自動走行を視野に入れた道路交通管理用インフラとC-ITSの活用

慶応義塾大学名誉教授 モビリティカルチャー研究センター 川嶋弘尚

川嶋弘尚
慶応義塾大学名誉教授
モビリティカルチャー研究センター

欧州においてはC-ITS(Cooperative Intelligent Transport Systems:協調型高度道路交通システム)の実用展開が2019年から始まるようで、米国も2018年度中にはC-ITSのサービスの一部について法制化が決まると言われている。日本ではC-ITSの一部ではあるが類似のサービスと考えられるETC2.0やDSSS(Driving Safety Support Systems:交通安全支援システム)が、すでに実用展開されていて、ETC2.0においてはすでに300万台近く普及している(2018年1月末時点)。

欧州で注目すべきことはプローブデータの個人情報保護に関する規制の策定を待って実用展開を始める手順となっている事である。(注1)一方、日本ではプローブデータの個人情報保護については特に議論の対象とは成っていないが、その理由はETC2.0に、ある工夫が施されているからである。詳細は規格書等(注2)を参照していただくとして、簡単に概略を示すことにする。

ETC2.0では、任意の出発地から約500m間のプローブデータは車載器に記録されず、また到着地の手前約500m間の格納データは消去されるシステムとなっている。さらに乱数でIDを付与した上で路側機器の位置から上流約80Km相当のデータを送信することができる。この工夫により個人情報を消去した上で、車両挙動をトレースすることができる。

ところで、SAE(Society of Automotive Engineers)の自動走行レベル案は2016年に改訂され、ODD(Operational Design Domain)と言う概念が導入された。これは、一言で言えば、自動走行の可能な環境を定義しようと言うもので、気象状況、道路種別、道路状況、規制等の組合せが関係するはずであるが、詳細は今後の議論を待つ必要がある。この概念にいち早く反応したのはオランダである。オランダはレーンごとの速度規制をミニコン(ミニコンピュータ)によって制御するシステムを初めて導入した国である。C-ITSには以前から強い関心を持っていて、ハードインフラ投資を抑制し、道路交通管理のためのシステムツールとしてC-ITSを仕立てあげようとしている。

オランダのアイデアを参考にして、ETC2.0プローブとODDの関係を図に集約してみた。要はETC2.0プローブのような工夫を生かせば、ODDの範囲でも個人情報に抵触することなく走行軌跡を捉えることができる。したがって、自動走行システムがETC2.0を装着するものとすれば、自動走行車両の走行を記録しODDでの車両挙動を交通フローの中で確認することができる。このことは道路交通管理上、さらには自動走行システムの社会的合意形成を図る上でも重要なことである。

残念ながらETC2.0プローブのこの工夫は宣伝不足のため世界に知られていない。通信機器の周波数、プロトコルに無関係に導入できる技術であり、ODDの概念と組み合わせることにより道路交通管理用公共データの概念がより明確になる。500m、80Kmなど設計上のパラメータや、どのメディアが良いかは国の事情に合わせれば良いので、基本的にはどこでも利用できる技術である。自動走行を見据えた道路交通管理用のインフラ構築に貢献できる技術として、C-ITSの先行技術であるETC2.0プローブを世界に発信するべきであると思う。

(注1)General Data Protection Regulation(GDPR), May,2018
(注2)JEITA, ITS車載器DSRC部標準仕様(TT-6002B)

ETC2.0プローブとODDの関係

ITS事業創造への取り組みの歴史

UKコンサルタント代表(元 松下通信工業株式会社 ITS事業開発センター所長)浮穴浩二

浮穴浩二
UKコンサルタント代表
(元 松下通信工業株式会社
ITS事業開発センター所長)

パナソニックでは、約20年前、道路交通インフラ事業、車載器事業、デジタル無線事業を統合し、新たな道路交通事業を創造するITS事業開発センターを当時の松下通信工業に設立した。

  1. TELEMATICS事業創造
    交通分野へのエレクトロニクス技術の導入気運が高まり、ITSが将来事業と期待されてITS事業開発センターが新設された。カーナビ、ETCの商品開発は既存の事業部が担当し、ITS事業開発センターはヘルプネット、通信ナビ等のインフラと端末事業部を横断した事業開発を担当した。人と車とインフラを情報通信で繋ぐ“TELEMATICS”の新技術開発に着手し、携帯電話での交通に関する情報通信技術をI-Modeナビや、グローバルに向けてもドイツやEUのメンバーと連携を図り開発推進した。
  2. 対外渉外活動
    ITS世界会議のボードメンバーとしてグローバル標準な道路交通社会システムづくりに取り組んだ。交通渋滞情報をナビに送るVICSをはじめとしたインフラと車載を繋ぎ、ドライバーの利便、安全、効率、環境を守るというコンセプトで日本代表の一人として発信を続けた。一方、基幹となるDigital地図企業と全方位外交で渉外活動を継続した。
  3. ITS評価実験施設を竣工
    ITS事業には、道路交通インフラ設備と車載器を同時に評価できる社内システムが必須であった。1997年9月、花巻工場敷地内に実際にETC車載器を搭載した車を走らせて評価をする壮大なETCシステム評価実験施設を竣工した。施設は電気・通信機メーカーとしては国内最大級のテストコースとなり、この評価システムはETCシステムの高い信頼性と品質を実現した。

以上が20世紀のITS立上げ期の事業創造への取り組みである。21世紀にはITS事業がナビやETCで花咲き、世界のより安全な交通社会、およびドライバー文化の発展にお役立ちし続けてきた。ITS立上げ当時の強みはインフラと車載端末の両方の事業を連携させながら並行して立上げ、サービスインと同時に端末も発売できたというマネージメントのお陰だと今でも考えている。道路交通インフラ事業から車載端末事業をグローバルに展開できる、世界には稀なるITSの会社として、今後の安全快適な道路交通社会の実現に期待し、高齢者を含めた移動する人類のお役に立ち続けていただけるものと信じている。

自動運転による交通革命

東京大学 生産技術研究所 教授 次世代モビリティ研究センター センター長 須田義大

須田義大
東京大学 生産技術研究所 教授
次世代モビリティ研究センター
センター長

いつの時代でも、どんな製品でも、ユーザーに愛される定番がある。小生は自分で言うのも気が引けるが、新しいもの好きであり、かつ自分のセンスに合わない製品は使わない。そこで、製品ごとにいろんなブランドが定番として決まってくるのだが、大学での研究室での様々な備品や、自宅の電気製品をみると、パナソニック製品が多いことに気が付かされる。

ノートブックパソコンは、かなり初代のころからずっとLet's noteを使い続けている。すでに、10台以上は更新しただろうか。それ以外にも、デジタルカメラ、テレビやエアコン、炊飯器など、かなりに上る。西千葉の東大生産技術研究所千葉実験所に設置した実験用交通信号機もパナソニック製である。パナソニック製品を選ぶ理由として、新規性とユーザー目線がうまくバランスしているからだと思う。

交通管制システム、バッテリー、センサーなど、既にITSの世界でも活躍してきたパナソニックが、いよいよ自動運転システムに挑戦するという。横浜には自動運転車が走行できる試験設備まで整備された。先日コースを拝見させてもらったが、かつての花巻市にあったパナソニックのITS試験フィールドと同様、コンパクトなスペースをうまく活用して、単に走行させるだけではなく、V2Xの試験、信号機との連動、駐車実験など、まさに新規性とユーザー目線をうまくバランスさせた設備であると感じた。自動車メーカー等のテストコースを訪ねると、おおかた人里離れた山奥とかに立地していることが多いが、パナソニックの試験コースは、研究開発拠点に隣接していて、ユーザーの要望を取り入れやすい仕組みを大事にしているようである。

自動運転によって、交通革命が起きるのではないかと考えられる。従来の手動運転車両を所有するモデルから、自動運転車両をシェアするモビリティが普及する可能性が高い。このとき、既存の自動車産業、新規参入のIT産業、あるいは既存の交通オペレータがリーダーシップをとることになるだろう。自動運転のビジネスエコシステムの構築が望まれる。新規性とユーザー目線がバランスしているパナソニックにエコシステムへの貢献を期待したい。

東大生産技術研究所 千葉実験所に設置した パナソニック製実験用 交通信号機

東大生産技術研究所
千葉実験所に設置した
パナソニック製実験用
交通信号機

パナソニックの新たなITS

パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 上席副社長 オートモーティブ事業担当

柴田雅久
パナソニック株式会社
オートモーティブ&
インダストリアルシステムズ社
上席副社長
オートモーティブ事業担当

当社は、クルマ向け車載デバイス、ドライバー向けHMI機器、交通インフラなどを組み合わせたトータルな交通環境をご提供できる数少ないメーカーのひとつです。
その強みを活かし、クルマとインフラが最先端のICTで相互に連携できる交通環境の実現を目指しています。
例えば、クルマに搭載されるセンサーの高度化はもちろん、クルマのセンサーでは捉えきれない情報を、クルマとクルマ、クルマとインフラの双方向通信により、ドライバーに最適なタイミングで周辺状況を知らせることで安全運転を支援する技術の開発を推進しています。

2016年6月、当社の横浜開発拠点の隣地に、当社専用の車両試験場が完成しました。
主に低速での実車走行試験・評価を行うことを目的としています。
この試験場の完成により、当社が開発した技術の迅速な評価・検証を加速してまいります。
こうした活動を積み重ね、誰もが快適・安全に移動できるモビリティ社会の実現に貢献してまいります。

パナソニックの新たなITSにどうぞご期待ください。

横浜開発拠点横の当社専用車両試験場

横浜開発拠点横の当社専用車両試験場