方式,高圧シェル方式,旋回スクロール背圧,小型軽量,高効率

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[解説]基板間大電流接続技術による車載充電器小型化

磯田 秀藏,中林 包

車載充電器は,今後さらなる高出力化・小型化要求に対応するため基板間の大電流接続技術が重要である.従来方法では接続に要するスペースの増大や生産タクトが長くなり設備投資が大きくなる課題があるため,面実装コネクタ技術の採用により,組み立て性と確実な基板間接続の両立を図り,車載充電器の小型化を可能にした.

キーワード / 車載充電器,基板間大電流接続,面実装型基板間接続コネクタ

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< 共通基盤 >

[解説]車載コックピット向けディスプレイ統合技術

吉田 直史,坪根 隆

現在,車載システムでは,ディスプレイを備えたHMI(Human Machine Interface)製品の数が増加のトレンドのなかにある.これら多数のディスプレイを活用し,より安心,安全,快適,便利な機能を実現していくため,コックピットに搭載される全てのディスプレイを統合的に扱える表示システムが求められている.仮想化技術を応用することで,複数のECU環境でも,ディスプレイを統合的に扱えるシステムを実現する.

キーワード / ディスプレイ,HMI,GPU,仮想化,OpenGL

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[論文]車載情報通信制御機器における熱シミュレーションの精度向上手法

花田 祥史,瀬戸 敦司,尾籠 裕司

車載情報通信制御機器は発熱量の増加に伴い,放熱性能が機器の基本構造を決定する主な要件になると考えている.熱シミュレーションは放熱性能の検証手法であるが,その検証精度は実機検証と比較して20 K以上の乖離(かいり)があり単独での運用には課題があった.そこで乖離の発生要因であった実機検証のばらつき,熱シミュレーションの演算誤差,モデル要因の誤差について分析し,実機検証結果の安定化とモデルの限定的な高精度化により,熱シミュレーションの精度(実機検証との乖離)を±5 Kに向上させる手法を確立した.

キーワード / 熱,シミュレーション,放熱性能,車載電子機器,精度向上,誤差,熱回路

代表図

[解説]モデルベース開発手法のADASシステム検証への適用事例

横内 康夫,石川 雄一

モデルベース開発手法を導入してシミュレーション環境を構築し,効率的にシステムの開発を行うためには,特にセンサ部について,実車評価環境を仮想環境上で忠実に再現することが重要である.超音波センサを事例にセンサ部をモデル化して仮想環境を構築した事例を紹介する.音波シミュレーション結果の分析をもとに構築したセンサモデルをシステム検証へ適用することで,実環境を忠実に再現したリアルタイム性のあるシミュレーションが可能となった.

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キーワード / モデルベース システム検証,シミュレーション,仮想環境,センサ,開発効率化

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[論文]車両サイバー攻撃に対抗する統合監視・対応システム

中野 稔久,安齋 潤,今本 吉治,横田 薫,鳥崎 唯之

外部ネットワークへの接続機能を有するコネクティッドカーにおいては,攻撃者が,インターネットを経由して自動車へ侵入し,そこから車載ネットワークへ不正な制御コマンドを送信することで,自動車にドライバーの意図しない挙動をさせるサイバー攻撃が可能である.一方で,サイバー攻撃を検知して記録する,あるいは通知してサイバー攻撃の対処につなげる仕組みの導入はまだ十分ではない.本稿では,コネクティッドカーへのサイバー攻撃を監視し,攻撃者による侵入を検知するための要件および課題を整理した.さらに,車両統合監視・対応システムを提示して,提示したシステムに対する要件の実現性について,車両全体の攻撃の状況を把握する技術の必要性と,クラウドにおいて車両から収集したログデータから新たな攻撃を抽出する技術の必要性を示した.

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キーワード / 車両統合監視,セキュリティ監視,サイバー攻撃,ハッキング,コネクティッドカー,クラウド,自動運転車両,WP29

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[解説]自動運転サービス開発と当社構内でのサービス実証

本田 義雅,東島 勝義

自動運転サービスのダウンタイムを削減するためのAI識別技術,安定通信技術,データ分析技術を活用した自動運転サービスシステムを開発した.リアルタイム物体識別AI技術により人混在下で人を優先し不要な停止を削減.安定通信技術の応用により遠隔オペレータの対応時間を削減.データ分析技術により停止リスクを考慮した運行計画を行いサービス停止の削減.これらを用い当社構内で自動運転サービス実証を実施した.

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キーワード / 自動運転,AIセンシング,安定通信,遠隔管制,遠隔監視,サービスシステム

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