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いきいきライフデザインマガジン

第23回:高齢者の睡眠事情と健康へのリスク 第23回:高齢者の睡眠事情と健康へのリスク
写真:白川修一郎 (しらかわしゅういちろう) 先生肖像 写真:白川修一郎 (しらかわしゅういちろう) 先生肖像

睡眠評価研究機構 代表 医学博士

白川修一郎 (しらかわしゅういちろう) 先生

「若い頃に比べて眠りが浅くなった」「夜中に何度も目が覚める」など、加齢と共に、睡眠に関する悩みは増えていきます。近年は「睡眠負債」が流行語大賞10選に選ばれるなど、睡眠不足の蓄積による弊害も大きく注目されています。
睡眠研究のパイオニアとして各メディアでもご活躍の白川修一郎先生に、高齢者の睡眠事情や、睡眠と健康の関係についてうかがいました。

高齢者は中途覚醒が増える! 高齢者は中途覚醒が増える!

高齢者の睡眠の特徴は、中途覚醒が増えたり、浅い睡眠が増えたり、睡眠の安定性が悪くなることです。
中途覚醒が増える要因としては、夜間のトイレ回数が増えることがあります。更年期以降の女性はカフェインに対する感受性が上がることや、夕方以降の水分摂取が多いことがその原因です。
寝酒も中途覚醒の原因になります。

図:60歳以上は、中途覚醒と早期覚醒が多い

睡眠障害の対応と治療ガイドラインより(全国成人 3030名)

70代女性の3人に1人は睡眠不足! 70代女性の3人に1人は睡眠不足!

日本の高齢者の睡眠時間は案外短く、とくに女性にその傾向が顕著です。2017年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によれば、睡眠時間が6時間未満の人の割合は、50代女性が51.6%、60代女性が45.7%、70代31.1%となっています。70代女性の3人に1人が睡眠不足です。
不眠障害も女性のほうが多く、2000年の疫学調査によると、男性の70代が20.5%、80代が30.5%に対し、女性では70代が26.3%、80代が40.3%と、男性を上回っています。
高齢者に多いのが、日中のうたた寝や居眠りが不規則にあって、夜なかなか寝つけないというパターンです。それとは逆に、宵の口から眠くなって、19時頃に寝てしまい、午前2時、3時に目が覚める人も増えてきます。

図:年齢別に見た平均睡眠時間

2017年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)より

睡眠の役割は、脳と身体を休ませ回復させること 睡眠の役割は、脳と身体を休ませ回復させること

高齢になるとなぜ不眠が増えるのかは、じつはわかっていません。おそらく加齢の影響があるのだと思われますが、高齢になってもしっかり眠れる人はいます。歳をとれば誰もが眠りの質が低下するわけではないのです。睡眠は加齢以外にもさまざまな要素が複雑にからんだ生命現象であり、日中の活動や食事をはじめとする生活習慣が影響するということがわかっています。
そもそも睡眠の役割は、脳と身体を休ませて回復させるというものです。
たとえば、細胞の損傷修復や脂質の代謝促進、筋肉・骨の成長、脳神経系の発達に大きく関係する成長ホルモンは、睡眠中にしか効率的に分泌されません。だから、睡眠不足が続くと肌が荒れたりします。成長ホルモンの分泌能力は35歳から75歳までまったく変わりません。だから、しっかり眠りさえすれば、若々しくいられるのです。

睡眠を中心にした生活づくりが、健康長寿のポイント! 睡眠を中心にした生活づくりが、健康長寿のポイント!

睡眠は免疫機能にも大きな影響を与えます。睡眠時間が7時間以上の人と6時間未満の人ではインフルエンザや風邪などウイルス性の感染症のリスクが約5倍違うという報告もあります。花粉症などアレルギー性疾患のリスクや乳がん、大腸がんのリスクも高まることがわかっています。
代謝機能への影響も大きく、睡眠不足の蓄積は肥満やⅡ型糖尿病のリスクを増やします。消化機能にも影響を与え、便秘になりやすい。高血圧のリスクも2倍に増えます。
認知症の発症も睡眠の質と大きな関係があります。睡眠負債が蓄積すると、70歳以上での認知症の発症リスクは2.84倍、アルツハイマー症に限れば2.92倍にもなると言われています。一方で、寝過ぎる人も認知症になりやすい。寝過ぎるということは睡眠の質が悪いということだからです。
他にも睡眠と健康の関係はいろいろあります(図3)。不規則な睡眠が乳がんや大腸がんのリスクを増やすという研究もあります。
睡眠不足になると注意力や判断力が落ちて事故が増えるというデータもあります。アメリカの調査で、睡眠時間が4時間台の人は、7時間睡眠の人に比べて4.3倍、4時間未満の睡眠の人は11.5倍も事故を起こしやすいという結果が報告されているのです。ただでさえ不注意になりやすい高齢者にとっては怖い話ですね。
でも、逆にいえば、7時間ぐっすり眠ることができれば、これらの病気や事故のリスクを抑えることができるわけです。つまり、睡眠を中心にした生活づくりこそが、健康長寿の大切なポイントとも言えるでしょう。次回は快眠をもたらす生活習慣と環境についてお話ししましょう。

写真:睡眠について語る白川先生 写真:睡眠について語る白川先生
解説図:睡眠負債の蓄積がもたらす健康リスク 、脳、免疫機能、代謝機能、消化機能、循環機能への影響や、死亡リスク、自殺リスク上昇など
白川修一郎(しらかわしゅういちろう) 先生プロフィール
写真:白川修一郎 (しらかわしゅういちろう) 先生肖像 写真:白川修一郎 (しらかわしゅういちろう) 先生肖像

睡眠評価研究機構代表、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所客員研究員。江戸川大学睡眠研究所客員教授。日本睡眠改善協議会理事長。睡眠研究のパイオニアとして各メディアで睡眠に関わる正しい知識を伝道中。主な著書に『ビジネスパーソンのための快眠読本』(ウェッジ)、『睡眠負債』(朝日新聞出版)、『命を縮める「睡眠負債」を解消する科学的に正しい最速の方法』(祥伝社)などがある。

編集後記 編集後記

人物イラスト:中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当

中尾洋子 パナソニック(株) デザイン戦略室 課長 / 全社UD担当

忙しいとついつい睡眠を削ってしまいますが、睡眠負債の蓄積は、想像以上に様々な健康リスクに関係しているのですね。特に、成長ホルモンの分泌能力は35歳から75歳まで変わらないのでしっかり眠りさえすれば若々しくいられるとお聞きして、睡眠の大切さを再認識しました。とは言え、寝付きにくかったり熟睡出来ないなど、睡眠に関する悩みも多いですよね。次回は快眠について教えて頂きます。