Universal Design ユニバーサルデザインを通じて、より多くの人が生き生きと暮らせる生活の実現を目指すパナソニック。 「いきいきライフデザインマガジン」では、様々な専門家から人生をさらに豊かにするヒントをお届けしてまいります。

いきいきライフデザインマガジン

第13回:人生に寄り添い、健康な毎日をサポートする最新ロボット技術 第13回:人生に寄り添い、健康な毎日をサポートする最新ロボット技術
写真:山田和範(やまだかずのり)肖像 写真:山田和範(やまだかずのり)肖像

パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部
AIソリューションセンター 主幹技師

山田和範(やまだかずのり)

急激な少子高齢化により、ひとり暮らしの高齢者や高齢者だけの世帯が増える中で、最新のロボット技術を活用して、高齢者の自由で快適な暮らしを支援し、生活を活発化することで健康長寿を実現する取り組みが注目されています。パナソニックでは高齢者の身体能力維持に欠かせない歩行に注目し、安心歩行をサポートするロボットの実用化に取り組んできました。一般社団法人 情報処理学会 高齢社会デザイン研究会の幹事も務める、弊社ビジネスイノベーション本部 AIソリューションセンターの山田和範が紹介します。

歩行を増やし、健康寿命を延ばす! 歩行を増やし、健康寿命を延ばす!

内閣府の調査によると、80歳以上で週に1回程度しか外に出ないという人が2割、85歳以上では3割に増えるそうです(図1)。
外出機会が減り、生活が不活発になると、身体機能が衰え、自立した暮らしを送ることが難しくなってしまいます。逆に、身体機能が維持できれば、80歳を過ぎてもいきいきと充実した毎日を送ることが可能です[※詳しくは、いきいきライフデザインマガジン第4回「これからの高齢者の暮らしに求められるもの」をご参照ください。]
ですから、できるだけ長く自立した生活を続けるために、高齢者の方には外出機会を増やし、元気に歩き続けていただきたい。けれども、高齢化に伴い外に出るための負担もまします。転倒やトラブルで迷惑をかけるのでは・・・と心配で、外出を控えている方もおられるでしょう。まずは屋内での歩行量を増やすことで、体力に自信をつけていただくことが大切ではないかと思います。

図1:高齢者の外出頻度、80歳

出典:内閣府「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査」

日常生活に寄り添う歩行支援ロボット 日常生活に寄り添う歩行支援ロボット

歩行・移動を支援するロボット技術は様々ありますが(図2)、弊社では、高齢者の方に、日常空間での歩行量を増やし、生活を活発化していただくために、居住スペースで使っていただける屋内歩行支援ロボットの開発を名古屋大学と共同で進めています。※名古屋大学COI(センター・オブ・イノベーションプログラム)
たとえばベッドから立ち上がるとき、リビングからトイレに移動するときなど、ハンドルを持って踏み出せば、ロボットが支えとなって安全な歩行に導いてくれます。手すりのないところへも安心して歩いていただけます。6~7歳ぐらいのお孫さんが家にやってきて、いつもそばに寄り添ってくれる、というイメージでしょうか。
学習能力も備えているので、日々の利用を通じて利用者の歩行能力を推定し、最適な速度で歩行に寄り添ってくれます。また、利用者の位置を認識し、行きたい場所にすぐに歩き出せるようにさりげなく誘導します。毎日の歩行量もしっかり記憶し、体の状態を見守りながら、今日はいつもより歩く距離が少ないなと判断したら、「もっと歩こうよ」と声をかけてくれます。

写真:屋内歩行支援ロボット
図2:歩行・移動を支援するロボット技術

屋内型歩行支援ロボットの概要

歩行を通して、家族の代わりにいつも見守ってくれる存在に 歩行を通して、家族の代わりにいつも見守ってくれる存在に

少子高齢化が急激に進む日本では、ひとり暮らしの高齢者が増えています(図3)。私自身、親と離れて暮らしていた時期がありました。何かあったらと心配で、技術者としては遠隔でも見守りをしなければと、実家にネットワークカメラを設置したのですが、3日もすると、カメラの前にモノが置かれて見えなくなってしまいました(笑)。
ロボットを研究する前は、さまざまなセンサーを活用して人の行動を分析するセンシング技術の開発に携わっていたので、その技術を実家に活用できないかと考えました。けれども、家中にセンサーを張りめぐらすのは大変です。それに、見守りとはいえ、お風呂場や寝室などのプライバシー空間を覗かれるのは抵抗がある方もいらっしゃいますよね。
その点、歩行に常に寄り添って移動できるロボットなら、一台あればすむし、常時、歩行を通して、家族の代わりにいつも見守ってくれる存在になれるのではないかと思ったのです。また、見守りに加えて、それ以外の実用性も追求しないと、そばにはいられないと考えて、行き着いたのが屋内型の歩行支援ロボットでした。
近くに住んでいたとしても、日中は働かれていたり、買い物に出るなどして必ずしも直ぐに駆けつけることが出来ない時があると思います。少子高齢化が進む社会の中で、多くの方のお役に立つものにしたいと思っています。

図3:一人暮らしの高齢者の動向

出典:内閣府「平成28年度版 高齢社会白書」

「孫に自慢できるリハビリ」 「孫に自慢できるリハビリ」

住居用の屋内歩行支援ロボットのほかに、スポーツジムや機能訓練型のデイケアでの使用を想定し、運動の要素を取り入れた歩行支援ロボットの開発も進めています。歩行リハビリナビ機能により楽しく歩行運動をしていただき、介護予防や認知症予防に役立てていただければと、現在、実証実験を重ねているところです。デザイン面にもこだわって、使っていてかっこよさそうに見える点がポイント。イメージは「孫に自慢できるリハビリ」ですね。ディスプレイがついて、よりインテリジェントなナビゲーションや情報提示ができるように工夫しています。

主な介護・介護予防分野におけるパナソニックのロボット関連技術

弊社が研究している内容は、実証実験や改善を経て、有用性が認められると商品化され、広くお役に立てるものになります。弊社の取り組みに限らず、今、高齢社会の課題に向けて、様々な実証実験が実施されていますが、もし機会があれば、積極的にお試しいただけると幸いです。お試しいただき、ご意見をいただいた新しい技術が、未来の日本や世界を救うかもしれません。

山田和範(やまだかずのり)プロフィール
写真:山田和範(やまだかずのり)肖像 写真:山田和範(やまだかずのり)肖像

パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部
AIソリューションセンター 主幹技師
慶應義塾大学環境情報学部卒業。同社研究員として、高齢者の活動量を増やし健康寿命の延伸につなげるエージェント・ロボティクス技術の研究を推進。一般社団法人 情報処理学会 高齢社会デザイン研究会の幹事として情報学の観点から幅広い分野の研究者、行政担当者との交流を進めつつ、高齢社会の課題に取り組んでいる。
専門領域は、ネットワーク技術、行動認識技術、エージェント・ロボティクス技術

編集後記 編集後記

人物イラスト:中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当

中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当

一人で暮らす高齢の方が増え、日本全体では人口が減っていく中、見守ったりサポートしてくれるロボットへのニーズは高まっています。一方、ロボットがサポートしすぎて身体機能が衰えてしまったり、思うように動かせずに使われなくなってしまっては意味がありません。みんながハッピーになれるようなロボット開発が、日々課題と向き合いながら進んできておりますので、今後もご期待頂ければと思います。