Dry mist diffuses lighting in a immersive museum

ミストシャワーの冷却効果はどれくらいあるのか?

作成日:2024年5月21日

近年、気候変動の影響で猛暑日が増加し、日本を含む世界各地で記録的な高温が報告されています。暑さはただ不快なだけでなく、健康リスクをもたらすこともあります。一言で暑さ対策と言っても、屋内外で暑さを和らげるための対策は異なって来ます。屋内での暑さ対策と言えばエアコンや扇風機が一般的な選択肢ですが、屋外の暑さ対策に関してはエネルギー消費の観点からも、そして時と場所を選ばずに涼を求めるニーズに応えるためにも、より持続可能で創造的な解決策が求められています。

ここで注目されるのが「ミストシャワー」という技術です。これは微細な水の粒子を空中に散布し、その蒸発によって周囲の空気を冷やすという仕組みを利用しています。ミストシャワーは屋外イベントや公共の場、さらには私たちの庭先やバルコニーまで、様々なシーンでその効果を発揮することができます。しかし、その仕組みや効果まではまだ十分に知られていないのが現状です。

本コラムでは、ミストシャワーがどのようにして夏の暑さを和らげるのか、またその使用における効果についてみていこうと思います。科学的な見地からその冷却効果について理解を深めることでミストシャワー導入検討の参考になることを期待しています。ミストシャワーがもたらす涼やかな風が、炎天下の熱を穏やかにし、私たちの夏を一層豊かに彩ることでしょう。

ミストシャワーとは?

ミストシャワーは、細かく霧状にした水を空気中に散布することで、周囲の温度を下げる装置です。このシステムは、ノズルを通して高圧で水を押し出し、微細な水滴を作り出します。これらの水滴が空気中で蒸発する際に周囲の熱を奪い、結果として気温を下げるという原理に基づいています。この現象は「気化熱」と呼ばれ、物理学においてはよく知られた冷却のメカニズムです。粒子が小さいほど蒸発しやすく、より効率的に冷却することができるため、高品質のミストシャワーシステムは非常に微細なミストを生成することができるように設計されています。

ミストシャワーの利点は多岐にわたります。例えば、エアコンに比べてエネルギー効率が圧倒的に良く、環境に優しい冷却方法として注目されています。屋外でよく見かけるスポットクーラーは、実は生成される冷却エネルギーよりも排熱の方が大きいためトータルで見るとヒートアイランドを助長してしまうのです。また、ミストシャワーは冷媒ガスを使用しないため、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を削減することが可能です。

市場には、さまざまなタイプのミストシャワーが存在します。屋外用の大型のものから、家庭用のコンパクトな携帯型まで、使用環境や目的に応じて選ぶことができます。例えば、庭園やテラスでの使用には、設置型のミストシャワーシステムが適しており、イベントや屋台での利用には、持ち運び可能なポータブルタイプが好まれます。

ミストシャワーの魅力は、その冷却効果だけに留まりません。見た目にも涼やかで、視覚的な美しさも提供してくれます。夏の暑さを和らげるだけでなく、私たちの生活空間に新たな快適さと楽しさをもたらす存在として、今後さらにその価値が高まることでしょう。次のセクションでは、ミストシャワーがどの程度その冷却効果を発揮するのかについて触れていきたいと思います。

ミストシャワーの冷却効果とその指標について

ミストシャワーが提供する涼しさの秘密は、「気化熱」の原理にあるというこれは既にお伝えした通りですが、ではその効果はどれくらいあるのでしょうか?実は、ミストシャワーによる冷却効果を測定する指標は様々あり、用いる指標によって結果が変わってきます。 本セクションでは、代表的な指標とそれぞれの違いについて触れたいと思います。

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)

暑さ指数として一般的に用いられるWBGT(Wet Bulb Globe Temperature)という指標があります。WBGTでは気温、湿度、黒球温度の3要素を計算に使用します。ただし、計算の比率として7割が湿球温度を占めているため、ミストシャワーを用いた場合の冷却効果を的確に評価することができません(ミストシャワーを使用すると湿度が局所的に上昇するため)。

SET* (Standard New Effective Temperature)

体感温度を表す指標として標準新有効温度(SET*:Standard New Effective Temperature) 1) という指標があります。SET*では気温や湿度に加え、放射温度、気流、着衣量、作業量の6要素を考慮するためWBGTよりは体感温度を表す指標としてはある程度正確な数値が計測できることが期待できます。しかし、SET*ではミストが肌に付着しそこから蒸発する場合の熱収支までは加味されていないため、ミスト環境下の体感温度を正しく評価することができません。

SET**

パナソニックは、2019年に東京大学および東海大学との共同研究より、肌がミストに濡れている影響を考慮し、かつ、衣服に覆われている部位もミストの影響を考慮した世界初の体感温度の新指標(SET**(新しいSET*という意味))2) 3) 4) 5)を開発しました。この指標を使用することで、ミストによる冷却効果を加味した体感温度をより正確に計測することが可能になりました。

各指標が計算の考慮に入れる項目の比較

WBGT

SET*

SET**

気温

湿度

黒球温度

平均放射温度

気流

着衣量

作業量

ミストによる濡れ

パナソニックが自社のミストシステムを使用して行った実験6)では、ミストノズルから1.0 m 離れた場合,乾球温度 4℃以上の気温の低下を確認し、体感温度としては、SET* 約 6.0℃、新体感温度 SET** を用いると約 12℃(ミスト濡れ率 0.2)の低下となりました

このように、用いる指標によって冷却効果が異なることから、どのような指標を用いて効果を計測しているかを把握することが重要になります。

パナソニックのミストシャワーについて

これまでのミスト機器は、高圧の水をノズル先端より噴霧する形式の1流体式ミストノズルを用いたシステムが主流でした。流体の駆動装置としては水ポンプのみの機器構成のため、省エネルギーかつ低コストシステムですが、一方で1流体式ミストノズルでは、ミスト粒子径の微細化には限度があり、気化性および濡れにくさに限界がありました。

このため、濡れを回避するためには頭上高くにミストノズルを設置し、ミストの蒸発時間を稼ぐ必要がありました。しかし、高所から噴霧されたミストは自然風によって流されやすく、空間が冷えにくい、冷涼感を感じにくいといった課題がありました。また、自然風に影響されないようにミストの粒子径が大きい状態のまま人肌に近づけてミストを噴霧すると、今度は濡れ感が増加し不快の要因となっていました。

そこで、パナソニックは、屋外における冷却効果としてミスト蒸発による気化冷却効果と、あえて人肌にミストを付着させて、人肌上で微細なミストが蒸発する際に、人体の熱を奪う「疑似発汗効果」に着目しました。ミストノズルを人により近づけることで、自然風によってミストを流されにくくする効果があります。さらに、ミストに濡れても濡れ感を感じにくくするために、圧縮空気を使用した2流体ミストシステムにより平均粒子径が 6 µm程度のより微細なミストを噴霧する技術を開発しました。

JR 新横浜駅前のペデストリアンデッキの屋根あり通路において行った実験6)では、一般の利用者 54 人(男性 39%,女性 61%)に対し、ミストの体感前後でアンケートを行い、快適感は7段階、濡れ性は4段階評価にて調査しました。

JR新横浜駅に設置されたミストシステムの様子

アンケート結果について、快適感では,体感前は約86%の方が不快と回答していましたが体感後は 2%に減少しました。さらに濡れ性に関しては、体感後において約 54%が濡れていないと回答があり、受け入れられると回答した割合は約 91%でした。なお、ミストの体感位置は,ミストノズルから約 60 cm 程度と、手すりに取り付けたノズルに近接しているため、ノズルに手をかざすことによる濡れや汗による濡れも評価に含まれます。

快適感のアンケート結果

濡れ感のアンケート結果

まとめ

上記はあくまでも一例ですが、ミストシャワーの冷却効果がどれくらの効果があるのか計測する指標を含めてみてきました。
最後に、本コラムのまとめです。

  • ミストシャワーは、細かく霧状にした水滴が空気中で蒸発する際に周囲の熱を奪い、結果として気温を下げるという「気化熱」原理に基づいています。
  • ミストシャワーはエアコンに比べてエネルギー効率が圧倒的に良く、環境に優しい冷却方法です。
  • ミストシャワーによる冷却効果を測定する指標は様々あり、用いる指標によって結果は異なりますが、SET**はミストシャワーの体感温度を正確にを計測するのに適しています。
  • パナソニックの2流体ミストシステムでは、SET**で約12℃の冷却効果が計測されました。

本コラムが皆さまのミストシャワーの導入検討のご参考になれば幸いです。
パナソニックのミストシャワーに関するお問い合わせは、問い合わせフォームからお願いいたします。

参考文献・リンク

  1. 環境情報科学センター,平成24年度ヒートアイランド現象に対する適応策及び震災後におけるヒートアイランド対策検討調査業務報告書(2013)
  2. 呉元錫,大岡龍三,中野淳太,菊本英紀,小川修, 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,Vol.6, pp.109-112(2017)
  3. 呉元錫,大岡龍三,中野淳太,菊本英紀,小川修,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.393(2018)
  4. Oh,W.: Ooka,R.: Nakano,J.: Kikumoto,H.: Ogawa,O.: 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,Vol.6,pp.1-4(2018)
  5. Oh,W.: Ooka,R.: Nakano,J.: Kikumoto,H.: Ogawa,O.: Windsor Conference - Rethinking comfort -,pp.107-124,Windsor(2018)
  6. 小川修、極微細化ミストノズルを搭載した業務用ミスト噴霧機の開発、日本エネルギー学会機関誌 えねるみくす,Vol. 100, No. 3, pp.296-300(2021)

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